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2008年4月26日

メドベジェフ大統領のロシア

(明日から5月7日まで中央アジアへ行ってくるので、メドベジェフ大統領下のロシアについて、今言えることを書いておく)

5月7日大統領に就任するメドベジェフは、憲法に則って首相候補を指名し、それを議会が承認することになる。今回は、それがプーチンであることが既に明らかになっている。「プーチン首相」は、5月8日には議会の承認を得られるだろう。ロシア改造の意欲に燃え、比較的私心の少ない(と思われる)マッチョの2人は、ロシア史上最強のチームになるのか?

  巷では、新大統領と新首相がいくら個人的にはうまくいっていても、いつかは双方のチームが対立することは必至だという観測が強い。政治家や役人や実業家が陳情に行くとき、大統領府、首相府、そのどちらに行くか? プーチン首相の方に権限が集中していると皆が思えば、客は首相府にばかり群がり、大統領とその側近はマージナライズされてしまう。他方、ソ連以来、共産党書記長、後に大統領の権威と権限は絶対的なものがあり、最終的にはメドベジェフが勝つだろう、という見方もある。

 だがプーチン大統領は4月15日、党員でもないのに与党「統一ロシア」の臨時党大会に出席し、求められるまま、大統領を辞めた暁にはこの党の党首になる用意があることを明らかにした。これは辞任後の彼の立場を強固なものにするだろう。彼は首相になることがほぼ固まっているので、与党党首が首相になる、要するに西側の議院内閣制がロシアで採用されるのだと言う者もいるが、ことはそれほど単純ではない。というのも、与党の党首が首相も兼ねるというのはロシアの場合、議院内閣制などよりスターリン・ソ連共産党書記長・首相の例を思い起こさせるからだ。

「統一ロシア」の党員は、中央・地方政府の要職を占めている。プーチン自身はメドベジェフに協力する気持ちでいても、彼の側近は全国の党組織をあたかも行政機関であるかのごとくに動かして、自分達の政策を執行しようとするかもしれない。ソ連時代も、共産党は実際には行政機関だった。それは各省に分かれてまとまりのつかない政府を上から調整できる、行政機関だったのだ。

それに何より、メドベジェフのチームは今に至るも見えてこない。パブロフスキーなど、これまでプーチンの政策を解説してくれた専門家達も、固く口を閉ざしている感がある。まるでまだ水面下の人事闘争が続いていて、そこで変な発言をすれば新政権における自分の地位が危うくなる、とでも言わんばかりだ。このままでは、メドベジェフが人事をしている、と言うよりも、メドベジェフが誰かに自分の人事をされている、と言われるようになりかねない。

2000年、プーチンが大統領になる直前は、エリツィン・チームは退場が明らかになっていたから、プーチンがサンクト・ペテルブルクから連れてきた新しいチームは仕事がやりやすかった。ところが今度はそこらへんが不透明のまま、プーチン・チームの影響力保存に有利な事実だけが着々と積み重ねられている感がある。プーチン・チーム、と言うか、これまで形成されてきたモスクワのエリート層が政権にかなり残留するらしく、大統領のメドベジェフと首相になるプーチンの間で、誰をどちらに引っ張り何をさせるかということが、非常に複雑な問題になっているようだ。誰がどこへ行くかでメドベジェフ、プーチンの間の力関係、権限配分も実質的に決まってしまうし、秋以降続いている秘密警察内部の勢力争いが益々ひどくなったりしかねないからだ。

ロシアの大統領と首相の間の権限配分は、日本では相当するものがない。一番似ている国はフランスだろうか? 端的に言えば、首相は経済・社会政策を担当すると思ったらいい。大統領は外交、防衛、治安政策を担当し、諜報機関は大統領に直属する。

だが今回は、もしかするとプーチン首相が大統領マターまでやらないと、政権のまとまりがつかなくなるかもしれないのだ。昨年12月の経緯を見ると、メドベジェフの指名はエリート層のコンセンサスではない。当時、セルゲイ・イワノフ第一副首相を強く推した勢力がいたのだ。プーチンが首相になることで、何とか団結を維持できる面がある。それにメドベジェフは諜報機関への影響力はないと思われるが、その諜報機関こそプーチン政権第二期を支えてきた勢力なのだ。しかもその諜報機関では、パトルーシェフ国家保安庁長官(昔のKGB)とチェルケーソフ国家麻薬取締庁長官の間で勢力争いが表面化している。

ここで大統領、首相の関係を占う上でのポイントを挙げてみよう。

①メドベジェフの大統領府長官(日本で言えば官房長官に与党幹事長を足したようなもの)に誰がなるのか。
 もしヴォローシン(エリツィン末期からプーチン初期にかけての大統領府長官。現在中央電力公社会長)がなれば、大統領府の調整力は大きなものになるだろう。

②「力の機関」、つまり軍、諜報、警察を大統領、首相のどちらが抑えるのか。
通常ならば大統領なのだが、今回は諜報担当の副首相ポストが設けられるという噂も流されており、これが実現すれば首相の権力は大きくなる。

③セーチン大統領府副長官の去就。
もし彼がプーチンの首相府長官にでもなれば、忠誠心の強い彼はプーチンの大統領返り咲きも念頭に、権限を手元に集め始めるだろう。それは、大統領府との間で摩擦を生む。

大統領府と首相府の間に地下ハイウェー建設―――連絡を良くするため
というわけで、大統領府と首相府(これは91年8月クーデター騒ぎの時、リベラル派が陣取って守り、93年10月には議会の保守派が陣取ったためにエリツィンが戦車砲で攻撃して炎上させたいわゆる「ホワイト・ハウス」)の間の風通しがこれからの大きな課題なのだが、あいにく両者の間はかなり離れていて、しかも渋滞に巻き込まれたら30分以上もかかってしまう。そこで、4月1日付けモスクワ・タイムスを見ていたら、面白い記事に気がついた。「クレムリンと首相府の間に2車線のトンネル建設プロジェクトが浮上。ルート上の英国大使館は移転を迫られるか?」
いかにもありそうな話と思ってよく見ると、「本件は4月1日閣議で審議予定」と書いてある。如何にもロシアらしい。緊張を笑いにしてしまうのだ。

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