Japan and World Trends [日本語] 日本では自分だけの殻にこもっているのが、一番心地いい。これが個人主義だと、我々は思っています。でも、日本には皆で議論するべきことがまだ沢山あります。そして日本、アジアの将来を、世界中の人々と話し合っていかなければなりません。このブログは、日本語、英語、中国語、ロシア語でディベートができる、世界で唯一のサイトです。世界中のオピニオン・メーカー達との議論をお楽しみください。
ChineseEnglishRussian

世界はこう変わる

Automatic Translation to English
Automatic Translation to English
2013年1月 2日

個と秩序の両立 北欧諸国

年末にデンマークに行く機会があったので、見聞きしたことを記しておく。

経済不振と将来への不安

デンマークの経済は、リーマン・ショックからまだ回復していない。2009年にはGDPは実質で約6%も下落、その後1%強の成長に戻ったものの、2012年にはそのテンポが腰折れしている。その結果、社会保障の一部は削減され、家族の介護負担が増えている。失業率も6%強と、デンマークにとっては高めで膠着し、人々は将来への不安から消費を控えているため、経済の足が引っ張られている。デンマークはドイツ、ベネルックス三国などと並んで、EUの中では珍しく貿易黒字を収めているのだが、それも不景気から輸入が減少したことに多くを負っている。

長年社会保障のコンサルタントをやってきた男は、デンマークの社会保障体制はもうこのままでは維持できなくなるのではないかという不安感を吐露していた。その言葉のなかには、中国に席巻されることへの恐怖感(同じような恐怖感を、ヨーロッパ諸国は1980年代末には日本に対して持っていたのであるが)、そして失われてしまったヨーロッパ文明の優位に対するノスタルジアがうかがわれた。

但し、自動車に関する限りでは、日本車は全体の7%程度しかなく、韓国車に至ってはほとんど見かけなかった。

自発的に公共秩序を守る北欧諸国

今回は親族の葬式で行ったのだが、葬式の手配、手順などを見ていると、本当によく整った社会だと思う。皆時間を守り、心をこめ、分をわきまえてやっている。自己抑制して公共の秩序を守る、プロテスタント社会。いや、バイキングの昔からこうだったから、プロテスタントになったのか。
但し、各人はみんな自立した「個」なのだ。それも、非常に強い「個」で、そこは日本と違う。ノルウェーのベルゲンに車とフェリーで12時間もかけて帰る男は、スマートフォンで海の波の高さ、風速予報まで徹底的に調べている。何かあれば、自力で家族を救うつもりだろう。

カトリック諸国に住んだことはないので確かなことは言えないが、どうも個人の物欲、名誉欲が非常に強い感じがして、ともすればそうした個人を教会とか君主とかの強権で抑え込んできたのではないかと思う。それは、ロシア正教のロシアでも同じだ。プロテスタント達は、自発的に公共秩序を守っている、とでも言おうか。それは歴史的、社会的、人種的なものだ。

ヒッピー世代の疲れ

1960年後半から、北欧諸国はフリー・セックスの国ということで名高かった。それは無放埓ということではなく、結婚という法的形式にこだわらず、好きになれば一緒に暮らし、愛が冷めれば別れるという、感情に正直な生き方をすることを意味していた。それはアメリカでも同じで、「ヒッピー」として「自由な生き方」、「自分探し」を生活のモットーとしていたのである。戦後の経済成長で豊かになり、人々は自分の感情に身を委ねても生きていけるようになったのだ。

当時若かった世代は、今では60歳以上になっている。50年前には理想主義とロマンに身を委ねて生きていた彼らも、当時気の合った友人家族と共同して借りた一軒家を独占したくなっていたり、正式に結婚したりして、どうしても旧来の習慣の軌道に戻っている。離婚した女性も、別れた夫と友人として交際を続.け、彼は現在の夫と並んで座って自分の孫と談笑していたりする。

