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2019年5月19日

傭兵の世界再び

(これは2月中旬、講談社の「現代ビジネス」に掲載された記事の原稿です)

 軍隊と言えば、西欧でも17世紀の30年戦争までは、傭兵なるものが大活躍した。つまり「何々組」のような武力集団で、雇ってくれる君主の為に(カネの範囲内で)戦ったのだ。だが17世紀以降は国民国家という巨大な徴税装置が誕生し、そのカネで英国は強大な海軍を作って植民地を獲得、そこに機械で大量生産した商品を売りつけて産業革命を展開した。つまり西欧の近代国家は税を集めて軍を作り、戦争で植民地を獲得する、まさに「戦争マシーン」として成立したのだ。そのあげく、近代国家同士のぶつかり合いは二度の世界大戦、そして冷戦を生む。今でも米ロは何千もの核兵器で脅しあい、米国は年間7000億ドル以上もの国防費を使って世界ににらみを利かせる。

冷戦後は、対テロ戦争、地域紛争など、中小規模の衝突が戦闘の主流になる。そして、米国、欧州の主要国、中国等は徴兵制を廃止、あるいは停止している。右の二つを背景に、主要国、特に米国、ロシアの軍隊には大きな変化が生じた。それは戦車等多数を抱え、大規模陸戦に適した1万人単位の師団に代えて、5000人規模の機敏な旅団への編成替え、加えて小人数の精鋭「特殊部隊」の多用、そして「民営軍事会社」、つまり傭兵の利用である。その結果、世界での「戦争の敷居」は確実に低くなっている。人類は、暴力で望みを遂げようとする悪い癖を全然克服できていないのである。経済力があれば安心と思っていた日本人は、結局甘かったのだ。

米国のケース

 特殊部隊も民営軍事会社も、実は冷戦時代からあった。軍の民営化を最初に始めたのは英国で、1960年代から元特殊部隊がAegis、Watchguard International等の会社を設立している 。米国ではもともとレーガン大統領の時代、CIAなど諜報機関が敵対国攪乱工作をNGO等に代行させたことから攪乱工作の「民営化」は始まったが、イラク戦争でそれは軍にも及ぶことになった。2014年の東ウクライナ騒動でも、ロシアは同地で米国の傭兵会社が活動していると主張した。

これら民営軍事会社は、豊富な国防予算を使って、員数の足りない軍を補う。軍や諜報要員は早めに引退して、民営軍事会社で高給を食むことを好むようになった。これら軍事会社は戦闘に従事することはなく(敵を殺すとそれは単なる殺人となり、刑事罰をくらってしまう)、兵站等、戦闘以外の任務に従事する建前であったが、殺傷事件等をきっかけに国際的非難を浴びると、すぐ違う看板を掲げて目をくらませた。

 初期にはBlackwater(1997年設立)等の会社が名を上げたが、イラク戦争でイスラム教徒拷問に関与、2007年にはバグダッドで7名の市民を殺害したかどで、4名の要員が米国裁判所で有罪の判決を受け 、その後Academi、DynCorp International等に名を変えた。Blackwaterを設立したErik Princeはその後、中国の海外警備員派遣企業を束ねるChinese Security Alliance(香港)に何らかの関与をしている 。因みに彼は、トランプ大統領の戦略問題特別補佐官を務めたSteven Bannonの親友だと言われる 。
その後も米国の民営軍事会社DynCorpがリベリアで政府軍兵士を訓練した例が報道されたし 、2018年末、トランプ大統領がアフガニスタンからの米軍撤退を「指示」した時には、米軍特殊部隊を民営会社に移籍してそのまま残す案が検討された 。

米国の場合、特殊部隊の海外での活動も顕著であり、これは国際情勢を変える力を持っている。正規軍と異なり、その海外派遣は議会の承認を得ずに行われていて、政権にとっては使いやすい兵力となっている。特に、正規軍の海外派兵をやめることを公約にして当選したオバマ大統領の時に、特殊部隊の多用が目立った。2011年以来Special Operations Forces(SOF)員数を7万名に増強し、80カ国に8000名を配置している 。2011年、ビン・ラディンを海軍の特殊部隊SEALsが殺害したのを初め、17年10月にはニジェールで米陸軍特殊部隊の隊員3人が現地武装勢力からの銃撃を受けて死亡したが、米国民はここに米軍がいるとは全然知らされていなかった。特殊部隊の多用は、米軍の海外での行動を敏速、かつ隠密にしている。

ロシアの特殊部隊と民営軍事会社

ロシアでは特殊部隊と言う場合、参謀本部情報総局(GRU)の運用する軽歩兵部隊を指すのが一般的であった。最近ではこれに加えて、ごく少数の超エリート兵士から成る特殊作戦軍(SSO)が編成され、従来型の特殊部隊とともにクリミア併合作戦やシリア作戦に投入されている。下記のようにエジプトからリビアに浸透していると言われるロシア軍特殊部隊も、SSOである可能性が高い 。

