Japan and World Trends [日本語] 日本では自分だけの殻にこもっているのが、一番心地いい。これが個人主義だと、我々は思っています。でも、日本には皆で議論するべきことがまだ沢山あります。そして日本、アジアの将来を、世界中の人々と話し合っていかなければなりません。このブログは、日本語、英語、中国語、ロシア語でディベートができる、世界で唯一のサイトです。世界中のオピニオン・メーカー達との議論をお楽しみください。
ChineseEnglishRussian

世界はこう変わる

Automatic Translation to English
Automatic Translation to English
2020年9月 5日

世界メルト・ダウンの諸様相

(これは8月25日発行のメルマガ「文明の万華鏡」第100号の一部です)

このメルマガを続けてきたこの8年間、幾度か「世界はメルト・ダウンする」という危機を感じたが(特に中東でISISという変な勢力が「国」を作り始めた時)、今再びそういう感を持っている。メルト・ダウンと言うか、コントロール喪失と言うか、不思議な浮遊感だ。

(米国)

ノーコンで有名なトランプ大統領が君臨する米国は、大統領選で混乱も大団円。直近では、彼を大統領にのし上げた功績者、元側近中の側近のスティーブ・バノンが20日に詐欺罪(トランプがご執心だった、メキシコとの国境に壁を作るプロジェクト実現のための募金集め財団を立ち上げ、その資金を横領したというもの)で逮捕されたのがどういう意味を持つか。

トランプはこの逮捕を事前に知らなかったと言っているが、多分本当だろう。バノンを逮捕したのは、ニューヨーク南部検察局、別名マンハッタン検察局、別名(連邦司法部よりも古いこともあり)"Sovereign District of New York"。政府の意向とは別に動く。トランプの顧問弁護士マイケル・コーエンを告発して、牢屋に送ったのもこの検察局である。以前から、大統領就任以前のトランプの事業については、不法・違法行為の存在がささやかれてきたが、トランプ・タワーの本拠地にあるこの「マンハッタン検察局」がそれについての情報を持っていないはずはなく、大統領選を前にしてのこのバノン逮捕は、トランプには不気味なものだろう。米国の三権分立は、まだ死んでいない。

 では、大統領選はバイデン当選で決まりかと言うと、そうではないのが悩ましいところ。カマラ・ハリス上院議員が副大統領候補に決まった時は、最良の人選と思われたが、なぜかこの時を境に、バイデンとトランプの支持率は急接近し、バイデン・ハリス旋風は起きていない。おそらく、インド系と黒人系の混血であるハリス上院議員は、人種差別問題専従と受け取られ、サンダース上院議員の周りに結集したリベラル白人層に「?」という印象を与えているのだろう。

民主党は、「トランプを倒して民主主義を回復する」だけでなく、別の明るいメッセージが欲しい。トランプを支持している白人たちにとっては、トランプこそが自分たちの利益を守ってくれる存在、トランプが大統領でいることこそが民主主義を実現したものだからだ。上から目線で民主主義を説くより、同等の目線で「いい加減、正気に返ろう。一緒にやろう」と白人困窮層に語り掛けるべきなのだ。

大統領選挙後、米国、世界は最大の危機に直面することになる。トランプが勝てば、彼は何を始めるだろう? 次の選挙がないので、勝手気ままに自分の思い込み、思いつきを実行するか、それとも自分達一家のビジネスを盛り立て、自身はフロリダでゴルフばかりやっているか。ただ、2期目を終わって辞任したあと、大統領になる前の脱税などをめぐって起訴・逮捕される可能性がおおありなので、そういうことが起きないようどんな手を打つか。

トランプが負けると、もっと面白いことが起きるだろう。まず彼は、郵便投票で多数の不正投票があったとして、そこらじゅうで訴訟を起こす。そして4年の任期が終わったあとも、ホワイト・ハウスから出ようとしないかもしれない、とは既に多くの人がささやくシナリオとなっている。彼は不動産業なので、借家人の権利を主張するかもしれない。まさか、ホワイト・ハウスを売り飛ばすとまでは思わないが。

(同盟国に突き放されたトランプ外交)

ポンペオ国務長官は、コロナをおして訪問外交を再開しているが(そこは茂木外相も同じで、ごく小型のチャーター機で数名の随員を伴っての訪問外交を再開した)、14日には足元の国連でめったにない事態が起きた。安保理で米国が、イランへの兵器禁輸措置を延長することを提案したのに対し、これを支持したのは非常任理事国のドミニカ共和国のみ。「同盟国」の英仏独はあっさり棄権にまわって(ドイツは非常任。他の非常任理事国はベルギー、エストニア、インドネシア、ベトナム、ニジェール、Saint Vincent and the Grenadines、南アフリカ、チュニジア)、中ロが拒否権で米国案を殺すのを見過ごした。

