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2021年1月27日

ロシア反政府運動家ナワリヌイの帰国と拘束

(これは、27日刊行のメルマガ「文明の万華鏡」の一部ですが、26日発売のNewsweek誌に投稿した記事をフォローするものでもあります)

西側のマスコミは「プーチン=悪」で凝り固まっていて、彼に反対する動きがロシアで出ると、すぐに飛びつく。今回は「プーチンとその一味の汚職を暴き、新型毒薬ノヴィチョクを盛られても、ドイツで治療を受けて生き返った英雄」ナワリヌイ氏の話題で持ち切り。このナワリヌイはロシアでもう10年ほど、ブログやYoutubeで当局者の汚職・横領を暴いてはデモを繰り返している。「反汚職財団」や政党「未来のロシア」を立ち上げ、クラウド・ファンディングで約6億ルーブル(8億円)をこれまで集めていると捜査当局は言っている(うち3,6億ルーブルは子弟の海外留学等のために私服した由)。

このナワリヌイは昨年8月、シベリアのトムスクに出張し、帰りの機上で気分が悪くなって途中のオムスクに緊急着陸、治療を受けた数日後、夫人がプーチンに直接掛け合って、ドイツから差し回しの飛行機で(誰が差し回したのか不明)ベルリンへ飛び、治療を受けた。新型毒薬ノヴィチョクを盛られたという触れ込み通りなら、今頃良くても車いすなのだが、なぜか健常者に復活して、1月17日ベルリンからモスクワへ帰国した。

着陸予定のヴヌーコヴォ空港では支持者、マスコミがつめかけていたが、多分これでは逮捕しにくいからだろう。ヴヌーコヴォ空港は雪のためとかいうことで急遽滑走路が閉鎖され、飛行機は成田―羽田くらい離れているシェレメチェヴォ空港に回された。そこは雪のために閉鎖されているということはなく、ナワリヌイは無事着陸して、無事逮捕されたのだ。

 逮捕されたのは、もともと横領の疑惑で執行猶予つき有罪判決を受け、居場所を常に当局に通報する義務を負っていたのが、(9月ベルリンに行ってしまったあと)その義務を怠ったのでけしからん、ついては執行猶予を取り消すかどうか2月2日に裁判で決めるからそれまで監獄にいろ、ということなのだ。

しかしナワリヌイが拘束されるのはウン回目。留置されているのに、彼の財団は「プーチンが南方に1000億ルーブルものお城を作った。けしからん」という2時間もかかるビデオをYoutubeで発表(いくつか短時間の英語のものも添えて)。SNSで23日の街頭行動を全国民に呼びかけた。

これまで何をやっても支持率3%から上放れたことのないナワリヌイ。今回も大したことないだろうと思っていたら、23日には全国の数都市でかなりのデモが起きて、3000人以上が一時拘束された。これは2017年3月、当時のメドベジェフ首相の蓄財ぶりを批判したビデオをナワリヌイが発表すると、数日間で3700万もの者がヴュー。15歳前後の少年たちも多数参加する汚職反対集会が数都市で燃え盛ったことの繰り返し。ただ、今回プーチン・ヴィデオを見た者は3日で5000万。2017年を上回る状況になっている。因みに2017年の騒ぎは1か月ももたなかった。デモに参加した青少年は、所属の高校・大学・企業等で学校当局、上司から警告を受けたのだ。

ロシアでは、全体主義国家のならわしで、一獲千金を夢見る者たちが「元首のためのお城を作ろう」という運動を始め、予算をせしめるといくらかを着服、お城に元首は来たこともない、という情景は珍しくない。そういった連中は大統領府総務局(資産管理担当)を巻き込み、その威光の下に建設を進める。だからロシアの大統領府は実は大きなコングロマリットになっていて、モスクワ市内にもホテルなどいくつもの資産を有する。それら資産のいくつかはプーチンの名義になっているかもしれないが、それをプーチンが辞任後も私有できるかと言ったら、そういうことはない。それは、日本の国有資産のいくつかが財務大臣の名義になっているのだが、私有はできないのと同じことだ。

それでも今回のデモは、1月6日の米議会襲撃のロシア版みたいなもので、当局者たちの背筋を冷たいものがよぎったのではないか? というのは今年9月は、ロシアの議会総選挙。ここで「開票に不正があった」ということで、2011年12月総選挙直後起きた10万人の抗議集会を上回る運動が起きて、クレムリン襲撃ということになりかねないからだ。

2011年の場合、その3か月後の大統領選挙では、プーチンは一回戦投票で過半数を取ってすんなり大統領に選ばれている。また上記2017年3月メドベジェフ首相が同じくナワリヌイにその贅沢な生活ぶりをYoutubeで暴かれて若者を中心としたデモが盛り上がった時も、当局があの手この手を使って抑え込んでしまった。

当局は今回も抑えにかかるだろうが、プーチンももうさすがにレームダック。ロシアは平均寿命が低い国なので、これから若い世代が数の上でも多数を占めてくる。権力側に力が残っている間に、後継にバトンを渡した方がいいかもしれない。

こういうわけで、ロシアでは黄信号がついた。ナワリヌイの側は、これから毎週末、デモを組織しようとしている。

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