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世界はこう変わる

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2020年7月17日

ドルは デジタル人民元 に地位を譲るのか?

(これは6月23日発行のメルマガ「文明の万華鏡」第98号の一部です)

 世界での米国の覇権を支えるのは米軍とドル。ドルがこれだけ使われるようになったのは、それだけの量が世界に出回っていることも理由の一つ。それは米国が貿易赤字国で、世界中にドルを「供給」していること、日本や中国はそれを米国債で運用し、湾岸諸国は原油代金のドルをロンドンのシティを通じて無数のタックスヘイブンで保管・運用する――つまりドルをめぐるインフラが確立していること、この二つによる。

 トランプの政策はこの、米国外に流出していくドルの規模を小さなものにするだろう。中国からの輸入は減少するし、湾岸諸国からの原油輸入も減少しているからだ。

 「だから、世界通貨は人民元に交代する」というのが、最近の新聞雑誌の見出しなのだが、これは販売部数を増やすための掛け声のようなものだ。誰も信じてはいない。なぜか? まず中国の金融当局は、かっこうをつけるだけのものは別にして、本音ベースでの人民元の国際化、つまり資本取引の自由化をする気がない。自由化すれば、中国国内の資本は海外に大量に流出して(他ならぬ中国のお偉方達は中国経済の実態を知っているので、人民元下落を見越し、公金をせっせと横領してはドルにして、米国の自分の隠し口座に送る)人民元の暴落と国内のインフレを呼び起こすだろうからだ。

 そして湾岸諸国は、石油代金としてはこれまで通り、人民元よりドルを好むだろう。取引規制の強い人民元では、ドルのようにオフショア、タックスヘイブンで自由に運用ということはできないだろうからだ。

 中国は「デジタル人民元」を発行する準備をしている、と言われる。しかしこれは、買い物はスマホ決済でしかできないようにする、そして国内の企業間取引、そして国際取引では決済を仲介するのがこれまでの銀行からインターネット・ブロックチェーンに代わる、程度の話し。国内での国民監視、徴税には役に立っても、例えば湾岸諸国が中国に、これまで通りドルでの石油代金支払いを求めてくるなら(多分そうなる)、「デジタル人民元」は国際貿易の決済にはほとんど使われまい
 
 要するに、実需がなければ「デジタル」だろうがアナログだろうが、変化は生じない、ということなのだ。

話しは脱線するが、その伝で言うと、現在ロシアが進めている全国民の背番号化、全国民のデジタル・ファイル整備(国税庁とロシアの郵貯「ズベルバンク」が推進している)も、取引の活発化よりも国民への監視強化・徴税強化にしか役に立たない。ソ連時代の秘密警察KGBは怪しい国民の身辺を嗅ぎまわり、あることないことをファイルにしていたが、現代のロシアでは全国民についてデジタルのファイルが作られ、諸方から検索可能になるというだけの話しだ。

グレフ・ズベルバンク総裁は、「データは現代の原油。最大の資源だ。データをできるだけ沢山集める者が今日の経済では勝つ」と言っているが、データは消費者行動の予測とか、製品の品質改善で役に立つもの。自前のモノ作りが不十分なロシアでデータをいくら集めても、KGB=FSBに感謝されるくらいのものだろう。

西側でもやたら「ビッグ・データ」とか騒いで、データを完璧にしようとするけれど、消費者行動の予測程度のことならば、(もともと予測不能なのだから)抽出データを統計学で処理すれば、だいたいの用は済むのだ。「デジタル」という看板がつくと皆感心してしまうが、意味がない。


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