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2011年3月 6日

中央アジアとNIS情勢メモ―10~11月を中心に―

2010年10~11月周辺の中央アジアとNIS諸国をめぐる情勢をまとめてみた。主として露語、英語の公開情報に基づく。

1.中央アジアをめぐる国際環境
(1)米ロ関係の動向――今のところ続く「リセット」

●中央アジアの情勢を政治面・軍事面で大きく規定するのは、相変わらず米ロ関係だ。それは少なくとも、アフガニスタンで米軍が活動している間は変わらないだろう。そして米ロ関係の基調は、「リセット」、つまりブッシュ時代の過度とも言える対決路線から離れて、ロシアは適当にあしらい、その間米国は経済回復やアフガニスタンからの撤退に注力する、ロシアは米国の助けも得てその後れた経済構造を近代化する、という構図である。

●ただいくつか不安定要因がある。それは米国の中間選挙で民主党が敗北したため、共和党系の対ロ強硬路線が強まるのではないかということが一つ。少なくとも新START条約の批准は当面、ほぼあり得ないと思われる(他方、原子力協力協定の方は16日頃には議会の承認が得られている可能性がある)。もう一つはロシア内政・外交も2012年の大統領選挙をにらんで動き始めるということ。既にメドベジェフ大統領、プーチン首相とも、米国との核軍縮、ミサイル防衛共同開発がうまく進まない場合には、「新しい戦力」を配置することを明言している(11月30日のメドベジェフ大統領年次教書。12月1日のプーチン首相のCNNでの発言)。

●11月20日のNATO・ロシア首脳会議では、NATO側はMDの共同開発に向けてロシアと合意し、それをNATO・ロシア関係改善の印にしようとしたのだが、会議の場でメドベジェフ大統領が「ロシアのMDとNATOのMDをドッキングさせる」ことを提案したため、NATOの首脳達は身を引いてしまい、「MD協力」は宙に浮いてしまった。システムをドッキングさせれば、NATO側システムの機密の多くはロシアに抜けるし、欧州に敵ミサイルが飛んできた場合、ロシア上空での探知・撃墜はロシアだけがやる、というのでは、NATO側は困るのだ。

●そこでMD協力が宙に浮いている間に、ロシアが「新しい戦力」の開発・配備を進める可能性がある。それが中距離核ミサイル配備となった場合、1970年代末から80年代初めにかけて東西関係上、最大の問題となったINF(中距離核ミサイル)論争が再燃するかもしれない。

ブッシュ政権がポーランド等に配備を策したミサイル防衛装置MDは、実質的には1980年代ソ連の中距離核ミサイルSS-20に対抗して開発したPershing-2を活用し、中距離ミサイルとしても使えるものだと言われる。1970年代末、ソ連は欧州部にSS-20を配備したが、西独をはじめとした西欧諸国は、「これは西欧を米国から分離(decouple)する試みだ」(ソ連が西欧をSS-20で威嚇した場合、米国が米本土からのICBM発射の威嚇で応じてくれる保証がない、西欧本土にSS-20への対抗ミサイルを配備しなければ西欧の安全は守れない、との議論)として、米国製Pershing-2ミサイルの配備を働きかけ、その結果1987年には「SS-20もPershing-2双方とも欧州部には配備しない」とする米ソ合意ができた(実際には双方とも全廃したとされている)のである。

●その後中国、北朝鮮、イランなどがミサイルの開発を進めるにつれて、国境を接するロシアの軍部は中距離ミサイルの復活が必要であることを公言し始めた。同じ必要性を感じているだろう米国と語らって、中距離ミサイルを復活させたいというのが、彼らの気持だった。
ブッシュ政権がポーランドにMDを配備しようとしたことはロシア軍部にとって、米国が一方的に1987年の協定を破り、こともあろうにロシア本土を狙える中距離核ミサイルを配備すると見えたろう。MDというのはミサイルであり、それを上空に撃てばMD、放物線状に撃てば陸上・海上の標的を狙うミサイルとなる。核弾頭をつければ核ミサイルとなる。

●ロシアは既にS-300という優れた対空ミサイルを持つ。イランがこれを輸入しようとしたのを、米国が阻止したことは記憶に新しい。ところが、7月12日付ロシスカヤ・ガゼータ紙でのポポフキン調達担当国防次官の発言によれば、ロシアはS-300を上回る射程距離を持つ「対空兵器」S-500開発を重点事項としている。これはAlmaz-Antey社が担当し、「秒速5kmで飛ぶ3500km射程くらいのミサイルを撃墜するためのもの。更に性能を高めれば、秒速7kmの敵ミサイルを200kmの高さで落とせる。大陸間弾道弾は時速9kmで飛ぶが」由。これは米国のMDと異なって、敵ミサイルに直接あたるのではなく、周辺で自爆(核爆発)することで敵弾頭本体と囮弾頭も一網打尽に撃墜する、ソ連時代のABMの設計思想に基づくものであるらしい。

