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世界はこう変わる

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2018年2月 9日

元はドルを駆逐するか

(これは、1月24日に「まぐまぐ」社から発売したメール・マガジン「文明の万華鏡」第69号の一部です。
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米国で長期金利が上がり、米国債が値崩れする危険性が増えてきた。ドル安の時代になるのか? そうなると中国経済は米国経済以上に沈むことになるのだが、そうなる前に錯覚して、あたかもドルの時代に元の時代が取って代わったように、思い込む連中が出てくるだろう。そんなのの尻馬に乗って騒ぐ前に、世界の通貨事情をよく見てみよう。

ドル支配の歴史

 戦前の国際基軸通貨は、英国のポンド、と言うより「金」あるいは銀だった。世界は植民地帝国に分かれていたので、グローバル経済のための「基軸通貨」という発想、ニーズは小さかったのだろう。しかし、第二次大戦で植民地帝国は崩壊し、共産圏以外の諸国は米国主導の「グローバル経済」に組み込まれていく。その過程は次のようだった。

第二次大戦中英国は、アメリカの物資や兵器を(ツケで)大量に輸入、戦後はそのツケ84億ドル分(2012年価格で評価)を帳消しにしてもらった他、1945年には経済学者ケインズをアメリカに派遣して560億ドル(2012年価格)もの低利融資をせしめた。そのドルは、イギリスから諸外国への借金返済として直接、つまりポンドではなくドルで支払われた。そしてこれに、アメリカからヨーロッパ諸国に与えられた「マーシャル・プラン」援助が加わって、世界に流通するドルは増えていく。マーシャル・プランは当時のカネで130億ドル、現在に換算すると1700億ドル弱に相当する。さらに「マーシャル・プラン」に先立つ終戦直後にはほぼ同額のドルが欧州に援助として渡されたので、イギリスも含めて約3300億ドル(現在の価値に換算)ほどのドルがヨーロッパ、そしてヨーロッパを通じて世界中に流れ出したことになる。

そしてアメリカが中心になって作られた「IMF」は、国際収支の赤字に苦しむ加盟国にドルを貸し出すことになっていた。このIMFはまるで、世界のための中央銀行のようなものに見えるが、ドルを印刷することはできない。加盟国がIMFに供託している資金を一時的に貸すだけなので、一種の互助組合のようなものだ。

こうしてドルは、世界に広がった。と言っても、それには時間がかかった。1955年になっても、世界の諸国の準備通貨(政府ベースの外貨預金のようなものだ)のうち40%分はポンドだった。1970年になってもポンドは準備通貨の30%も占めていたのである(以上は拙著「米中ロシア――虚像に怯えるな」から)。

 1960年代末、米国の貿易赤字がひどくなり、外国がドルと引き換えに米国の金を大量に持ち出すようになると、1971年ニクソン大統領はドルと金の結びつきを断絶、金は市場価格で勝手に変動するようにした。だが、それでドルは完全な「紙のお金」になってしまったのではない。米国の力そのものを担保とする、つまり具体的には米国債を購入する手段として価値を維持した。言ってみれば、「米国債・ドル本位制」に変質したのである。同時に、米国は世界の原油取引の大宗を握り、それをドル表示とすることで、ドルの使用を世界中に実質的に強制したのである。つまり今の世界は、「原油・ドル本位制」、「米国債・ドル本位制」の下にある。

 現在、米国の原油輸入量は急減している。ピークは2006年8月の45,6万バレル。これが2017年10月には29,9万バレルになっている。これによって、世界にばらまかれるドルの量は急減しただろうか? そんなことはない。米国が輸入しているものは原油以外にも沢山あるので、米国の貿易赤字分はドルが海外に流出しているし、更に投資資金としても流出しているから、世界に流通するドルはむしろ増えているはずだ(正確な統計はhard to find)。

国際性のない元

では、元はどうか? 中国の「外貨準備」は3兆ドルはあることになっている。しかし、その定義は西側(財務省や中央銀行保有の外貨だけを「外貨準備」としている)とは違って、不透明で水膨れしている。例えば、中国・在中外国企業が外国から借りたドルも、中国の外貨準備として計上されていることを指摘する向きもある。だから、外国から中国への投資、融資が一斉に引き揚げ始めたら、ドル売り介入のための資金はあっという間に底をつくだろう。

これもあり、元は自由に大量に交換できる通貨ではない。交換性が限られているから、中国本土では国際金融市場ができるはずもなく、またそのような通貨を使い、貯める国もない。昨年10月3日の毎日新聞はSWIFTの資料を引用して、世界全体の決済に使われた人民元の割合は2015年8月に過去最高の2.79%まで高まり、円(2.76%)を逆転、ドル(44.82%)、ユーロ(27.20%)、ポンド(8.45%)に次ぐ世界4位の座を占めたが、直近は2%を割り込んで、円に再逆転を許したとしている。また、IMF統計によれば、世界諸国の外貨準備で元が占める比率は1.12%で、円の比率4.5%に及ばない。

ならば、どうしてあれだけ世界中で「融資」ができるのかと言うと、多分融資先の殆どは中国企業だからなのだろう。中国の資材を使い、中国の労務者を海外に送ってインフラを建設しているから、元で中国企業に融資、あるいは政府保有のドルを中国(国営)企業に付け替えている、そのどちらかなのだろう。「融資をもらった」かっこうになっている国は、本当のドルで返済をする、あるいは何かを担保に差し出して債務を帳消しにしてもらう、という仕組みになっているのだろう。

外貨で融資をする建前になっているAIIBは、あれだけ騒がれたのに、単独の融資案件はまだ4件しか明らかになっていない。そのうち最近の融資先は、実に中国国内の案件(北京の使用エネルギーを石炭から天然ガスに切り替える案件に2億5000万ドル)なのである。それでもAIIBを敵視する必要は毛頭なく、今安倍総理が言っているように「案件毎に協力の是非を決める」ということで全然構わないのだが、このままではAIIBは中国人・欧州人年長幹部の格好の餌場になって終わりということかもしれない。

中国人観光客自爆沈

中国は、2018年1月から中国人が海外に出た時に、自分のカードを使ってATMから引き出せる外貨を、年間1.5万元に制限した。これまでは5万元という寛大ぶりだったのが、一気に削減されたのである。正月に銀座に行って見たが、中国人観光客の数は3割以上減少した感があった。

 以上、ドルが信用を失うことはあるかもしれないが、ドルに代わり得る通貨はない。元に至っては、語るに落ちるということである。


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