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世界はこう変わる

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2018年2月12日

米国論壇の流行語 シャープパワー

今米国の論壇で、「シャープパワー」という新手の言葉が話題になっている。「ロシアが情報工作をして米国大統領選をねじまげた」というのが、今の米国政界・マスコミで通り相場になっているのだが、このように不正手段を用いて虚偽の情報をばらまいては敵対する国をかく乱することを「シャープ・パワー」と名付け、あれこれ議論しては原稿料を稼いでいるのだ。

これは、ジョゼフ・ナイの提唱した「ソフト・パワー」概念をもじったもので、武力を用いる「ハード・パワー」と、文化の徳をもって他人をなびかせる「ソフト・パワー」の中間に位置する。つまり武力は用いないが、fake news等、不法な手段を用いる工作活動のことである。

そうした論議を先導している一人、Christopher Walkerは勤務先のNational Endowment for Democracy(世界に民主主義を広めようとしている民間諸団体に公的助成金を配っている団体)のサイトに昨年12月、"Sharp Power: Rising Authoritarian Influence"を発表 している。彼はシャープ・パワーについて、こんなことを言っている。

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・近年、ロシアと中国は、マスコミ、文化、シンク・タンク、学界等「ソフト・パワー」と目される分野に、数10億ドル(ママ)もの金をつぎ込んできた。その割には、両国は相変わらずソフト・パワーを欠いている。やはりすべてを管理したがる専制的な体制は、魅力ある文化、ソフト・パワーを生むことができないのである。

・この両国はハード・パワー=軍事力にのみ依存しているわけでもなく、他方ソフト・パワーも十分には持っていない。しかも、両国がソフト・パワーと称するものは外面上はそうでも、中身はシャープ・パワーとでも称するべきものである。つまり両国が拡散する情報は自由でオープンなものではなく、検閲され、歪曲され、操縦されたものなのである。

・世界の民主主義国は、中ロ両国のしていることに、ソフト・パワーとは明確に区別した言葉を付して、適正な対策を講じなければならない。
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字面だけを見る限り、ここには反対することは何もない。まさに、ソフト・パワーというものは、自由のない社会には生じないものである。日本の外交官がマンガ人気に悪乗りして海外でコスプレ大会を組織するのを見るだけでもかなり可笑しいのだが、ロシアや中国の外交官が「ソフト・パワーが大事だ」と言って走り回ると本当にちぐはぐなこと――つまりソフト・パワーを無理やり押し付けている。

ロシアの現代文化に素晴らしいものは多いが、保守的な政府関係者はそれらを知らないので、ソフト・パワーと言えばいつまでもボリショイ劇場のバレーだけ、一向にロシアのイメージ・チェンジができないでいる。中国の外交官は、任国のアジア専門家に電話をしては、「今晩うちの大使がお話をしたいと言っている」と言い張り、その晩に予定されている日本関係の催しへの出席を妨害する。こういう専制主義国が使えるものは、筆者のWalkerが言うように、ソフト・パワーならぬシャープ・パワーでしかあり得ないのだ。

しかし、Walkerがこの論説で当てこすっている、ソフト・パワーの御本家ジョゼフ・ナイは、1月24日付Foreign Affairsに"How Sharp Power Threatens Soft Power"を発表。中ロではなく、米国内のシャープ・パワー騒ぎそのものにも水をかけている。

ナイによれば、「シャープ・パワーのようなことは、昔から行われてきたこと」であり、「シャープ・パワーに対抗するために、自分もfake newsや違法手段をあえて用いようとするのは、自分で自分の品位を落とし、自由・公正・開放性という米国のソフト・パワーを自ら失ってしまうことを意味する」のである。その通りだと思う。

別の言葉で言えば、この論説の筆者のWalkerが言いたいのは、「米国もシャープ・パワー発揮のための予算を増やせ」ということであり、ナイはそれに懐疑的だということである。Walkerが属するNational Endowment for Democracyはこれまでの諸報道、英文Wikipedia等によれば、レーガン大統領時代、CIAの肝いりで作られた民間団体で、その任務は議会が当時共和・民主超党派で設けた毎年約1億ドルの連邦予算を国務省とともに、民主化・人権向上運動NPO諸団体に配布して、途上国、旧社会主義諸国での民主主義の普及を促進することにある。これら米国のNPO諸団体は(共和・民主両党とも、傘下に同種NPOを有する)、海外の反体制野党、あるいはこれを称する者達に資金を与えたり、デモ等によって政権を転覆するノウハウを指南することもある。これは、その活動の対象となる諸国の政府から見れば、「米国のシャープ・パワー」に他ならず、ウクライナ等が混乱する一因を作ったと目されるものである。

中ロは、この米国の宣伝攻勢に危機感を抱いて、自らもソフト・パワー、シャープ・パワーの展開を強化。筆者のWalkerはそれを口実にして、米国政府の対応強化を求めているのである。これでは、両国の宣伝・煽動機関間のマッチ・ポンプ・レースになってしまう。

日本は、ソフトとかシャープとか呪文に惑わされることなく、米国で行われている議論の背後の諸勢力、その思惑、相互の力関係、それが合わさっての米国の対中、対ロ政策の方向性変化の有無を見ていればいいのである。
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