ポンペオ国務長官は、「国連の過ちを正してやる」と言明し、20日にはイランへの制裁措置復活への手続きを国連で開始し(イランが合意に違反した場合には制裁を復活できるとする条項が、安保理決議2231号に入っている)、中国、ロシアがこれに反対するなら両国を制裁するとしているが、そうはなるまい。もともとイランへの兵器禁輸は2015年の核合意によって段階的に解除されることになっていた。トランプ政権がこの合意から一方的に脱退して、全てを引っ繰り返そうとしてもそうはいかない、ということなのだ。安全保障の問題で、米国がここまで同盟諸国、それも英仏独にそろってコケにされるのは、戦後初めてのことだ。

日本が首脳間の合意をコケにする形で、イージス・アショアの配備検討を停止したのも、同じ流れにある。同盟国をコケにしてきたトランプ米国は、こうしてその代償を支払わされているわけだ。

(沈黙してしまった習近平中国)

米国がこうして沈めば中国が浮くだろうと思うのだが、なぜか習近平政権は最近、動きが鈍い。対米経済関係では持久戦を決め込んでいるのだろうが、香港では10日自宅に踏み込んで逮捕した「民主の女神」周庭、そして蘋果日報などの創始者黎智英を、あっさり保釈してしまったし、民主派の立法会議員の任期延長も容認した。台湾についても、新たな具体的な行動は取っていない。尖閣については、8月初め漁期が始まった際、当局者が、中国の漁船には尖閣領海海域には入り込ませないとの意向を意図的にリークしている。そして揚子江流域では大雨が続き、重慶などでは洪水、武漢上流の大規模な三峡ダムは危険水位に達しているのに、習近平政権の顔は見えない。

中国専門家の石平氏は、夏の「北載河会議」で習近平が長老連中から、その闇雲な対米政策などを厳しく批判されたと書いているが、さもありなんと思わせるものがある。習近平にしてみれば、「私は、文化大革命で農村に下放された時、必死で学習した毛沢東思想を実践しようとしているだけなのに。あの頃、皆そう言ってたじゃん」と言いたいのだろう。彼もまた、文化大革命の被害者なのだ。それに彼は、2012年11月共産党総書記に就任する半年前、中央海洋権益工作領導小組を率いたと言われ、ちょうどその時国有化をめぐって騒がしくなった、尖閣をめぐる日本との紛争に関わっていた。「中国は、周辺諸国の悪意を力ではねのけなければならない」と思い込んでいる可能性がある。「アヘン戦争以来、中国が国際社会で失った権威と権益」の回復を、彼は深く肝に銘じている可能性がある。

香港、台湾については、米国に陰に陽に圧力をかけられているのだろう。圧力の具は、香港の金融ハブとしての地位そのもの。米国が香港をドル経済から締め出すと、中国の企業、要人はドル取引の窓口を失う。5月31日付日経によれば、対中直接投資全体の7割は香港を経由しており、欧米の投資家は香港を通して中国本土での株式に投資している(2019年は3517億元の買い越し)。香港を閉められたら、中国のお偉方たちは横領した金を海外の自分の口座に送ることもできなくなる。

それでも、中国の社会は今のところ回っているようだ。政府による闇雲な内需拡大政策で(無駄な)投資が増えていることが、それを支えている。高速鉄道(新幹線)は2035年までに全長を倍増させることになっている(赤字も倍増以上になるということ)。しかし、個人消費、そしてそれに関連するセクターでの伸びは報じられておらず、中国経済に構造的な明るさは見られない。

宇宙エレベーターというアイデアがある。一言で言えば、人工衛星から地上までエレベーターを吊るすということなのだが、中国全国に儲からない新幹線を作るより、月行き新幹線でも建設した方がよほど、意気も利益も上がるというもの。

(推進力を失ったロシア、旧ソ連諸国)

ロシアでは、コロナが前より下火になったが、原油依存のもろさを露呈した経済については、変革への筋道は全然見えない。剛腕の新任ミシュースチン首相も、プーチンの公約である「ナショナル・プロジェクト」(2024年までに官民40兆円相当以上をインフラ建設等につぎ込んで、内需拡大をはかるというもの)に目鼻をつけることばかりに時間をつぎこみ、経済の構造改革についてはノー・アイデアぶりを暴露している。