「S-500の射程は600km」というが、この射程は短距離ミサイルのカテゴリーだろう。だが、どのような角度で発射するかで射程も変わってくる。これが空ではなく陸上の目標を狙った場合、バルト諸国、東欧諸国、イラン、北朝鮮、中国東北部、新疆地方、アラスカなどが射程に入ることになるだろう。性能を上げれば(SS-20を復活させればいいのだ)、これは中距離核ミサイルともなるだろう。

●対空兵器で陸上目標を狙うことなどあり得ないと思う人もいるかもしれないが、7月14日付の「軍産クリエール」誌で同じポポフキン次官は、「7月、極東での大軍事演習VostokではS-300で陸上、海上目標も撃って成功を収めた」と述べている由。従って、S-500開発の名目に隠れて中距離ミサイルが開発されているならば、それは今後の米ロ関係、あるいは国際情勢全般にとり、大きな不安定要因となり得る。

●米ロ関係における他の不安定要因としては、11月30日のメドベジェフ大統領の年次教書が、2012年大統領選挙に出馬しようという政治家にしては大きな政治的メッセージを欠いていたがゆえに、「プーチン大統領再選」の実現性が高まったことがある。メドベジェフは経済を「刷新」するとの政策を掲げ、そのために米国との技術協力を重視しているが、プーチン首相はこの点については後ろに引いている。彼は天然ガスや石油についても、「西側が買わないなら中国に売るからいい」と公言している。

●最近のロシアでは工業製品を輸入しようとする場合にはまず中国に頭がいくようになっており、中国との経済協力でロシアはやっていけると思い込んでいても不思議ではない。また中国の方でも民営企業が国営企業に圧迫されるケースが増える一方、インフレが昂進するなど、当局の経済介入を強める方向でものごとが進行している。従って中間選挙後腰が定まらず、経済回復もおぼつかない米国との関係は一時悪化しても、中ロ両国の提携でやりたいことをやっていこうと双方が思い始めても不思議ではない。
つまり、米ロの「リセット」は既に頂点に達していて、あとは悪化の方向に転化するしかないのだとも言える。中ロが提携してその権威主義に支えられた利権構造を維持しようとする絵図は、さながら19世紀ナポレオン戦争後のオーストリア・ロシア間の神聖同盟を思わせる。

(2)NATOの新戦略概念とロシアとの「和解」
 ●NATOは11月19日、リスボンで首脳会議を行い、11年ぶりに「戦略概念」を改訂した。そして20日にはロシアとの首脳会談を行って共同宣言を発表し、2008年のグルジア戦争以来の対立を収めたのである。それは米ロ間の「リセット」にかなったものだったし、またドイツ、フランス等「古い欧州」諸国が望んでいたことでもあった。
12月初めにはウィキリークスが、「NATOはバルト諸国有事(ロシア軍が攻撃してきた場合)の際の作戦計画を決定していた」ことを暴露したが、有事の作戦計画などはあらゆる国の軍が作っているものだし、「米ロ・リセット」の基調を崩す意志が未だないロシアは殊更問題にすることもなく、12月11日にはアフガニスタンから米軍が撤退する場合、装甲車も含めてロシア経由の陸路使用を認める合意を発表した。

●新戦略概念は、冷戦後のNATOの方向、特にNATO域外の紛争予防・解決にNATOがいかなる姿勢を打ち出すかが注目されていたのだが、基本的には曖昧なもので終わったと言えよう。数年前には「冷戦後のNATOの新しい使命」として域外への対処に熱意を燃やしたNATOだったが、実際にアフガニスタンで戦死者を多数出したことですっかり後ろ向きになったと言える。

●NATOは既に加盟28カ国を数え、その決定は満場一致でないと行われないことから、大きな方向転換はほぼ不可能な状況にある。英独仏などの「古い欧州」は冷戦終結の果実をむさぼりたいのに対し、バルト諸国、東欧諸国などの「新しい欧州」はロシア軍の脅威を現実のものとしてとらえ、軍事同盟としてのNATOに依然期待している。米国は動きの鈍いNATOに厭気をさして、「新しい欧州」諸国に個別に対応することで欧州情勢をコントロールする方向に転ずるかもしれない。

よく「欧州は2度の世界大戦を経て、絶対戦争の起こらない協調のシステムを作り上げた」と言われるが、そのシステムの中核を成していたEUも、それを支えるOSCE、NATOなどの組織も目詰まりを起こしている。そして西欧諸国に多数定住した中東系諸民族は西欧的価値観と同化せず、社会を根底から変えつつある。金融危機の影響もあり、欧州も深刻な転換点にある。

●かくしてNATOは軍事同盟としては曖昧化しつつあるが、ユーラシア大陸のパワー・バランス、特に台頭する中国を念頭においたバランス・ゲームにおいては一つのactorとして存在感を強めつつある。ロシアにおいて右派は、「NATOとの関係を強めれば、ロシアがイスラム諸国、中国との対決の前線に立たされ、西側に利用されるだけだ」と言ってNATOとの協力に反対し、リベラル派は、「NATOとの関係を強めてはじめて、ロシアは中国と安心してつきあえる」と説いている。軍事同盟としてはあまり動けないNATOだが、その政治的存在感はやはり大きい。中国にとっては、NATOとロシアの接近は好ましいことではなく、NATOとの交流を拡大することで危険性を薄めようとしている。こうした状況で日本も、NATOとの政治交流を強化していく必要がある。

