Japan and World Trends [日本語] 日本では自分だけの殻にこもっているのが、一番心地いい。これが個人主義だと、我々は思っています。でも、日本には皆で議論するべきことがまだ沢山あります。そして日本、アジアの将来を、世界中の人々と話し合っていかなければなりません。このブログは、日本語、英語、中国語、ロシア語でディベートができる、世界で唯一のサイトです。世界中のオピニオン・メーカー達との議論をお楽しみください。
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世界はこう変わる

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2014年5月 8日

ウクライナ情勢の見通しなど

4月の22日、対外文化協会の第125回研究会で講演をしたのだが、まだ古くなっていないので、同協会の御厚意で、録音を起こしたものをアップしておく。

ウクライナ情勢とロシア、そして日ロ関係

 ご紹介あずかりました河東でございます。きょうは先輩、同輩の方々がたくさんおられますので本当にお話しにくいんですけれども、ウクライナ情勢について、一つの仮説のようなことをお話申しあげて、あとは自由な討論みたいな感じで進めていきたいと思っております。
(座ったままで失礼します)きょうお話のテーマは元々ロシア情勢について話をしろと言われていたんです。それが3月上旬のことで、その後ウクライナの情勢が厳しくなってきたものですから、日ロ関係についてお話するようなはっきりした段階ではないので、ウクライナ情勢を中心にお話申しあげたいと思います。

(最近のモスクワの雰囲気―ソ連回帰と経済の沈滞)

私は2月の後半から3月の初めにかけて毎年モスクワ大学のビジネススクールで集中講義をやるんですが、外交官がビジネススクールで講義なんておかしいと思われるかも知れませんが(笑)そう思いながら何とかやっているんですが、その間ウクライナ情勢が激したり、静かになったりして、その間ソチでオリンピックが開かれ、1週間休んでパラリンピックが始まったと、そういうような情勢の中でモスクワに2週間いたわけです。

ここ数年、モスクワの雰囲気というのはあまり変わっていないのです。ひと言で言えば「ソ連回帰」ということが言えると思います。(この写真はつい最近、3月のモスクワのアルバート通りの状況です。あまり天気はよくないんですが)モスクワのアルバート通りというのはご案内のとおり、ゴルバチョフ時代のペレストロイカの象徴でありまして、歩行者天国のはしりとして登場した活気のある非常におしゃれな通りであったわけですが、今ではあまり活気がなくて沈滞した感じになっているんです。いきなりウクライナの話でも仕方がないんで、ウクライナの情勢が激化する前のロシアはどのへんのところにいたかということについてお話申しあげたいと思います。

ロシア国内の情勢にはいくつかの特徴がありまして、その一つはやはり高い消費水準が定着したということが言えると思います。(写真説明・大体こういう感じで)大型のショッピングセンターがモスクワの中にほぼ無数に出来ていて、その中には外資のものもあれば、ロシア資本のものもあって、普通は中産階級の家族連れでいっぱいという状況です。高い消費水準の定着というのは、原油価格が高いから可能なわけで、原油価格が高いから改革もやらないという状況にあります。何か最近は野郎自大の自信というのが身に付くようになって、2年前でしたらロシア人の普通の人に「今生活、経済はいいですね」と話しかけると、「まあ、そんなに大したことはないんだ。原油価格が高いのでこういうことが出来るので、それはプーチンであろうが、プーチンでなくても、誰が大統領になってもこういう風になったんだ」ということを言ったんですけど、今のロシア人にはそういう原油に依存した改革不在の経済で繁栄しているという自覚がなくなっている感じがして、何か彼らは妙に自信をつけちゃったなという感じがしました

その一方で、本当の経済は停滞しているわけで、ご案内のとおり数字からとりましても、それはひどいわけで実質GDPの昨年の成長率は1・3%でしたから、その中でインフレが6・7%ですから、日本でいったらアベノミクスが理想とする姿かも知れませんけれど、いまのロシアでは停滞です。経済が実質的に停滞をはじめただけでなく、インテリは沈滞しております。テレビを見ても本当につまらない、人をバカにするような娯楽系の番組が増えています。それから大学で教えていると、最近は細かい規制がものすごく増えています。事務系に与党の統一系の人たちがコネで入り込んでは、自分たちの存在を正当化するため、いろんな細かい規制を下部に押し付けているという感じがします。ですからインテリは沈滞しているわけです。

全般的に沈滞しているんですけども、大衆はわりと期待をはじめています。何で期待するかというと、それはだんだん原油価格上昇による果実が自分たちにも及んでくるのではないかという期待です。具体的にはもうちょっとましな公営住宅の順番が回ってくるんではないか、といった類です。上から何かくるんではないかという期待。それはひと言で言えばソ連モデルへの回帰だと思います。

世論調査を見ましても、ソ連の方が良かったという風に答える人のパーセンテージが増えています。2月のLevada研究所世論調査によりますと、39%がソ連の政治体制で生きたいと答え、民主主義の下で生きたい者は21%に過ぎません。前者の数字は2012年には29%であったのが、増加しているわけです。そして市場経済が好いと答える者が29%なのに対して(1992年は48%でした)、計画経済が好いと答える者が実に54%に及んでいます。これは1991年当時の「自由フィーバー」を知る者から見れば、がっかりするような数字です。ソ連時代の店にものがない時代を知らない人たちが、ずい分増えてきましたから、そういう人たちが計画経済は何かということを十分知ることもなしに、何かもらえるんではないかという期待から、計画経済への期待を表明しているんだと思います。そういうわけでソ連モデルへの回帰がずい分見えるなという状況があります。ソ連モデルというのはひと言で言えば保守的な政治で、硬直的な構造の中で配分だけ何とかやっていく、言ってみれば上部の利権支配者と大衆が癒着して、インテリ層とかベンチャービジネスをやるような人たちを搾りたてるという構造であります。

(先ほどのスライドで見られるような)現在は、こういう風に大衆消費社会を現出したわけです。これはもう確固として地方都市にまで広がっています。地方都市まで消費生活は良くなりました。ソ連の経済というのは原油を輸出して得たお金をほとんど石油開発と軍備に使っていたわけですけど、軍備の部分を消費財の輸入に回しているわけで、そういう体制が定着したということは、なかなか大衆はこれから軍拡をすんなり支持しないだろうという感じであります。ただこういう消費社会のマイナス面は、大衆消費社会は成立しましたけど、結局はここで売っているもののほとんどは輸入品であり、ロシアの経済というのはソ連時代と同じく原油それからガスの輸出に依存して、それで消費財を輸入して繁栄を謳歌しているという状況にあるわけです。

それからこの20年間、20年間どころかゴルバチョフの頃からソ連・ロシアでは市民社会が少し出て来た感じがします。(この写真はご存じのとおり2011年12月総選挙の時の市民による決起集会の模様です)ご存じのとおり2011年12月の総選挙で、開票のやり方が不正だということで、心ある市民たちが決起集会を開きました。5万人とか10万人とか言われていましたが、実際には7万近い人が集まり、あたかもロシアでは健全な市民社会が成立して、明日にでも政権がひっくり返るのではないかという感じがしたわけですが、そこまではいかなかったわけです。なぜかというと、やはり中間層と言われる人たちが国家に依存している面が大きいわけで、その中間層の人たちの収入は1000ドルを超える世帯が半分以上で、実質的な公務員です。民間企業に雇われている者は、僅か35%だそうです。

それからいまから6年程前のプーチン大統領の発言なんですが、労働力の3分の1は予算から給与を得ていると彼は言っています。私は3分の1が公務員ということは想像しにくいもんですから、ロシア人に本当かと聞いたら、「何をバカなことを言うんだ、3分の1なんて生易しいものではない、半分以上そうなんだ」と言うわけです。実感はそういうことなんでしょうね。ですから結局いくら所得水準が向上しても、政府にものを言うとか、政府を倒すという気にはならないということがよく分かると思います。

