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世界はこう変わる

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2019年7月22日

トランプは 戦後の世界体制 をどこまでこわすか その四 グローバリゼーション は終わりか?

(これは、6月26日発行のメルマガ「文明の万華鏡」第86号の一部です)

 戦前の米国は今の中国のような新興大国で、英仏のような植民地帝国の市場に食い込むには苦労したものだ。しかし戦争で植民地帝国がなくなり、かつ米国は世界のGDPの4分の1を生産していたから、世界は米国の市場になった。米国の通貨ドルが基軸通貨となり(それでも、1970年になっても、世界各国の外貨準備の30%はポンドだったのだが)、IMFがそのレートを支えた。そしてGATTは、米国の夢見たグローバルな「自由貿易」を体現したのである。グローバリゼーション第一波とも言えようか。いや、第一波はジンギスカンの世界帝国だと言う人もいるが。

 しかしこのグローバル(社会主義圏を除く)な自由貿易を最も利用したのは、敗戦国の西ドイツと日本であった。米国の製造業は競争力を失い、かつ国内の強力な労働組合を嫌って、海外に流出する。そして1980年代以降は欧州、日本の企業も海外に進出。グローバリゼーションは輸出入だけでなく、生産面に(もちろん金融も)も及んでいく。

 1990年代に中国が世界経済に参入する。日米欧の製造業は中国の低賃金を活用し、中国で製品を組み立てて(基幹部品は本国から輸出)日米欧に輸出するモデルを作り上げる。台湾では、この「中国での組み立て作業」を受託する鴻海のようなアウト・ソーシング受託専門の大企業が育つ。

こうして、「グローバルなサプライ・チェーン」が成立した。グローバリゼーション第2波の完成とでも言おうか。ここでは米国の市場が最重要の意味を持ち、日米欧の企業は中国から米国に輸出してはその代金のドルを米国債で運用したから、米国は恒常的な貿易赤字に陥っても、それでドル安を招くことはなかった。つまり世界全体が生産面も含めて、米国の下に統一されたようなものだ。

 しかし中国は外資に依存して達成した「世界第二の経済大国」の看板で慢心する。これを実力と勘違いして、周辺諸国に政治的圧力を加え、海軍力を増強して米国に挑戦する構えを示すようになった。一方、米国では製造業の労働者達はリストラに会い、その不満をトランプが掬って大統領に当選すると、中国との貿易赤字の解消を政策課題に掲げ、25%もの高率関税をかける構えを示した。

同時に、中国が政治・軍事両面で米国にチャレンジしてきたことで米国の議会、政府は中国脅威論でほぼ一色となり、冷戦時代のココムさながら、先端技術の対中輸出を厳しく制限する挙に出た。日欧の企業はこの制限に違反すると、米国でのビジネスを禁じられたり、極端な場合には海外での取り引きにドルを使用することを禁じられたりする。

これが現状である。では、生産面でのグローバリゼーションは終わりなのか? これからは、米国で売りたいものは、米国に工場を建てて米国人労働者を使って作らないといけなくなる(「地産地消」)のか? 一面ではそうだ。自動化された工場を米国に建てれば、かつての中国のような低賃金労働者がいなくとも(米国南部には移住者を中心に低賃金労働者がいるが)、生産はできるし、そうすれば労働組合もこわくない。

しかし全てが「地産地消」になるわけではない。「中国で生産して輸出する」モデルはもうお終いだが、ベトナムやカンボジア等第三国に生産を移す動きが起きている。従ってこれからは、「中国を捨象したグローバリゼーション」の時代になるのではないか。

そして、既に述べたように、米国はその利益に反する行いをした外国企業には米国での取引を禁止したり(それは国際法上、合法である)、米国の銀行との取引を禁じて海外貿易のドル決済ができないようにすることで、外国の企業にも米国の法令を実質的に適用できる。そして会社法等では、米国のものが日本にも浸透しているし、日本の大手監査事務所がすべて米国大手の系列下に入ったことで、日本企業の内部情報も米国に筒抜けになっているだろう。従って、中国、ロシアを除けば、グローバリゼーションはいよいよ深化、但し米国のローマ帝国化という文脈で深化を続けているのである。中国、ロシアはこれに対抗して自分の経済圏を作る力を持っていない。

つまり、トランプはグローバリゼーションを破壊してはいない。彼はむしろ米国主導下のグローバリゼーションを強化しているのである。ドルに代わる世界通貨を作ろうとする試みはいくつもあるが、うまくいかない。最近ではフェースブックが打ち出したリブラというデジタル・マネーが話題になっているが、これはSDRと同じく、ドル等既存の主要通貨とのレートを一定に維持することで価値の安定をはかる仕組みのもの。とてもドルに取って代わるだけの量は発行できまい。
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