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世界はこう変わる

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2016年11月25日

内向きにはならないだろうトランプ外交

(これは、有料メルマガ「文明の万華鏡」最新号に掲載したものの一部です)

――対中ロは現状維持。中東で政治地図の変化――

 トランプの閣僚人事が話題をさらっている。外交では、懸念されていた内向き化、同盟国の放擲はないだろう。関係者の発言を見ていると、むしろオバマ時代に冷遇された国防力を強化・近代化してロシア、中国を牽制、但し同盟諸国の分担分は増やしてもらいたい、ということになる。
他方、オバマ時代は海外への新規派兵を極力避けた一方、途上国、旧ソ連諸国の「民主化勢力」を助けて政権を倒す「レジーム・チェンジ」は野放しの気味があった。これは、National Democratic Institute, International Republican Institute(双方はそれぞれ民主党、共和党の傘下。後者の会長はマッケイン上院議員)等、米国のNGOが、その活動費の3分の1程度はNational Endowment for Democracy(NED)という団体の助成金を受けて行うものである。

NEDはインターネットの資料では、レーガン時代の1980年代初期、CIAのニカラグアでの秘密工作がイラン・コントラ事件として大きく問題化したことの反省で、CIAの手が見えないような工作を可能とするため、当時のCasey・CIA長官のお声がかりでできたもの。議会は共和党・民主党の超党派で、これに年間約1億ドルの予算をつけている(以上は2015年7月30日のConsortiumnews.comにアップされたRobert Parry記者の記事による。同人は1980年代、イラン・コントラ報道で活躍した調査記者)。その3分の1は、共和党、民主党系の団体に流される、暗黙の合意ができている。

これら団体は、投資家(投機家)ジョージ・ソロスのOpen Society財団も含めて、2003年のグルジア(ジョージア)での「バラ革命」、2004年ウクライナでの「オレンジ革命」を煽ったし、2014年ウクライナでのヤヌコーヴィチ政権転覆、2010年からの「アラブの春」の裏でも活動している。
筆者も2000年代初期ウズベキスタンで、これら団体の活動を横から見ていたのだが、ウズベク人を見下し、「民主主義を教えてやる。拙速の民主化は混乱を生む? いや、とにかくものごとを動かさないと良くならない」という態度で、反政府運動を支援していたのである。米国の大使に、「そんなことして逆効果になるだけじゃないか」と言ったことがあるが、彼はあきらめ顔で、「彼らNGOは米国の政党の傘下団体なので、自分もどうしようもないのだ」と言っていた。

しばらくしてカリモフ大統領は機会をつかんで、これら米国の民主化NGOをすべて追放、ハナバードの大空軍基地からはアフガニスタン作戦で駐留していた米軍を追い出してしまう。ウズベキスタンの場合、この程度ですんだからいいが、シリアの場合(ここでは米国NGOの関与ぶりは不明なのだが)内戦で30万人以上の死者、500万人近くの難民を生んでいる。エジプトでは政権転覆には成功したものの、利権を少数の者が独占する社会・経済構造に変化はなく、国民の生活は変わっていない。

しかし、トランプ政権はこうした姑息な手段は抑制するようだ。安全保障問題補佐官になるFlynn、司法長官になるSessionsとも、「(他国を民主化するという)できもしない目標を追求して、かえって現地の情勢を悪化させてしまうという仕業は避ける」と公言している。かつてレーガン政権がやったように、大軍拡(レーガン時代は宇宙配備の兵器SDIを開発する構えを示して、ソ連を攪乱した)の構えを示して中国、ロシアを抑え込むことはするが、無用の海外干渉はしないということのようだ。トランプの政策に酷似しているレーガン大統領の時代、本格的な海外派兵は1983年のカリブ海のグレナダへのものだけである。