それからリーマン・ブラザースの金融危機のあと、ロシアのGDPは7%縮小しました。ロシアの大手銀行は財務状況が悪化して、金融が非常に目詰まりして、ロシア政府は欧米の政府と同じく公的資金を銀行につぎ込んだわけです。銀行はそれから大企業に融資しましたが、結局国営の割合がまた増えてしまったという現象があります。現在国営部門は経済の50%です。何をもって50%なのかよく分からないですけども、見当としてはそれ位と思います。2006年が同じ数え方でみると38%ですから、明らかに国営部門は増えているわけです。

ロシア企業の悪いところは、アメリカの銀行にしても日本の銀行にしても、公的資金を受けた銀行というのは、イメージになりますから、受けても1年か2年で、出来るだけ早く返すわけですね。返さないと政府からいろいろ口出ししてきますし、市場でのイメージが「財務状態が悪い銀行」ということになってしまうからです。ところがロシアの銀行や企業は公的資金を注入されると本当に喜んで、いまでも返したという話は聞きません。ソ連時代からの依存意識が抜けないわけで、これは中國も同じです。

いまのロシアの経済というのは石油収入がずい分入っていますけれども、国家レベルでも税金の部分をかなり貯蓄に回して、使っていない部分が多いわけです。その中でプーチンさんがどんどん公約して財政が膨張するものですから、お金が足りなくなって、その部分は貯蓄分を減らすよりも国債でファイナンスするという妙なことをやっています。国債をずい分発行するものですから金利が高くなっています。ですからロシアの企業は国内の市場で起債しますと金利が高いですから、EUで盛んに起債しているわけです。こういうところでウクライナ情勢が起きているということなんです。

(これはもうこれまでの話の続きで、面白いグラフなんですけども)原油価格の推移をグラフで見てみますと、見事にロシアの政治情勢と反比例していています。ブレジネフ時代の末期はエネルギー危機で原油価格が高騰し、改革不在の反体制派の締め付けが強い保守政治の時代であったわけです。ところがゴルバチョフ就任の1985年に向けて原油価格が急落しはじめ、そこでゴルバチョフの改革がはじまり、それがエリツィンのいわゆる改革時代に続くわけです。2000年にプーチンが大統領になった頃から原油価格が急上昇をはじめるわけです。彼は本当に運がいいのです。原油価格の数え方はいろいろありますが、少なくとも2000年代に4倍になっているはずです。その間にロシアのGDPは実に6・7倍になっているわけです。中国の高度成長をはるかに上回るペースで成長が実現したわけです。でも要するに油価が上がるとそれを配分するだけの社会でありますので、私が最近ロシアの経済から受ける印象というのは、この国の経済と社会というのは堂々めぐりだという風に感じます。

最初に彼らは強権的な帝国をつくるわけです。その中には強い利権構造があって、メシを食いそびれた傍流のエリートというのが必ずできるんで、彼らは明治維新の板垣退助と同じですけど、自由を寄こせと騒ぎ出し、それに大衆の生活に対する不満が合わさると革命が起きて帝国が解体します。この中でまたすったもんだした挙句、いまのクリミヤ併合みたいにして、また「帝国」と強権的な利権構造をつくり上げ、それがまた崩れる、この間の経済規模はあまり変わらない。それが堂々めぐりだと思います。要するにゼロサムなのです。

20世紀初頭にチェーホフが戯曲『桜の園』で書いたイメージですが、第何幕かは忘れましたが、はるか遠くの田舎でインテリたちがよけいなおしゃべりをしていますと、はるか遠くでまるで天に響くようなもの音がします。それは弦の切れたような音で、次第に悲しげに消えて行くんです。これがチェーホフが描いた当時の雰囲気なんですが、劇場でこれがうまく演出されているという例に会ったことはないのですけど、登場人物達は「何だろう、あれは――」と身震いし、下男は「あの不幸の前にも、やはりこんなことがありました」と言う。その不幸というのは、1861年の農奴解放令のことを意味しているのです。この解放令は、1853年からのクリミヤ戦争でロシアの後進性が露わになったことで、行われた改革です。今回の「クリミヤ戦争」も、ロシアでの改革を促すものになるかもしれません。

今のモスクワの話しを続けますと、インフレが激しくなっています。公式数字では7%弱のインフレなんですが、生活実感ではもっと高い。そしてその中で経済成長は止まっているので、これは1970年代の米国と同じ「スタグフレーション」なのです。

こういうわけで、今のロシアは停滞しソ連回帰ということで望みはないかというと、そんなことはないので、20年間本当にドン底で苦しんだ成果はあると思います
例えばモスクワ大学ビジネススクールの学生を教えていますが、今年はロシアでも出来る製造業、サービス業は何があるだろうかということで議論したわけですが、何でそういうことをいうかと言いますと、これまでロシアでは製造業はダメだと思われていましたが、最近の世界では新しいビジネス・モデル、例えばファブレスとかアウト・ソーシングが盛行し、米国のアップルなどは製造の拠点を中国においているわけです。それからビックデータを使って新しいビジネスをインターネット上につくり上げるとか、そういう例が増えているもんですから、ロシアでも同じことが製造業やサービス業でできるだろうと、そういうことを学生と議論したわけです。学生はもちろん議論にくっついてくるし、ビックデータというのは何かということを十分知っています。そして卒業したらどういう分野にいくかと質問したら、昨年は国営企業のガスプロムに就職して安穏に暮らしたいというのが多くて、失望したのですが、今年は何か非常にやる気がある学生が多く、卒業後は数年間外国に留学し経験と知識をつんでロシアに帰って一旗あげたいという学生が半分を越えていました。これは聞いていて気持ちよかったんです。もっとも、外国がどのくらいロシアと違うか判っているわけでもないとは思うのですが、ロシアの学生には自分たちが世界の一部であるという意識が自然に身についているという点は、心強い思いがしました。ロシア人がヨーロッパやアメリカに行くということはごく自然なことであって、日本の学生が留学するほど大変なことではないということです。

ロシアは教育もいいもんですから、英語水準が高いということが言えます。日本の学生よりは英語の水準は比べものにならない程高いものがあります。しかし日本の学生もそうですが、ビジネスというものが何なのか、それから市場経済というものが何なのかについての「感覚」はないのです。例えばアエロフロートとかズベルバンクといった国営企業の財務データを分析してこいという課題を出したところ、(私自身分からないのですが)学生たちが書いたものを見れば何か分かるのではないかと出したのですが(笑)、学生たちはインターネットのコピペをやって、「ガスプロムというのは市場シェアがロシア最大の80%から90%を持っているから大丈夫だ」という、ガスプロムのホームページの第1ページ目に書いてあることを平然と移して提出してくるのですね、それ以外何もないのです。そういう人たちがほとんどです。

ロシアの国営企業の実態は、そんなに良くないんです。例えばズベルバンクの場合、この2年間位実質的には外貨とルーブルの間のレートがどんどん変わるもんですから、そこに実質的な投機をして、それで大変な利益を上げているところに融資をしていたわけで、ズベルバンクの財務状態は決して良質なものではないということを指摘する学生も3名いました。25名のうちの3名です。ですから20年間、市場経済化で苦しんだ成果はあるんだと思います。

実際の企業を見ても、製造業ではほとんどないんですが、インターネット関連の企業ではいくつか立派な企業ができています。代表的なものはヤンデックスで、これはインターネットのポータル会社です。これはロシア随一のポータル・サイトで、非常に立派なことはどんどん新しいビジネスモデルを打ち出すわけです・学生たちの送金ビジネスを請け負ったりして、実質的な金融ビジネスにも進出しているわけです。

またロシアのフェースブックに相当する「V kontakte」というサイトですが、これはサンクトペテルブルクに本社があって、フェースブックよりも、もっと機能的なサイトです。ただ最近FSB系の企業がこれを買い取る話をしているそうです。多分ダメになると思います。それからちゃんとした企業では「カスペルスキー」これも日本でビジネスをやっています。コンピューターのウイールスを除去するソフトを開発・販売する世界的な大手です。