●リスボンでの首脳会議に同席したグルジア代表団は、ホテルに80人もの売春婦をよびどんちゃん騒ぎを繰り広げて、同宿のサルコージ・フランス大統領一行からクレームを受けたという報道もあった(11月26日付毎日新聞)。NATO加盟を地で行ったものと思われる。

(3)アフガニスタンをめぐる情勢
今の中央アジア情勢は、アフガニスタン情勢からいろいろな意味で強い影響を受けている。以下に、いくつかの報道を列挙しておく。

●11月のNATO・ロシア首脳会議に向けNATO側は、ロシアからアフガニスタン作戦への支援をできるだけ搾り取ろうとした。ソ連は、ソ連軍の撤退後もイランとともに北部同盟への支援を続け、兵器、戦車、ヘリを供与していた。だからアフガン政府は今でも約25のMi-17ヘリを持ち、ロシアでパイロット訓練を行っている。
それに加え数機のロシア・ヘリがアフガン側にリースされており、中には撃墜されたものもある。ロシア製ヘリコプターMi-8、Mi-17は、アフガン用に開発した塵埃防護装置がついており、米国防省はイラクでもリースした。西側はできればアフガンでの作戦用にこれを購入したいが、Mi-17は今では1機1800万ドルもするため、米議会は支払いをためらっている。(以上10月末Jamestown中のフェルエンガウエル論文)

●ラスムセンNATO事務総長が11月5日にロシアを訪問した際にも、アフガニスタンをめぐって大きな合意が成立するとの期待が高まった。11月20日のNATO・ロシア首脳会議では、具体的な合意の発表はなかったが、12月11日になってやっと、米軍撤退時、装甲車も含めてロシア領を通り抜けることを認める合意が発表された。11月10日のコムソモルスカヤ・プラウダ紙は、「米軍のアフガン撤退でロシアは数億ドル儲けられる可能性がある。コンテナ一つのロシア領内通過で1800ドル取れるが、コンテナは数万あると思われるからである」と報じている。

●9月30日のロシア紙「週の議論」は、セルジュコフ国防相が初の訪米から帰国してから、アフガン作戦経験のある第45独立偵察連隊をアフガンに送ることについて、シャマノフ空挺軍司令官の意見を聴取したが、シャマノフは反対を表明した、と報じている。

●右に関連するかもしれないが、11月3日付Centrasia.ruは、米ロ両国及びアフガン政府の「兵力」がパキスタンとの国境近くで4つの麻薬製造所を破壊したと報じている。10月30日にはロシアのイワノフ麻薬取締庁長官がこの作戦を発表しており、200万人分のヘロイン・モルヒネを廃棄したと述べている。右報道は、これはカルザイ大統領の弟(麻薬を含め、諸利権への関与がうわさされる)に向けられた警告でもあり、弟を野放しにしているカルザイ自身への罰でもある、と評している。カルザイには、この作戦にアフガン政府兵が参加することは知らされていなかった由。カルザイは、「(この作戦は)アフガンの主権を侵害するものである」との声明を発表している。

 ●10月29日、タジキスタンの首都ドシャンベにキルギス、中国、アフガン、イランの運輸省代表が集まり、中国新疆のカシュガルからキルギス、タジクを通ってアフガンのカンダハルまで鉄道を建設する構想について議論した。将来はこれをイランまで延ばすことを念頭に置いている由。「中国新疆からアフガンを通ってイランのペルシャ湾岸までを結ぶ鉄道」は第一次世界大戦の前、ドイツがバグダードまで鉄道を敷くことを策してその野心を疑われた史実を思い起こさせる。

(4)麻薬の政治学
 麻薬は中央アジアの政治を語る場合、除外できない要素である。政変、騒動の背後に麻薬利権をめぐる闘争がある場合が多く、それはタジキスタン、キルギスについて特に言えることであるからだ。関連の報道を集めてみた。

●アフガニスタンは世界の芥子生産の中心地となっている。10月29日付モスコフスキー・コムソモーレツ紙によれば、アフガンの芥子作付面積は12.3万haだが、コロンビアでは毎年23万haのコカ畑が閉じられている。アフガニスタンの芥子は農民が自分の意思で作っているのではなく、地主から強制されて作っている由。農奴的な労働で、家族ぐるみでやっても年間70ドルくらいにしかならない。しかし持主にとっては、小麦を作らせるより3~6倍得になる。

