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世界はこう変わる

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2019年10月29日

ウクライナ情勢のウラ

(これは23日に発行したメルマガ「文明の万華鏡」の一部分です)

ウクライナは2014年のクリミア併合以来、ずいぶん世界で話題になってきた。この国は、ソ連崩壊前後から口八丁手八丁でロシアと渡り合い、主として天然ガスをめぐってロシアからカネを搾り取ってきたところがある。2014年にはヤヌコヴィチ大統領がEUとロシアを両天秤にかけて、双方から利益を搾り取ろうとしたところで失敗。股裂きの目にあって、自分はロシアに亡命。クリミアはロシアに併合され、東ウクライナはロシア勢力に制圧されてしまったのだ。

以後、ウクライナはロシアに虐げられていることを西側に強調して援助を引き出そうとしてきたが、西側も疲れてきて、最近はロシアへの歩み寄りをウクライナに強いようとしている。ゼレンスキー新大統領はそれを受けて、ロシアに歩み寄ろうとしたところで、国内の右翼、そして軍部(東ウクライナでの後退を望まない)の抵抗を受けてにっちもさっちも行かなくなっている状況。彼はそういう時点で、天皇陛下の即位式典に参列しに訪日したのだ。

そこに事態をこんがらかせているのが、トランプのQuid pro quo事件。ゼレンスキーに電話して、オバマ時代にウクライナに出入りしていたバイデン副大統領を貶める情報を集めて自分に寄越せ、そうしてくれればウクライナへの軍事援助を実行してやる、という趣旨のことを言ったのだ。これは多分違法ではないが、トランプの大統領就任の際の宣誓には反する。そこで米民主党、CNN等リベラル系メディアはこの事実に飛びついて弾劾を実現しようとしているのだが、トランプ陣営はこれに対抗するため、「バイデンこそ副大統領時代、ウクライナ担当という肩書を悪用して息子のハンターをウクライナのガス企業Burismaの幹部に押し込んだではないか」と言い立てているわけ。
これで、ゼレンスキーは米国に頼ることはできなくなっただろう。ただ手練手管、口八丁手八丁のウクライナのこと、何がどこに隠れているかわからない。そういった要素を、未整理のまま今後の参考のために供することにしたい。これも、これまで作ってきたデータ・バンクから抽出したもの。

1)ウクライナ・ロシアの経済関係は切れていない
 両国は断交したわけではないし、宣戦布告もしていない。貿易は行われている。2011年のピーク時よりは半減しているが(おそらく東ウクライナからロシアに出ている石炭、鉄をウクライナの輸出として勘定することができなくなっていることも作用しているだろう)、2017年の貿易は16年より25,6%増加している。

2)ウクライナは自分の石炭をロシア経由で輸入?
2017年1月、ウクライナの右翼は東ウクライナと本土を結ぶ鉄道を封鎖してしまった。東ウクライナの経済を牛耳るウクライナの財閥が、ロシア制圧下の東ウクライナでビジネスを続けてロシア側に「税金」を払っているのは許せない、という論理。このために、ウクライナは東ウクライナが主要生産地となっている石炭・鉄の移入ができなくなった。

このためもあり、東ウクライナの石炭は現在、一部がマリウポリやタガンログ等のアゾフ海沿岸の港から「ロシア産」のラベルで密輸出されている。そして一部はロシアからウクライナに「輸出」されている。ウクライナではロシアからの石炭輸入が増えており、2017年には8億ドルに上っているのである。特に上記の鉄道封鎖以来、無煙炭のロシアからの「輸入」が倍増していて、ウクライナの無煙炭輸入の91%を占めている。

3)ソ連の兵器廠ウクライナは健在。そして中国も関心
ソ連時代、ウクライナはICBM、空母、軍艦のエンジン、ヘリコプターのエンジン等の製造で、主要な地位を占めていた。しかし2014年のクリミア併合後の7月に、ウクライナはロシアへの兵器輸出を禁止した。そのためロシアは大慌て、ウクライナの企業も顧客を失って破産寸前、というのが筆者の抱いていたイメージだったのだが、ロシアはそれほど困っている様子でもない。変だな、と思っていたら、やはりウラがあった。

何のことはない。ウクライナからは兵器、兵器用物資の対ロ輸出が続いていたということである。ロシアに直接出すと問題なので、独立国の建前を維持している南オセチア共和国をトンネルにして輸出したりする。Motor Sichというヘリコプター・エンジン製造の大企業は、ボスニア・ヘルツェゴビナをトンネルに、ロシアへの輸出をしているとして、現在ウクライナ当局から捜査を受けている。

そして中国がウクライナの軍需企業に目をつけており、峡西省に工場まで作って、アントノフ、Motor Sich、Yuzhmash(ミサイル製造)等の従業員を家族ぐるみで招聘しているそうだ。8月には、中国がMotor Sichを買収しようとして、米国のボルトン大統領補佐官がウクライナを訪問、止めようとしたが、その直後に彼自身、実質的に解任されてしまった。

4)米国絡みの利権の迷宮
基本構図は、ポロシェンコ前政権は親露のトランプが大統領に当選するのを阻止しようと動いたようで、トランプの選対本部のマナフォートがヤヌコヴィチ大統領の顧問を務めていたことを喧伝する等したようだ。このため、トランプはポロシェンコにきつく当たったのである。

ではゼレンスキー新大統領とトランプの仲がいいかというと、これも前記のquid pro quo事件でミソがついてしまったし、ゼレンスキーの大統領府長官を務めるボグダンがバイデン中傷材料の引き渡しに反対して、トランプの顧問弁護士ジュリアーニと対立しているという、ねじれた関係にある。ジュリアーニ達はゼレンスキーにボグダンの解任を迫り、ゼレンスキーに拒絶されている。ボグダンとそのボスである財閥のコロモイスキーは、米国民主党に近いのだろうか?

コロモイスキーはウクライナ南部を基盤とする財閥で、ポロシェンコとは対立して海外に逃避していた人物。彼がゼレンスキーのスポンサーと目されていて、ボグダン大統領府長官はコロモイスキーの番頭だとされている。現に、ボグダンはコロモイスキーの利便を図り、これに反対したOleksandr Danylyuk国家安全保障・防衛会議事務局長は辞任している。コロモイスキーは、米国民主党と近いのかもしれない。

そしてコロモイスキー以外の財閥は、今や勢力を回復したコロモイスキーに利益を圧迫されているのだが、その中にバイデンの息子に便宜を供与したBurisma社も入っている。ということは、ウクライナの財閥はコロモイスキーも反コロモイスキーも民主党寄りだということになる。頭の中がこんがらがってくる。

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