(日露関係)

次に日ロ関係ですが、昔と様変わりしまして、LNGが日本の需要の10%弱がサハリンから入ってくるようになっています。それから石油も同じく日本の需要の10%弱がシベリアから入ってきております。石炭もそうです。それから製造業では日本の直接投資が増えています。例えばJTのジャパンタバコはロシアでは最大のたばこ企業になっていて、面白いことに「ピョートル大帝」、あるいは「ルスキー・スチール」――ロシアスタイルという銘柄のたばこも出しています。トヨタももちろん出ております。最近話題になったのは、ルノー・日産がトリヤッティのロシア随一のボルガ自動車工場の株の大半を買収したことです。この工場は私は行ったことはありませんけれど、地平線の向こうまで工場が続いているような大変な工場です。それからユニクロも出ております。ユニクロは3年程前にモスクワではじめて店を開いて、いまでは3店に増えています。ここに最初のころ入ってみて非常に良い印象を得ました。日本人の店員も若くてきびきび働いていましたし、ロシア人の店員たちも何というかものすごくやる気があって、ちゃんと研修を受けて、いつも売り場を歩き回って、自分の担当に関係なく、何か聞きたがっていそうなお客をみると「何かできることはありませんか」と案内するんですよ、今はダメになったかわかりませんが、非常にいい感じをうけた記憶があります。
               
それからご案内のとおり、もちろん昔と様変わりしたのは「日本」がブランドとして完全に成立しているということです。とくに文化面、それから日本食、ただ日本の生産財については無知な所がありますから、ここはわれわれの宣伝努力がこれから必要だと思います。ロシア人の資本による「やきとり屋」という日本レストランのチェーン店もあります。割と安く日本食が食べられます。それから毎年コスプレ大会が大使館の肝いりで行われています。アニメとか漫画が大変人気なのです。

こうした中でプーチン大統領は、ロシアの明るい未来へのシナリオを描いていたと思います。それは何かというと2月のソチのオリンピック、3月のパラリンピックの開催、それから5月になりますとユーラシア経済連合の発足、これはロシアとベラルーシ、カザフスタンが関税同盟を発展させて、EU委員会の模倣だとプーチン大統領が称する超国家的経済連合を発足させる運びになっているわけです。自分の足元を固めた上で6月ソチでG8の首脳会議をやる予定になっておりました。これは多分ダメになると思います。それから何年かかるか分かりませんが、プーチン大統領の外交の大きな目玉として、OECD加盟があります。先ほど申し上げた、ソ連に回帰するような国が一体どうしてOECDに入れるのかと思うんですが、むしろOECDへの加盟をテコにして国内の体質を改善することを考えていたのかも知れませんけど、そういうシナリオであったわけです。

現在の日ロ関係に戻りますと、私は「ちゃぶ台戻し」と見ております。それはクラスノヤルスク合意以降、北方領土問題の話し合いが進展していたのが、田中真紀子外務大臣が四島一括即時返還でないとダメと言ったことによって、ちゃぶ台返しのようになったわけです。それ以来民主党政権を経て、日ロ関係はがたがたしてきたわけですが、安倍総理のもとで一応首脳間の好感関係はつくることが出来、ちゃぶ台戻しが出来る段階になっていたわけです。ところが今回ウクライナ情勢が起きてすべてお先真っ暗になったわけです

(ウクライナ情勢)

(写真説明・これはウクライナの首都キエフの有名な........広場の集会です)今のウクライナの情勢を見て感じることは、本当にばらばらなんだと思います。また、ウクライナ情勢というのは、オバマやプーチン一人の戦略で動いているのではないと思います。かなり跳ね上がり勢力が情勢を予想外の方向に動かしてきた面もあると思います。それからそういった跳ね上がり勢力とも重なることですが、あの当たりに住んでいる人たちは血の気が多いなと思います。日本の東日本大震災のあとの被災者の方々の行動と比べてみますと、クリミヤやウクライナの人たちは、本当にすぐ悪意と憎しみであふれるんです。テレビなんかを見ていると言語や文化の違いが本当に大きな問題で、それに後れた経済が問題を増幅しているんだと思います。

そうは言っても騒動場面を映すテレビ・カメラの少し横では、平静な広場にアベックが歩いていたりして、必ずしも悪意と憎しみの一色で塗ることはできないのです。そういったすべての要素を合わせて、ウクライナという国の政治は本当に複雑であると思います。

ウクライナの主な人物を並べて見ますと、まずヤヌコビッチ大統領ですが、かれはマフィア出身だと言われていて、実際に過去牢屋に何年もつながれていたこともあります。彼はスピーチする時、人差し指を使って何か数字を書くしぐさをするんですね、これはマフィアのくせだというんです。(私もやらないようにしたいと思います・笑)またヤヌコビッチ大統領は以前から親露派と言われているんですけど、実際の出方というのは必ずしも親露派ではなかったということです。彼はウクライナの寡占資本家の利益代表であって、彼らの云われるとおり動き、彼自身もいろいろ利益を得ていたのです。それからヤヌコビッチ大統領の長男も負けずに利権を収めひんしゅくをかっている男です。

親露派と言われていたヤヌコビッチ大統領がEUとの連合協約を結ぼうと画策したことからすべてがおかしくなったのです。それに加えて野党があります。「祖国」とかいくつかありますが、野党もヤヌコビッチ大統領もいずれも寡占資本家のコントロールの下にありますので、たなごころの上で芝居をしているだけです。しかも野党の方には別のファクターがあって米国大使館からお金が入っております。米国大使館、それから米国のNGOからお金が入っております。そのお金を目がけて右翼といわれる連中がどんどん増えたわけです。とくに昨年11月に反政府集会が盛んになったころから、右翼と称される人たちの数がどんどん増えてきて、東ウクライナからもバスでサッカーファンや犯罪分子、スキン・ヘッドなどが集まったわけです。もちろん筋金入りの反ロ分子もいます。ただ金で動く連中の方が多いだろうと思います。
そのお金ですが、アメリカのNGOの金が野党を通じて右翼に流れてしまう面もあるし、それからヤヌコビッチ大統領も右翼に金を流しているのではないかという報道もあります。もちろん寡占資本家も右翼に金を出します。右翼というのはどこの国でも便利に使われますから、いろんな人たちがお金を出すわけです。

それから別のファクターとしては、ウクライナの諸地方が政治的に異なる方向を向いているということがあります。ウクライナの西部は昔からウクライナというよりポーランドとかリトアニアといっしょの地域であって、今でもNATO、EUといっしょになりたいという気運が強く、ロシアに対しては非常に反感を持っているところです。

西部地区は第二次世界大戦後にはじめてソ連に併合されたんで、併合された時に大変な血なまぐさいゲリラ闘争を展開して、たしか10年間くらい抵抗を続けたわけです。ですから彼らの反ロというのは筋金入りです。東部はロシア系が多いということで、NATO、EUへの加盟には反対です。東部というのは工業が発達していて、その工業を基盤にして寡占資本家たちが占めているわけですが、彼らはロシアに席巻されたくないんです。なぜ席巻されたくないかというと当然ながら、ロシアの企業の方が大きいもんですから、ロシアの企業がウクライナに本格的に入ってくると、ウクライナの寡占資本家の居場所がなくなるというのが基本的な状況なのです。その東部のロシア系というのはNATO、EUにも反対なんですけども、ロシアに統合されることにも反対だと言われています。でもこれは言われているんで本当かどうか、現地で一人一人に聞いてみないと分かりません。

それから別のフアクターとしてはもちろん米国大使館、CIAそれからNGOです。NGOというのは例えば、アメリカの共和党の下にはIRI(International Republic Institute)というNGOがあります。また民主党の下には同じくNDI (National Democratic Institute)というのがあります。彼らは、軍事力を使わずに民主主義を広めようということをやっているわけです。

