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世界はこう変わる

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2015年5月 7日

危機 で覚醒した?感のあるロシア人

(これは、「まぐまぐ」社から発刊しているメール・マガジン「文明の万華鏡」第36号の一部です。全文は「まぐまぐ」社サイトにアクセスして入手できます)

3月24日~4月12日モスクワ大学で講義を行うとともに、街を歩き、ロシア人専門家等と意見交換をした上での印象を報告する。泥だらけの歩道に跪いて施しを乞う乞食が少し増えた他は、1年前より雰囲気はむしろ良かった。

「危機」に団結するロシア人
「ロシアは西側の制裁と原油価格暴落のために経済大荒れ」というのが西側での通り相場だが、実際にはそのような情景はない。ユニクロなどもあるショッピング・センターは西側をしのぐ贅沢な雰囲気、商品はあふれ、大変な人出である。
そしてこれまで市場経済の中でどこかぎすぎす、あくせくしていたモスクワ市民は、互いに親切になった。地下鉄では市民が老人や子供に席を譲る姿がはるかに増えて、まるで「危機」が市民の団結を高めたとでもいう感じであった。何人ものロシア人に聞いても、皆そのとおりだと言う。

では本当に「危機」なのかというと、そうでもない。「ふだんの買い物は以前より25%ほど高くなった」というのが生活実感だが、まだ耐えることはできる。「危機」という言葉はテレビでもラジオでも繰り返されるが、その一方、「この『危機』の時にこんな安い航空券があるなんて。今度の休暇はこれでトルコへ」などという会話も職場で側聞した。

現在の油価、1バレル50ドル強は、暴落したとは言っても、2005年と同等のレベルである。当時ロシア経済は原油の高騰を受けてGDPが2000年の3倍に急上昇していた。現在もその2005年と同様、ロシア国民は一人当たり毎月約130ドルを資源輸出から得ている計算となり、基礎体力があるのである。

ルーブル下落は収まり、インフレも緩和へ
ロシアでは、インフレに備えての買いだめが昨年末にかけて起こり、自動車などの在庫は一度にはけた。そのあおりで1月に入ってからは個人消費は対前年4.5%、投資は1-2月で6%強低下(対前年同期比)しているが、インフレ率は3月で1.2%(対2月比)と、次第に収まる傾向を示している。それは、昨年90%強も下がったルーブルが下げ止まり、2月以降約25%の回復を見せたことに支えられている。そしてモスクワの株式指数は1-2月で30%弱伸び、今年世界で最も伸びた市場と言われている。

ルーブル下落は、輸入代替生産を盛んにすることが期待されている。食品生産では約4%、化学工業では4.3%(いずれも1-2月、対前年比)の上昇が見られる。他方昨年の駆け込み消費の反動か、輸入代替の代表部門と目される繊維・縫製部門がマイナス22.2%、自動車がマイナス17.8%、電気・光学工業がマイナス6.4%の下落(いずれも1-2月、対前年比)を見せている。
下落はやや止まったものの、原油という基礎体力に支えられた基本的性格は変わっていないのである。

ソ連を知らない世代への交代
この4、5年、社会が安定するにつれ、細かい規則、そして小役人が幅を効かすようになり、雰囲気は「ソ連的」になっていた。1992年、ソ連崩壊直後、権力を握ったリベラルの若手世代は今に至るまで権力を握り続けて、保守化した。そして彼らを支える50代以上のスタッフの大半には、ソ連的な官僚主義、権威主義が染みついている。

しかし今回、研究機関で講演し、ビジネス・スクールで議論してみると、「ソ連の遺伝子」を持たない若い世代の台頭を実感する。学生たちは屈託がなく、プーチンについてもウクライナ情勢についても批判的なことを平気で言う。これまでは外務省でも研究所でも若手の補充が行われてこなかったが(40~50代が大幅に不足)、経済が安定化するとともに国際関係で身を立てることも可能となり、それは必然的に世代交代を呼んでいるのである。圧倒的にソ連的な老年世代、即物的で帝国主義的思考を持たない若年世代、この二つの世代の間のねじれは、これから面白いことになっていくだろう

プーチンの足場
プーチンへの支持率は85%を超える驚異的水準にあるが、ウクライナという「戦時」なので、うなずける現象である。そしてゴルバチョフ時代のエリツィンのような、有力な対抗馬はいない。同人の地位を脅かし得るものは、一つに経済情勢の推移がある。「原油依存脱出」の必要性については国民的合意があるが、ではどうするかについてプーチン政権が有効な政策を持たない(実際のところ、90年代の中国のような大規模な外国直接投資くらいしか解法がない)ことは、国民も気が付き始めている。物価が上がる中で賃金、年金が上がらなければ、プーチンへの支持も下落するだろう。

もう一つは、国内の力の基盤である。プーチンからの委嘱を受けてチェチェン自治共和国を強権で支配するカディロフ首長が、モスクワでの勢威を伸ばし、国家保安庁(KGBの後身)と対立を強めているとの報道が相次いでいる。これは日本で言えば、地方暴力団勢力が首都での勢威を強めた場合に相当し、政権が物理的危険を抱えていることを意味するのだが、ロシア人達はこの点について口をつぐんで語りたがらない。

次に、ウクライナ情勢がプーチンの高支持率を支えているが、これは反面、情勢の推移如何では支持率がガタ落ちになる危険性も秘めているということである。東ウクライナは、人口の少ないクリミアと異なり、ロシアにとっては手に余る大きさを持っている。しかもその住民はロシア語を話すと言っても、クリミア住民ほど親ロ的ではない。東ウクライナでの攻勢は、プーチン自らしかけたものと言うより、撥ね上がり分子が抜き差しならない情勢を作り上げ、それによってプーチンは自らの面子をこの件にかけざるを得ない状況になっていると言える。ロシア国民は、「ウクライナ戦争」を望んでいない。かと言って、無原則な譲歩をすれば、プーチンの権威は地に落ちる。ウクライナはプーチンにとって綱渡りのようなものなのである。

ロシアの国際的立場と日ロ関係
プーチンは東ウクライナの領有は考えていない。彼は、西側がロシアの自尊心を尊重し、ロシアを過度に疎外するのをやめるよう求めている。彼の足元、そしてキエフ政府にも跳ね上がり分子はいるので、ウクライナではまだ一荒れ、二荒れあるだろうが、米国大統領選でロシアが主要なイシューになることはあるまい。米国民の大半はロシアにリアルな脅威を感じていないからである。ということは、巷で言われる「新たな冷戦」も定着しないだろうということだ。

ロシア国内では反米主義が吹き荒れているかに言われるが、モスクワ市内では国民的詩人プーシキンの銅像の真後ろの映画館が、ディズニーのアニメ「美女と野獣」の大看板を出していたし、深夜のテレビでは米国の有名歌手が視聴者参加番組に出演して青年たちから嬌声を浴びていた。

こうした中で、日ロ関係にも次第に展望は開けてくるだろう。ロシアが日本経済の救世主になるはずもないが、さりとて簡単に捨て去っていい市場でもない。日本はロシアの石油・ガス輸入を続けているし、日本企業はロシアから撤退していない。そしてロシア政府が振興しようとしている製造業や中小企業の分野においては、協力の可能性は大きい。
モスクワの街には「タヌキ」印の寿司チェーンの小さな車が24時間、ピザのように寿司を配達して回っている。「日本」はロシアでブランドになっている。日ロ関係は大事に維持していったらいいと思う。
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