しかし最近、ジャーナリズムの関心をさらっているのは「傭兵会社」(民営軍事会社)である。17年10月12日付のJamestownは、ロシアの傭兵企業Wagner社がシリアや東ウクライナに傭兵を送り込んでいる、この2週間ほどでシリアではロシア人兵士が100名ほど戦死しているのだが、その多くはWagner社の傭兵である、彼らの給料は月2500ドルで、会社の方は一人派遣するたびに政府から5000ドルを受け取っている、と報じている。

ロシア刑法は傭兵を禁じているのだが、1992年には既に公安当局FSBが関与するRubicon社が兵士をボスニアに派遣したと報じられている。そして2008年のグルジア戦争を契機に、Slavonic Corps等10以上の傭兵企業が出現したとされる。これらが下火になった2013年以降、新興のWagner社が話題を独占している。同社はケータリング業から身を起こし、プーチンの知遇を得て、軍の給食を受注し一気に大企業を築いたイヴゲーニー・プリゴージンなる者が、一説ではゲラシモフ軍総参謀長の後押しで設立したものと言われる。兵力のケータリングというわけだ。

ロシアの傭兵企業は、国防省には嫌われていると言われ 、またシリアでは油田占拠を狙って動いて米軍に撃滅されるなど(2018年2月)、必ずしもロシア指導部の意向を100%反映して動くものではない。そこは、米国の民営軍事会社と異なるところで、ロシアの混沌状況を反映している。

ロシアの傭兵企業は、その活動があまりに目立ってきたためか、議会でこれを法制化して規制せんとする動きがある。しかし軍、諜報諸機関の利害が入り乱れて法案はいずれも流れている。また武装化した民営団体は、ロシア国内では潜在的な脅威となる。現に昨年11月には、傭兵会社E.N.O.T.社の国内拠点数カ所に手入れがあり、要員が国内テロを企んでいたとして逮捕されている 。

ロシアの輸出品目となった傭兵

ロシアはやたら大きな領土を持っているため、周縁の多数の国とつきあっているが、外交の手段としてはエネルギー資源の輸出、エネルギー資源開発面での協力くらいしかなく、どうしても軍事力に依存しがちになる。クリミア併合、シリア介入においては、その軍事力が最大限の効果を発揮している。それはロシアが何か新しい状況を自分の負担でゼロから作り上げるよりも、米国やその他の国がしかけたことを僅かな兵力で妨害できる場合に限られている。

ところが米国との対立が嵩じ、原油価格の高騰で経済余力も高まった今、ロシアが傭兵を使って能動的な進出を試みる例が増えている。それはアフリカ、南米等遠隔地に及びつつあり、少々実力を超えた背伸びの感がある。これにはロシア政府の意向だけでなく、傭兵会社関係者の私欲や、反米ナショナリズムの暴発がからむ面もあり、いつかは皆殺しに会う等の悲劇を招くであろう。

アフリカでロシアの傭兵が云々されるようになったのは、中央アフリカ共和国が最初である。この国では内戦が続いているが、かつての宗主国フランスが2016年兵力を引き上げた後、Touadera大統領が2017年10月ソチでロシアのラヴロフ外相と会談して協力協定を締結 、これを受けて現在中央アフリカ共和国には、制服軍人が60名、傭兵が1500名いると言われる 。

またロシアはカダフィの時代、リビアと緊密な関係にあったが、今また、東部を支配するハリファ・ハフタル将軍を抱き込み、勢力扶植をはかっている。ここには、この1年ほどロシアの軍人ないし傭兵が目撃されている。一部の報道によれば、ロシア軍諜報機関GRUに属する要員数十名が活動している 。

近年、紅海の出口バブエルマンデブ海峡の両岸が、戦略的要衝として注目を浴びている。かつては大英帝国がイェーメンのアデン港を拠点としてスエズ運河への入り口であるバブエルマンデブ海峡を守るとともに、インド洋方面へのにらみを利かし、戦後はソ連がインド洋で活動を展開するとともに5000名程度を派遣してアデン港を使用していた 。

今、同様の打算から沿岸諸国に軍事プレゼンスを植え付けようとする動きが諸国に目立つようになってきた。ジブチには米国、中国が海軍基地を構えているし(日本の海上自衛隊の拠点もある)、サウジ・アラビアのイェーメンへの軍事介入もこの地への支配権維持を狙ったものだろう。これに対抗するイェーメンのフーシ勢力の――イラン系と目される――Mahdi al-Mashatは18年夏に訪ロしてプーチンに支援を要請、その後ロシアの傭兵がイェーメンに現れたとの報道がある 。

