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世界はこう変わる

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2021年3月27日

中央アジア――潮目が変わる時

(これは「国際開発ジャーナル」3月号に掲載された記事の原稿です)

 中央アジアと言うと、ロシアのプーチン大統領をしのぐ超長期政権目白押しだったが、今やタジキスタンを除いて指導者は交代ずみ。しかし今、その指導者の交代が、多くの国の情勢を流動化させている。

経済規模の小さな中央アジアでは、経済利権は昔から権力者とその側近に独占されてきたのだが、それはユーラシアの伝統である家父長制と強権支配によっても支えられ、しかも賄賂・汚職にまみれがち。それはソ連時代の集権・計画経済で更にひどくなり、権力者の交代は政情を流動化させやすい。

 中央アジアのへそとも言える位置を占める(人口では中央アジア全体の45%を占める)ウズベキスタンでは、ソ連崩壊以来その座にあったカリモフ・ウズベク大統領が2016年夏病死。ミルジヨエフ首相が大統領に当選して5年になろうとしている。その間彼は、自由化・経済改革を標榜してきたが、政府・地方の掌握度は今一つ。空回りの気味がある。利権漁りと汚職は後を絶たず、自由化・経済改革も将来図が見えない。昨年からはコロナ禍で、内政・外交とも停滞を強めた。そういうところに、今年秋には大統領選なので、先行きが見通せなくなってきている。

原油大国であるが故にGDPでは中央アジア首位のカザフスタンでは、ソ連崩壊以来その座にあったナザルバエフ大統領が2019年3月、地位をトカエフ上院議長に禅譲。院政に退く構えを示したが、おそらく彼の側近とトカエフの側近が利権・ポスト争いを続けているのだろう。外交官出身のトカエフは迫力不足。政府の陣容さえ固まらない。ナザルバエフ時代からその後継を狙っていた彼の長女ダリガは、昨年5月突然、上院議長の座から追われたが、1月10日議会総選挙では与党「ヌル・オタン」から立候補。下院議員として返り咲いた。おそらく、ナザルバエフ時代の利権を保持している者たちの後押しを得ているものと思われる。カザフスタンではコロナ禍で、なんと医療要員が最も高い感染率を示す中、担当の保健相が解任され、その後横領容疑で逮捕されるなど、ガバナンスに不安を持たせるものがある。

カザフスタンと中国の間に位置するキルギスに至っては、情勢は流動化の域を超えている。と言うのは、昨年10月議会総選挙の直後、それまでの権力・利権構図(キルギスでは南北の地方対立が強い。ジェエンベコフ前大統領は南部の利益を代表し、10月総選挙では開票操作を伴いつつ、支配を強化しようとした)に不満を持つ野党の一部が蜂起。それまで政治犯として投獄されていたサディル・ジャパーロフ元議員を解放すると、暴力行使の脅しでジェエンベコフ大統領を辞任させ、ジャパーロフの大統領代行就任を超法規的に実現してしまったのである。1月10日には臨時大統領選が行われ、ジャパーロフが約80%の得票で当選したが、投票率は30%であった 。

これでキルギスの権力交代は5回目。うち3回は暴動を伴う移行である。キルギスは以前から、中央アジアで最もリベラルな国と言われてきたが、それは規律が緩いだけの話しで、実態は中世の遊牧民族社会を髣髴させる。

キルギスの南方のタジキスタンでは、ソ連崩壊直後5年にもわたる内戦を鎮めたラフモン大統領が1994年からその座にあり、昨年10月の大統領選挙で5選を果たしたばかりだが、さすがに手詰まりが指摘されている。首都ドシャンベは、中国資本による建設で見違えるような近代化を遂げたが、中国からの借り入れが対外債務の50%で、他の国から借り入れることもままならない。これからの発展へのとっかかりが見えない。
ラフモン大統領は68歳で、表情には疲れが見える。昨年の大統領選挙では長男ロストムへの権力継承が噂されていたのだが、それは起きず、ラフモン大統領はレームダック化しつつある。