その中で当局は7月10日、公安を極東のハバロフスクに急派。なぜか16年も前の「殺人罪」のかどでフルガル知事を逮捕、モスクワに連行した。知事を逮捕して中央に連行するのは、ロシアでは珍しいことではない。2015年3月にはサハリンの知事、2015年9月にはコミの知事がモスクワに連れ去られている。

ハバロフスクは最近、極東の中心としての地位をウラジオストクに奪われつつある。これまで極東管区の大統領特別代表はハバロフスクを居所としていたのが、2019年1月にはこれもウラジオストクに移転してしまった。経済的にも振るわないこともあり、ハバロフスク市民には不満がたまっていたところに、2018年9月の公選で「自分たちが知事に選んだ」フルガル氏をモスクワに拉致された、という想いが高まったのだろう。7月には抗議のデモが続いた。

Youtubeを見ると、普段着の市民が総出のような感じでハバロフスクの街路を埋め、黙々と歩いていく様子が不気味でさえある。モスクワ当局にしてみれば、フルガルは(体制)野党の自由民主党選出で(極東地方は中央に冷遇されているとの思いがあり、自由民主党が強い地域である)、与党「統一」に協力的ではない、9月の地方選挙を前に更迭したい、という想いがあったか、それとも地元の利権争いにフルガルが巻き込まれ、モスクワに告げ口されたのかいずれかだが、彼は知事になってからは中小企業を奨励したり、コロナで医療関係者に増給したりで、住民への機嫌取りをやってきたので、住民の喪失感は大きいのだ。

で、面白いのは、この何日も続いた住民の抗議デモに対して、モスクワ当局が何も取り締まりの挙に出なかったことだ。そしてもう一つ面白いのは、内政担当のキリエンコ大統領府第一副長官がフルガルの後任に自民党以外の人物を推薦したのに対してプーチンが、ヴォロージン下院議長の意向に沿う形で、フルガルと同じ自民党のデグチャリョフ下院議員を知事代行としてハバロフスクに送り込んだことである。同種の報道はこれしか目にしたことがないが、事実だとすれば、2016年には大統領府から遠ざけられたヴォロージンが再びプーチンに近づきつつあることを示しているのかも知れず、要注意である。彼は内政では反政府派締め付け、外交ではタカ派路線を主張し、かつ野心家であるからだ。

ハバロフスクの件については、市民の抗議運動も収まったようだし、モスクワ当局の方も抗議運動の責任者を摘発する姿勢を示していない。このように、「プーチンが何を考えているかよくわからない、うやむやの中に事件が消えていく」のは、このハバロフスクの件だけではない。ベラルーシでの騒ぎについても、同じことが言える。

8月9 日ベラルーシの大統領選でルカシェンコ大統領が開票を操作したとして――野党側主張では20対80%で負けたのを、80%対20%で勝ったと言い立てているということなのだが――、抗議する運動が首都ミンスクだけでなく、地方都市や国営大企業でも燃え上がった。しかしこれも紆余曲折の末、下火になった。この国ではルカシェンコが野党をほぼ根絶してきたし、今回も対抗候補のチハノフスカヤが隣国リトアニアに逃げ込んだままへっぴり腰で、「私は国のリーダーになる用意があります」などと、用意された原稿を読み上げるだけの下手なパフォーマンスに終始するものだから、人々の関心、意欲は急に萎んだ、とマスコミ(ミニコミ)は書いている。ここも、反政府勢力がガス欠なのだ。

隣国のポーランドなどは、ロシアがベラルーシに軍事介入すると騒ぎまわっているが、プーチンはその動きは見せていない。ルカシェンコが自力で持ちこたえると踏んでいるのだろう。そして何かというとロシアに楯突いて、結局のところロシアからカネをむしり取るのに長けるルカシェンコが少しおとなしくなるのは、ロシアにとって悪いことではない――こうした計算があることも指摘されている。

(朝鮮半島情勢もガス欠)

韓国については、政府・与党がモラル面でも国民の信を失いつつあることが重要だ。これは政府の政策の誤りで不動産バブルが生じ、国民は住宅取得ができなくなっている中で、政権幹部が不動産投資を続けていたことが判明したこと、また慰安婦問題でも関連団体の幹部が資金を私服していたことが判明したことが響いている。

北朝鮮も、行き詰まりの様相を呈している。トランプをたらしこむこもうとして失敗し、その後のプランB がない。「核ミサイル」はもう開発し尽くしたから、新たな脅しにはならず、足元ではコロナが蔓延して国外との往来が止まり、経済を支える中国との貿易は70%も減少したと報道されている。

トラックバック

このエントリーのトラックバックURL:
http://www.japan-world-trends.com/cgi-bin/mtja/mt-tb.cgi/4021