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世界はこう変わる

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2014年2月 6日

米国のいびつな復活

今は株が乱高下しているが、米国経済は復活の様相を強めている。住宅、自動車という消費の柱はリーマン以前の水準に戻ったし、金融機関も危機救済で政府から受けた公的資金を完済している。

そして「米国製造業の復活」の掛け声がこの頃では喧しい。中国での賃金水準が上がってきたこと、シェール・ガスによる安価な電力、シェール・オイルによる安価なガソリンなど、米国は今や「世界の中でも最も製造業の立地に適した」国になったのだそうだ。

しかしシェール・ガスは騒がれ過ぎの感があって(大規模ガス田は少なく、中小ガス田はすぐ枯渇するので、ひっきりなしに掘っていないといけない)、20年前の「中国経済」と同様、騒ぐことで関連株価を吊り上げ一儲けしようという連中がいるのだろう。僕はそれよりも、もっと構造的・法制的な面に注目しているまず一番にもっと正確な評価が必要なのは、労働組合の力が低下したことが及ぼす効果だろう。自動車労組の牙城だったミシガン州でさえ、州法で「労働権」が認められ、労働者は労働組合に「入らない権利」を認められるようになった。南部の州では「労働権」を認めていることを、工場誘致の切り札としているところもある。

米国の労働組合は自動車企業などで賃金を吊り上げ、年金を吊り上げて、「労働貴族」と言われる中産階級の形成には貢献したが、それによって米国自動車企業や重厚長大産業は競争力を失った。労働組合はリストラを怖れて設備更新にも抵抗しただろうから、それが米国の製鉄業等の衰退につながったのであろう。言ってみれば、米国の労働組合はソ連の共産党や中国の国営企業と同じような、改革を阻む勢力であったのだろうから、これが衰退したことは製造業の復活に資するのである。

労働組合の衰退は、昨今言われる「米国中産階級の衰退」にもつながっているだろうが、米国製造業華やかなりし頃にも、若手の労働者は不況時には真っ先にレイオフされる対象とされ、とても保護されているとは言えなかったのである。従って、労働組合が衰退した現在では、新技術、新ビジネス・モデルの活用で経済全体をかさ上げし、その中でできるだけ多くの国民の所得水準を上げていく、ということができるし、そのようなやり方しかあるまい。新規巻き直しである。

なお、「米国経済の復活」は財政面にも及んでいる。2013会計年度の財政赤字は6803億ドルで、前年から37,5%減少、5年ぶりに1兆ドルを割った。昨年12月に至っては、実に500億ドルを超える黒字となっているのである。フレディマックなど住宅ローン公社が2008年リーマン危機でつぎ込まれた公的資金を政府に返却し、その分が歳入として数えられている面もあるし、社会保障負担がまだ低いという要因もあるのだが、米国は本当にダイナミックにものごとを変える国だ。

それでもこの「復活」はまだいびつで、米国社会の所得格差は広がったままだ。昨年11月Richard Reevesがニューヨーク・タイムズに書いたところでは、所得最下位20%の家庭に生まれた人間のうち40%はその階層から一生抜けられず、最上位20%の家庭に生まれた人間のうち40%はその階層から一生脱落しない。

経済には、武力や知力で他者を搾取する帝国型と、超勤を重ねるチープ・レーバーで勝負する奴隷型があるが、米国は上層部がこの帝国型でグローバルに君臨すると同時に、国内にも奴隷層を抱えていると言える。上層部がGreed丸出しで高所得に走るのを批判する空気は米国のエリート内部にもあり、これは米国のピュリタン的伝統を反映するもので僕も本当に好きなのだが、格差はもう治るまい。

(以上は、「まぐまぐ」社から発行しているメルマガ「文明の万華鏡」第21号に掲載したものの一部です)

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