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世界はこう変わる

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2007年11月 3日

「東南アジア」と「北東アジア」を分離して考える米国

(東アジア共同体評議会のサイト「百家争鳴」に掲載したもの)

   ヒラリー・クリントンがフォーリン・アフェアーズに出した論文を見た。イラクなど、主要な外交課題への処方箋を示したものだが、彼女が政権をとった場合のグランド・ストラテジーを僅かながら披露してもいる。「米中関係は世界で最も重要な二国関係」(同盟国にするという意味ではなくて、世界情勢に影響するところ大、という意味である)とする一方、日本については「米中日で環境協力を進めよう」という箇所、そして同盟体制強化を述べたところでインド、オーストラリアと並べて列挙しているだけだ。

   同じ伝で言うと、南東アジア、つまりASEANが彼女の論文からは完全に欠落している(いや、それどころか、「アジア」を総体的に捉える観点がここには見られず、中南米、アフリカに対する言及の方が多いくらいなのだ。中国、インド、豪州、日本といった国がばらばらに言及されるだけで、対アジア戦略が見られない。韓国、台湾も言及されていない。)「米国を除け者にしようとした」マハティールへのトラウマがあるのか、それとも米国にとってASEANは相手とするに十分な存在ではないのか。ASEANのメンバーであるミャンマーの情勢が荒れた時にも、米国はASEANではなく中国に助力を呼びかけた。

   ヒラリー・クリントンが力を入れて書いているのは、当面の外交課題となっている北朝鮮問題である。ここでは、野党の大統領候補の言葉としては若干奇異なほど、「北朝鮮との話し合い路線を取ってきた国務省」の政策を賞賛している。そして北朝鮮との交渉における中国の貢献を持ち上げ、「北朝鮮非核化をベースにして北東アジア安全保障体制を確立しなければならない」と書いている。

   この「六者協議をベースに北東アジアに安全保障体制を作り上げる」という行きかたは、最近の米国で流行の発想になりつつあり、同種論文が相次いで発表されつつある。そして日本政府は、これに慎重な姿勢をとっているようだ。日米同盟中心の現在のあり方を軽々に変えたくないのだろう。それに、北東アジアに集団的な安全保障体制ができれば(それは強制力を持ったきっちりしたものにはならず、せいぜい問題を集団で話し合うくらいの緩いものになるだろうが)、それはステータス・クオ、北東アジアにおける国際政治の枠組みの現状を現時点で固定するものになろうから、台湾、朝鮮半島情勢についてのみならず、日本の憲法改正、国連安全保障理事会常任理事国化もステータス・クオを変えかねないものとして、集団的な話し合いの対象としてくるかもしれない。

   それに米国は、日中韓の間の歴史・領土をめぐる係争に無用に巻き込まれたくないから、北東アジアに集団的な安全保障体制ができれば問題をそこに丸投げできる、という計算もしていることだろう。だがそうやってアメリカは、アジアでの発言権を徐々に縛られていく。世界の経済成長の機関車であるアジアは官僚主義と規制と集団主義の世界になってしまい、自由と民主主義は世界の少数派になってしまうだろう。

   他方日本は、これまでの体制にしがみつくばかりでなく代案を提示するべきだ。日米同盟を変える必要は毛頭ないが(ロシアの力の復活を見て在欧米軍司令官達は、在欧米軍を4万人削減する計画の実施をしばらく待つよう提案を始めているようだ。)、中国も加わった集団的な話し合いの場を制度として作ることも必要だろう。米国の頭がまだ固まっていないうちに日本からもアイデアを提供し、日本にとって少しでも望ましいものができるよう、努めて行くべきだと思う。

   そしてその「集団的な話し合いの場」は、地理的にもっと包括的、かつ有機的なものであった方がいい。中世以来のアジアは中近東世界とも不即不離の経済・通商関係にあったから中近東まで含めて考えろ、というわけではないが、せめて北東アジアだけではなく、南東アジア、つまりASEANをも含めて考えるべきだ。
  
   「東アジア共同体」的な動きの議論には、米国にも参加してもらうべきだ。東アジア諸国は米国への輸出でその経済発展を実現しているのだから、それも当然のことである。そして米国が議論に加わってくることで、東アジア共同体をめぐる動きも再び活性化していくことだろう。

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