●9月4日の「グルジアオンライン」によれば、ロシアはヘロイン消費が世界一で、供給の90%をアフガニスタンに依存している由。1回注射分は2.5ドルでウォトカより安く、年間3~4万人死亡、この10年で中毒者は10倍の600万名になった由。
同じ報道によれば、アフガン製麻薬の30%がタジクへ流れ、そのうち2/3がロシアへ流れている由(ヘロインで200トン分)。
他方タジキスタンの麻薬取締庁によれば、アフガニスタンの麻薬の59%はイラン北部、トルコを経て欧州へ行く(バルカン・ルート。コソヴォ、モンテネグロあたりを通るらしい)ものと、コーカサスを経由してロシア・ウクライナへ至るものに分かれ、更に35%はパキスタンから豪州へ流れている、タジキスタンからキルギス・ウズベクを通じてロシアへ流れているのは「15%に過ぎない」由(11月2日付Centrasia.ru)。

(5)OSCE準備会議での狼藉
 ●12月1,2日にはカザフスタンのアスタナで11年ぶりのOSCE首脳会議(第7回)が開かれたのだが、9月30日には右準備の意味もあって、ワルシャワで毎年恒例のOSCE民主人権局主宰の会合が開かれた。6時間で100人が演説するほどの盛況で、欧州数十ケ国の国内、そして相互に渦巻くあらゆる問題、うらみ、妬みが露わになった(解決はされなかった)。ビュフェに内から鍵をかけてポーランド人のウエイトレスを乱暴する者までいたと言うから、大変なものだ。

 ●OSCE首脳会議の方は、ナゴルノ・カラバフ問題などの係争が障害となって、共同宣言は出したもののこれから数年の行動計画については合意できず、竜頭蛇尾の結果となった。メドベジェフ大統領、メルケル首相、ベルルスコーニ首相、クリントン国務長官などが顔を揃えたが、結局は議長国カザフスタンの顔を立てただけの会議となったようだ。メドベジェフ大統領がこの2年間にわたって提唱している全欧安全保障条約構想の「こ」の字も議論された形跡がないのも、また興味深い。
 
(6)上海協力機構(SCO)
 11月26日、タジキスタンの首都ドシャンベで、恒例のSCO首相会合が開かれた(大統領クラスの首脳会議とは異なり、経済実務問題に主眼)。プーチン首相は、「これから10年間の加盟国間貿易・経済協力の工程表を作ろう。これを実現するために共同基金を作ろう」と提案した。

 この「共同基金」については10月25日のロシア新聞でナビウリナ経済発展大臣が説明している。それによれば、ユーラシア開発銀行、ユーラシア経済共同体に既に設けられている世界金融危機対策基金、及び中国の投資公社などが拠出することを想定しており、エネルギー、運輸、電信、省エネなどの案件を主として融資対象とする由。
 だが、右プーチン首相の提案がフォローされた形跡も見られないし、SCOをベースとする経済協力案件などが盛り上がる気配もない。

(7)中国の動向
9月15日付のCentrasia.ruは、中国は(新疆の)ウイグル族がタリバンやIDU(ウズベキスタン・イスラム運動。ウズベキスタンの名がついてはいるが、現在ではアフガニスタン、タジキスタン、キルギスでの広域活動を強化している)に接近することを恐れていると報じている。ウイグル人はアフガニスタン、パキスタンで訓練を受けている由。
他に中国との関連では、前出の新疆カシュガルからイランのチャフバハル港まで鉄道を建設する動きが始まったということ、また温家宝首相がキルギスのオトゥンバエヴァ大統領にキルギス南部復興への資金援助を申し出て、4月政変で損なわれたと思われる中国のプレゼンス回復の動きに出たこと(後出)が目新しい。

(8)モンゴルの動向
カザフスタンとモンゴルはほぼ隣国で(間にロシア領が細く食い込んでいる)、両国とも中国を北から包み込むような地位にある。従って、中央アジアを考える際にはモンゴルをぬかすわけにいかない。

●11月初旬のJamestownニュースレターによれば、モンゴル政府は11月2日、新鉄道建設案を承認した。それは銅、金、原料炭の大産地である南部のダランザガド(中国との国境から僅か80km)と北部のチョイバルサン(ウラン、原油生産地で、ロシア、中国双方に近い)を結ぶものである由。
アジア開銀と世界銀行はモンゴル政府に、南の中国と連結するよう提案したが、モンゴル政府はロシア鉄道との連結を選んだ。中国嫌いの世論の手前もあるほか、ロシア鉄道と結べば極東の港に出ることができるからだ。もともとロシアの鉄道は、モンゴル鉄道公社の株の50%を所有している由。

●中央アジアはウラン鉱石の宝庫だが、モンゴルもそうであるようだ。10月22日のkursiv.kzによれば、モンゴルの原子力公社は米国企業とウラン採掘のための合弁企業を作るべく交渉を始めた由。ゴムボ社長は、確定埋蔵量は6万2千トンあると称している。
モンゴルでは昨年、ドルノド・ウラン鉱山からカナダのKhan Resources社を追い出したばかりだが、後者はこれはロシアのロスアトムが背後でしかけたことだとして訴訟の構えを見せている。米国との合弁も円滑には進まないだろう。モンゴル政府側が51%以上の株保持を条件としているからだ。

