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世界はこう変わる

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2015年10月 7日

安倍首相訪問を前にした中央アジアの情勢

総理が22日から中央アジアを訪問すると伝えられている。常時中央アジア関係の海外報道をフォローしているので、最近の主要なイシューを抽出しておこう。

初めに強調しておくと、

「中央アジアはロシアの延長」ではない。ロシアの植民地となったのは19世紀半ば、それまでは南半分はペルシャ・トルコ文明圏に属する都市国家の集団、北半分は遊牧民族支配圏で、ロシアとは全く別の古い文明の地である。

中国は史上、新疆以遠の中央アジアを支配したことがない。現在「一帯一路」とかで中国の進出が喧伝されているが、中央アジアの人間にとって中国は異質な存在で、カネをくれるからつき合っているに過ぎない。

中央アジア諸国は独立国である。ロシア、あるいは中国の言いなりになるのを防ぐため、カウンター・バランスとなってくれる国を歓迎する。EU、インド、韓国、そして日本などがそれである。中央アジア地域の独立性を促進することは、日本の利益にもかなう。

④最近は中国の融資、そしてAIIBが中央アジアでも話題になっているが、アジア開発銀行は歴代総裁の下、この地域でつとに大々的なインフラ建設融資を進めている。
日本も少なからぬODAを供与してきているが、近年は日本の存在感は薄れ、中国はもちろん、韓国の後塵も拝するようになっている。

⑤現在、ロシアは経済後退、中国も経済停滞、米国はアフガニスタンから撤退と、大国の対中央アジア関係は宙ぶらりんの時期にある。
そして中央アジア諸国も一部は指導者の世代交代問題を抱える他、ロシア経済後退のあおり、アフガニスタンのタリバン勢力が国境に近づきつつあることなどの問題を抱えている。
しかし、中央アジア諸国内部のイスラム過激派勢力は少数であり、米国NGOによる民主化運動も抑圧されている。従って、中央アジア地域がこれから大きく不安定化する兆しは見られない。但し、ISISに応募して従軍している青年は多数に上るので、彼らが舞い戻ると一定の不安定要因となる。

⑥総理の中央アジア訪問においては、アフガニスタンの安定化への日本の貢献が重要なポイントとなる。中央アジアとアフガニスタンへの総合的な対応が必要である。

最近の主要なイシュー

1)ロシア関連
 ・ロシアにとって、中央アジアは最後に残された自分の「勢力圏」である。
  中央アジア諸国にとって、安全保障で最後に頼りになるのはロシアであり(タジキスタンには一個師団、キルギスに戦闘機大隊を置いている)、経済、学問における依存度も高い。

 ・しかし中央アジア諸国は、独立性維持に努めている。
  ロシアが推進している「ユーラシア経済連合」に加盟したのはカザフスタンとキルギスのみである。プーチン大統領は「通貨統合」を提唱しているが、道は遠い。
また同じくロシアが推進している集団安全保障条約機構(CSTO)には、「永世中立」のトルクメニスタンは加盟しておらず、ウズベキスタンも参加を「停止」している。ロシアは、アフガニスタンのタリバンに対処することを念頭に、CSTO強化をはかっているが、加盟諸国はロシアの指導性強化に警戒的である他、意味のある兵力を提供できるのはロシアとカザフスタンのみである。
更に、2008年のジョージア戦争、現在のウクライナ紛争についても、中央アジア諸国はロシア支持を抑制している。

・ロシアは、中央アジアを助けるだけの経済力・技術力に欠ける。ロシアが勧進元になって作られたユーラシア開発銀行の資本金は70億ドルに過ぎず、中国が設けた「シルクロード基金」の400億ドルに遠く及ばない。またロシアはAIIBには加入を申請し、中国の軍門に下った感がある。

・西側の制裁、原油価格の暴落でロシア経済が大きく後退したことは、中央アジア諸国にも影響を与えた。タジキスタン、キルギス、ウズベキスタンにとっては、ロシアへの出稼ぎ者からの送金がGDPの数10%を占める大きな意味を持っているが(タジキスタンではGDPの半分に相当するとのロイターズ推計もある)、上半期例えばタジキスタンへの送金はドル・ベースで58%減少している 。

