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世界はこう変わる

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2008年9月 3日

4月時点の中央アジア情勢

(以下は第86回 IIST・中央ユーラシア調査会〔2008年5月26日〕での報告要旨です。現在と殆ど状況が変わらないので、ここに掲載します)

                                          河東哲夫
1. 増大するNATOのアフガニスタンへの影響力
現在の中央アジア情勢が変わってきているとすれば、一番大きな要因はタリバンが次第にアフガニスタン北方へ勢力を伸張させていることだ。そのことが同国と国境を接する中央アジア各国の安全保障観に不安感を与え、国際関係を調整させている。

いくつかのプレーヤーを分析すると、アフガニスタンについて何かできるのはNATO(北大西洋条約機構)だというのが、基本的な構図だ。NATOは現在、ISAF(アフガニスタン国際治安支援部隊)という情勢安定化のための兵力を提供し、地方復興支援チームであるPRTでも主体になっている。

そしてNATOは麻薬防止面での協力も強め、面白いことにアフガニスタンから麻薬が西側へ流れ込んでくるのを防ぐため、ロシアとも協力を拡大している。これまではNATOやアメリカのアフガニスタンの麻薬に対する物の言い方は口先だけで、実際にはこれを認めていた。タリバンを追い出し、その後にアフガニスタンで麻薬栽培が急増した訳だが、結局それがアフガニスタン経済、アフガニスタンの農民の生活を支えているため、それを一気に撲滅すると収拾がつかなくなるということで目をつむっていた。しかし、NATOはアフガニスタンの麻薬取締りに関し、次第に真剣になってきている。

2. アフガンではNATOと協力せざるをえないロシア 
中央アジア諸国にとって、ロシアは一番安心できる安全保障上のパートナーだろう。ロシアなら、中央アジア諸国のレジーム・チェンジをしようとしない。しかし、ロシアはアフガニスタンには兵力を出したくないといっている。1979年に出兵し、その後何人もロシア人が殺され、国内世論上、再度の出兵は説明がつかないということもあるのだろう。

また上海協力機構も、テロ対策と経済協力しかやらない機関で、アフガニスタンに兵力は出せない。中国としては、上海協力機構の機能を軍事協力に拡大することでアメリカを過度に刺激したくない、ということがあるのだろう。また中国軍は、国外への展開能力がまだ欠けているということもある。さらに集団安全保障協力機構のCSTOも、アフガニスタンでは何もできない。なぜなら、兵力の主体はロシアだからだ。ちなみにアフガニスタンに日本は大変協力しており、全体ですでに14億ドルのODA(政府開発援助)を使っている。

いいたかったのは、アフガニスタンが中央アジアの大部分にとって一番の心配の種だが、そこでちゃんとしたことができるのはNATO、アメリカしかないということだ。ロシアは中央アジアに影響力を保持しなければならず、そうするとNATOと協力せざるをえないことになる。このように、あたかもNATOがロシアを守るという感じになってきている。NATOがアフガニスタンの安定化をやっており、これは中央アジアの安定化につながる。中央アジアが安定すれば、ロシアの南の柔らかい下腹も安全ということだ。またアフガニスタンのテロ勢力が、ロシア国内で変なことをすることも防げる。

3. ウズベキスタンと西側諸国の関係改善
そういった中、西側では中央アジア、とくにウズベキスタンに対する態度の変更が見える。2005年5月のアンディジャン事件以降、アメリカとEUはウズベキスタンに厳しい態度をとってきたが、認識が変わってきたのではないか。ウズベキスタンとの協力なしに、中央アジアに対する政策はできないと認識してきたのだろう。ウズベキスタンも、西側への態度を和らげている。例えば死刑廃止は、西側の要求に応じたものだ。今年4月29日にEUは外相会議で、アンディジャン後にウズベキスタンに対して設けた制裁措置について、12月まで効力を停止し、様子を見ることにした。これは実質的に、制裁措置を撤廃したということだ。

私は4月29日には、タシュケントで開かれた国際会議に出席した。なぜ出席したのかというと最近、ウズベキスタンでの日本の地位が下がってきているためだ。これまでウズベキスタンに対して供与したODAや、われわれの努力が無になってしまうのはもったいない、安全保障問題について日本の代表が誰も行かないというからおかしなことだと思って行った。
この会議は要するに、ウズベキスタンを西側にエンゲージするための国際会議だったらしい。ウズベクはアフガニスタンの安定確保に関し、この会議でNATOとの協力を強化しようとして、6+2というフォーミュラを6+3に拡大した。6+2の6はアフガニスタンに面した国々で、ウズベキスタン、タジキスタン、トルクメニスタン、イラン、パキスタン、中国だ。ウズベキスタンではこのフォーラムを1999年に立ち上げたが、当時はタリバンの危険性について諸国に注意を喚起しようとしたのかもしれない。その後、集団テロ事件が起きて、結局ウズベキスタン中心のフォーミュラでは動かなかったのだが、カリモフ大統領がこれを再度拾い上げ、6+3にしようということになった。西側もそれでよいということで、面白い会議であった。さらに面白いのは、6+3というのが6+2に加えて話し合いの場にNATOを入れようとしていることだ。そしてこれにはロシアも、反対しなかった。

もう1つ面白いことは、カザフスタン経済だ。石油ブームでGDP(国内総生産)は、すでに10兆円だ。石油の信用を背景に外国からどんどん借金して消費ブーム、建設を煽った。サブプライム問題で昨秋以降、西側からの融資が止まり、そのためカザフ国内では諸所の建設現場のクレーンが止まったなどといわれるが、そうでもない。

4. メドベジェフ新政権と中央アジア、モンゴル
ロシアのメドベジェフ大統領は、最初の外遊の地として、カザフスタンと中国を選んだ。ただカザフスタンに行く直前に、モンゴルの大統領がモスクワに駆け込み訪問している。これがまた面白いところで、要するにモンゴルが中国の圧力をそこまで感じるようになっている。昔から圧力を感じているから最初に共産主義化したのだが、その構図がまた戻っており、わざわざモスクワ詣でをしている。またモンゴルの非鉄企業がいくつかあるが、その株をロシアの企業が過半数買い占めている。

一方、ウズベキスタン経済も好調で、第一四半期のGDPが8.1%伸び、鉱工業は10.6%伸びた。投資は実に41%も伸びている。ただインフレが激しいという問題がある。

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