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世界はこう変わる

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2016年6月 2日

米ロ対立の歩留まり

最近ニューヨークタイムズが、ロシアについて社説を掲げた。プーチン・ロシアのやっていることは確かに悪いが、対話・協力の道を閉ざしてはならず、ロシア自身にとっても西側との協力なしには未来は明るいものにならない、とするものである。
この頃の米国のマスコミは外国の支局も削減したので、独自に収集した情報を持たず、ロシアについての先入見をあれこれ加工しては「ニュース」に仕立てている面が強い。その中で、この社説はバランスの取れたものだ。この機会に、ソ連崩壊後の米ロ関係の大筋をまとめておく。


1) 1991年ソ連崩壊直後の米ロ関係は、ロシアがほぼ無力化して米国の支援を必要としていたこともあり、蜜月とも言えるほど良好なものであった。

2) しかし米国、西側には、そのようなロシアを侮る心があった。他方、ソ連、あるいはソ連圏から脱出した東欧諸国、バルト諸国は、ロシアの地力、野心に対する恐怖心を持っており、そのためにNATOへの加盟を実現する。そしてこれがロシアの神経を逆なでし、ロシア軍関係者はNATOを逆にロシアの脅威だと言い立て、エリツィン時代大幅に削られた軍事予算の復活をはかるようになった。

3) もう一つ、米国、西側のNGOが旧ソ連周辺諸国で展開した民主化支援運動が、2003年グルジアでの「バラ革命」、2004年ウクライナでの「オレンジ革命」(総称して「色つき革命」と言う)等として結実、プーチン政権はロシアで同じことをしかけられるのを恐れて、国民の間に西側への敵愾心を掻き立てるとともに、ロシア国内における西側NGOの多くを閉鎖、撤退に追い込んだことも、東西対立を激化させた。

4) 1998年デフォルトのあおりがまだ収まらない2000年に大統領に就任したプーチン大統領は、当初は西側によるロシア軽視を甘受していたが、原油価格急騰を受けてロシアのGDPが僅か7年で5倍強にも伸びた2007年には、2月のミュンヘンでのシンポジウムで、それまでの西側への恨みの数々を吐露、ロシアにも五分の魂があるとして、周辺国境地方への偵察飛行の再開等、一連の強面措置を開始。それは2008年8月のグルジア戦争で頂点に達し、リーマン・ショックで一時おとなしくなった後、また2004年3月のクリミア併合、2005年9月のシリア爆撃開始という形で、西側への「報復」行為を再活発化させたのである。

5) これに対して米国では、プーチンを一方的に責めるだけの論調が支配的であるし、国防省などはこれに乗って、ロシアを「主な脅威」と定義、2016年度の6000億ドル弱という予算請求を正当化しようとしている。また歴史的にロシアから(ドイツからも)脅威を受けてきたポーランドでは、強硬な反ロ姿勢で一貫するヤロスワフ・カチンスキーのような有力政治家もおり、NATO、EUの中で反ロの旗を振っている。

6) このような状況下で、7月8~9日ワルシャワでNATO首脳会議が開かれようとしている。問題は、これがどこまで西側とロシアの関係を悪化させるかということであるが、結果は「泰山鳴動して・・・」になるのであるまいか。それは、次の要因による。

ロシアの力に限界がある。昨年GDPが3,7%縮小し、国民の間で「プーチンは海外でいい格好ばかりしていないで、自分たちの生活も面倒を見てほしい」との声が高まったため、プーチンは最近、経済政策に力を集中している。
9月にはロシアで議会選挙が予定されるが、プーチンとしてはNATO首脳会議の結果に反発して西側への強面の対応を強化しても、選挙民に訴えかける材料とならないであろう。「シリアで威力を見せつけた」ことになっているロシア軍も、実戦に投入できる兵力は実は限られており、二正面作戦、あるいは長期戦を展開できるわけではない。

NATOの力にも限界がある。今回首脳会議ではジョージア(もしかするとウクライナにも)に「対話強化パートナーシップ」の枠組みを付与する可能性があるが、これは両国とNATOの正規の関係促進に独仏が消極的であるため、英米が中心となって非正規の枠組みを提供しようとするものである。つまり、NATO内部も割れていて、全体として腰が引けているのである(NATOの決定は、加盟28カ国全員の一致を原則とする)。

③ 確かに西側、ロシアのメディアの論調を見ていると、いつ戦争が始まってもおかしくないようなエスカレートぶりであるが、これは単なる舌戦であり、同時に各国軍が予算獲得に利用するものでもある

7) 要するに、米ロ対立、NATO・ロシア対立は、未だ双方のコントロール内に収まっている 。つまり米ロは舞台の上で血を流さない範囲での立ち入りをやっているので、その演劇を真に受けて舞台に駆けあがって仲裁しようとする観客のような立場にはまってはならない
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