・またルーブルがドルに対して大きく減価したため、中央アジア諸国も通貨を軒並み大きく切り下げている。

・トルクメニスタン、ウズベキスタン、タジキスタンにとっては、アフガニスタンのタリバンが脅威であるが、ロシアはアフガニスタンに兵力を送ることはできない。1979年のアフガニスタン戦争のトラウマが世論に大きく残っているからである。

2)中国関連
 ・「中国マネー」は中央アジア諸国全てを席巻している。しかし中国の広げる大風呂敷で実現していないものも多い。典型例は中国からの鉄道網建設である。
また中国のしていることは典型的な「小切手外交」なので、カネの切れ目が縁の切れ目となるだろう。この関連で、最近の中国経済の停滞が注目される

 ・ウズベキスタンのカリモフ大統領は、中国製品がウズベク工業を破壊することに警戒的である。またトルクメニスタンのベルディムハメドフ大統領は、中国への天然ガス輸出から十分の収入が得られていないことに不満を持っているはずである。

 ・中国にとっては、新疆ウィグル族の存在が弱みとなっている。キルギス、カザフスタンにはウィグル族が居住しているし、アフガニスタンでテロリストとして訓練を受けているウィグル族は中央アジアを経由して新疆入りするかもしれないからである。

3)米国関連
 ・米国はアフガニスタンから軍を撤退させるので、中央アジアに対する関心を失いつつある。

 ・他方、中央アジアが新疆地方の裏庭にあることには注目している可能性がある。現在キルギスのビシケクに建設中の新しい大使館は大規模なもので、中国を向いた情報収集のハブとなる可能性がある。

4)中央アジア各国
 ・ウズベキスタンのカリモフ大統領は、日本に強い期待を持っている人物である。
  同人はこれまで、ロシア、米国、中国の間でいずれにも傾き過ぎない政策を取ってきた。
  カリモフ大統領は77才で、後継問題を抱えている。長女グリナーラは大統領になる野心を隠していなかったが、不正を摘発され、自宅軟禁状態にある。
  カリモフ大統領は、カザフスタンのナザルバエフ大統領と、中央アジアでのリーダーの地位を争っている。また同大統領は民主化、人権擁護を上から目線で説かれることに拒否反応を示す。

 ・カザフスタンのナザルバエフ大統領も75才で、後継問題を抱えている。長女ダリガを9月に副首相に任命したばかりであり、後継問題とのからみで注目されている。なお、マシモフ首相もこれまで後継候補の一人と目されている。
  カザフスタンは原油輸出価格の暴落で、ロシアと同様の経済・財政困難に陥っている。またロシアのルーブル減価に合わせて変動為替制を採用(8月)、通貨テンゲを50%強切り下げたため、輸入インフレが激化するだろう。
カザフスタンも、ロシア、中国、米国の間で「全方位外交」を展開してきた。そして気位が高く、日本からはODAよりも直接投資を望む姿勢を露わにしてきた。

 ・トルクメニスタンは、アフガニスタンの国境地方に半分盗賊に近い「イスラム・テロリスト」が伸長していることが悩みの種で、予備役の動員をかけているが、実際には「テロリスト」を贈賄で懐柔しているのが実態のようである。テロリスト勢力が進攻してきた場合の反撃能力は弱い。
  天然ガス輸出先がイランと中国に限られ、価格決定を中国に牛耳られている。天然ガスの対欧輸出が大きな課題であるが、パイプラインがない。
天然ガス価格低迷の故か、財政困難が報道されている。また食料品価格を中心にインフレが激化している。

タジキスタンはロシア軍一個師団の駐留を認め、ロシアへの出稼ぎ者からの送金に大きく依存する一方、インフラ建設では中国への依存度が大きい。
ラフモン大統領は権力独占をはかって、連立与党のイスラム復興党(穏健イスラム)を弾圧。8月には首都ドシャンベ郊外で同党のナザロフ国防第一次官が使嗾した反乱を鎮圧したばかりである。

キルギスは4日に議会総選挙が行われたばかりで、アタムバエフ大統領の社会民主党が30%弱の得票率で首位、連立政権を樹立する方向にある。
 8月にはユーラシア経済連合に加盟したが、これにより中国製品に対する輸入関税が上げられたはずで、そうなると中国産品を安く輸入してNIS諸国に高く転売するビジネスが成り立たなくなる。このビジネスはキルギス国民数十万人の所得を支えてきたと言われており、不満が高まる可能性がある。
 なお、アタムバエフ大統領の任期は2017年まである。
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