Japan and World Trends [日本語] 日本では自分だけの殻にこもっているのが、一番心地いい。これが個人主義だと、我々は思っています。でも、日本には皆で議論するべきことがまだ沢山あります。そして日本、アジアの将来を、世界中の人々と話し合っていかなければなりません。このブログは、日本語、英語、中国語、ロシア語でディベートができる、世界で唯一のサイトです。世界中のオピニオン・メーカー達との議論をお楽しみください。
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世界はこう変わる

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2017年1月 3日

新年ご挨拶 今年の世界

新年おめでとうございます。
トランプはジョーカ―なのか、エースなのか、それがわかる年です。彼は中国にしてもロシアにしても、利権を持っていますので、ツイッターで言うことと、裏ですることは違うかもしれず、その場合、日本などは彼がロシアや中国と大きな取引をするためのサシミのつま程度にあつかわれ、ポイ捨てになる危険性大と思います。

いずれにしても、今年の目の付け所、私の発行するメルマガ「文明の万華鏡」第56号から引用させていただきます。

今年の世界

現代史上の一大事件、ソ連崩壊から25年経ちました(ソ連崩壊、つまりゴルバチョフ大統領の辞任は1991年12月25日)。自由、民主主義の勝利であったわけですが、25年たった今、皮肉なことに「ソ連的なもの」――つまり大衆の生活不安、格差への不満をかき立てて権力を奪取、強権的な手法で格差是正をはかる格好をして見せる――が、西側世界で顕著になっています。

失業と格差が増大した米国でもトランプが大統領に当選、民間企業に直接電話して海外への流出を止めさせる等、「国家社会主義」的な傾向が顕著です。「国家社会主義」はドイツではナチズム、ロシアではソ連共産主義になったものです。もともと同根の両者が戦ったことは、興味深いことです。トランポノミクスの帰結として米国株式大暴落が起きたりすれば、全般の情勢はデジャヴ、1929年のウォール街株価大暴落後の1930年代に似たものになるでしょう。国はその民間企業を従えて、他の国と利権闘争をする。

そうなれば人間は国にしがみついているしかありません。人権だの民主主義だの、優等生達が論壇で振り回す理論はあぶくのごとく、国と国のむき出しの力比べ、そして指導者の間のヤクザ的な口げんかが国際関係での主流となるでしょう。それらが作り出す、ジェット・コースターのように上下左右に激しくぶれる国際情勢、これに振り落とされないよう、しっかり座席(つまり自分の国家)につかまっている。そのような状況になるかもしれません。その点は昨年末発売のNewsweek日本語版のコラムに書きましたので、ご笑覧ください。

12月、日本にとっての最大の事件、15-16日のプーチン来日は、日本側の無理押しが逆目に出たと思います。自民党の二階幹事長が「国民は失望している」と公言したことで、安倍総理の自民党総裁任期延長は流動的となり、政局が胎動を始めたと思います。トランプで世界情勢がジェット・コースターのように揺れることが予想される中、日本が安定政権を失うのは実に困ることですが、何か対策を考えないといけません。

なおここにきて、西側の対ロ制裁が続く中でのプーチン来日強行、あるいは南スーダン政府への兵器供与禁止決議案(国連安保理)に対する日本政府の棄権等、日本が米国政府の意向に大っぴらに逆らう例が2件続いたことは、非常に興味深いものがあります。日本政権内部に、米国オバマ政権のこれまでの出方――つまりロシアにしても南スーダンにしても、扱いを間違えた末に情勢をこじらせ、そのしわ寄せを日本等同盟諸国に押し付ける――に対する不満が高まっていることを意味するからです。対米自主は必要なことですが、よく情勢を見て行動しないと、大きな危険を日本の安全保障に招くことになります。

トランプ氏の政策はまだ不明です。そのツイッター攻勢は今のところ功を収めていますが、多国間FTAの否定、環境問題での後退等は、世界の多くの国から反発を呼ぶでしょう。中国はそれに乗って、「中国=善人、トランプ=悪人」というイメージを世界に売り込み、米国を孤立させようとするでしょう

ロシアはシリア、ウクライナをトランプ大統領登場までに片を付け、国内経済に集中せんとする構えを示しています。2018年3月大統領選の準備が始まっているのです。シリアではアレッポの攻略等、着々と成果を上げているように見えますが、それを支えてきた軍事力は最近、諸方でほころびが見えています。シリアへ軍人を輸送中の旅客機が25日、黒海のソチ空港を離陸直後、多分機器の不調で墜落しましたし、11月14日にはシリア沖に遊弋するロシア唯一の「空母」アドミラル・クズネツォフの艦載機が発進に失敗して海に落ちています。そして12月2日には、宇宙ロケットProgressが、エンジンの不調で墜落しています。ソ連時代、「核ミサイルを持った途上国」と揶揄された経済力の欠如が表面化しています。

