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世界はこう変わる

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2019年12月15日

恐るべし、トランプの巻き返し

(これは11月27日に発行したメルマガ「文明の万華鏡」第91号の一部です。)

この数週間、トランプは議会で押しまくられる一方。「(次の大統領選でのライバル)バイデン前副大統領がウクライナでやった不正行為(息子のハンターをウクライナのガス企業の幹部に押し込み、マネロンの片棒を担がせたという件)の証拠を自分に渡せ。渡さなければ首脳会談もしないし、ロシアと戦うための軍事援助供与にも署名しない」ということをウクライナのゼレンスキー大統領に言ったことは、米国外交官や、当時ホワイト・ハウス内部にいた者達の証言で、ほぼ確定した。これは、明らかに大統領の職権乱用、公私混同だが、米国の安全保障を危うくしたとか、何らかの法律を冒したとまでは言えない。だから共和党の議員で、弾劾に傾く者はまだ出ていないので、民主党が多数を示す下院で弾劾が通っても、上院では必ずつぶされる。

そういうところで、米国議会は1月中旬まで休会の多い季節に入る。トランプにとっては、反撃の好機。必ず、何かやるだろう。それは何か? 第一に、民主党候補の主張、政策のいいとこ取りをしてくるだろう。つまり、エリザベス・ウォレンやバーニー・サンダースが主張する、低所得者層への配慮、富裕層への増税について、何かを打ち出すだろう。既に12日の演説で、中間層以下を主要ターゲットとした減税2.0を検討していることを明らかにしている。

次に、移民政策の現実主義化をはかるのではないか? 民主党候補の移民政策は寛大に過ぎて、保守系選挙民の支持を得にくい。他方、トランプの移民政策は全ての移民を悪とみなして制限してきたが、それを改め、インド人のIT エンジニア等、米国経済に貢献し、かつ米国人の雇用も脅かさない移民については移住を認めればいいのである。こうしておけばトランプは、「民主党候補の移民政策は、移民の無制限な流入を許す」と言い立てて、選挙民の恐怖を煽る一方で、民主党候補からの「あなたの反移民政策は、米国に却ってマイナス」という批判を避けることができる。

外交面ではどうするだろう? 中国が米国の要求を呑むことはないだろうから、米中貿易協議に決着がつくことはないだろう(注:実際には昨日、休戦協定のようなものができて、米国のクリスマス商戦で中国産品の価格が急上昇することはなくなった)。まず進展があり得るのはウクライナ。ゼレンスキー大統領が登場したことで、親ロシア勢力が支配する東ウクライナをめぐっての和平機運が高まっているのだ。つまりゼレンスキー大統領は国内右翼の抵抗を押し切って、東ウクライナにおけるウクライナ政府軍と、親ロシア勢力軍の「引き離し」に成功している(実態はわからないが)。プーチンも和平機運に乗っていて、18日には昨年11月にケルチ海峡で拘束したウクライナ海軍の艦艇と要員の釈放に踏み切った。12月9日にはパリで、ウクライナ、ロシア、ドイツ、フランスの首脳が一堂に会して「ノルマンディー方式」と称する会談を行い、東ウクライナ情勢収拾を話し合う。どうなるかまだわからないが方向は、東ウクライナの自治権強化、そして「国家連合」あるいは「連邦制」の樹立である(注:12月9日パリで、ゼレンスキー・プーチン・マクロン・メルケルの顔ぶれで首脳会談が開かれたが、大きな成果はなし)。

プーチンがおとなしくしているのが目立つが、彼は、「EU諸国は、何でもいいからとにかくウクライナ問題にけりをつけたい。米国は口を出さない。トランプにとってはウクライナ問題はどうでもいいので、EUがウクライナを犠牲にしてロシアに譲歩し、問題にケリをつけるのを容認することだろう。ロシアは東ウクライナを併合して大変な財政負担を負うより(それに、東ウクライナの住民でロシアとの統合を望む者は30%程度)、東ウクライナの自治権を強めて、ウクライナ本体から実質的に引き離し、ロシアとの間の緩衝地帯にしておけばいいのだ。そして今は、そのようにできる絶好のチャンス。じっとして、事を荒立てないでいよう」、と考えているのだろう。

こうしてウクライナについて合意が成立すれば、トランプは、「それ見ろ。ウクライナへの軍事援助はもともと不要だったのだ。プーチンはウクライナで譲る気でいたのだから、軍事援助を止めようとした俺は正しかったのだ」と言い立てることだろう。

中東ではどうか? タカ派のボルトン補佐官が去った今では、トランプがイランに強硬な措置を取ることはあるまい。イスラエルでは西岸への入植を国際法的に合法なものと認めたが、だからと言ってイスラエルを支援してイランを叩くというわけでもなく、イスラエル自身も「政権が無い」状態が続いている。サウジ・アラビアは恐らく、米国の関与低下を見越して、これまで4年も戦ってきたイェーメンでの紛争から手を引こうとしている。

問題は北朝鮮だ。今、米側からの動きはなく、金正恩はいらいらしていることだろうが(やたらミサイルをぶっ放して相手を脅しつけるしか手がない)、そのうちトランプは大統領選挙を意識して動き出す可能性がある。北朝鮮との終戦(朝鮮戦争の)をまず確認、その上で「北朝鮮は米国に到達する長距離核ミサイルの開発を中止した」と言い立てて平和条約を結ぶのである(注:その後、トランプはむしろ強硬策に出てくる可能性が指摘されている)。

トランプはこれを大統領選挙で使うだろうが、ワリを食うのは日本だ。日本は北朝鮮に残される中距離核ミサイル、韓国からの米軍撤退、そして朝鮮半島統一の可能性という、不安要因を一気に背負わされることになる。統一朝鮮は核ミサイルをかざして日本に日韓基本条約の改定を強要し、その中で徴用工問題、慰安婦問題等での補償も得ようとするだろう。米国が、北朝鮮をやたら敵視しないようになるのはいいことだが、北朝鮮、あるいは統一朝鮮は日本敵視を強めることだろう。

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