葬式の前夜、家から一歩外に出ると、冬のデンマークにしては奇蹟的に晴れ上がった夜空、東天に満月が煌々と浮かび、その下30センチほど(無限光年)にオリオンが忠実に侍る。澄み渡った冬の夜気。忘れられない。

石油大国の不満――ノルウェーの話し

ノルウェーから参列した親族から聞いた話。
ノルウェーは北海油田からの収入のおかげで今や、先進国中の先進国、住みやすさでもナンバー1ということになっているが、そうでもない。政府は石油税収の4%しか使ってはいけず(本当?)、残りは貯金することになっているため、インフラが粗悪である。ノルウェーは南北に細長い国で、石油産業の中心ベルゲンと首都オスロの間は500キロ離れているのだが、ハイウェーはない。そして路面の状態は悪い。デンマークからベルゲンへフェリーと車で帰るのにかかる時間は、デンマークから日本へ飛ぶ時間と変わらない。自動車を輸入すると、価格は関税でほぼ倍増するし、ガソリンも高くなっている。教育への投資も不足している。

警官の数が足りないために、ちょっとした窃盗事件では警察は相手にしてくれない。隣人にオーディオ・セットなどを盗み出された男は、警察に行っても相手にされず、「自分で始末をつけてくれ」と言われたそうだ。つまり、ちょっとした金目のものには保険をかけていないといけないのである。

ノルウェーは、移民や出稼ぎに寛大すぎるところがある。例えば数カ月ノルウェーで出稼ぎをしただけで、社会保障を満額もらえるようになる。失業率は2-3%で完全雇用に近いのだが、割のいい仕事は外国人に取られてしまうことが多い。
だから、生活水準は高いのだが、不満が移民政策に向けられやすいのである。このため、2011年7月の集団テロ事件の犯人は、政府の民族政策を攻撃の的としたのである。

エネルギー政策

ノルウェーは、石油に依存せずとも生きていける経済を築こうとしているのだが(インフラが悪いこともあって、あまり進展していない)、その一環としてトリウム炉の開発を意識している。ノルウェーには、トリウム鉱石の世界埋蔵量の14%があると言われる。

トリウム炉はプルトニウム(日本に大量に蓄積されている。高速増殖炉開発の見通しが立たない中で、その扱いは大きな問題である)を燃やすので、プルトニウムを処分する方策にもなる。他方、放射性物質をまったく出さないというわけでもない。

従って、日本国内でトリウム炉を建設するかどうかは慎重に議論する必要があるが、日本はトリウム炉開発のための技術は持っているので、たとえばノルウェー企業と提携することもいいと思う。ノルウェー人は、提携相手として信用できる。

他方デンマークでは、風力発電の世界的な草分け、Vesta社が資金不足のようで、三菱と提携の話しが進んでいるようだった。中国よりは日本の方がはるかに信用できる提携相手であることは、十分認識されていた。

コメント

投稿者: 福渡直躬 | 2013年1月 3日 09:30

明けましておめでとうございます。何時も貴重な情報を読ませていただきお礼申し上げます。
北欧は理想的福祉国家群と漠然と思っていましたが、どこの国にもあるような不満や問題を身近に感じました。にもかかわらず身の程にあった国家の在り方は借金漬けで生活する日本人が学ぶべき点ではなかろうかと愚考いたします。

投稿者: 福渡直躬 | 2013年1月 3日 09:32

明けましておめでとうございます。何時も貴重な情報を読ませていただきお礼申し上げます。
北欧は理想的福祉国家群と漠然と思っていましたが、どこの国にもあるような不満や問題を身近に感じました。にもかかわらず身の程にあった国家の在り方は借金漬けで生活する日本人が学ぶべき点ではなかろうかと愚考いたします。

トラックバック

このエントリーのトラックバックURL:
http://www.japan-world-trends.com/cgi-bin/mtja/mt-tb.cgi/2378