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世界はこう変わる

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2023年5月19日

ウクライナでわからないこと

(これは4月末発行のメルマガ「文明の万華鏡」第132号の一部です)

不安定化と言えば、人はロシアのことしか言わないが、実はウクライナは以前から不安定。そして政治・経済の実像と内情は不透明そのもの。マスコミは、「ゼレンスキー政権の下、ウクライナ人は一丸になってロシアに抵抗している」というイメージを売り込んでくるが、内情はもっと複雑でもある。そうした中で、僕が是非知りたいと思っていることを列挙しておく。これら諸要因がわからないと、ウクライナ情勢、そしてウクライナ戦争のこれからはわからないからだ。

(「過激右派」の実体と政権への影響力)

ウクライナではもう20年ほど、「過激右派」と称される連中が政治で力を持っている。以前はいくつかグループがあって、領袖の名もわかっていたが、今は報道がない。そして彼らは台頭した時から既に、ヌエのようにとらえどころのない集団。経済が悪くていつも失業が多いから、不満分子はスキンヘッドになって暴力をふるう。彼らの主張はばらばら。全体的に反ロシアだから親米かと思うと、自分より強い外国は全て嫌い、というのが多い。要するに、騒いで威張りたい、何か手に入れたいという連中、そしてこうした荒くれ分子を集めて自分の手兵とする野心的政治家の集合体であるようだ。

こうした勢力が、2014年2月、ヤヌコーヴィチ大統領の官邸になだれ込んで彼を追い出し、クーデターを成立させた。西側では、リベラル勢力がヤヌコーヴィチ大統領を追放したと思っているが、リベラル勢力の反政府集会は2013年の12月にはもう下火になっていた。

クーデター後、選挙で政権を握ったポロシェンコ大統領、次いでゼレンスキー大統領とも、就任早々にはクリミア奪還を棚上げし、東ウクライナの一部を占領した親ロ勢力と和平を実現しようとしたのだが、2人とも過激右派に脅されて後退している。過激右派は暴力をふりかざすし、実際に何人もの政治家が公衆の面前で面罵・殴打を受けている。

ゼレンスキー政権中枢に過激右派が入り込んでいるわけでもないと思うが、現在の同政権の政策はクリミア奪還、東ウクライナからのロシア軍放逐等、過激右派の立場に近い。開戦前、NATOはこのような主張には与していなかったが、今は表立っては反対しにくい。
それでも、過激右派の顔は見えない。昨年5月マリウポリで過激右派の柱であるアゾフ連隊が壊滅した時、右派も大きなダメージを蒙ったかと思ったが、そうでもないようだ。
顔が見えないので、これから事態が停戦の方向に向かった時、そして来年5月には任期が来るゼレンスキー大統領のあとをどうするか(ゼレンスキー続投の可能性もある)の問題が表面化した時、何がどう動くかが全然読めないのだ。

(アヴァコフ前内相)

Arsen・アヴァコフという政治家がいる。これはアルメニア系でアゼルバイジャン生まれの人物。2014年のクーデター以降台頭し、2021年まで2人の異なる大統領の下で内務相を務め、ウクライナの政治に暗然たる影響力を持つに至った。

ウクライナの政治を牛耳ってきたのは、アフメートフ、ピンチュクといった「寡占資本家」(オリガーク)と言われる連中。彼らは東ウクライナの鉱工業地帯の利権を牛耳り(例えば昨年5月陥落したマリウポリは製鉄所などアフメートフの牙城だった)、その金で国会議員を束ねて(そういう議員が多数議席を占めていた)政治・経済をも牛耳っていたのである。

アヴァコフはそうした寡占資本家ではない。しかしアゾフ連隊などの暴力組織を仕切っていた。ゼレンスキーが大統領になって約2年後の2021年7月、彼は突然辞任している。その直前には米国大使に会っているので、まるでバイデン新政権に引導を渡されたように見えたものだ。