共和党系のNGOは、ウクライナで長年活動しています。その代表である議長はマッケイン上院議員です。マッケイン議員は何度もウクライナにやってきて、反政府派の集会に出て励ましたりしているわけです。そういう風にしてアメリカのNGOはいろいろ反政府集会をあおったり、彼らを支持して危機的状況をつくり出しては、オバマ大統領を窮地に追い込むわけで、つまりアメリカの内政にウクライナを使うわけです。「オバマ大統領は弱腰だ、民主主義を求めているウクライナの大衆を見捨てる男だ」というわけです。

ですから冷戦後の一極世界では、ワシントンの内政が世界にスピル・オーバーする時代になっております。そしてさらに油に火を注いでいるのは傭兵の存在です。ご案内のとおり、最近アメリカの軍人とかCIA要員というのは現役よりもOBになって、アウトソーシングでいろいろ注文を受けた方が儲かるというものですから、どんどんOBになっているわけです。そういった連中が傭兵会社をつくって、現地や世界中から傭兵を募集してアラブなどに派遣して活動しているわけです。実態はよく分かりませんが、非常に複雑な感じになっております。そうした中で一貫しているのは何かというと、メシを喰いたいという欲望であります。みんな自分のメシの種のことしか考えてなくて、あとは野となれ山となれで、ウクライナ人のことは考えていないんです
次にいまのウクライナで影の実力者といわれる、古典的なオリガークがおります。その一人はアフメートフで、ドネツクを根城にいろいろ政治を操ろうとしているわけです。次はフィルターシ、この人はウクライナの天然ガス利権の総元締めです。前のユーシェンコ時代、ティモシェンコ首相からその権利を取り上げられたため、オーストリアに半分亡命していたわけです。このフィルターシが政権に戻ってきて、最初にやったことはティモシェンコを捕らえて牢屋に入れることでした。今回の事態でフィルターシはティモシェンコの復讐を恐れ、国外に逃げ出したんですが、以前からアメリカのFBIに目をつけられていたため、ウィーンでオーストリアの官憲に捕まったんです。
もう一人寡占資本家のポロシェンコですが、この人は5月25日の大統領選挙の有力候補と言われております。彼は東部でなくむしろ西部に基盤をおいており、腐敗はないと言われております。確かに清潔な豪邸を持っております。(笑)

ですから黒は白、白は黒の世界なんです。例えばマッケイン上院議員はヤヌコビッチ大統領打倒運動に与したわけですが、彼の大統領選PR担当だったデービス・マナフォルトという人物は、2008年のウクライナ大統領選ではヤヌコビッチに雇われております。何がなんだかわからない状況です。

それから傭兵なんかは現代のウクライナではありっこないという風に思うんですけど、ひょっとするとあるのではないかと思います。「グレイストーン」という傭兵会社のインターネットのホームページを見ますと「いろんな国の諜報機関や警察から優秀な人員を募集して、皆様に提供します」とあるんです。典型的な傭兵です。こういうわけで、ウクライナではいろんな人、勢力が入り乱れて政治ゲームをやっているわけです。

基本的には今から数年前、ウクライナがサッカーの欧州選手権をやった際、公共投資をずい分増やしてウクライナの経済が良くなったように見えたんですが、それも結局財政赤字であるとか、現地通貨の暴落につながって経済危機を生んだわけです。それからもちろんリーマン・ブラザースの金融危機があります。その煽りを受けた金融不況それから経済不況から抜け出すためにウクライナはEUのお金、IMFのお金に目をつけたわけだと思います。

それでEUとの連合協約を結べば何とかお金がもらえるんではないかと、多分安易な気持ちから交渉をはじめたと思うんですけど、EUはなかなかお金は出さない。出してやってもいいけれど、条件としてティモシェンコ元首相を牢屋から出せと言うわけです。ところが先ほどの経緯がありますから、ティモシェンコは滅多なことでは牢屋から出せなかったわけです。そのうちにロシアのプーチン大統領がヤヌコビッチに、「EU連合協定とロシアとの関税同盟は両立しないんだ。お前はどっちを選ぶか」と強硬な圧力をかけたわけです。それでヤヌコビッチ大統領はEUといつまで交渉していても引き合わないということで、連合協約から手を引いたわけです。それが11月中旬だったと思います。

そこからウクライナ政府に対する反政府集会が一気に盛んになったわけですが、かなり弾圧されて一時は尻つぼみになるかと思われたのが昨年末の状況です。ですから昨年12月ではプーチンの勝ちだなと皆思っていたわけです。私も、プーチンが将来ウクライナを経済連合に組み込むための体制を作ったなという風に思いました。ところが今年の1月末ぐらいになりますと、ウクライナの首都キエフの情勢がまた荒れてくるのです。

先ほど申し上げた11月の末から増えた右翼の連中による活動が激化、彼らは政府の庁舎の占拠をはじめたりして、どんどん情勢を悪化させていきます。その騒動が拡大した挙句、2月20日にキエフで無差別射撃事件ということがありました。広場に面した建物の上階からスナイパーが広場にいる警官たち、それから反政府派の人たちの両方を狙いどんどん射殺していったわけです。これが日中戦争が始まった時の盧溝橋事件みたいなもので、誰が何の目的で挑発したのか分からないのです。多分、反政府派と政府の間で事態鎮静化の方向で話がまとまろうとしたのを、右翼の連中がこうやって崩そうとしたのでしょう。

そういう風に情勢が尖鋭化したもんですから、2月21日、EU諸国のドイツとか主だった国の外相たちの同席のもとで、反政府派と政府の間で合意ができたわけです。それは2004年憲法を復活する、2004年の憲法復活ということは大統領の権限を弱めるということですけど、それから年末までに大統領選挙を前倒しで実施する、つまりヤヌコビッチを辞めさせる、そして反政府側による建物の占拠を解き、武装を解除するというものでした。これでうまく収まるだろうかと思ったんですが、案の定右翼は建物の占拠をむしろ拡大して、情勢をますます尖鋭化させます。

2月22日になりますと議会はヤヌコビッチ大統領の解任を決議します。それから大統領選を更に繰り上げ、5月25日に実施することを決めたわけです。聞いた話によりますと21日の合意のところまでは、プーチンもプロセスに関わっていて、合意を了承していたようです。ですから彼はヤヌコビッチを自主的に辞めさせることに合意したわけで、プーチンにしてみれば大変な譲歩をしたと思っていたらしいです。ところが右翼がどんどん出てきてヤヌコビッチは解任されてしまった、ここでプーチンは激怒したと言われています。自分はEUにだまされたと言ったそうです。

それから一週間たってからクリミヤの首都シンフェロポリで、ロシアの特殊部隊とみられる兵士によって空港等が制圧されたわけです。プーチンは以前からクリミヤを狙っていたと言われますけれど、これを見ているとやはり今回プーチンがやったことは、柔道に例えれば相手が押してきたから巴投げをくらわしてやったという感じにみえます。前から陰謀を練っていたと言うより、彼の即席の反応だったように見えます。

ここでプーチンがEUに騙されたと思ったきっかけは、多分メドベドチュックというウクライナ人ではないかと報道されているんですけれど、彼はクチマ大統領時代の大統領府長官で人脈が多彩で、主としてウクライナの寡占資本家たちの代表だと言われています。代表というよりエージェントですね。これがプーチン大統領となぜか非常に親しいんですよね。食事に呼んだり呼ばれたり、時々会っているみたいですね。彼が21日の合意をくつがえしたのはEUだという風に吹き込んだと報道されています。けれども21日の合意をひっくり返したのは、EUというよりは右翼の跳ね上がりなんです。

(「右翼」)

