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世界はこう変わる

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2020年11月21日

現代の任免権闘争  ローマ教皇とトランプの確執

(これは10月27日に発刊したメルマガ「文明の万華鏡」第102号の一部です)

カトリックは米国有権者の20%強を占める。米国は清教徒=プロテスタントが作った国だから、新教=福音派の方がずっと多かったのだが(現在、人口の約25%)、19世紀末のイタリア系、アイルランド系移民、20世紀末のヒスパニック系移民の増大でカトリックがプロテスタントに迫る。

だからトランプは、カトリック対策にも意を用いてきたのだ。その別動隊は元首席補佐官のスティーブン・バノン。彼はローマ郊外の修道院を借りて、「カトリック右翼」分子の養成を企てるなど(持ち主のイタリア政府が、「カネを払わない」バノンとの契約を破棄したようだが)、リベラルで、移民・環境政策などでトランプの政策とは相いれないものを持つ教皇フランシスコを牽制してきた。

教皇は少数派なので、わりと静かにしてきたが、20日頃に公開された映画の中で、LGBTの人間同士の結婚を認め、法的に可能とするべし、という発言をした。米国のマスコミでは騒ぎにはなっていないが、これはLGBTに不快感を示し、妊娠中絶を認めない法学者Amy Barrettを最高裁判事に任命して、大統領選での売り物にしようとしているトランプ大統領の頭に水を浴びせかける行為だろう。

中世欧州では、ローマ教皇と国王たちが司祭の任免権、教会税の分け前をめぐって争いを繰り広げていたが、現代ではローマ教会と欧州諸国政府の関係は一応落ち着いている。西欧の新教国の多くでは、新教教会は国家予算で維持されている。フランスはカトリック国家だが、中世からその教会は国家の中に組み込まれてしまい、1905年までは国から助成金をもらっていた。

米国だけはその点、国家と教会の関係はまだ流動的なのだ。米国のキリスト教会は国家資金を得ていないので、自力で資金を得ないといけない。そのために、テレビ説教のような人気取りで資金を稼いだり、「メガ・チャーチ」と呼ばれる企業形式の教会(プロテスタント)が増えている。

話しを戻すと、プロテスタントには教皇のような「海外の」トップがいないから、国の指導者はわりと安心していられるのだが、カトリックの方はローマ教皇との関係をよくしておかないと、選挙の時に足をすくわれる。それが、今トランプに起きたのだ。ただ、今の教皇は米国のカトリック信者の趣味に合わないようで、支持率は高くない。

中世の昔、ドイツ、フランス、スペインの国王たちは、ローマ教皇の権威を取り込もうとして争いを続けた。フランス国王などは遂に1309年、ローマ教皇を「拉致」して、アヴィニヨンに教皇庁を移させ、それは実に約70年間も続いたのだ。トランプが再選されると、ローマ教皇は米国に居を構えるよう、慇懃に慫慂されるかもしれない。トランプにしてみれば、国連本部に教皇庁ができればそれに越したことはないだろう。

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