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2022年8月17日

トランプ再登場と米国の中南米化の予感

(これは7月27日発行のメルマガ「文明の万華鏡」第123号の一部です)

米国バイデン大統領の力の凋落ぶりが目立つ。彼の支持率は7月初め一部の調査で38%台になり、トランプが大統領の時の同時期の43%台を下回るに至った。別にバイデン自身の責任ではなく、14日付のEconomistが指摘するように、民主党が内部分裂していて大統領の足を引っ張っていることが主な原因なのだが、原因はどうでもいい。とにかく、トランプ復活への機運は高まる一方で、米国の心ある識者たちは最近相次いで懸念を表明するようになっている。

例えば7月11日付けフィナンシャル・タイムズで、論説委員のラナ・フォルーハーは、「米国は今や、武器を使った暴動が起きる国になった。法治性は地に落ち、社会は分断され、新興国の様相を呈するようになった」という趣旨の論説を展開した(22日付日経掲載)。いつもは慎重な彼女が、ここまで言い切るようになったのは、事態の深刻さを如実に示す。

バイデン政権は、様々の理由で成果を上げていない。与党民主党の中が割れているから――分配を求める一派と景気を重視する一派――、多くの法案がつぶれる。トランプが任命した裁判官が多い最高裁判所は、かつての民主党政権時代の改革――妊娠中絶容認など――、を次から次につぶしていく。

「決められない政治」への不満が高まる中で、トランプ大統領復活の気運が高まっている。議会では、昨年1月6日の議会襲撃事件への関与をめぐって、トランプとその一党への糾弾が続くが、トランプはそれをむしろ肥しとして支持をあおり、次の大統領選挙に出馬する意向をほのめかしては、世論をその流れに引き込むかまえ。彼とその一党が体現するものは、フォルーハーが言う法律軽視、つまり暴力至上の白人ギャング文化だ。中南米とは相性がいいだろうが、西欧とは異質の国家となる。

外交では、ウクライナ戦争に直接関与しない(つまり米軍を送らない)方針をバイデンが早々に示したことは評価するが――でなければ「ロシアをやっつけろ」の大合唱になって収まりがつかなくなっていただろう――、ロシアを制裁するやり方がまずかった。ロシアにドルを使わせないという制裁は非常に有効だったが、ロシアの原油・天然ガスを輸入しないという方向での制裁は、ロシアに効く前に、原油・ガスの世界価格を高騰させ、西側の経済、そして政治にさえも「効いて」きた。

11月に中間選挙を控えるバイデン政権は国内のインフレ亢進に慌てて、15日サウジ・アラビアを訪問し、これまでは上から目線で民主主義のお説教をしてきた相手のムハンマド・ビン・サルマン皇太子を相手に、原油増産の言質を得ようと踏ん張るも、表向きは何の成果もなく帰国する始末。

 因みに2024年は、多くの大国で選挙がある。1月早々に台湾の総統選挙、3月にはロシアの大統領選、5月にインドの総選挙、そして秋には日本の自民党総裁選(もしそれまでに前倒しですんでいなければ)、トリとして米国大統領選挙がある。

そこでトランプが再登場すると、彼は戦後の世界の枠組み――NATO、日米安保、IMF、WTO等々――を無視し、崩壊するのに任せるだろう。トランプは前回は中国と大いに対立して見せたが、それは貿易赤字を減らすという一つだけの目的のためで、台湾もそのダシに使っていたに過ぎない。中国から「米国からの輸入を大々的に増やす」という言質をとれば、台湾のことも放り出し、あとは「良きにはからえ。日本は自分で自分を防衛しろ。米軍にいて欲しいなら10兆円払え」ということになりかねない。10兆円も払うなら、自主防衛力を向上させた方がいいだろう。

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