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世界はこう変わる

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2020年10月 6日

バイデン外交のスタイルは

(これは9月23日発行のメルマガ「文明の万華鏡」第101号所載の記事の一部です)

(トランプの入院で、米大統領選の行方はまた混沌としてきましたが、9月末時点ではバイデンが一応優勢でした)

というわけで、バイデンが当選し、「トランプ支持者の反乱」も鎮圧できた場合の外交スタイルを占っておくのも、意味のあることだろう。

彼はもともとオバマ政権の時代も、「外交をよく知る男」として活躍した。ロシアによるクリミア併合前後にはウクライナ問題に関する大統領特別代表として活躍したし、オバマが重視したアジア方面でも、オバマの代貸しとして活躍した。2013年訪中した時は、習近平が党総書記に就任したばかり。公式には国家副主席でバイデンのカウンターパートで、両者は一応親しくなっている。

彼は訪日も何度か行い、安倍総理、麻生副総理等と親しい関係を結んでいる。2015年の安倍総理訪米では、上下院議員を前にしたスピーチ――日本総理によるものとしては史上初――実現でも力を発揮している。

しかし彼は日本については冒頭に書いた通り、東海岸エリートに典型的な、日本を格下に見るアプローチをとっている。2016年の大統領選の過程では、「日本の戦後憲法は米国が書いた」と公言している。それは驕りによるというよりも、日本側のパフォーマンスに起因するところも大だと思う。修正可能だし、修正していかなければいけない。

今回の大統領選直後には、日米安保「思いやり予算」にかかわる「在日米軍駐留経費負担に係る特別協定」の定期更改交渉が始まる。外交に慣れない菅政権がこれをなあなあ、まあまあで、金額の問題として済まそうとすると、大変な過誤を冒すことになるだろう。

バイデンは副大統領の時代、ジェイク・サリバンを外交問題のアドバイザーとして使っていた。これはイェール大学、オックスフォード大学を出た秀才で、今回も彼に寄り添っている。まだ44歳だが、バイデンが当選すれば、おそらくホワイト・ハウスの安全保障関連での要職につくことになるだろう(もう一人、サリバンの年長のAntony Blinkenがバイデンの外交問題顧問格で働いている)。

サリバンはトランプが破壊した米外交の足場をいくつか復旧しようとしている。就任100日以内に環境問題のパリ協定への復帰、イラン核合意への復帰の他、自由民主主義を奉ずる主要国の首脳会議を招集したいとしている。TPPは民主党の支持基盤である労組の反対が強いため、加盟するためには条文の再交渉が必要、との立場(以上、「選択」9月号)。

バイデンは、オーソドックスな外交のやり方をするだろう。トランプのような「首脳レベルでの直取引」は、事務レベルでよく揉んだ上での最後の段階となる。それだけ、事務レベルでのやり取り、そして日本の場合"Japan Handler"と呼ばれる日本専門家、ロビーストを通じての下から、そして側面からの働きかけが重要になるだろう。

ただバイデンは、トランプの始めたツイッター外交は継承する構えを見せている。それは、BREXITについてのEUとの合意から後退しようとした英国ジョンソン首相の動きを17日、ツイッターであからさまに牽制したこと("We can't allow the Good Friday Agreement that brought peace to Northern Ireland to become a casualty of Brexit,")で露骨に出た。オーソドックスな外交と言っても、いざとなると公開外交の挙に訴えて出て、相手を追い詰める、ドスの効いたものになるだろう。

一方、バイデンの対中姿勢は読みにくい。口では強硬路線を維持すると言っているが、トランプの対中姿勢も実は強硬一辺倒ではないので、バイデンも基本は踏まえつつも、協調が可能なところでは協調するだろう。先端技術の輸出規制は続けるだろうが、トランプと違って、一般の貿易・投資関係ではもっと穏やかに出るだろう。ウィグル、チベット、モンゴル、そして台湾の問題で、中国が米国の虎の尾を踏むことがない限り。

ロシアとは、経済関係が薄いだけに、敵視、脅威視の建前論が通りやすい。民主党は2016年の大統領選で、ロシアがSNSを使って介入してきたからクリントン候補が敗れた、と思い込んでいて、ロシア敵視が党是のようになってしまっている。
ただバイデンは、トランプが中国に対して見せたような、度はずれの制裁措置をロシアに対して取ることはないだろう(民主党が上下院双方を制した場合は違う)。そして、来年1月末に失効する戦略核兵器制限条約「新START」条約については当面更新、そして新たな条約締結の方向に進むだろう。

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