Japan and World Trends [日本語] 日本では自分だけの殻にこもっているのが、一番心地いい。これが個人主義だと、我々は思っています。でも、日本には皆で議論するべきことがまだ沢山あります。そして日本、アジアの将来を、世界中の人々と話し合っていかなければなりません。このブログは、日本語、英語、中国語、ロシア語でディベートができる、世界で唯一のサイトです。世界中のオピニオン・メーカー達との議論をお楽しみください。
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世界はこう変わる

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2019年5月25日

メルマガ文明の万華鏡第85号刊行

まぐまぐ社から22日に、メルマガ「文明の万華鏡」第85号を刊行致しました。その「はじめに」の部分を転載します。このメルマガは有料ですが、この機会に定期購読の宣伝をさせていただきます。月365円です。手続きはhttp://www.japan-world-trends.com/ja/subscribe.phpで。

はじめに
今月も話題の多い月ではありました。まず「令和」が一番なのでしょうが、これはもう1ヶ月も経つと日常化してしまいました。これからは新天皇・皇后、そして皇嗣ご一家も、世間から容赦ない目で見られていくことになるでしょう。退任の自由もなく、特別の権限もなく、ただ世論の批判の目にさらされる仕事というのは、酷なものです。

一方、元高位の老齢官僚が母子2名をはね殺す事件を起こしましたが、この運転者がマスコミでも「さん」づけで呼ばれ、逮捕もされない等特別扱いを受けているとの非難が集中しています。筆者も元官僚で高齢運転者なので、かっこいいことは言えませんが、他のケースと同様の処遇、処罰を与えて当然だと思います。ただ、「運転者に判断能力が欠けていた」ということになると、処罰も軽減されるのでしょう。
その場合、「警察は高齢運転者をもっとしっかり管理せよ」という世論の圧力が高まり、例えば70歳以上の運転者は毎年1回の運転能力検査を義務付けられる(現在は運転免許更新時のみ)ようなことになるでしょう。判断・反応能力は指数化し、一定水準を下回る場合は運転免許停止ということにするべきです。ただ、農村の場合、車は必需品ですし、高齢の農民も多いでしょうから、例えば農協を中心に対策を講じてもらわないといけません。

ぐっと話しを変えると、米中貿易「戦争」について話題が喧しいですが、「米中双方とも悪い」、「やり過ぎるな」的な議論は疑問に感じます。トランプのやり方は荒っぽいですが、あれでなければ中国は動かないでしょう。
こうなったことの根本は、中国が1990年代に対外開放し、日米欧の外資を大量に受け入れ、安い労働力を提供して日米欧のための工場となった、日米欧の資本は中国に生産を移転して自分達の国内の雇用を減らした、中国は貿易黒字(2000年代以来、年間30兆円内外。中国の輸出の40%程度は、今でも外資系企業が行っている)を使って外国の機械設備を輸入、自分でも大企業を作って世界市場制覇の構えを見せ、同時に外国企業を買収してその技術、人材を獲得し始めた、この構図、つまりもともとは自分達が与えた資金を使って、中国が先進国を買い占めていく構図に米国がキレ、日欧も密かにこれを支持している、ということになります。つまり、中国は外国の支援を受けて強くなると、その外国に飛びかかり、身ぐるみ剥ごうとしてきたのです。「米国も中国も、双方とも悪い」という綺麗ごとを言っている時ではないと思います。

いずれにしても、「中国でモノを安く組み立てて、日米欧に輸出する」という、これまでのビジネス・モデルはもう成り立ちません。既に始まっているように、モノの生産を中国の周辺、日本、米国、欧州等に移していくべきです。但し、鳴り物入りで移転すると、中国当局が黙っていないでしょう。「かつて提供した投資優遇措置の落とし前を払え」等の要求をしてくるでしょう。

維新に属していた丸山穂高衆院議員が国後島で、元島民に対して「島は戦争でもしなければ返ってこない」と食って掛かり、これが大騒ぎとなっています。メディアでの議論はこれを日本国内の視点からしか見ていませんが、ロシアでどういう力学が働くかも考えるべきです。ロシアではもちろん、「弱っちい日本人が何を言いやがるんだ」的な素朴な反応もあるのですが、ロシア政府はこれを外交に使うでしょう。まず、日本政府に「真意」を聞いてきます。この時は言い訳がましい返事をしないようにしないと、北方領土問題での日本の立場は益々悪くなります。「日本政府は、話し合いで解決するという立場を一貫して持している。問題を解決すれば、今回のような発言は基礎を失うだろう」とか言っていればいいのです。

ロシア政府は更に、極東に中距離巡航ミサイルを配備する口実の一つに、丸山議員の発言を加えるでしょう。本来は、日本がイージス・アショアを陸上に配備することが主要な口実で、これに丸山議員の発言が加わるということに過ぎないのですが、「ロシア極東に核弾頭つきの中距離巡航ミサイルが配備された」というニュースが流れた途端、日本国内は大騒ぎになるでしょう。これまでも中国のミサイルは数百もあったのに、それは無視して目新しいことにだけ反応するのです。「それ見ろ。北方領土問題で戦争とか言うからこういうことになるのだ。丸山某をロシアに引き渡せ。そして政府は一刻も早くロシアに謝罪して、北方領土返還要求を取り下げろ。」というようなことを書き立てることでしょう。

ロシア極東には、1980年代ソ連が中距離核ミサイルSS-20を配備しようとし、中国、日本の猛反発を受けて断念した事例があります。今回も、ロシアが中距離巡航ミサイルを極東に配備すれば中国は黙っていないでしょう。日本も、「ロシアが巡航ミサイルを配備するからイージス・アショアを配備するのだ」という風に対抗すればいいのです。そして、ロシア極東への中距離巡航ミサイルの配備は、米軍が同様のミサイルを潜水艦、あるいはグアムの陸上に配備する、好い口実になります。これが実現すれば、日本はロシアに対してだけでなく、むしろ中国・北朝鮮に対する核抑止力を高めることができるでしょう。

今月の目次は以下のとおりです。5月の連休では北九州を旅行して、宇佐神宮、吉野ケ里、佐賀城址、「磐井の墓」、宗像神社など回ってきました。いずれも日本史の一つの結節点であり、日本と朝鮮半島、中国との関係につき認識を新たにした次第です。特に宇佐神宮は卑弥呼、神武天皇、神功皇后、応神天皇、秦氏、中臣氏等をめぐる神話、史実が集中した一つの結び目のようになっている、重要なものであることを認識したのですが、それは長くなるので、号外、あるいは次号で書くことに致します。

目次
日本が米国の「属州」になる時
―ローマ帝国における「属州」の地位研究―
 米国のmanifest destiny=西へ西へ
 ならず者国家ソ連に戻るロシア
 今月の随筆:「経済学」の本質
 今月の随筆:日本経済をめぐる誤った思いこみの数々
 今月の随筆:日本の社会が分解する予兆

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