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世界はこう変わる

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2022年11月 5日

世界金融危機で何がどうなる

(これは10月25日発刊のメルマガ「文明の万華鏡」第126号の一部です)

世界金融危機の足音が高まっている。米国中間選挙まで何とか持たせるだろうと思うが、2008年秋のリーマン金融危機は大統領選挙戦のただ中で起きている。だから、中間選挙まではもつ、という保証はない。

 インフレを抑えるための金利引き上げが続いていくと、投機資金が枯渇して、投機的債券類の価格が崩落し、金融機関の貸し借りに目詰まりが生じて、金融活動、そして企業活動が停止する。

既にいくつか危険信号は点滅し始めている。近年、銀行業務から投資(投機)に軸足を移していたスイスのCredit Suisseの財務状態への疑念が高まっているし、さらに大型のものでは英国債への疑念が高まって価格が急落している。米国では危険性の高い社債などを組み込んだ「クレジット投資信託」(Credit Risk Mutual Funds。要するにハイリスク・ハイリターンの金融商品を集めて投信に仕立てたものだ)の保有残高が20年末時点でも約3兆6000億ドルと過去20年で8.6倍(21年10月4日付日経)になっていた。2008年9月のリーマン危機では、住宅ローンの連邦住宅金融抵当公庫(Freddy Mack)と連邦住宅抵当公庫(Fannie May)の債券が投げ売りされたことが引き金となった。両社の債券を中心として組成された「サブプライム住宅ローン」はWikipediaによれば、2007年3月で1,3兆ドルの残高であったと推定されている。今回「クレジット投資信託」価格の崩落が金融危機の引き金を引いて不思議でない。

で、危機が起きた場合、何がどうなるか。それを知りたい。そこで、資料を漁ってここにまとめておく。

(ドルの価値は半減しても基軸通貨)
中国、ロシアなどは以前から、「ドルが基軸通貨でなくなること」を願っているが(本心は別にして)、リーマン危機もドル支配を崩しはしなかった。産油国を筆頭に、大多数の国々がドルでの受け取り・支払いを選好している以上、ドル支配は崩れっこないのである。

 2008年末、1ドルは90円を割り、09年は平均93,5円で推移する。確かにドルは下がったが、世界各国の中央銀行はプレミアムを払ってまで、ドル資金入手で奔走。米連銀はスワップ協定などを使って、全世界にドル資金を提供している。
そのあともドルの対円価は下がって2011年、12年には80円を割った水準で推移する。ここでアベノミックス登場となり、2013年に97,6円となったあとは100円強で長らく推移。米国で金利引き上げが始まった2022年に急上昇を始めて、今1ドル150円の攻防となっている。

ユーロはどうだったかと言うと、2008年9月には1ユーロ、1,5ドルだったのが、同11月には1,25ドルに低下。2014年3月には1,4ドルに盛り返したあとはジグザグを繰り返しながら再下降して、現在は1ユーロ、0,98ドルと、ドルを下回るに至っている。ユーロは円に対しては2007年161円の高値をつけた後、リーマン危機を挟んで急降下。2012年には102円に下落したあと、ジグザグに回復して、現在145円超のあたりを上下している。

つまり、リーマン危機ではドル、ユーロは円に対して減価するが、世界の取引で使われる主たる通貨である地位を失ったわけではない。これはドル、ユーロともそれぞれの経済力に見合って取引量が多いし、通貨としての使い勝手がいい(国債等の運用手段が揃っていて、しかも簡単に売買できること)ことによる。ロシア、中国が言うように、別に米国が力で強制しているわけではない。
 そしてドル・ユーロは減価した分、輸入品の価格は上昇するが、それは織り込んだまま、つまり水膨れしたまま経済は回っていく。一国だけ通貨の円の価値を維持した日本は、デフレに襲われる。輸出は伸びず、経済成長は米欧に持っていかれる。