ここでは、ちょっと右翼について解剖してみたいと思います。どういう人達なのか。実際にはよく分からないんですけれども、ウクライナの右翼は昔からあって老舗は社会人民党です。ドイツのヒトラーのナチ、あれは国家社会主義ドイツ労働者党なので、ウクライナは社会人民党です。これが今では組織の名を「自由」と変えております。議会で37議席を有してティモシェンコの「祖国」と組んでいますから、割と穏健化しているわけです。しかしティモシェンコの方は過激化しちゃって、最近は反ロ的スローガンを盛んに叫びます。ティモシェンコの支持率は10%位に下っていますから、政治的力は激減しています。
この社会人民党の党首格であったパルービーというのは、現在政府の国家安全保障会議の書記、つまり公安関係の元締めに出世しております。この人がアメリカ大使館に頻繁に出入りしていたということを、前の公安長官が言っております。

これが右翼の老舗なんですけど、右翼の新顔はライトセクターと呼ばれる人たちです。党首はヤロシュという人ですが、昔からこういうようなことを職業にしてきた人で、実際には東部出身なんです。東部出身でロシア語の人です。それからライトセクター自体も党員は40%がロシア語を母語として東部出身者が多数なんだそうです。ですから東部のサッカーファンとかスキンヘッドとかそういう人たちが集まった面もあるんです。彼らは野心的に金集めしております。誰からでも金をもらうという感じです。

ヤヌコビッチ大統領が、2月20日無差別の射撃が行われているその日にヤロシュを自分のところに呼んで懇談をしたという報道もあります。その時にヤヌコビッチがヤロシュに金を渡したんではないかという観測もあります。このように、誰が誰からお金をもらっていて、その結果どういう風に動くかということは全然読めないのです。

右翼というのは大体この二つあるんですけども、この中でごろつき分子というのがいたわけですよね。建物を占拠してみたり、普通の市民をピストルで脅してお金を奪ったり、ほとんど追いはぎ的行為を行った人たちがいるんだそうです。その人たちがいろいろ西側でも非難を受けるようになったし、それからロシアから当然非難を受けますから、今から2週間位前と思いますが、そういうならず者を押さえつけようという試みが徐々に始まったわけです。武装解除です。その中でならず者分子であったムズイチコという男がいますけれども、この人は昔チェチェンでロシア兵を殺した人物なのですが、今回キエフの新政府に暗殺されてしまうわけです。ですから右翼は現在、かなり新政府に手なづけられてしまったのではないかと思います。東ウクライナに行ってロシア軍と戦いたいと思う人は、あまりいないでしょう。

右翼というのは、アメリカの意向を受けているのかというと、さすがにそうでもないみたいで、アメリカ大使館は自分たちが出している支援とか資金が民主運動勢力ではなくて右翼に流れ、その結果右翼が跳ね上がりをやるようになったことを苦々しく思うようになったようです。ですからアメリカ大使館は1月頃から右翼の過激化を諌める声明を出しています。ですから右翼は今、跳ね上がり行動をして情勢を予想外の方向に動かしてしまう可能性は少し減ったなと思います。

(米国務省の外交スタイル変化)

今回のウクライナ情勢にはいくつか要素があるんですが、その中には大きな要素としてアメリカによる民主化支援というものがあると思います。先ほど申し上げたようにアメリカのNGOはアラブ諸国でもそうだったし、ウクライナでも今回そうだったし、ウクライナの前回オレンジ革命の時もそうだったし、グルジアのバラ革命の時もそうでした。要するに情勢が荒れる条件の一つを作ったと思います。

そして今回は、アメリカの国務省が自ら前面に出てきたことが、ウクライナ情勢の新しい現象と思います。これまでアメリカの国務省というのは、上品で古典的な外交を担当していて、集会の現場に出てあおったり、そういうことはやらなかったと思うんですが、今回は欧州担当のヌーランド次官補がウクライナに何回もやってきて、反政府派の集会を訪れてクッキーを配ったりしています。ロシア人の中には、彼女が配ったのはクッキーだけでないんで一日に一億円を配っていたという人もおります。それからヌーランド次官補のご主人はオネコンで一番有名なイデオローグのロバート・ケーガン氏です。ヌーランド本人はネオコンではないと言われていますけれど、今回の行動は余りにも突出しています。

このようにアメリカ国務省の体質が随分変わってきて、アメリカの内政自体の変質を象徴しているようなものだと思うんですが、アメリカの政治において事実よりもストーリーが幅を利かせるようになったと。要するに、「プーチンは独裁者だ。昔のソ連の復活を策してクリミヤを取ることを前から考えていたんだ」というようなストーリーですね。そういうストーリーを事実であるかのように言って回って、それでもって対抗勢力を凹ませるというような広報、これは広報でなくてプロバガンダなんですけども、アメリカの外交が広報=パブリックリレーションズからプロバガンダに移ってきたという感じがあります。ロシアのプロバガンダに対抗している内にこうなってしまったので、自ら自分の品格を落とすことはないのにと思うんですけども。

最近アメリカの国務省から毎日やってくる電子メールを見ると随分品が落ちていて、例えば「ロシアが言う十のウソ」という表題がついていたりするのです。一つの国の外務省が相手の国の政府の言うことをウソという風に決めつけて、それに対して反論を長々と書いて配るという、昔では考えられないことなんですけれど、そういう要素があります。

また先ほど申し上げたアメリカの共和党の下にあるNGO、International Republican Instituteのウクライナ支部のインターネットのホームページを見ても、一体いくらのお金を誰にいくら出しているかという会計報告はない。透明性がありません。民主党の方のNational Democratic Instituteのウクライナ支部のホームページも同じく透明性に欠けているのです。というわけでいろんな要素があるんですけれども、これから先どうなるかということです。(随分時間が過ぎちゃったので、少し先を急ぎますと)

(当面の見通し)

4月17日に4者外相会議がありまして、東ウクライナでの親ロシア分子による政府の建物の占拠は撤去するという合意が行われております。しかしそれは実行されていないで、むしろ拡大されています。あの合意というのはタダの紙で終わっているわけですけど、やはり少しは効果があったと思うんで、当面の事態拡大は数日間は阻止したなと思います。それからもっと大きな効果というのは、事態収拾の責任がウクライナ政府から米露に移った感があるということです。ウクライナ政府は、ウクライナの軍と称するものを東ウクライナに送って、政府の建物を解放するといって一週間前に装甲車などを送りました。それがほとんどドネツクなどの郊外で、親ロシア分子によって止められ戦うこともなしにただ説得され、その場で武装車を親露分子に進呈してウクライナの兵士と称される人たちはそのままバスに乗せられて故郷まで喜んで帰って行ったということなんで、ウクライナ政府は無力を露呈しているわけです。ですがこのまま推移したらウクライナは無政府状態になったと思うんですが、とりあえずアメリカとEUが引き取ったということでその面ではよかったと思います。

じゃ当面のシナリオはどうかというと時間がないので端折りますけれども、ロシア軍が侵入する可能性もありますが、その可能性は少なくて一番大きな可能性は東ウクライナの騒乱が小規模に続き、「連邦化」で合意されるだろうということです。多分5月25日の大統領選挙は延期になるのではないかと思いますが、連邦化で合意できればいいと思います。ただ後で申し上げますが、連邦化といっても非常に難しい交渉になるだろうと思います。

今の状況というのはアメリカだって戦争する気はないし、ゲリラ戦位しかする気はないんですけれども、ですからロシアは東ウクライナを制圧しようと思えば出来ると思うんです。でもしないのはなぜかなと思うんですが、やはり一つは一昨日あたりの日本経済新聞が報じたように、ロシアに併合されたクリミヤで銀行等に混乱が起きていて、住民が困っているという。東ウクライナの場合は、ロシアに編入されればそうした問題はさらに大きくなるんです。それからプーチンさんはクリミヤを編入した時の議会の演説で言っていますけど、編入する前に自分たちはちゃんとクリミヤの住民の世論調査をしたんだと。そうしたらクリミヤの住民の大半がロシアへの編入を望んでいたから自分たちは編入した、ということを言っているわけです。ですからロシア政府は当然、東ウクライナでも世論調査をしていると思います。その結果が余り芳しくないんではないかと思います
東ウクライナをロシアが丸抱えしますと、その経済的な負担は大変なものになります。年間5兆円位に行くと思います。政府歳出13%分、これがほぼ丸々赤字要因になってしまうわけです。それからウクライナの対外債務の返済負担をロシアが引き受けることになります。経済はうまくいかないでしょうから、地元の不満が直に表面化しますし、ロシアの本土でも不満が表面化していくと思います。普通なら編入したくないでしょうね。ですからロシアは必ずしも東ウクライナを領土として手に入れたいのではないんではないかと思います。