またスーダンのアル・バシル大統領は国民弾圧のために国際刑事裁判所から指名手配を受けているが、ロシアは彼を2度招待。その後Wagner社のプリゴージンがスーダンでの金採掘特権を得て、ロシア軍用機で傭兵を送り込んでいると言われる。1月23日ロシア外務省は、ロシア政府とは無関係だが、スーダンの軍・警察関係者を訓練するためのロシア人が滞在していることを公式に認めた。これに対してスーダン政府側は、ロシアに紅海沿岸の基地を提供する用意があると何度も示唆している 。

アフリカであれば、シリアの空軍基地を経由して兵站をはかることができるが、遠いベネズエラにまでロシアは手を出すようになった。それはこれまで米国がロシア周辺での民主化運動を煽ってレジーム・チェンジを実現したことへの仕返しとして、同国内政に介入し、権威主義的なマドゥーロ政権を支えようとするものである。ロシアはベネズエラにこれまで45億ドル程度の借款を提供している 。2018年12月ベネズエラ情勢が緊迫化すると、ロシアは2機の爆撃機等をベネズエラに送り、カリブ海を示威飛行させたが、米国から警告を食らって帰国した 。更に情勢が緊迫化した2月になると、マドゥーロ大統領護衛のためにWagner社が傭兵を派遣したという報道が現れている 。

中国

中国は敗戦国ではないので、兵力の海外派遣に日本やドイツのような制限がない。それでもこれまでは海外派兵には慎重であったが、中国人が世界中に進出するようになった今、中国の利益、中国人の保護のために軍や警備要員を派遣するようになっている。最大の例はアフリカのジブチに設けた基地であり、既に800名の要員が働き(近接の米軍基地には4000名以上の要員がいる)、ドックも備えていると報道されている 。

中国軍の海外基地に類するものは他にないが、軍隊(軍艦及び軍用機)が短期間派遣されたのは、2011年リビア内戦で3万人以上もの中国人を同国から撤退させた際である 。そこで中国は、軍隊を派遣することの問題性を悟ったか、2016年7月スーダン危機では非武装のDeWe Security社が300名余の中国人を国外退避させている 。

中国の「特殊部隊」が海外での実戦に投入された例は確認されていない。昨年12月には、シリアでISIS掃討作戦が終了するにつれて、ISISに加わっていたウィグル人青年達(2000-5000名いるものと推定されている)が中国に回帰、テロを行う可能性が出てきたので、シリアに中国の特殊部隊が派遣された、という報道が現れたが 、おそらく連絡要員・情報要員が派遣された程度の話しなのだろう。

上記スーダンの例で触れたが、中国では傭兵一歩手前の警備会社が強化されている。Shandong Huawei Security Groupの場合、2010年以来、海外での仕事のために軍人・警官OBを派遣している。以前は現地人を雇用していたが、言語、メンタリティーの違いから中国人の警備員を送り込んだのである。

但し中国では刑法で、海外でも武器の携行は許されておらず、違反は7年までの禁固刑の対象となるので、中国の警備会社は海外の中国企業の内部警備だけで、社の外の警備は現地の武装警備等に依存している 。

なお、中国政府の声がかりか、それとも民間事業としてかは不明だが、2014年9月、香港でChinese Security Industrial Allianceが設立され、本土の警備会社約50社を傘下に置いたとされる。同社には、米国の傭兵会社のBlackwaterをかつて立ち上げたErik Princeが雇われていたことがある 。彼は、2018年1月にはセイシェルで、ロシアの外貨ファンド責任者と懇談した例も報道されており 、中世西欧と同じく、傭兵は特定の国家に忠誠を誓うものではないのだろう。但し矛盾するようだが、以上を総括して言えるのは、軍事力は傭兵も含めて、国民国家のコントロールからはまだ外れていない。軍事力が民営化されて秩序が乱れ、ジャングルの掟が世界を支配するまでにはなっていない、ということである。

日本にとっての意味

日本周辺の東アジア地域での紛争の多くは、正規の海軍・空軍の関与、あるいはサイバー戦能力を必要としている。しかし人手不足に悩む日本の自衛隊にとっては、軍の民営化、あるいは海外派兵は別として傭兵の活用は真剣に検討してみる価値がある。

また、少数精鋭、かつ機敏に展開可能な特殊部隊は日本でも必要であり、既に陸上自衛隊では2004年に特殊作戦群が創設されている。警察は特殊急襲部隊、海上保安庁は特殊警備隊を有する。2015年のいわゆる安保関連法で、海外の邦人救出に自衛隊が出動することも可能となった。海外での有事には、民間航空企業は運航を避けることがあるので、自衛隊の関与が不可欠である。

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