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世界はこう変わる

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2020年9月13日

トランプで米国はいよいよ分解するのか

(これは8月4日付日本版Newsweekに掲載されたものです)

コロナ、黒人の人権デモ――米国で何が起きても、トランプは対立を鎮めるのではなく、煽ることで喝さいをとる。その中でコロナは広がり、社会は行き詰まる一方。これでは、「米国崩壊、米国分裂も間近」という気分になるというものだ。米国が今の中南米のようにばらばらでないのは、歴史上の一つの偶然だったのだから。

古来、「帝国」の崩壊は、いくつか共通の症状を示す。西ローマ帝国では、有力者達が大規模な荘園を構えて税金を払わず、周辺辺境の征服も終わって新たな金銀鉱山も手に入らず、国は軍閥に分かれてそれぞれが皇帝候補を推戴し、首都は格差と腐敗、そして陰謀と堕落が横行する場所となった。そこを、多分中国方面からやってきた天然痘などの疫病が襲い、人口は激減する。同時に、ゲルマン諸族やフンが領内になだれ込み、ローマの領土を虫食いにした。現代のソ連では、野心家のエリツィンが地方を煽って税収の流れを止め、連邦政府を兵糧攻めにした上で、連邦の解体を一方的に宣言してゴルバチョフを追い出し、残ったロシアに君臨したのだ。

そのロシアの右派系の連中は、米国の惨状を見てあざ笑う。「見ろ。あの黒人暴動を。まるでソマリアみたいじゃないか (ソマリアに失礼な話だ)。資本主義はもうお終い。米国人がロシアにこれまで説教してきた自由や民主主義では、国は治まらない 」と。確かに今の米国は、先進国と途上国が同居していて、これはどこの国なのかと感ずることが多い。だが、米国は本当に瓦解するだろうか? 

トランプは11月の大統領選で落選すれば(当選する可能性は残っているが)、「選挙はきちんと行われなかったから無効だ」と言って、裁判所に訴えるだろう。裁判所はデモ隊に囲まれ、裁判官の家族は脅迫を受ける。トランプ支持派は銃を持ち出して卑劣なヒット・エンド・ラン(撃っては隠れる)のゲリラ行為に訴え、全国を騒乱状態に導く。この時トランプは非常事態を宣言し、ホワイトハウスに居座る・・・。

しかし、トランプの力はけっこう弱い。非常事態を導入しても、軍隊は彼の指示では動くまい。既に、軍の上層部はトランプに、軍を政治的に利用しないよう警告を発している。そして、行政機構というものを殆ど持たなかったローマ帝国と違って、米国は中央・地方にきちんと組み立てられた立法・行政・司法機構を持ち、それを効率的な徴税体制で支えている。地方が中央への国税送金を抑えただけで崩壊した、1991年のソ連とは社会の厚みが格段に違う。

各州の住民も、「独立」して連邦の資金、市場を使えなくなる事態は望むまい。つまり米国では皆が、今の体制の中で何とか暮らしを立てていこうとしていて、これを覆そうとまでは思っていないのだ。

世界での米国の地位を支える軍は、これからも強い力を維持していくだろう。ロシアでは、「米国は工業を失った」とか「ドルは紙切れになった」とか揶揄するが、米国は何でも作る技術を持つし、付加価値の高いものの生産を中心に、今でも世界2の工業生産国なのだ。ドルは下落していくだろうが、これに代わる「世界通貨」はない。コロナ危機では、世界中の銀行が血眼になってドルをかき集めた。トランプ一人だけでは、米国、そして世界はこわれない。

それでもジョゼフ・ナイが最近言ったように、バイデン大統領が登場することになってもトランプ以前の世界はもう戻ってこないだろう 。米国の同盟国は、自前の防衛力強化を迫られる。気候変動、パンデミック、サイバー攻撃、テロ等の問題について、多数の国々と協力してルールを定め、何でもありの弱肉強食の世界にならないよう努めていくしかない。日本はこれから安倍後の混乱期に入っていくのだが

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