それでも、クリミヤは取ったけれどもウクライナは全部西側に取られたというような感じで終わってはプーチンには絶対ダメなんで、ウクライナから手に入れたいものがあるだろうと思うんです。それは具体的には、一つにはNATOとの間の緩衝地帯を確保したいのだろうと思います。これは東ウクライナを中立地帯にすることを意味します。実質東ウクライナを独立させてです。それからもっと具体的なことは、東ウクライナと南ウクライナの兵器産業を押さえておきたいわけです。これはロシアの軍用ヘリコプターのエンジンの大半をウクライナが供給している、空対空ミサイルの50%、それから航空機、船舶のエンジンのいくつか、アントノフ輸送機の全部、それからICBMの主力のSS18、これは全てウクライナでかつて製造され、現在はメンテナンスをウクライナの企業が独占的にやっています。これらは、NATOに押さえられたらロシアとしては本当に困るわけです。それから、できれば東ウクライナを関税同盟に入れたいのだろうと思います。ウクライナが関税同盟、ひいてはユーラシア経済連合に入ってくれませんと、ベラルーシとロシアとカザフスタンだけではダメ経済連合になってしまうので、ウクライナを是非入れたいだろうと思います。
それから緩衝地帯と同じ伝なのですが、クリミヤへの物流が今、物凄く難しいのですね。半島に入るハイウエイや鉄道は全てウクライナ経由ですから、今閉められているわけです。ですからロシアは、ここに至る回廊を確保したいと思います。それからウクライナの南西に接するモルドバ共和国には沿ドニエストルという、ロシア人が集中している地区がありますけれど、ここが自治区みたいになっていて、ロシア軍が常駐していて、ここに至る回廊もついでに確保したいだろうと思います。それから一般に言われていないことなんですけれども、ロシア正教会の資産確保というのがもしかするとかなり大きなファクターではないかと思います。ご案内のとおり、ウクライナの教会というのはいくつかに分かれていて、その中で一番主なのはモスクワを本部にするロシア正教会で、資産もロシア正教会が押さえてきたわけですが、今回の騒動でキエフの有名な洞窟のある修道院、あれもウクライナ正教会が接収し始めたというニュースもありますし、プーチンさんは実質的にロシア正教会の長ですから、この資産を取られたことは我慢ならないだろうと思います。これらが、ロシアが持っている具体的な要求だろうと思います。

一方、西側の本意というのは、ウクライナみたいに厄介でかつ費用の掛かるものは、ロシアがそんなに嫌がるならどうでもいいというのが本意だろうと思います。だけれどもポーランドとかリトアニアにとってみればロシアに完全に取られたくない、なぜかというと、そうなるとロシアがこの二国にとって大きな安全保障上の脅威になってくるからです。

それでもウクライナ問題というのは、米国、EU、ロシアが真剣に交渉すれば妥協できそうなものと思うんですけれども、何かアメリカの見栄があってオバマさんが随分今までプーチン大統領に恥をかかされたものですから今回は、ちょっとその繰り返しはいやだろうと思います。これから11月になりますとアメリカの中間選挙がありますから、アメリカの方からの妥協は難しい状況ですね。それからロシア側の方の不確定要因というのは軍と諜報機関が跳ね上がり行動を取る可能性があると思うんです。

ウクライナの解決策は、いくつか提案されていてその中にウクライナを東西の架け橋にしたらいいという人もいるし、私も同じようなことを書いたのですが、そんなのはプロバガンダに過ぎないということは自分でもよく判っているわけで、なぜ難しいかと言えばプーチンはこういうことを言っているのです。要するにウクライナの市場というのは開放的であって関税が低い。これがEUと連合協定を結ぶとEUとウクライナ間の関税はほぼゼロになるだろうと、そういうようなウクライナがロシアとの関税同盟に入ってきますと関税がゼロになるんで、EUの産品がロシアにどんどん関税がゼロで入ってくるんだと、このような開放度には耐えられないということです。私は最初この言葉の意味が分からなかったのです。別にロシアは自分で何かを作っているわけでもないし、耐久消費財はほぼ全部EUから輸入しているのだから、それが関税ゼロで入ってくればロシアの消費者はいいだろうと思ったのですが、さっき考えついたところでは、そうしますとロシア政府は関税収入がゼロになりますから、そこが一番嫌なのではないでしょうか。そういった経済的理由をプーチンは上げております。後は基準・規格の問題です。

EUと連合すると二万位の基準・規格をEUに揃えるというわけで、ロシアの企業はウクライナで仕事をしにくくなります。ですからロシア側は、ウクライナがユーラシア経済連合とEUとの間の架け橋になるというのは机上の空論だ、というプロバガンダを展開しているのです。ただこのロシアの論調というのは説得力がなくて、よく分からないんですけど、基本的には、ウクライナをEUの企業が牛耳りますと、例えば直接投資などで、ロシアの企業は体力からいっても競争力からいってもウクライナではとてもビジネスが出来なくなるだろうということだろうと思います。

次に制裁についてちょっと検討してみたいと思うんですが、西側はロシアに対してどの位制裁をできるかということです。一つはエネルギー資源の取引を制限するというのがありますけども、これは欧州にとってもあまりいい話ではないので、これは欧州側は抵抗するだろうと思います。

次に可能な大きな制裁策というのは、欧州金融市場におけるロシア銀行の借入れを止めるという、これは効くんです。先ほど申し上げたように、ロシアの国内は高金利ですからロシアの企業はEUの金融市場に出てきて起債しているわけですから、これを止められるとロシアの企業は困ります。ところがそれを止めますと欧州の銀行も困るんです。欧州の銀行はロシアに対して(これは日経の記事の受け売りですが)約18.5兆円を貸し越していますが、これはロシアの全借入れの8割に相当するんだそうです。もしこのロシアへの貸し出しを制限するとロシアが返済が難しくなりますから、そうすると欧州の銀行が持っているロシアの社債等が不良資産化するわけです。欧州の銀行にとって、それは困ると思います。特に困るのはオーストリアのライフアイゼンやフランスのソシエテジェネラルなどが数千億円規模の大きな損害を被るんだそうです。もっと注目すべきことはイタリア、ギリシャ、ポルトガル、つまりEUの中の弱い環と言われている国々の銀行、これもロシア、ウクライナ向けの融資が多いんだそうで、ここの資産状態が悪化するとまたユーロ不安が再燃しかねないわけです。ドイツの対ロ貸し越しは少ないんだそうです。

もう一つの金融面での制裁は、ロシア企業による欧州でのオフショア決済を閉じてしまうことです。ご案内のとおり、キプロスとか昨年まではそういったオフショアのところにロシアの企業は随分口座を開いて、そこで決済をやっておりました。ですからそこを閉めればいいと思うんですけれども、それを閉めると今度は西側の企業がロシア側からの支払いを受けられなくなりますから、そう簡単に閉められないだろうと思います。

次に可能な制裁措置、これは日本の企業にとっても嫌なんですけれども、ロシアへの直接投資を止めるということが考えられます。これは西側企業の損失になりますからそこまではいかないだろうと思います。

