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世界はこう変わる

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2018年3月19日

米国一極支配破断 友と敵が逆転して見える時

(これは2月27日発行の日本版Newsweekに掲載された記事の原稿です)

以前、ハーバード大学のケネディ・スクールで、学生たち数十名を前にスピーチしたことがある。「米国は自由で公正で豊かだから、世界で頼りにされている。米国の強味は軍事力だけということになると、世界で孤立するだろう。今のままだと30年後にはそうなりかねない」と言ったのだ。

それからもう20年。悲しいことに、米国はじりじりと、「強味は軍事力だけ」の国になりつつある。今の米国には、魅力がない。ハリウッド映画は言うに及ばず、ポップ・ジャズすら勢いを失っている。建国以来誇りとしてきた自由と民主主義がもう目詰まり。あまりに多くの欲望と思い込みが節度なしに渦巻いて、共和党、民主党の二つに分かれたあげく、「どちらが正しいか」で死闘を続ける。そのあげく、連邦政府予算は数年にわたって年度内に採択されなかった。

理性的な話し合いが難しいので、政治家は極端な言動で世論を煽って票を稼ぐポピュリズムに頼る。そのための遊説やテレビ広告などカネがかかるので、米国の政治はカネにすっかり席巻されている。企業は議員に政治資金を出しては、財政赤字などどこ吹く風とばかり、法人税大減税を実現させる。学校などで発砲事件が相次いでいるのにもかかわらず、銃砲製造業界はロビー活動全開で規制強化に抵抗する始末だ。

アジアでも、米国は次第に「浮いて」きた。南シナ海の中国製人口島は着々と強化され、米国はもう止められない。中国の対米貿易黒字に対して厳しい制裁をすると言っていたトランプも、結局は大したことはできない、やらないことを暴露しつつある。台湾の民進党政権は中国から大きな圧力を受けているが、米国は中国との取り引きに台湾を使うだけで、台湾が切望する最新鋭兵器は売り渡さない。韓国は、北朝鮮と手を握れば脅威を軽減できることがわかったので、米軍の存在を迷惑視し始めるだろう。ASEAN諸国はいずれも、中国と米国を両天秤にかける。

そこらじゅうで、米国は中国やロシアと同格、つまり自分のことしか考えない国、米国がロシア、中国、北朝鮮を敵視しているからと言って、あえてそれに与する理由もない国、と思われ始めている。日本はその中で、最も対米同盟を大事にしているのだが、その日本を米国は軽く見る。在日米軍はこの頃頻繁に事故を起こすが、事後の対応が日本人の心情への配慮をまったく欠いているのだ。「日本を守ってやっているのだから、演習を止めるわけにいかない」と言いたいのだろうが、日本を守るはずの米軍が日本人の安全や生活を脅かしている矛盾をどう説明するのだろう。

最近の米国は、「くれるよりも取り上げていく」分の方が大きくなっている。トランプ政権のように、「米国に輸出したいのだったら、これこれをしろ」と要求ばかりつきつけてくるようでは、諸国にとってうまみがない。

氷山にぶつかったタイタニックのようにどこかに致命的な穴が開いているのに、米国人は全然気がついていない。「米国は世界一。米国は特別な国。世界は米国の思うままになる」という倨傲が彼らの心の中に巣食っている。そんな気がしてならない。

それでも僕は、オープンでダイナミックでアカウンタビリティーを重んずる米国のモラル、法制が好きだ。それはソ連や中国のような権威主義、全体主義、そして日本のような集団主義より息がしやすい。でもこれをグローバル・スタンダードとして世界に広めていくのだったら、その前に米国人に直してほしいことがある。

一つは、ワシントンやジェファーソンのような「建国の父」たちがしたように、徹底的に議論したうえで国の形をもう一度作り直してほしいということだ。不毛な二党対立、金権政治を何とかして欲しい。

次に、米国の制度・法制を世界に広めたいと思うなら、外国もその制度・法制の作成・修正に参加させてもらいたい。外国に干渉されること、それは米国人が最もいやがることだ。しかし米国が外国に干渉し、他国の利益を巻きあげようと言うのだったら、外国の方も米国政府・議会での政策決定に参画できて自然ではないか? 

「代表権なくして課税なし」というのは、米国建国の際のスローガン。米国は将来の世界国家の核になるのに最も適した制度を持っているが、その中での決定に米領域外の諸国も加わりたいということだ。

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