(9)トルコの動向
トルコは学者のダウトオールが2009年外相になって以来、それまでのEU加盟最重視から中近東、中央アジアで独自の足場を築く方向に外交路線を転換した。GDPでもロシアとほぼ並ぶ大国で、オスマン帝国の後継という点からは、ロシア並みの国際的地位を与えられてしかるべき存在なのだ。トルコは流通ばかりでなく、特に建設企業がロシア、中央アジアなどに進出を強めている。

●そしてトルコは最近、中国との関係を大きく進めて注目された。10月初旬首都アンカラを訪れた中国の温家宝首相は、エルドアン・トルコ首相と何本もの覚書を交わし、「戦略的関係」の樹立を宣した。シルクロード鉄道事業の共同研究、決済同盟の約束も含む。中国国家開発銀行とトルコのAKBANKが交わした合意によれば、今後両国は、ドルを介さず各々の通貨で貿易代金を決済できるようになる。但し2009年の両国間貿易は中国側の圧倒的な黒字だから、トルコは元不足に悩むことになろう。
そしてトルコの鉄道建設等に中国が深く関わり、3兆円近い資金をトルコに貸し付ける。トルコはもともと2009年6月にギュル大統領が訪中して中国への関心を示したのだ。だが09年7月、中国・新疆ウイグル自治区で起きた暴動が征圧された時、トルコ国内に居住するウィグル人たちの圧力も受けたエルドアン首相は北京の対応を「ほとんど集団虐殺」だと呼んで非難した。そのしこりはもうなくなったのだろうが、温家宝来訪の際、トルコが反テロ闘争で中国に協力する姿勢を示したことは、トルコ国内に居住するウィグル人から反発を呼んでいる。

●温家宝来訪に先立つ9月末から10月初めにかけて、アナトリア地方のKonyaでトルコ・中国空軍による共同演習が行われた。トルコ空軍は例年、NATO軍や米、イスラエルと演習を行ってきたが、トルコは昨年、ガザ侵攻を理由にイスラエルの参加を拒否、米国がこれに反発して不参加となった経緯がある。
中国との共同演習はこれに代わるものだろう。それだけでも米国、イスラエルにとっては刺激的だろうに、中国空軍機はイラン領空を通過して飛来した。米国、イスラエルの嫌うイランとの緊密な関係を見せつけたのだ。米国はさすがに、このトルコ・中国共同演習にF-15が加わるのを止めさせたようで(情報流出を懸念)、トルコからは旧式のF-4が演習に加わった由。

●11月8日には中国国防部長が、「人民解放軍とトルコ軍が同日からトルコで初の陸軍合同訓練を実施、約1週間の日程で、山間部での突撃訓練などを想定している」と発表した。中国は一連の対トルコ接近で、NATOや米国製兵器などの情報入手を狙う他に、トルコに中国製兵器の売却も策しているのだろう。

●そして11月2日のCentrasia.ruによれば、トルコの国家安全保障会議は最近、潜在敵国リストからアルメニア、グルジア、イラン、シリア、ブルガリアを除き(ロシアは残した由)、イスラエルをリストに入れた由。他方、イスラエルの山火事に際しては消防飛行機2機を差し向け、デリケートな外交を繰り広げている。このように微妙な外交は、何かの拍子で一角が崩れると高転びしがちなものだ。

(10)コーカサス地域の動向
 コーカサス地域の動向も中央アジアの情勢に間接的に響くので、重要な動きを書いておく。
●アゼルバイジャンの国防予算倍増(10月13日、エーホ・モスクヴィ)
 アゼルバイジャンは2011年度の国防予算を倍増させる。2010年のGDPは6%伸びており(石油部門が約40%を占める)好調なので、2011年の国防・諜報予算を予算総額中19.7%にまで比重を高める。これは2010年の10.7%に比し、約2倍である。アゼルバイジャンと領土紛争を抱える(「ナゴルノ・カラバフ」問題)アルメニアがロシア、米国双方から守られている(ロシア軍が駐留している他、米国においては強力なアルメニア・ロビーが活動して、既に1年以上、アゼルバイジャンに米国大使が赴任できないようにしている)のに備えるためには必要なのだ。

●これに対してアルメニアは、経済のためにイランとの関係を強めている。米国内でアルメニア・ロビーの力が強いのを、最大限に利用しているのだ。10月初めのJamestownニュースレターによれば、アルメニアはイランとの国境近くの川にイランの資金で水力発電所(各々130メガワット)を建設し、電力不足を補う計画の由。イランへの負債は、電力を供給することで清算する。
アルメニアは1.8億ドルでイランへの石油パイプラインを建設し、イランの石油を安く輸入して高値で転売、差額を9千万ドル融資の支払いにあてようともしている。
2009年5月には新しいガス・パイプラインでイランからの天然ガス輸入も始めており、これで発電して電力をイランに輸出するため、高圧線を近く建設開始する。

●イランの石油等は、アルメニア駐留のロシア軍にとっても貴重である。ロシア軍の駐留期限は最近24年延長され、2044年までとなっている。そして、アルメニアへのロシアの兵器供与はイラン領、イラン領空を通るのが最も安全である(ロシアからアルメニアに至るには、ロシアの敵国グルジアか、アルメニアの敵国アゼルバイジャンを通らざるを得ない)。こうしてアルメニアは、国連の対イラン制裁を冒している。小国アルメニアがイラン、米国、ロシアの隙間をうまくくぐり抜けている。