ウクライナをめぐる今後の情勢における要因として心得ていなければいけないのは、アメリカとロシアの間で認識のズレがあるということです。どちらも仕掛けたのはお前だと思っているわけです。これはオバマ大統領がプーチン大統領を称して言っていることですけども、「あのプーチンと言うヤツは学校で言えば教室の奥でふくれている悪ガキなだ」と。ガキというのはbullyという言葉を使っていますけども、それはいじめっ子という意味です。それからヒラリー・クリントンが最近演説で言ったことですが、たぶんオバマの言葉を引いて「プーチン?ああ、あのスネた悪ガキね」と。スネたというのはよく傷つきやすい、何かすぐ怒る悪ガキ、要するにアメリカはこれまで散々民主化で仕掛けてロシアを窮地に追い込んだという意識がありませんから、プーチンが反抗するところしか目につかないんです。ところがプーチンからどう見えるかというと、クリミヤを併合する時の議会の演説なんですが、要するに「ロシアは、西側と平等でオープンで正直な関係を追求したが西側が応じてこなかった」と。それは本当で、西側、というのは特にヨーロッパもそうなんですが、ヨーロッパはロシアをものすごくバカにしていますし、それからアメリカ人はロシアを相手にしていませんからね。それでプーチンは更に言うのですが、「西側はロシアを何度も騙し、ロシアの背後でもの事を決め、既成事実を押し付けた」と。これはNATO拡大のことを主として言っております。

それからこれが肝なんですが、プーチンは「今回のウクライナ情勢で西側は限度を越えた」と言っています。これは、2月21日の合意を反故にしてヤヌコビッチ大統領を国外に追い出したことを言っているんだろうと思います。要するにロシアが勝ったと思っていたのを全部ひっくり返されたと思っているわけです。プーチンは「バネだって押さえつけられると、いつかは撥ね返るのだ」と言っています。今は撥ね返っているわけです。

撥ね返る、そうやって米ロが力比べをするとどうなるんだということなんですけど、核戦争までは多分行かないと思いますが、もの事は弾みというのがありますから行くかも知れませんけれども、アメリカの識者のポール・サンダースなどはその可能性を書いています。核ミサイルは弾頭の数から言いますと、アメリカの方が勝っております。ただ新型にした数からすると、ロシアの方が最近近代化のペースがアメリカを上回っているんですよね。オバマ大統領が非核化政策をやっていますから、核ミサイルの近代化が全然進んでいない。そういう状況にあります。それからロシアの方は、昔米ソが共に廃止した中距離核ミサイルを今再開発していると言われております。これを配備しますと、ロシアのヨーロッパに対する立場が非常に強くなるわけです。

それから通常兵力はどうかといいますと、今NATOの通常兵力はロシアの通常兵力をはるかに上回っているということになっているんですけれども、ただ実際にウクライナで戦争になった場合には、これはやはりロシアの方が圧倒的に有利なんだろうと思います。ドイツは戦いたくないでしょう。

それから制裁措置で原油価格の引き下げ、これは可能なんです。 これが一番効く制裁措置であります。それから、これは西側にとっても悪い話ではないはずです。西側で困るのは、アメリカのシェールオイルの開発が難しくなる、つまり原価割れするということなんですけども、シエールオイルの生産原価というのは、1バレル当たり70ドル位なのだそうです(数年前ですけど)。ですから80ドル位まで下げても大丈夫だろうと。ロシア政府の予算は1バレル90ドルを見越して作られているそうです。ですから80ドル位まで下げてくれば、ロシアにはかなり響くだろうと思います。そんなことをしたら、サウジアラビア政府の財政が困るんだろうと思うんですが、大増産すれば量でカバーできるはずなんです。ですからサウジが大増産してくれればいいわけです。そうすればロシアもシリアのアサド政権を支援できなくなるわけですから、サウジアラビアにとってもいいだろうと。

それからもう一つの手はイラクのクルド族地域を独立させてしまうことです。イラクはどんどんイランのシーア派が入り込んでいるんで、そういう国が分裂してもアメリカはもはや構わないだろうと思うんですね。クルド族の地域は現在物凄く発展していてクルド族地域の主都は、今高いビルが立ち並んでいて第二のドバイと言われ、大変繁栄をしているんだそうです。そこは石油の大生産地であって、そこから地中海までパイプラインが敷かれましたから、そこを独立させて大増産してもらえばロシアに対する打撃になるだろうと思います。後はシリアとイランで、ロシアがアメリカに対する嫌がらせをどこまで出来るかということなんですが、その能力は限られていると思います。

それから今アフガニスタンから米軍が引き揚げようとしていてその経路がロシアを通っているから、そこを閉めてやるんだとロシア人の識者は言っていますけれど、そしたら武器はアフガニスタンに捨てて兵員は飛行機で帰ってくればいいんですから、アメリカには全然響かないんですよね。

あと中国なんですが、中国がどういう風に動くかということが必ずしもシミュレートできないんで、ここが米ロ間における一つの不確定要因なんです。中国がロシアとどれ位組むかということです。現在の状況というのは、ロシアは孤立して中国しかろくな相手がいなくなっているわけですが、中国はだからといって別にロシアの肩を持つばかりではないんで、アメリカとの関係もよろしくやると思うんですね。しかもロシアが中国しか頼りになるものがないというのを分かっておりますから、ロシアに対する友情を維持するかわりにロシアから何かを取ろうとするだろうと思います。そのと取ろうとするものは何かというのはよく読めないんですが、もしかするとプーチンの十八番の「ユーラシア経済連合」に強引に入ってこようとするかもしれません。ですから中国との関係は、ロシアにとっていつまでも我慢のできるようなものであるかどうか、分からないと思います。

それからもう一つの要因は、米ロ関係は悪化しますけども、それがリセットするかどうかなんです。2008年8月のグルジア戦争後ではリセットするまで僅か半年強しか経っていないんです。ウクライナの場合はグルジアと違っていて、それはオバマさんがあと2年間以上大統領であるということです。しかも11月には中間選挙が控えているということが、グルジア戦争の時と決定的に違います。グルジア戦争の時はすぐアメリカの大統領が変わって、それでリセットということになったわけです。そういうわけで今回はリセットは難しいだろうと、もしかするとロシアは経済的な孤立を続けて、これからアメリカの景気が回復したとしても、それの余得をつかみ損ねるんではないかと思うわけです。

というわけで結局ロシアは、悪くするとクリミヤを手に入れたが、国は失ったということになりかねません。もしかすると将来クリミヤに「プーチン汗」という銅像が立つかもしれませんが、ロシアは別の国になってたりして、そういう状況になりかねないということです。なぜならば、一つはロシアではクリミヤのあとを受けて政治面での締め付けがだんだん強まりつつあります。ビジネス面でも締め付けが強まっていると思うんですね。そうしますと頭脳流出が激化するんだろうと思います。それから経済はマイナス成長になるだろうと思います。まだ今年の第1四半期はプラス成長ですけども、だんだんマイナス成長になる可能性はある。そんな中でインフレだけはどんどん激化してくると思うんです。ルーブルが低下しますから、その中で生活がどんどん苦しくなってくると、軍人、年金生活者等から不満が高まってくると思います。

そして、なぜクリミヤだけ優遇するんだという人たちが必ず出てくると思います。それに加えてロシアは地方の財政は赤字が累積しておりますから、あまりいいことはないんです。そんな中で極端なシナリオなんですけど経済が悪化して、モスクワの権力が後退してくると地方は自立化を強化します。タタールスタン共和国は以前からそういう要求をしていますが、ロシア人の地方も自立化を強化する可能性があります。極端な例はロシア革命の時であって、あの時は白軍関係なんですけどシベリア共和国というのが独立しましたし、それからこれは革命政府が自ら作ったんですが、極東共和国というのが数年間独立して日本とのパートナーとして存在しましたから、ロシアが分裂するということはつい最近もあったわけです。

それからもうちょっと可能性が高いのは、「ロシアが春になる」ということです。全般的に情勢が悪化する中で、インテリが権利の要求を強めると、アラブの春と同じような情勢になります。そうすると事態は結局20世紀初頭に戻ってきた感じがあって、冒頭に申し上げた、クリミヤ戦争が終わったばかりで弦の切れた音が聞こえたという感じではないかと思います。