彼がなんで力と財力を得ていたのか。それはわからないのだが、麻薬の利権をほのめかす報道もある。アフガニスタンで生産された麻薬は様々なルートで西欧にやってくるのだが、その一つに中央アジア―ウクライナのルートがある。ウクライナの主要港オデッサ、あるいはロシアが租借している軍港セヴァストーポリから「出荷」されて次のハブ、バルカン方面に向かう。

2003年、米国の支援も得てグルジア(ジョージア)でレジーム・チェンジを実現、大統領になったサーカシヴィリという政治家がいるが、彼は2008年8月ロシア軍の武力侵入を引き起こしてその後政権を失う。それが何故かウクライナのポロシェンコ大統領に拾われて、オデッサの知事にまでなる。後からの報道を総合すると、彼は2014年2月のウクライナ・クーデターの際、狙撃兵をキエフに送って騒乱状態を作り上げた「功績」を評価されたらしい。

ところがそのサーカシヴィリはアヴァコフと常に仲が悪く、公衆の面前で面罵しあったこともある。もしかすると、サーカシヴィリはオデッサでの麻薬利権に鼻を突っ込んで、アヴァコフの逆鱗に触れたのかもしれない。

このアヴァコフが過激右派にどのくらいの影響力を保持していて、どの方向に誘導しているのか、それがわからない。因みに彼は、年初頭家宅捜索を受けている。内相の時代の2018年、フランスからヘリコプターを50機以上購入した際、割増価格を支払って一部キックバックを得た疑いである(2月1日付Politica)。1月18日に墜落死したDenys Monastyrskyi内相は、このヘリコプターに乗っていた。

(オリガークの現状)

2010年代のウクライナの政治は、1990年代のロシアに酷似していた。国営企業を安価で手に入れた者たちが数名、オリガークと称されて経済だけでなく、政治も牛耳っていたからである。ロシアから輸入する天然ガスをベースとする電力、東ウクライナの石炭、鉄鉱石、鉄鋼、化学工業などが彼らの富の源泉となった。それらはロシアの経済の環の中に組み込まれていたから、オリガークたちはロシアとも手を握って事業をしていたのである。
2014年ロシアとの関係が悪化すると、メドベドチュクという元大統領府長官がロシアとのリエゾンとして浮上(彼はプーチンと親族関係を結んでいる。プーチンはメドベドチュクの子供の名付け親になっている)。メドベドチュクの息のかかった企業が東ウクライナの石炭・鉄をロシアに輸出し続けた。

このオリガークたちが今どうしているのかよくわからない。メドベドチュクはゼレンスキー政権に自宅監禁され、その後捕虜交換でロシアに送られている。アフメートフもピンチュクも東ウクライナでの利権の多くを接収、あるいは破壊されたと言われる。しかし、ワシントンでは以前からピンチュクの資金を受けて活動するロビースト達がおり、その金は今でも途絶えていないようだ。

オリガークたちは筋金入りだ。そんな易々と参りはするまい。次の大統領選で、彼らは再び頭をもたげてくるだろう。報道によれば、彼らは現在、民営化されつつある土地を買い占めている。ウクライナの豊かな農業は、彼らによって近代化されるかもしれない。

まあそういうわけで、ウクライナというブラック・ボックスを西側は際限なく支援させられているわけだが、この戦争がロシアの劣勢で終わると、西側はウクライナという、鼻息荒い軍事大国に直面することになるだろう。そのあたりをポーランドの元首相シコルスキーは最近の雑誌インタビューで、こう言ったそうだ(1月29日付Korybko.substack.com)。

――ウクライナはエリートの腐敗と傲慢で、今回の事態を招いた。ポーランドのウクライナ支持は不変だが、あんな豊かな国で原発もありながら、世界一の穀倉でありながら、航空機産業も持ちながら、今のGDPはポーランドの4分の1。大国に伍して丁々発止の外交をやっているという傲慢さで、ロシアを挑発した――

ポーランドはウクライナ難民を引き受けるなど、親ウクライナだと言われる。しかしこれまでは、関係に問題が起きることもあったし、今回はウクライナの安価な穀物がポーランドの農業に損害を与えるとして禁輸を宣言している。
ウクライナがEUに入ることになれば、かなりの攪乱要因になっていくだろう。

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