2.中央アジア諸国の動向
(1)ウズベキスタン

●ウズベキスタンでは思い出したように、「カリモフ大統領は任期途中での辞任を考えている。後任は誰誰だ」という情報が流されては、その誰誰が周囲からよってたかってつぶされるということが周期的に繰り返されてきた。今、また同種の情報がインターネットに多く流され、「後任」に擬されているのはミルジヨエフ首相である。例えば11月17日にはCentrasia.ruで、「カリモフ大統領は長女グリナーラを後継者とすることを諦めた。後者肝いりの仲介企業Zeromaxは閉鎖され、関係者は逮捕された」という情報が流されている。10月25日のCentrasia.ruは、カリモフからミルジヨエフへの権力委譲を演出しているのは、フサン・ジヤムハメドフなる人物で、Zeromaxの社長ジャラーロフの利権を継いだ男である旨報じている。

●更にわからないのは、11月12日ウズベク議会の両院総会でカリモフ大統領が演説し、「一層の民主主義化のための改革」を提案したことの背景である(事前に兆候はなかったらしい)。右のうち重要なのは、①最大議席を有する政党が首相候補を提案して、大統領の同意を得た後、上下院の多数票で決定する(これまでは大統領が首相候補を提案)、②上下両院は単純多数で首相を不信任できる、③大統領の健康悪化の場合、上院議長が代理となり、3カ月以内に選挙を行う(これまでは、大統領辞任表明後5日以内に両院総会で代理を選び、その後選挙をすることになっている)(11月25日付Stoletie)。12月1日に予定されていたOSCE首脳会議に向けて民主化の実績を誇示しようとしたか、それとも内政上のもくろみが何かあるかである。

●10月26日にはカリモフ大統領がトルクメニスタンを訪問している。この10カ月で2回目の訪問なのだが、何をやったのかは情報がとぼしい。メドベジェフ大統領のトルクメニスタン訪問の数日後であることに着目する報道もあった。

(2)カザフスタン
 ●ナザルバエフ大統領の任期は2012年末までなのだが、彼が再・・再選をめざして動き始めた気配がある。10月下旬のJamestownニュースレターによれば、この8月、アブイカエフがKNB(KGBに相当)長官に返り咲いた。彼は2005年の大統領選をこのポストで指揮したことがあり、ナザルバエフの対抗者カジェゲルディン元首相を国外逃亡させるという辣腕を発揮した。その後、ミグ-21を北朝鮮に売ったとされて外務次官に降等、次いで上院議長になっていたが、2006年にはナザルバエフの政敵セイセンバエフを暗殺したことを疑われ、08年まで在ロシア大使で出ていた。
 Jamestownは、ナザルバエフは対抗者の動きを封ずるため選挙を前倒しするかもしれないと見ている。世論調査では、彼の再選支持は40%しかないからだそうだ。ナザルバエフの対抗者としては、アスタナ市長のタスマガンベトフ、そして元外相のトカエフ上院議長が下馬評に上がっている由。

●同Jamestownによれば、大統領府長官のアスラン・ムッシンは南部出身者を重用して南を固めており、他方ロシア、ベラルーシと関税同盟を結ぶことにより、北部に多いロシア人を安心させてもいる。最近Tuymebayev教育相が更迭されたが、彼はナザルバエフに対抗する一派に属しているため、ムッシンに追われたものである由。

●最近、フランスがカザフスタン経済に食い込んでいる。10月末にはアレバがカザフスタン原子力公社と49:51で合弁を作り、ウスチ・カメノゴルスクに年産400トンのウラン・ペレット工場を作ることで合意した由(10月29日付Centrasia.ru)。また10月28日付ロシアのヴェードモスチ紙によれば、フランスの高速鉄道Alstom社は、来年3月にはカザフスタン鉄道側と高速鉄道建設で成約の運びである由。アルマトイに2012年までに数10億ドルをかけて年産50台の機関車製造工場を作り、ロシア等にも輸出するのだそうだ。時速200kmが予定されている。

●10月28日付Centrasia.ruによれば、同25日にNATO本部を訪れたナザルバエフ大統領は、ラスムッセン事務総長と、アフガニスタンでのISAF本部に数名のカザフ将兵を送ることで合意した由。12月1日にアスタナで予定されていたOSCE首脳会議にNATO代表も出席することの見返りだったのかもしれない。

(3)キルギス
 この国は4月の政変以来、ニュースは多いのだが、基本は政局不安定が続いているということだ(日本と同じか)。10月10日総選挙があったが、開票の最終結果が発表されたのが11月1日、その後連立政権樹立の企てが2度失敗している。
南部のオシュ市長が自律傾向を強く示しているが、これはウズベク系の多い南部が北部から分離していくことの兆候ではない。ムイルザクマトフ・オシュ市長はキルギス系で、彼のやっていることはむしろ利権を独占するために地元ウズベク系を排除することと思われるからである。