旧ソ連諸国との関係なんですけども、これら諸国の中でウクライナ情勢について本格的に反応してるところはまだありません。ただ問題なのはいろいろ西側のマスコミで言われる、「ロシア人の保護を目的としてロシア軍が介入するモデルが、クリミヤで確立された」ということなのですが、あんまりそういうことを言うと、カザフスタンとかウズベキスタンにいるロシア人にとっては本当に可愛そうなことになります。彼らはウズベキスタンとかカザフスタンでは絶対的な少数者ですから、もしこの人たちを保護するためにロシア軍がやってくるという噂がウズベキスタンの社会で広まりますと何をされるか分からないんですよ。絶対そういうことを言ってはいけないと思うんですよね。

第二の冷戦というのは多分ないと思います。われわれにとってはむしろ問題なのは中国が日本に対してどういう風に出てくるかということですね。(後でまた申し上げます)そういう環境の中に日本は今置かれているわけです。ウクライナ情勢を巡って一言で言えば国際無法時代がやってくるかも知れない。もう既にやってきているかも知れないけれども、ですから尖閣の守りを強化しなければいけないし、それから米ロ関係が悪化しますからオホーツク海の戦略的意味が復活します。ここには、アメリカに向けてある核ミサイルを搭載したロシアの原子力潜水艦が潜っていますから、戦略的意味が復活します。これを守るために、ロシア軍は日本への威嚇を強化すると思います。すでに日本周辺に対するロシア軍機の偵察飛行は急増しているんだそうです。それに加えて、ロシアが今開発している中距離核ミサイルを極東方面にも配備すれば、それは日本に対する威嚇になります。というわけで日本は北と南双方で、防衛的な対応を強めなければいけない情勢になりました。これまでロシアとの関係を良くすることによって自衛隊の南方への集中配備を可能にしようとしてきたのですけれども、それを止めなければいけないことになると思います。同時に防衛だけではないんで(これは中国の話なんですけど)中国は沖縄とか南西諸島で住民投票をやらせようということを考えると思うんですよね。これには注意しないといけないと思います。

次にエネルギー政策の問題があります。もしかするとアメリカが圧力をかけて日本のロシアからの天然ガスと石油の輸入に縛りをかけてくる可能性もあるんです。しかし冷戦の時代でも日本はソ連に対してシベリア開発をやっていたんで、経済関係が全部なくなるということはあり得ないと思います。それから戦略的に言えば、ロシアは日本に歴史上の恨みを持たない稀な極東の国でありますから、そこは中国と韓国とは違うと思うんで大事にしなければいけないんです。むやみに敵対する必要はないんです。ただロシアが中国に対するカードになるから北方領土問題で譲ったらどうかと言う人もいるんですが、それほど力になる存在でもないというのは重々心得ておく必要があるかと思います。

それはどういうことかと言うと、ロシア極東地区と隣接する中国東北地方には決定的な力の差があるということです。人口では中国東北地方の20分の1、GDPの多分30分の1以下でしょう。経済構造は中国の東北地方は全部揃っており、ロシアのマトリョーシカまで中国の東北地方で作っているんです。軍事力も圧倒的な差があります。ですからロシアは極東地方においては中国に対する大したカードにはなりません。ただ心理的なカードであるにすぎないわけです。それにロシアの太平洋艦隊は強力であるかのように我々は錯覚しておりますけれど、実際には非常に脆弱でありまして、原子力潜水艦はカムチャトカ半島のペトロバブロフスクを基地としており、これの兵たん基地はウラジオストク周辺にありますから宗谷海峡を通るしかないのです。だから宗谷海峡を閉めればカムチャトカの基地は無力化するんです。

最近ロシアは盛り返したように見えますけれども、基本的にはソ連崩壊と言う歴史的な過程は続いているんではないかと思います。その屈辱に耐えかねて叫ぶのですけども、西側はこれに対して何もしないで手を控えているかというと、そういうわけにもいかないと思うんですね。アメリカにもウクライナロビーがいますし、その他のロビーもいます。それらのウクライナとかアルメニアと言った国々が安全と繁栄を求める気持ちに西側は応えざるを得ないだろうと思います。
それから今の世界の主な流れなんですけど、BRICSは大した力はないんです。海外直接投資が今でも世界の富の成長の大きな部分を生み出すと思いますけども、海外への直接投資の70%以上は先進国企業によるものです。そして彼らが主に投資する先というのは、やはり先進国なのです。

そして、アメリカは空洞化したと言われますけれども、戦後一貫して製造業で世界最大の生産額を誇っています。しかもアメリカ経済は回復に向かっているんで、対ロ関係の基本はそういった国際情勢の主な筋というのを見落としたらいけないだろうと思います。ユーラシア経済連合ができると言いますけれども、これは経済体質が後れた国の集まりで、コメコンの復活のようなもので、コメコンというのは昔は不用品交換会と悪口を言われていたんです(笑)。しかしロシアの企業は、そういう風な市場を囲い込んだ中でしか活動できない。それだけの競争力しか持っていないわけです。他方先進国の経済というのは本当に一大革新を経験中なんで、ユーラシア経済連合諸国というのは決定的に停滞する可能性があると思います。

というわけで対ロ関係の基本というのは何かというと、むやみに敵対視することは不要であって是々非々でTPOを心得て、次の極端な姿勢はとらないということです。一つは領土がダメならば経済関係もゼロだというようなことは、やはり極端だと思うんです。政経不可分ということです。それから逆の極端というのは、関係を促進するために、またロシアを対中カードにするために日本はもう領土は諦めるべきだということを言う人たちもいるんですけども、両方共賛成できません。領土問題をきょうに譲ってでも解決しなければいけない理由はないんで、それからロシアとの関係を改善するためには領土を諦めるということもないんで、関係を改善しつつ領土を要求し続けていけばいいわけですから、そういう風にして時効を中断しながら、むしろ領土問題が解決していないことをロシアの負い目とさせて、中国が歴史カードをよく使いますけど、日本が持っている数少ない歴史カードとして使えばいいと思います。経済関係は是々非々で付き合っていけば良いと思います。

オバマ大統領が来られるんですけども、アメリカはアメリカで民主化、民主化でどんどんやりますけどもその結果、多くの国を敵に回しているわけですよね。その端的な例というのは先般の国連総会におけるクリミヤ住民投票の無効決議です。賛成が100カ国で反対が僅か11カ国でした。西側が勝っただろうという風にアメリカ人なんかは言いますけれども、棄権が58で投票不参加が24カ国あったということは彼らは言わないですよね。ですから合計92カ国がロシアに同情的だったんです。100カ国と93カ国なんですよね。例えばイスラエルなんか欠席しているんです。後はちょっと調べていませんが、多分中国もアフリカ、中南米諸国などに棄権・欠席に向けて圧力をかけたでしょう。

というわけで、世界はほぼ二分されているわけです。何が起こっているかというと、アメリカはリーマン危機で経済的に魅力を失っているにもかかわらず、途上国でレジームチェンジを支援する動きを止めていないため、途上国の首脳から反撃を受けやすいのです。だから割と無駄なことをやっているんで、むしろ途上国の大衆を我々の味方につけないといけないと思います。そうしないと先進国が世界で孤立するだろうということです。

ですからわれわれは基本的には、武力により国境を変更するということには反対するとはっきり言うこと、これは中国に対しても使えることで、それから前向きのメッセージとしては日米欧がBRICSと共になって格差の是正、汚職の防止、環境の改善に努めていくという方向を示すべきだと思います。まあ第二のマーシャルプランとか、余りできないことを言ってもしようがないんだけども、そういう前向きなメッセージを打ち出すべきと思います。それから、TPPとTTIRの連携というのは大きな効果をもつだろうと思います。

というわけで、これはソチのオリンピックの開会式で有名な話なんですけど五輪の一つの輪が十分開かなかったということで、ロシア人たちはこれがアメリカだ何だと言って笑っているわけです。実際にはこれはロシアではなかったかということで、このお話を終わりたいと思います。どうも有り難うございました。


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