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世界はこう変わる

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2017年6月27日

ロシア・コネクション対チャイナ・コネクション

(これは、6月6日のNewsweek誌に掲載されたものの原稿です)

 ワシントンでは、トランプ大統領とロシアの「怪しい関係」に民主党が食いつき、弾劾の構え。トランプ当選を予測できなかったメディアも、これまで米国政治を主導してきた沽券にかけて、トランプ引き下ろしに加担する。

 ソ連が崩壊した1991年以降、米ロ関係は良好だった。と言うより、ロシアは弱体化したし、エリツィン大統領が米国に恭順の意を表明し、民主化、市場経済化を標榜、国防費を大幅に削減する動きに出たので、米国はロシアのことを考えなくなったのだ。

 しかしロシアの軍部、諜報機関には、ソ連崩壊を深く恨み、国内では強権引き締め、国外では旧ソ連圏の復活を夢見ていた者は数多い。そしてそれは、2004年プーチン大統領再選のあたりから、表面化した。プーチンは石油利権を民間から政府の手に取り戻すと、エリツィンが野放図に進めた地方分権化を巻き戻して中央集権を強化、2007年にはバルト諸国等へのNATO拡大の動きに対して不満を表明、冷戦時代にやっていた周辺諸国への偵察飛行を再開したのである。ソ連のDNAが蘇った。

 米国は、意地を張る国は力で抑え込む。クリミア併合、そして今回の選挙介入騒ぎで、ロシアは「主敵」として復活、冷戦の記憶が蘇った。それは、米国の軍、諜報機関にとっては予算獲得の良い具ともなる。米ロ経済関係は、米中にはるかに劣るので、ロシアとの関係悪化は構わない。そして米国の外交では、ソ連・ロシアに敵意を持つ東欧・バルト出身者の発言力が大きい。5月26日死去したツビグネフ・ブレジンスキーはポーランド、元世銀総裁のポール・ウォルフォヴッツの父親はポーランド、2014年ウクライナ紛争の際、民主主義陣営を鼓舞したヴィクトリア・ヌーランド前国務省次官補の祖父母はウクライナ出身である。

 2011年12月、総選挙の開票に不正があったとして、モスクワでは10万人近くが抗議集会を行い、プーチン辞任を求めるプラカードを掲げた。プーチンはこれを、米国諜報機関がしかけたものと思い込む。翌3月の大統領選挙で当選した彼は、勝利集会の壇上で涙を流した。

だから彼自身は否定しているが、昨年の米大統領選でロシアの機関が何か工作をしても不思議でない。問題は、それが違法なものだったのかどうか、またロシアの工作が米国民の投票態度に影響を与えたのか――多分、少々違反、しかし効果はゼロということだろう――ということなのだが、「ロシアの介入」は今や米国政治に欠かせない具。ロシアのGDPは韓国以下だが、プーチン、ラヴロフと、悪役としての存在感は群を抜く。

 これに比べて、GDPで米国を追い越す勢いの中国は、悪役としては盛り上がらない。中国との経済関係は大事だし、中国はロシアほど多数の長距離核ミサイルを持っていないので、怖くない。それに、ロシアにとっての東欧、バルトに相当するチベットやウィグルからの亡命者が反中政策を主導するということもない。米ロ双方の諜報機関の間には、相手への不信と憎悪が染みついているが、米中の諜報機関は1970年代から反ソで協力関係にあったようだ-そのあたりはマイケル・ピルズベリーの "China 2049"に詳しい。

 しかし、中国の力が益々伸長するにつれて、米中諜報機関間の関係ものっぴきならないものになっていく。習近平政権の初期、習近平の政敵薄熙来との関係を疑われた令計画・元党中央弁公庁主任の弟、令完成は現幹部の汚職を記した資料を持って米国に亡命したし、今年5月20日付ニューヨーク・タイムズは、2010年以来12名以上のCIAへの情報提供者が中国諜報機関に殺害されたと報じた。こうやって問題が中国指導部に及び、エージェントが抹殺されれば、諜報機関の間の対立はのっぴきならないものとなる。CNNが最近、中国の産業スパイをFBIが摘発した件のドキュメンタリーを放映したように、米中間の雰囲気は悪化の方向に向かいやすくなろう。

 トランプ政権関係者の中国との利権関係は、ロシアとのものよりはるかに大きい。民主党が「チャイナ・コネクション」に目をつけても、不思議でない。5月末、ムーディーズは中国国債の格付けを日本と同等のものに引き下げた。中国経済相手ではもう儲からない、ということにしておいて、中国を悪役に仕立てる準備が進んでいるのかもしれない。

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