 ●10月10日の総選挙で、5%以上の得票を得て国会への切符を手に入れたのは、5党のみにとどまった。すったもんだのあげく11月1日になってやっと発表された最終結果によると、第1党はアタ・ジュルトで8.47%の得票率だった。これは南部に基盤を置くバキーエフ(前大統領)系政党と見られており、4月バキーエフ政権を倒したばかりの現政権は困った立場に追い込まれた。
政府系の社民党は7.83%で2位。クーロフ元首相(北部出身)が率いるアル・ナムイスが7.57%で3位、共和党が6.93%で4位、野党のアタ・メケンは5.49%だった。これら5党は、得票率に合わせて120議席を分けるから、議席数はそれぞれアタ・ジュルト28、社民26、アル・ナムィス25、共和23、アタ・メケン18ということになる。これら5党のうち、モスクワに媚びていないのはアタ・メケンのみとされる。10月16日のCentrasia.ruによれば、アタ・メケン以外の4党の党首たちは選挙後相次いでモスクワ詣でをした由。

 ●第1党となったアタ・ジュルトの地盤は南部にあり、4月暴動で追放されたバキーエフ前大統領の息がかかった政党と見られている。党首のタシエフは、バキエフ大統領の下で非常事態相を務めた人物である。これが第1党として組閣するのかと思って見ていたら、11月17日Vesti.kgはアタ・ジュルトが四分五裂し、アタ・ジュルトとして残った部分は第3党として連立協議に加わることになったと報じた。これで第一党はオトゥンバーエヴァ大統領の出身母体である社会民主党になったわけだ。Vesti.kgは、「アタ・ジュルトはもともと議員になりたい者たちが集まっただけの野合の衆だ」との評論をしているが、そのような政党ならどこにでもある。

●その後社会民主党が連立・組閣協議を進めていたが12月初めには失敗、オトゥンバーエヴァ大統領は今度は組閣を第3党の共和党ババーノフ党首に委任した。12月7日付Ferghana.ruによれば、ババーノフは40歳、結婚しているがハンサムで女性に人気がある。母親はトルコ系で、父親はソ連時代のコルホース議長である。ババーノフ自身はカザフスタンで一旗あげ、「アリアンス」という企業集団を作り上げた。これはガソリン販売、銀行業などを営む。
バキーエフ前大統領の息子マクシムはこのババーノフの利権を取り上げ、ババーノフは代わりに副首相に任命された。彼はもともと社会民主党に属し、2007年の総選挙では自身の国籍をめぐるごたごたもあって(夫人がカザフ人であることを利用してか、かつてはカザフスタンでビジネスをしていた)当選して得た議席をオトゥンバエヴァに譲渡し、彼女と信頼関係を築いていた。

●キルギスが総選挙を実施したことを受けて、キルギスへの国際援助が実行された。10月30日の新華社報道によれば、6月に騒動があった南部復興のためにロシア、アジア開発銀行がそれぞれ1億ドルずつ、世界銀行が8千万ドル、計2億8千万ドルの援助が行われた。

●そして11月26日、タジキスタンのドシャンベで上海協力機構首相会議が開かれた際、オトゥンバエヴァ大統領は中国の温家宝首相と会談、前者は会談後「中国が南部復興を助けてくれる。オシュの病院建設に4200万元を出してくれる」と述べた由(Regnum)。
バキーエフ前大統領は息子のマクシムを通じて中国に入れ込み過ぎていた。そのため4月の政変で、キルギスにおける中国のプレゼンスは大きく後退したと見られていたのだが、中国はオシュ市長を取りこんで(9月には新疆を訪問している)再び浸透を強めてきたようだ。

●先月紹介した、ロシア国境警備隊が40名のアドバイザーをオシュ市に送る話は、その後ニュースがない。あるいは立ち消えになったか、棚上げになったかしたのかもしれない。

(4)タジキスタン
●この数カ月、東部のRasht渓谷地域で反政府派と政府軍との間で戦闘が続いていたが、10月14日のアジア・プラスによれば首謀者のミルゾフジャ・アフマドフが投降し、政府軍はドシャンベに戻った由。Zpress.kgによれば、この地区はアフガニスタンから僅か40kmで、パキスタン、アフガニスタン、チェチェンなどから募集したテロリストをアルカイダが訓練する基地がある由。

●Centrasia.ruによれば11月26日ラフモン大統領は、上海協力機構首相会合に参加するため来訪したプーチン首相と会談、①ドシャンベ近郊のアイニ空軍基地を無償でロシアに貸与する代わりに、タジクの発電部門に投資してほしい、②タジクへのロシア原油輸出に課税するのをやめてほしい、③山間部に多数の中型発電所を作ってほしい、④ロシアが協力して作ったサントゥーダ水力発電所の電力をパキスタンに輸出してほしい、という諸点を懇願した由。③などは日本のODAでできるのではないか。

