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世界はこう変わる

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2020年12月 4日

大統領選後の米国の課題  新たな建国 に向けて

(これは11月3日付日本版Newsweekに掲載された記事の原稿です)

 あと1週間で米大統領選。世界中の運命を決めるのに、我々は投票できないのが歯がゆいところ。予想ではバイデンと民主党が有利と言うことになっている。この4年、トランプの下で熱に浮かされたようなポピュリズムの米国に付き合わされた世界は、やっとまともな米国を相手にできるようになるのだろうか?

 いや、多分そうはなるまい。民主党が勝てば勝ったで、「勝利の配当」を求める動きで国内、外交はずいぶん荒れることだろう。低所得層への対策強化、大学教育の無償化などが次々に求められ、トランプが異常に膨らませた財政赤字は解消されるどころか、増えていくだろう。加えて、民主党の唱える最低賃金の引き上げ、労組の復権、法人税強化は、経済の活力を下げるかもしれない。そしてロシアは、法外な制裁を受けることだろう。共和・民主のいずれかに分かれ、二者択一の戦いを続ける限り、米国では一つの熱狂が去れば、また別の熱狂がやってくるだけなのだ。

民主党のブレーンたちは勝利後の戦略を発表し始めている。その一つ、先月のForeign Affairsに掲載されたガネシュ・シタラマン・ヴァンダービルト大学教授の論文を見ると、民主主義の護持、健康保険の拡充、累進課税の強化など、大変いいことが書いてある。しかしこの中で決定的に欠けているのは、国内の政治システム(ガバナンス)、そして経済の改革だ。

 現在の米国の問題は、基幹産業を失った――つまり大勢の国民を養っていく手段を失っていることにある。1970年代以降、日本等から安価な輸入品が殺到する一方で、労働貴族化した労組幹部達に賃金・企業年金の水準を野放図に上げられた米企業はたまらず、外資に身売り、あるいは国外に流出した。そのために中産階級が疲弊する中、1990年代後半、クリントン政権は金融業の規制緩和でGDPを大きく膨らませたのはいいが、それは金融関係者ばかり富ませ、国内の格差を一層増大させた。企業の中には共和党議員をカネで篭絡して「茶会」グループを作らせ、法人税引き下げなど、飽くことなき利益追求に走るものも現れた。この中で白人低所得層が一番割を食う。

というのは、白人のマイノリティーへの転落がいよいよ現実のものになってきたからだ。1965年移民法が改正され、欧州以外からの移民にも門戸が開放されて、米国は多民族国家になった。街を歩くと周りは全部人種が違う、というのは、それだけで気疲れがする。経済が良ければ、多民族社会もうまく回る。しかし経済が良くないと、建設や流通などの低賃金労働はマイノリティーが席巻し、白人低所得層の行き場を奪う。白人低所得層は四方八方から職場と権利を圧迫されて、不満と不安を募らせてトランプを大統領に担ぎ上げ、そのあげくコロナ禍のただ中に放り出されたのだ。

民主党が勝利した場合、一番やって欲しいのは、このような不毛の対立とポピュリズムを生む、国内の政治・経済メカニズムの大掃除なのだ。今は1776年の独立、1865年の南北戦争終結時に次ぎ、今度は多民族国家としてスタートする「第3の建国」の時なのだ。まず、経済を活性化して格差を是正しないといけない。そして共和・民主の2党がオール・オア・ナシングの不毛な争いを続けるのを緩和するため、第3党、第4党を作る。そして選挙戦に法外なカネがかかるのに歯止めをかける。政治家・政党が資金を一部のスポンサーに依存するため政策が歪み、金持ち優先の社会になるのだ。そのためには、選挙戦における有料テレビ広告は禁止すればいい。

今の米国の目詰まりの状況は、米、中、ロシア、インド、ブラジルといった領土・人口大国が幅を利かした時代が一先ず終わることを意味しているのかもしれない。これら諸国はいずれも、大人数の人口を養うのに四苦八苦し、広い領土を統治するのに大変なコストをかけてもいる。安全保障・通貨・貿易等々、米国を核とするシステムに代わる体制を皆で考えて行かなければならない時代なのかもしれない。

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