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世界はこう変わる

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2015年12月30日

ロシアにまたまた次の潮目

(これはJSN(株)社発行の月刊「ロシア通信」16年1月号[発売中]に掲載されたものです)

 ロシアは政治・経済両面で、また新しい潮目を迎えている。経済力を欠き、軍事力だけで世界を片肺飛行しているので、この乱気流の時代、足どりには心もとないところがある。

経済はまた次の底へ?

 2014年末原油価格の暴落でロシア経済は縮小を始めた。本年のGDPは対前年4.5%程下落するものと予測されている。ルーブルが下落して輸入品の価格が上がってインフレが亢進し、10月の実質所得は昨年同期より5.6%も下げている。そのため輸入は金額ベースで35%強の減少が予測されているし、小売売上高は年初から11月までで対前年同期比8%強減少している(高等経済学院開発センターの資料等による)。
だが経済は7月には経済縮小のテンポが弱まり、2016年にはIMFが0.2%のプラスの成長を予測するまでになった。エコノミスト達はこれを「V字型回復でなくてもL字型回復」と自ら揶揄して呼んだ。

ところが、今年の夏に再発した原油価格の下落は、ロシア経済を更に下押ししようとしている。ルーブルがまた下落したので(7月から10月までの間に対ドルで9%強下落)、ルーブルで勘定した原油輸出収入はさして減らず、1バレル50ドルを見越して作った2016年度国家予算にすぐ大穴があくこともないだろうが、今財政を補てんしている「国民福祉基金」は、2017年には枯渇することが予測されている。リーマン・ショックの後、社会保障や保健、教育関係の予算を中央から移管された地方財政は、赤字に苦しんでいる。その額は3兆ルーブルと推定され(TASS)、これを足すと、政府の財政赤字額は倍増、GDPの約6%に達することとなる。

社会では、走行距離税導入に憤慨した長距離トラック運転手達が道路を封鎖して抗議したり、不満もそろそろ表面化し始めている。11月の世論調査では、国民の58%がインフレ、
45%が医療、39%が所得減少、23%が失業を最も懸念している(ロシア世論研究センター)。ルーブルが下落すれば国産製造業が息を吹き返すと言われていたが、食品工業はまだしも、繊維工業などは10%弱生産量を落とす(上半期の対前年同期比)始末である。

その中でロシアは11月24日に爆撃機を撃墜したトルコにトマトの禁輸やトルコでの観光禁止などの「制裁」を科し、1月にはEUとの連合協定を発足させるウクライナの製品も輸入制限する構えでいる。政治の上での見栄に振り回されて、外国との交易を次から次へと切り、ヒステリー気味に内にこもり始めているのである。そして世界での原油の需給は緩む一方で、米国は原油輸出を40年ぶりに解禁し、イランの原油が市場に出ればその価格は更に下落するだろう。
米国を中心に先進国経済が回復していく中、ロシアは経済の厳しい潮目の変わりに直面しているのである。

シリア情勢の分水嶺?

もう一つの大きな潮目は、シリアをめぐる米ロ対立の成り行きである。ロシアはISISと戦うとの大義名分で軍をシリアに送り込んだが、その真の狙いはアサド政権の擁護にある。ISISを叩くと称して、反アサド勢力を叩くこともやっている。もし米国やEU諸国(フランスが先頭に立ち、今や英国、そしてドイツまでもが軍を送りこんだ)の軍が反アサド勢力を助けて、ロシアのそれと衝突したらどうなるか。トルコがロシアの爆撃機を撃墜して以後、ロシアは世界でも注目されている最新式対空ミサイルS-400をシリアに配置している。プーチン大統領は最近の国防省での会議で、「(シリアにいる)ロシア軍を攻撃するものは直ちに破壊せよ」との指令を発しているのである。

しかし、12月15日ケリー国務長官がモスクワを訪れ、プーチン大統領とも長時間シリアについて話し合ったことで、米ロ間の雰囲気は一時的にせよ緩和した。米国はアサドへの即時退陣要求を引込め、大統領選挙の手順を決めることなどでロシアとの落とし所を探ったのだろう。他方、8日にはバイデン副大統領がウクライナを訪問している。ウクライナは、シリアで米ロが手を握ればウクライナは米国に見捨てられると騒いでいるので、宥めに行ったものと思われる。

こういうわけで、西側とロシアの間で軍事衝突が起きない限り(ウクライナ、トルコ等は、衝突を起こそうとして何か仕組むかもしれない)、シリア方面の潮目はロシアにとって悪くない方向に変わろうとしている。

大崩れはない

 ロシアは2016年9月には総選挙を予定する。そろそろウクライナ、シリア騒ぎを収拾し、経済の建て直しに専念したいところだろう。原油価格がこれから数年低迷するだろうことも、ロシアの指導者にとって容易でない課題をつきつける。

 しかし、ロシアの都市の様相は徐々に、しかし着実に文明的になっている。原油が1バレル20ドルになろうとも、それだけで350億ドル程度の輸出収入は保証される(それは、2000年周辺、ロシアが高度成長を始める前の水準である。数年前のピーク時には右収入は2800億ドルを超えていた)。

筆者は1998年デフォルトの時、そしてその後の4年間モスクワにいたが、モスクワっ子たちはさすがデフォルト直後は縮こまっていたのが、2000年頃になるとまるで狂ったように消費を始めたものだ。ロシアの知人は、「私たち、何年も我慢してられない。どうでもいいから、買いたくなっちゃうのよ」と笑っていたものだ。
 ロシアでのビジネスには波がある。引き潮で水が引いても生きていける動物を見習って、自衛措置を講じておくべきである。そして資金や原材料・製品の移出入に当局が制限を課したら、黙って甘んじていないで、大使館を通じてロシア政府に是正を働きかけることが必要だし、可能だ。多くの人が言うが、ロシアの方が中国よりもビジネスはやりやすいのである。

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