従って、トランプ政権は対中、対ロ関係で無用の対立は避けるだろう。南シナ海で中国に譲るとは思わないが、ウクライナ、シリアではロシアとの間で手打ち式をやるだろう。ウクライナで詰め腹を切らされるのはポロシェンコ現政権、シリアで米国に捨てられるのは反アサド武装勢力ということになるだろう。後者はもともと現地のアル・カイダ勢力とまじりあっているし、米国に捨てられればテロリストの常で、捨てた飼い主に向かって牙をむく。

トランプ政権は海外に無用の干渉はしないだろうと書いたが、Flynn等に反イスラムの発言が目立つのが気になる。就任早々、ISIS退治に全力を注ぐようだ。宗教としてのイスラム(これは悪ではない)と、テロリスト徴募のためのイデオロギーとしての似非イスラムを区別して、後者をたたくと言ってはいるが、これが米国国内の平和的なイスラム人口、イスラム人口の米国への移住制限につながると、いいことにはならない。

オバマ時代、中東では政治地図が随分変化した。パレスチナ問題ではイスラエルを抑える側にまわったし、イランではこれまでの対決路線から転じて話し合いで核開発を止めた。前者はイスラエル、後者はサウジ・アラビアという中東での有力な同盟国を米国から離反させ、これまでの宿敵同士の両国は接近の構えを示している。米国はクルド族と組んでイラク平定、シリアでのアサド打倒に使っているが、トルコはイラク、シリア国内に勝手に軍を進めてそのクルド族を叩いている。エジプトのシシ政権はクーデターで登場したために米国から中途半端な支援しか得られない。そのために、ロシアに接近して海軍基地提供の構えを見せている他、最近では紅海の要衝(イスラエルのエイラート港、ヨルダンのアカバ港の出口)にある2つの島をサウジ・アラビアに譲渡、代わりに毎月5億ドル分のガソリンをもらうという約束をして、国内で叩かれている(ガソリンはまだもらっていないようだ)。

結局米国が中東での足場を大きく失っているのに対して(米国は石油をほぼ自給できるので、中東からはむしろ足を洗いたいようにさえ見える)、ロシアの「権威」が大きく増大している。イスラエルもサウジ・アラビアもエジプトもイランもトルコも、これら相争ってきた中東有力国はいずれも、ロシアとだけは今関係が良い、まるでロシアが中東の調停国として振る舞える、そういう状況になっているのだ。

ところが、トランプ政権は中東、特にパレスチナ問題への回帰の姿勢を見せている。イスラエルとユダヤ・ロビーは米国共和党の大スポンサーなので、パレスチナ問題についてはオバマ政権とは正反対に、イスラエル側の肩を持っているのである。

(トランプの娘婿クシュネル氏がユダヤ教徒で、長女イヴァンカもユダヤ教に改宗したことは知られているが、あまり報道されない。ホワイト・ハウスで戦略担当補佐官になるSteve Bannonはアメリカの右翼Alt Right一派だと言われるが、彼らは反ユダヤ。ここらへん、複雑にねじれている)

そして共和党は、イランとの核合意に終始反対してきた。イランも、核合意したわりには米国が経済制裁を解いてくれない(それは、銀行取引の細かい点についてイラン側がつめた交渉をしなかったせいで、いわばオウン・ゴールなのだが)ことに不満なので、トランプ政権の下ではまた、イランの核開発問題が前面に浮上してくるだろう。

サウジ・アラビアがどうなるのかがわからない。トランプ政権のイスラム・テロ敵視は、9月11日の世界貿易センター・ビル撃破に連座し、今でもシリアの反政府諸組織を支援しているサウジ・アラビアとの関係を微妙なものにする可能性があるからだ。それでなくても、米国はサウジの原油への依存度をめっきり減らしている。そしてそこに、サルマン副皇太子の性急で恣意的な改革政策が経済を悪化させ、それが王家の後継闘争に火をつけたら、サウジは大きく不安定化するだろう。

米国が中東への関与を復活させた場合、ロシアはこれまでの「独占的」な地位を失う。しかし経済力に欠けるロシアにとってどうしても譲れないのは「威信」ということなので、同盟国シリアの政権が倒されるのは看過しないが、他の諸国については米国に武力で抵抗することはないだろう。

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