そして22日プーチン大統領が、(これまでも述べてきたとおり)核戦力近代化の方針をぶちあげたところ、トランプのツイッターが反応し、「米国は世界が核兵器に対する分別力を持つ時点までは核能力を大幅に強化し、拡張しなければいけない」と世界に宣言しました。トランプはこれをもって、「トランプはロシアの支援で大統領になった」という民主党側からの宣伝を跳ね返すつもりなのでしょう。

米国核兵器の更新・近代化は、国防省がかねて掲げている方針で(米国核兵器は冷戦終了以降、更新されていません。これに比し、ロシアは更新、近代化を積極的に進め、今や戦略核弾頭の実戦配備数ではロシアが米国をわずかに上回るに至っています)、このために今後30年で1兆ドルもの支出が予定されています。トランプはこれを是認したわけで、米国の対ロ・対中戦略上大きな意味を持つツイッターなのですが、これで冷戦が復活するわけではありません。米国防省は、「ロシアこそ主敵」と公言しつつ国防費を増額、通常戦力も刷新して中ロを突き放す構え(The Third Offset Strategyと命名)でいますが、トランプはこれにはまだ乗っていません。むしろ大統領専用機買い替えで、ボーイングに値引きを迫るなど、国防費合理化の方向を見せているのです。

プーチンがかねて言っていることは、「ロシアを馬鹿にした対応をするな。ロシアの内政に介入するな。ロシア自身は周囲への拡張の意図は持っていない。」という一点であり、トランプはこの点を守るでしょう。米ロ関係、米中関係は、民主主義・人権等についての、性急でナイーブな要素を抑え、「大人の関係」で推移していくのでしょう。

もっとも、ロシアはかつてソ連が国際共産主義運動を展開して各国の内政に干渉したのにならって、欧州諸国等の右翼・国粋主義勢力を支持することで各国の内政に干渉(トランプ氏への支援さえ云々されています)しているのですが、これは続けられるでしょう。米国も「世界民主化運動」で旧ソ連諸国や途上国の反政府勢力を支援するのを止めないでしょう。米ロ双方ともこれには予算がついており、諜報機関や政党、NPOの既得権益が絡むため、一種の惰性となって止まらないのです。

なお現在の米国では、対ロ・対中関係がトランプ・民主党間の党派争いの道具となっており、トランプ=親露・反中、民主党=反露・親中という、ばかげた図式が成立しつつあります。外交は国益優先、超党派でやって欲しいとは思えども、そうはならないのが民主主義の常で、我々外部の者が取り成そうとしても、「うるせえ。日本に一体何ができるんだ。すっこんでろ」の一言しか返ってこないでしょう。

ところで23日、国連安保理はイスラエルが占領地への入植を継続していることを非難する決議を採択しましたが(米国は棄権して拒否権を行使せず。日本は賛成、)、これにネタニヤフ首相は激怒して国連大使を本国召還、国連の一部機関への拠出を停止、態度を変えると脅しをかけています。ホロコーストで世界中の支持を得ているイスラエルが、国連に盾をついて自分の主張をごり押しする(満州支配を正当化し、国際連盟を脱退した日本を彷彿とさせます)のは、イスラエルのイメージを下げるでしょう。もっともトランプとその周辺はイスラエルの対パレスチナ強硬策を強く支持し、トランプが指名した次期在イスラエル大使は米国大使館を現在のテル・アビブからエルサレムに移す(エルサレムはイスラムの聖地でもあることから、エルサレムでの外国公館開設はアラブ諸国が嫌うものです)ことさえ主張しており、トランプ自身もこの決議案への反対を表明、「国連については、1月20日以降に事態は変わる」とツイートしています。

終息しつつあるシリア情勢に代わって中東問題の老舗としてのイスラエル・パレスチナ紛争がまた激化するでしょう。トランプ政権はISISとの戦いを最優先課題とするとともに、パレスチナ問題でイスラエル政府の肩を持つ・・・これはパレスチナ問題を大義とする古典的テロの復活を大きく助けることになるでしょう。また、中東のパワー・ゲームにイスラエルが久しぶりに登場することになります。そして中東のパワー・バランスは、サウジを筆頭とする湾岸諸国及びトルコが米国・イスラエル、イラン・ロシアのいずれの陣営に傾くかによって刻々と変化していくでしょう。

日本経済においては、米国の高金利が日本に波及した場合、国債金利が跳ね上がって財政を破綻させないかどうかが大きな問題であり、可能性があるなら防護策を取っておかねばなりません。特に安倍政権が揺らぐようなことがあれば、金融市場は急激に円高へと動き、株式も急落することでしょう。
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