●水力発電では「ログン・ダム」が当面の関心の対象だ。これはアムダリヤの支流に300米もの高さのロック・フィル・ダムを作るという野心的な計画(しかも地震頻発地帯)で、ロシアのルスアルなどが資金援助を約束していたが、いずれも身を引き、しかも下流のウズベキスタンは農繁期の夏季の流量が減ることを恐れて牽制球を投げている。だが報道を見ている限り、ログン・ダム建設は着実に進み始めたようだ。11月16日Centrasia.ruは仏・伊・英のコンソシアムがログン建設の金融面でのFS(フィージビリティ・スタディー)実施を落札したと報じているし、12月には環境面でのFSオペレーターの入札が行われる由。
本年初頭からタジク政府が始めたログン・ダムの株式売却で既に1.9憶ドル程度が集まったこともあり、2011年にはログン・ダム建設のために1.9憶ドルの予算が計上される予定である由。

●10月28日付Centrasia.ruは、タジキスタンの対外債務の現状を報じている。それによれば右債務は本年9900万ドル増加して10月1日現在で17.9憶ドル、GDPの31.85%相当に達している由。
国際金融機関としては世銀から3.78憶ドル、アジア開発銀行から3.25憶ドル、イスラム開発銀行から8500万ドルを借りており、その殆どの期間は40年間、利子は年間2%台である由。
2国間ベースでは中国から6.5憶ドル、ウズベキスタンから3500万ドル、米国とイランからそれぞれ1700万ドルを借りている。
1~9月の間に予算から返済した分は4760万ドルにのぼり、うち2千万ドルは利子支払である由。
タジキスタン政府は、「対外債務がGDPの40%を超えないよう」配慮している由。

●なお10月27日付tjknews.comは、タジキスタン最大の企業、アルミ精錬のTalcoの利益のうちかなりの部分がノルウェーのHydroアルミ社、ヴァージニア諸島のCDHなる企業の間の資金のやり取りを通じて消えている、横領されているのではないかと報じている。

(5)トルクメニスタン
 「北朝鮮なみの専制」を云々されたニヤゾフ前大統領が急死して、2007年ヴェルディムハメドフが大統領になったとき、西側は彼に民主化と自由化を期待した。インターネットの解禁など僅かなことが西側の期待を掻き立てた。だがそのトレンドは今や逆向きになりつつある。ウィキリークスで暴露された米国大使館の電報は、彼を「さして冴えているわけではないが、海千山千、うそつきの名手」と評している(12月3日付Moscow Times)。

●同大統領は最近の天然ガス国際市況の暴落にも翻弄されている。高値を貪ろうとするトルクメニスタンの姿勢を業を煮やしたガスプロムは昨年4月、トルクメニスタンの天然ガスを輸入するパイプライン(ガスプロムはこれをウクライナに再輸出していたのである)を突如閉め、ラインが圧力で爆発するにまかせた。本年はガスの対ロシア輸出は再開されたが、その量と価格は以前にはるかに及ばず、西欧に輸出しようにもカスピ海を横切ってパイプラインを敷くためには長年のカスピ海底境界問題を片づけないといけない(トルクメニスタンとアゼルバイジャンは二国間だけの合意でパイプラインを敷けるとしているが、ロシアがこれに横棒を入れている)。トルクメニスタンは結局、かつてロシアに対する当て馬としてニヤゾフが引きこんだ中国に全面依存せざるを得ない(2011年には170億立米の輸出を予定)立場に追い込まれている。ロシアへのガス輸出が急減したために、政府への裏表の資金流入は激減しているに違いない。11月2日付Centrasia.ruは、ガスプロムは2007年、トルクメニスタンの天然ガスを420億立米、約60億ドルで購入したが、2010年の購入代金は25億ドル程度である、と報じている。

●10月21日~22日にはメドベジェフ大統領が来訪したが(就任以来4度目である)、めぼしい成果は見られなかった。むしろ2007年に合意していたカスピ海東岸を北上するガス・パイプラインの増設(年間300億立米の流量を予定)工事を延期するという、後ろ向きの合意が行われたようだ。
なお上記Centrasia.ru報道によれば、大統領帰国後トルクメン側は、「首脳会談での合意だ」と言って、2011年の天然ガス輸入量を2010年並みの100~110億立米ではなく180億立米に上げるよう要求してきた由。

●12月初旬のJamestownニュースレターによれば、11月18日バクーでのカスピ海沿岸諸国首脳会議でベルディムハメドフ大統領は、「カスピ海を横断するパイプラインを建設して、2015年には年間400億立米の天然ガスをナブッコ・パイプラインのために供給する用意がある」と表明した由。
トルクメニスタン政府は20億ドルの政府予算を使って、東ヨロタンなど東部のガス田からカスピ海沿岸に至るパイプラインの建設に着手している(6月)。米国によるシェール・ガスの開発、カタールによるLNGガスの投げ売りによって大幅に下落した国際ガス市況の中、トルクメニスタン政府はなけなしの20億ドルをはたいてまで、ナブッコという今となっては収益性があるかどうか、実現するかどうかわからなくなった夢にかけるしかないという状況に追い込まれたかに見える。        (了)

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