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世界はこう変わる

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2022年12月 2日

エルドアン大統領は現代のスルタンへ

(これは11月23日発行のメルマガ「文明の万華鏡」第127号からの抜粋です)

10月29日、クリミアのセヴァストーポリ軍港で、ロシア軍艦がウクライナ軍によるドローン攻撃を受けた。ロシアは、「ウクライナが7月22日の穀物搬出保証合意を悪用し、オデッサ港からの穀物運搬船でドローンを運んだ」と主張。右合意遵守を停止すると声明したが、この合意を斡旋したトルコのエルドアン大統領は1日、プーチン大統領に電話して、同合意へのロシアの復帰を確保した。

これが示すようにエルドアンは、ウクライナ戦争における調停国として主導的な地位を確立しつつある。NATO加盟国でありながら、ウクライナ戦争ではロシア制裁に加わらない、一方ウクライナにはドローンを供与するなど、双方に貸しを作っているからだ。9月21日には、サウジ・アラビアと組んで、ロシアとウクライナの間の捕虜の大量交換を斡旋した。

ロシアに対するトルコの手持ちの札としては、EUが禁輸しているロシアの天然ガスを、黒海縦断のパイプラインで輸入し、南欧に中継販売してやっていること(その代わりにトルコは、トルコ向け価格の割引、そして延払いをガスプロムに認めさせている)、そしてボスポラス海峡通航権があげられる。ロシア極東艦隊の主力、巡洋艦ヴァリャーグは3月に地中海に回航。ボスポラス海峡通航許可を得ようとして、トルコに拒絶されている(国際協定で、戦時には軍艦の同海峡通航はできない)。

(旧ソ連南辺地域に進出を強めるトルコ)

トルコは、コーカサス地域(かつてのオスマン帝国の勢力圏)においてもreal powerとしての地位を確立した。2020年秋のナゴルノ・カラバフをめぐるアゼルバイジャン・アルメニア戦争では、ドローンをアゼルバイジャンに提供、かつ使用を幇助して戦争の帰趨を決定するとともに、戦後の和平についても発言権を確保した。最近はロシアを押しのけて両国間の戦闘再燃収拾に努め、両国との三者首脳会談を数回アレンジしている。

トルコはさらに、種々の経緯から外交関係を持っていなかったアルメニアとの関係強化を進めている。領内にロシア軍1個師団を常駐させてアゼルバイジャンを抑止してきたアルメニアも、上記のナゴルノ・カラバフ戦争とその後の事態で、ロシア軍は何もしてくれないとしてロシアを見限り、トルコに接近しているのである。

また、ロシア領を通らない東西輸送路として重要性を増している、カスピ海横断輸送路は、中国、中央アジアからアゼルバイジャン、ジョージアを経由してトルコ、欧州に至るものであり、この面でもトルコの重要性は増している

(「チュルク語圏」への拡大)

オスマン・トルコの故地はトルクメニスタンであると目されているし、同帝国は今の中央アジアの一部も支配していた。エルドアンはこれを意識して早くから"Great Turan"の旗印を掲げて、中央アジア諸国への影響力拡大に努めてきた。

現在ウクライナ戦争で、ロシアは中央アジアでの地歩を急速に失いつつある。同諸国はいずれも、ロシアによるクリミア、ドネツ、ルハンシク等併合を認めていないし、カザフスタンは右併合不承認、そして西側の対ロ制裁措置を横から崩すようなことはしないことを殊更公言して、ロシアの神経を逆なでしている。

 また7月21日、中央アジア5か国首脳はキルギスで、「中央アジア諸国首脳会議」を久しぶりに開催。ロシア、中国を入れず、自分たちだけでの発言権の確保をはかろうとしている

 このロシアの後退を奇貨として、トルコは外交攻勢を強めている。9月中旬の上海協力機構首脳会議に、オブザーヴァー国であるにもかかわらず、エルドアン自身が乗り込み、あたかも加盟国であるかの如く発言し、加盟国首脳たちとの懇談を主宰までした 。

トルコは1990年代にも、独立したばかりの中央アジアに乗り込む動きを見せ、商人も多数進出したが、駆逐されている。自分がウズベキスタンで大使をしていた2001年ころ、その理由を現地で聞いてみると、「トルコ人はあこぎだから」ということだった。

その悪い癖は治っていないようだ。というか、これはどの大国にも共通した悪癖で、自分の都合を小国に簡単に押し付けるのである。トルコはチュルク語系諸国の団結を強めようとしており、足場としてチュルク語諸国組織OTGを利用している。これにはアゼルバイジャン、カザフスタン、キルギス、ウズベキスタンが加わっている(タジキスタンはペルシア語系。トルクメニスタンは中立国を標榜)。

例えば11月10日~11日、サマルカンドでチュルク語諸国首脳会議が開かれ、諸分野での協力を進めていくことで合意が行われたのだが、席上トルコは北キプロス(トルコ系住民を守るため、トルコが軍を送って1983年「独立」させたもの。トルコ以外に承認している国はない)をオブザーヴァーとして参加を認めるよう迫った

トルコの外相は同意が得られたと公言したが、ウズベキスタンのノロフ外相はこれを記者会見の場で明確に否定した。ところが翌日、首脳会談後、エルドアン大統領はツイッターで同意が得られたと書いて、強引な既成事実化をはかろうとしている。このような言動を示すのでは、中央アジア諸国から尊敬されることはないだろう

15日イスタンブールでのテロはクルド族によるものと報道されており、これが事実であれば、クルドをかくまうシリア――ロシア軍の支援は薄くなっていると思われるーーに対し、トルコは攻勢を強めるだろう。もろもろの要因から、トルコ・サウジ・イスラエルの提携とイラン・シリア・ロシアの枢軸が対立を強め、中東情勢が再び荒れ気味になる可能性がある。

また、来年6月にはトルコで総選挙が予定される。トルコでは、国会が推薦する大統領候補に対して国民投票を行うシステムになっており、エルドアンはまず、この総選挙を勝ち抜く必要がある。

それでも総じて、ロシアの退潮に乗じてトルコの地位は上昇するだろう。中央アジアでは、中国との関係がどうなるか、注目される。ウィグルのイスラム教徒の扱いをめぐって、両国間には摩擦が存在する。

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