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世界はこう変わる

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2015年8月17日

ウクライナをめぐる米ロの歩み寄りか あるいは戦闘の再開か

7月にはウクライナをめぐる米ロの歩み寄りの気配が濃厚だったが、8月になって東ウクライナの情勢はにわかに戦闘再開含みになっている。後者は米ロ対立を反映したものなのか、それともウクライナ政府と東ウクライナの親露分子の双方ともが米ロによる抑えをはねのけて撥ね上がっているのか、どちらかはまだわからない。ここでは、7月の動きだけアップしておく。

7月15~16日、ヌーランド米国務次官補はキエフを訪問し、議会での憲法改正審議に容喙、2月の停戦合意に沿う形に直させた(「ドネツ州とルガンスク州の[親露派が支配する]特定の諸地区に関する詳細は特別法で定める」との文言を挿入させた)上で第1読を通過させた 。
ヌーランド(女性)はこれまでネオコン的とも言える立場を前面に出し(夫はネオコンの代表的論者のロバート・ケーガン)、ウクライナの民主勢力を鼓舞、ロシアの介入を声高に言い立てては兵器供与の必要性も説いてきた人物である。彼女が今回の挙に出たことで、米国が東ウクライナ情勢の固定化を望んでいることが印象的づけられた。

なお、これに先立って5月には、東ウクライナの親露派指導者が相次いで、「(ウクライナ分割を意味する)『新・ウクライナ』建国の案は消えた」との趣旨を公言しており 、これはプーチンが東ウクライナを奪うことは望んでいないことを明らかにしたものと解釈されている。

ヌーランド次官補については、上記の行動で、「ウクライナを裏切った」的な論評がキエフのメディアで行われているようだが、彼女は5月12日のケリー長官ソチ行きに同行し、その後カラーシン・ロシア外務次官とウクライナ問題についての話し合いのチャンネルを開いて以来(ウクライナを差し置いてウクライナのことを決めようというのである)、「2月のミンスク停戦合意履行」を一つ覚えに繰り返すだけになっている。7月下旬にはバイデン副大統領も同じラインをポロシェンコ大統領に電話で伝えており 、米政権上部が明確な決定をしたのであろう。

米国は、ロシアを中国の懐に追いやって中ロを同時に相手にするのは好まないだろう。9月には習近平国家主席の来訪を控えているのでなおさらである。また退場間際のオバマ大統領にとっては、シリア情勢、そして就任早々の華々しい公約「核廃絶」に少しでも近づくには、ロシアの協力を必須としている(米政府は、来年早々、核安全保障に関するサミットを主宰すると発表している) 。ウクライナについては、その腐敗・虚言体質は鼻につくし、これまで肩入れしてきたヤツェニュク首相の支持率も8%と地に落ちている 。

他方ロシアはそれ以上に、対米関係の修復を必要としている。それは次の諸点による。なおプーチンの動静は報道されているが、内外情勢についてさしたるコメントをしておらず、行き詰まり、乃至何かを準備中との印象を受ける。

・経済は好転の兆しを見せず、第2四半期のGDPは対前年同期比でマイナス4.7% 。国防費、社会保障費の削減が必須となっている。

・対中依存の惨めさが明らかになっている。14年5月上海訪問で達成した天然ガス輸出大規模案件もパイプラインの建設は一向に進まず、中ロ貿易は本年に入って対前年で約3分の1もの減少を示している 。これまでロシアが抵抗してきた中国主導の上海協力機構開発銀行開設も、中国に一方的にアジア・インフラ開発銀行等を設立され、それに加入を求める屈辱を味わわされた。そうまでして獲得した「中ロ提携」も、9月の習近平訪米で色が褪せるだろう。

・プーチンはロシアの石油業界の国営化をはかることで国富の大本を統一管理することを、その経済政策の柱としていたが、その途上、民営の「ユーコス」社を無理無体に解体して(大統領選出馬の勢いを示したホドルコフスキー社長をシベリアに流刑)国営化する過程で被害を受けた国外株主集団訴訟により、ハーグの仲裁裁判所は500億ドルの補償を認める判決を下した。これを受けてベルギー当局がロシアの資産を何件か差し押さえる挙に出ている 。国外に多くの資産を保有するプーチン周辺、及び実業界にとっては制裁をはるかに超えたブローとなっていることだろう。

・そしてクリミアでは、国家保安庁FSB(KGBの後身)が6月末、公金横領の嫌疑でSkrynnikクリミア政府産業開発相を短時間拘束したことに対して、アクショノフ知事(以前から利権体質で知られており、昨年3月クリミアの急速な併合を推進した人物)が抗議の声を上げ、「『職務遂行における些細な間違い』のために地方官僚をFSBが拘束することは許せない」、とクレムリンを威嚇している。このような弱者の恐喝がロシア全土に広がると、ガバナンスは失われる。そしてクリミアにはロシア本土から海峡をまたぐ橋がかけられることもなく、陸の孤島と化したままなのである。

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