トルクメニスタンは中央アジアの北朝鮮と揶揄される集権国家だが、ここは初代大統領ニヤゾフの急死を受けて2007年大統領になったベルディムハメドフの下、国は豊富な天然ガスの輸出で伸びていくものと思われていた。しかし同大統領は2016年、天然ガスの輸出相手をロシアから中国に振り替え、これが逆目に出ている。中国との契約は、中国が負担したガス田開発経費をガス代金から差し引くプロダクション・シェアリング方式になっているし、近年ガス価格は低落していたため、トルクメニスタンの国家歳入は激減。都市では物資不足、価格上昇等の報道が絶えない。そしてそこをコロナ禍に見舞われている。ベルディムハメドフ大統領は北朝鮮の金恩雲主席と同じく、国がコロナでやられているとは絶対言わないが、マスクをしろとは言っている。

中央アジアをめぐる大国の相関図に変化

 こうして中央アジアの各国は、内部からメルトダウンし始めた感があるが、中央アジアをめぐる大国の力、思惑も今潮目の変わり時だ。

 引き金を引くのは米国かもしれない。米国はもともと中央アジアには、カザフスタンの原油以外には真剣な利害・関心を持たず――ロシアは米国によるNATO拡大が中央アジアにも及ぶと思ったのか、盛んに騒いで、「中央アジアをめぐる大国のグレート・ゲーム再来」を演出したが――、それはトランプ政権で無関心に輪をかけていた感があるのだが、バイデン政権になって変わる気配が見られる。それはウィグル問題である。

 新疆のウィグル民族はもともとは、中央アジア文明・経済圏に属する。同化を迫る中国には抵抗してきたし、今米国は人権問題を重視してウィグル支援を強めようとしている。ウィグル人はキルギス、カザフスタン、ウズベキスタン等にも居住していて、新疆地方のウィグル人とは親族関係もある。そして新疆のウィグル人はアフガニスタンに入ってテロリストとしての訓練を受けてもいる。

 これを抑えることを目指して、中国がアフガニスタン、タジキスタン、キルギスなどでの軍事プレゼンスを拡大しようとすると、それはロシアとも対立する要因になりかねない。と言うのは、中国が「一帯一路」を引っ提げて中央アジアを融資漬けにするところまでは、ロシアも許容したが、軍事面でも中国が席巻することは、中央アジアを失うことを意味するので、ロシアとして呑めることではないからだ。
 
日本はどうする?

 2015年の安倍総理中央アジア歴訪以来、日本・中央アジア関係に大きな動きはない。中央アジア情勢が流動化しようという今、日本としてはますます動きにくい。

 しかしこれまで日本が中央アジアで築いた足場は小さくない。日本の総理は二度も歴訪しているし、ODA供与額では上位を占めている。円借款、ADB融資等、日本の資金で建設された道路、鉄道、橋、工場等のインフラは、中国資金によるものに引けを取らない。JICAはほとんどの諸国に事務所や日本センターを展開し、起業・経営指南、技術研修等、地道で実のある支援を展開している。また国際交流基金、JICA等の支援で、中央アジア諸国における日本語教育は幅も質も高いものになっている。旧ソ連諸国の弁論大会では、中央アジア出身者が上位を独占しがちである。

 大国が利己的な目的で中央アジアに近づくのに対して、日本は特にしがらみがない。中国の対外融資が激減している今、日本は円借款、輸出信用を積極的に出していくべき時だ。中央アジアへの直接投資はその時期ではないが、日本での民主主義の歴史、市場経済発展の歴史を教えるとともに、役人、青年を日本に多数招待して、日本の制度、技術を学んで帰ってもらう、或いは日本に残って日本で働いてもらう等、やれること、やるべきことは多々ある。中央アジアの人々が日本に寄せる熱心な思いを、大事にしていかないといけない。

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