価格指数比較)
 以上の過程は、各国の価格指数の推移を比べると一目瞭然。日本での価格指数は、2008年と2021年末の間で、6,5%ほどしか上昇していない。米国は同期間に36%、英国は43,7%上昇している。つまり何度も述べたように、この期間、米欧の物価水準は日本とは別次元に上がってしまった。これはインフレによるものだが、この価格差は新しい現実になっている。そしてこの日本と米欧間の物価水準の格差は、ますます開いていく気運にある。これを使って何かビジネスができるだろう。
冗談だが、日本でビッグマックを300個買ってスーツケースに詰め、米国で売り払うとする。日本では410円×300=123,000円。米国のワシントンD.C.では5,35ドル。つまり5,35×150円×300個で240、750円。なんと二倍に。

(金価格)
 ではこの中で、ドルの価値にほぼ反比例して動く金の価格はどうだったか。

金は2008年1オンス平均871ドルから2009年から2012年にかけて急騰、1770ドルに達した。その後下降を始め、2018年には1269ドルになっている。この年から再び上昇を開始し、2020年から22年にかけては2度、2000ドルを越えたが、利上げでドルが上昇し始めたことで、ドル表示の金価格は頭打ちになっている。
いずれにしても、この間ドルは金に対してほぼ半分に減価している。とは言え、金価格は需要・供給関係でも動くので、すべてがドルの減価分とは言えないが。

(株価=景気)
 金融危機で地獄の釜のふたがあく、というイメージがあるが、現実は違う。財政支出拡大、金融緩和で刺激策が行われるからだ。これは米国で顕著で、名目GDP(つまりインフレ分もごったまぜで)は2009年からコロナ前の2019年までに47,6%増加している。ドイツは55,9%増加。日本は同期間のGDPは名目でも12,8%しか伸びていない。
株価はもっと上昇している。2007年の米国ダウ株価指数平均は13、265ドル。これが2008年には8、776ドルに急降下したものの、そのあとは一直線で2021年の36、338ドルに上昇している。これはインフレ率をはるかに上回る。日本でも日経指数は2008年10月7、000円台に沈むが、現在では27、000円周辺をうろうろしている。上昇率は日米双方とも約4倍である。これは景気の実態だけでなく、カネ余りぶりも反映したものである。

 これから言えることは何か? 金融危機が起きた場合、続く数年ではどんな現象がみられるのか? 
 まずドルは、「減価するも、世界での需要は高い」という矛盾した傾向を示すだろう。ドルが基軸通貨の座を滑り落ちることはまだないだろう。1929年大恐慌の後のように西側経済が崩落することもないだろう。戦前と違って、現在は財政・金融政策で景気を維持できるからだ。

それでも米国での価格水準はどんどん上がっていく。雇用、賃金がそれに追いつかないと、近代民主主義を支える中間層は窮迫層に成り代わり、ポピュリスト政治家に煽られて政治をファッショに傾けるだろう。

 経済史的に言うならば、資本主義諸国でのバブル形成と崩壊、救済と回復によるバブルの再形成というサイクルは、延々と続くことだろう。バブル崩壊から回復するための財政・金融大盤振る舞いは、必ず投機行為を生む。いずれかの金融機関は不良債権を抱えるに至るのだが、彼らは信用を喪失するのを恐れて言わない。だからある日突然、どこかで不良債権が明るみに出ると、金融機関はすべてを疑うようになる。融資・投資を控え、他銀行との取り引きも「危ないから」控えるようになる。これで金融の目詰まりが起きて、金融危機が起きるのである。

 金融バブルとその崩壊は、西欧に新大陸の金銀をベースとするカネがあふれるようになった17世紀から、しばしば繰り返されるようになった。1637年アムステルダム市場でのチューリップ関連株の大暴落、1720年ロンドン市場での「南海社」株の大暴落などがそれである。19世紀産業革命でモノがあふれるようになると、今度はモノの過剰生産が価格崩落と不況を起こすようになる。19世紀には鉄道建設投資をめぐって、よくバブルとその崩壊が起きている。

 つまりバブルは近代のつきもので、要はこれが困窮を拡大させないよう、コントロールしなければならないのだが、言うは易く行うは難し。

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