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世界はこう変わる

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2020年7月31日

トランプ落ちるかも 議論の台頭

(これは7月22日発行のメルマガ「文明の万華鏡」の一部分です)
トランプは、コロナで無力、無能を明らかにした政治家の最たるものだ。コロナは、実は抜本的対策の取りようもないものなのだが、たとえそうであってもニューヨーク州のクオモ知事のように、決然たる規制措置を取ることで流行を劇的に減らした(ように見える)やり方も可能だったのだ。それを、「大したことはない」、「経済活動維持の方が大事だ」と主張し、しかもそれを科学的な論理ではなく、ウソと出まかせで国民に売りつけたトランプのやり方は、テレビ番組司会者としては見事でも、国の指導者としては無責任きわまりない、犯罪行為そのものだったと言える。

だから、トランプのコロナ対策での支持率は34%にも落ち、大統領選候補としても40%の支持しか受けていない。「岩盤のようなトランプ支持」者がいるから、選挙では大丈夫だと言われるが、岩盤だけでは票の過半にならない。

2016年選挙で、それまでの民主党候補支持からトランプ支持に引っ繰り返ることで、トランプを大統領にしてしまった中西部の5州でも、トランプ支持はバイデン支持を下回るようになっている。そしてこの中西部の白人労働者達が民主党支持から共和党に寝返った大きな理由、つまり重工業、石炭業の衰退による失業等については、バイデンの選挙チームが今般当選後の経済政策を発表。転職のための職業教育充実等、まさにこの中西部の白人労働者達を民主党に取り戻すための政策を打ち出している。

共和党の離反

 この中で、共和党の中からもトランプを追い落とそうという動きが出ている。それはまだごく一部に止まっているが、「リンカーン・プロジェクト」なる団体は保守系のフォックス・テレビなどに効果的な反トランプ・メッセージを放映。彼を怒らせることで、深みにはまらせる作戦をとっている。

本来ならば、今年の大統領選候補者にトランプではなく、別の者を立てようという動きが共和党内部から出てくるべきだったのだが、これはもう時宜を失しただろう。憲法修正第25条を援用して、副大統領を先頭に閣僚全員がトランプに反旗を翻せば、トランプを大統領でなくすことができるのだが、ペンス副大統領もこれまでトランプに尻尾を振ってきて、そういうことは今更できまい。今後は、共和党の議員たちが「トランプでは自分たちも巻き添えを食って落選する」と騒ぎだすこと、そして共和党のスポンサーたちが危機感を持って何かをしかけてくるかがキーになるだろう。

もう一つ、トランプが今退くことを条件に、退任後の訴追をしない確約を得る、1974年のニクソン型の収め方がある。トランプはニクソンとは桁違いの違法行為を自分のビジネスで重ねているに違いない。このまま落選すれば、退任後、塀の向こうに落ちる史上初の米大統領になる、取引をするなら選挙前の今しかない、と考えるかもしれない。
現在トランプはフリン元安全保障問題補佐官やアドバイザーのロジャー・ストーンなど、政権の初期に断罪・拘束された連中を相次いで訴訟取り下げや特赦しつつあるが、これはもはや世論を気にしない破れかぶれの行動に見える。米国のマスコミは、これは「自分にも特赦を与える」準備なのだと茶化し始めている。

トランプ後の国際政治

 外交面についても、「トランプ敗北後」が議論されるようになっている。ソフト・パワーの議論で有名なジョゼフ・ナイ教授は最近、Project Syndicateというオピニオン・サイトに寄稿して、「バイデン大統領が登場することとなっても、トランプ以前の世界に逆戻りすることはもう無理だろう」とし、米国の内向き傾向継続を前提とした議論を展開した。それは、「同盟国の中でも最重要な国々と民主主義と人間の権利を推進し、気候変動、パンデミック、サイバー攻撃、テロ等の国際問題については、より多数の国々と協力してルールに基づく国際秩序を運営していく」というのである。

これは、ナイ流に上品なアイデアだが、世界ではもうこうした悠長なやり方は通じなくなっているかもしれない。ナイは、米国が指導力を保持することを前提にしているが、そうならず、世界は力とカネで何でもあり、という、17世紀ホッブスの「万人の万人に対する闘争」時代に戻ってしまうかもしれないのだ。

トランプ退場で株は暴落するか

 「トランプ再選なし」が明らかになると、米国株式相場は暴落すると、僕はこれまで思っていた。トランプが連銀の尻を叩いて、カネを市場にあふれさせていることが、今の株高を支えているからだ。しかし米国株式ウォッチャーの安田佐和子氏は、バイデンになっても経済政策は優先事項だし、企業法人税を一気に上げるわけでもあるまいという機運が米株式市場に広がっていて、トランプ退場はもはや驚きの材料にならないと言う(同女史のサイトはhttp://mybigappleny.com/2020/07/09/biden-sanders/)。最近の株価を見ていても、それはどうやら事実らしい。

落選するトランプは米国を地獄に引きずり込むか
 
 トランプは落選するとどうするだろう? そうなる前に、選挙延期をはかる可能性があるのだが、これは議会の承認を必要とするのでできない。となると落選後、「選挙はきちんと行われなかったから無効だ」と言って、裁判所に訴えるだろう。裁判所はデモ隊に囲まれ、裁判官の家族は脅迫を受けるようになるだろう。トランプ支持派は銃を持ち出して卑劣なヒット・エンド・ラン(撃っては隠れる)のゲリラ行為に訴え、全国を騒乱状態に導くことだろう。白人の多い警察は、これを黙認することになる。

「選挙結果は不正だ!」と言い立てて大衆を煽り、議会・政府を暴力で占拠してウクライナやグルジア(ジョージア)の政権を倒した米国の「民主化」勢力のやり方を、トランプ勢が米国内で借用する。皮肉なことだ。

 白人が多数派の地位を失う時の様相は、このように荒っぽいものになりかねない。19日には、ニュー・ジャージーの連邦地区裁判所の判事(ヒスパニック系女性として初めて連邦裁判事に指名された人)の息子が、自宅を訪れた何者かに射殺される事件が起きている。普段は法治でも、基本は力で決める米国社会。そして銃砲があふれている米国社会。ハリウッド映画のような展開は十分あり得る。

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