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世界はこう変わる

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2017年8月 8日

MK3第3号 Politico-militaryな世界情勢

Politico-militaryな世界情勢
第3号
2017年7月周辺

(2017年8月5日)

これは、「安全保障研究ギルド "MK3"」による定期的なニュースレターです。MK3のメンバーは末尾の4名。米国、中国、ロシア、欧州の専門家から成っています。この号はだいたい5月末から7月中旬をカバーしています。

目次

冒頭言
1.トランプは米国覇権を破壊するか
1)米国の底力
2)予算採択の遅れ
3)米軍のevolution
2.北朝鮮ミサイルは朝鮮半島統一をもたらすか?
1)北朝鮮は誰も止められない
2)話し合いは平和条約、そして米軍撤退へ?
3)黙ってつけこむロシア
4) 中国と北朝鮮のビミョーな関係
5)朝鮮統一のシミュレーション―GDPはロシア以上、そして核付きの大国が誕生
6)日本も核武装?
3.中国軍の対外行動の活発化?
4.中国が台湾統合に乗り出す時
 1)対立のマグマ
2)民進党政権下での変化
3)「現状維持」ではもうもたない
4)日本の踏み絵
5.米国での軍事主要動向(村野筆)
 1) 国家防衛戦略(National Defense Strategy: NDS)
2) 国家安全保障戦略(National Security Strategy:NSS)
3) 核態勢見直し( Nuclear Posture Review:NPR)
4) 弾道ミサイル防衛見直し(Ballistic Missile Defense Review:BMDR)
6.ロシアでの軍事主要動向 (小泉筆)
1) 軍改革逆行―師団の復活
2) ベラルーシとの軍事演習「ザーパド」
3)国防支出のピーク・アウト

(上記1-4は河東が起案したものに、他の3名がコメントしたもの)


冒頭言

これを書いているそばから、トランプ政権が日なたのアイス・クリームのようにどんどん溶けていく。ロシアの諜報機関FSBでは昨年12月、サイバー戦担当の局次長等が逮捕された(米国のロシア諜報専門のAmy Knight女史が今年2月に書いているところによると、多分ハッキングの事実を英国のMI6の要員に洩らした罪で)のが事実なら、米大統領選でロシアの諜報機関は一線を踏み越える介入をしていたのだろうし、そうならば、トランプ・ジュニアが昨年6月9日、トランプ選挙対策本部の幹部と雁首を揃えて、「ロシア政府の弁護士」なる女性と安易に会ったことが益々怪しく見えてくる。

ふらふらした米国を見て、世界はざわめいている。各国首脳はトランプに会う時は下手に出ているが、それも米国の底力(経済力、軍事力)が怖いからで、いざ弾劾プロセスが始まるとどうなるか? 世界の底が抜けて、弱肉強食の世界が始まるのか? 

いや、そうではあるまい。1973年半ばのニクソン大統領弾劾への動き本格化から74年8月の辞任に至るまでの1年間、1988年9月のクリントン大統領弾劾への動き本格化から99年の「有罪にあらず」の上院評決までの半年間、その間世界情勢の底は抜けていないのである。当時起きた目ぼしい武力紛争は、1974年8月の北朝鮮による朴大統領暗殺未遂以降一連の挑発行為、キプロスにおけるギリシャの策動とそれに対抗してのトルコの進撃、1998年のコソヴォ戦争の激化とイェーメンにおけるアル・カイダ勢力の跳梁程度のものである(https://www.onwar.com/aced/chrono/c1900s/yr70/fkorea1974.htm)。

今回も、世界の底は抜けないだろう(但し、これまでの過度の金融緩和がバブル崩壊をもたらせば、かなりの荒れ方にはなるだろう)が、方々で水漏れは起きるだろう。アジアでは朝鮮半島、台湾、中印国境が紛争要因であり、前2者の情勢が深刻化した場合、日本はその存続に関わるような選択を迫られる可能性も出てくるだろう。
なお、これまでの通念を破るような事象としては、下記6(3)で小泉悠氏が、これまで一途に伸びてきたロシアの国防費が、経済不振の中で遂に息切れの兆候を示しているのを指摘していることに注目してほしい。ロシアの力を過大評価するべきではないのである。

1. トランプは米国覇権を破壊するか

1) 米国の底力
 米国では権力が分散している。特に予算は議会が自分で案を作って採択するので、大統領は「いらない」。米国の力を支える大きな柱の軍は、予算をもらっている限り安泰だ。最近Center for a New American Securityが出した報告書"Generations of War"によれば、米軍の将官クラスはつとに家業化、つまり先祖代々軍人という例が多く、彼らは身体能力、教育水準の双方でエリート意識を持つ。兵士の方は、大学入学資格等を得たくて志願する者が多いので、徴兵制がなくとも供給が途切れることがない。
なお軍は、米国の経済、社会にとっても大きな柱だ。国防予算は年間約6000億ドルで、世界の軍事予算の約40%を占める。このうち大きな部分は米国内で費消されるので、その経済効果は大きい。更に米国では退役軍人が政治的・経済的に大きな存在である。退役軍人省は、32.7万の職員と1823億ドルの予算を持つ、2番目に大きい省で、退役軍人約2000万名に対する医療・住宅ローン等生活保障全般(但し、軍勤続20年以上の者が対象)を提供している。
米国の覇権を支えるもう一つの柱、金融においては、GDP 世界第2位とかいう中国の通貨人民幣が兌換可能通貨でない以上、ドルの威力は安泰である。2008年の世界金融危機でも、欧州を含めて世界の銀行が求めたのはドル資金の融通であり(原油を筆頭に多くの取り引きがドルで行われているからである)、米国連銀はこの時IMFの能力をはるかに超えるドルを諸国の銀行に融通している。

2) 予算採択の遅れ
今回心配なのは、予算採択が遅れるかもしれないということである。議会では「オバマケア」廃止の手続きが遅れている。これの目鼻がつかないと、歳出規模を確定できない。トランプの約束する税制改革もできない。従って、10月から始まる次期会計年度は「継続予算」でスタートせざるを得まい。それでも、このようなことは米国では日常茶飯事で、少々の混乱があるくらいのことですむだろう。

3) 米軍のevolution
米軍は常にダイナミックに編成、戦術を変えていく。日本との関係で目立つのは、有事における中国周辺での空母運用がこれまでとは違ったものになってくるということだ。中国の対艦ミサイルが質量とも充実したことで、米軍空母はうっかり周辺海域に近寄れない。そこで米国が今考えていることは、Offensive Sea ControlとかDistributed Lethalityと称して、水上艦等によるミサイル攻撃で敵の攻撃能力を破壊して制海権を確保することである(制海権を確保した後は、空母が進出してくる)。

これは海上自衛隊の装備にも影響を及ぼす。海自のイージス艦の多くは、米空母護衛を念頭に配備・装備されているのだが、これからは有事の初期段階では米空母とは離れた自立行動をとる事態が生ずるだろう。尖閣防衛の時も自力で戦うことができなければならない。そのため、艦対艦の防御・攻撃能力を充実させる必要が出てくる。

中国との関係で行くと、米軍が今実施中のThird Offset戦略(装備で追いついてきたロシア・中国を再び突き放す)の一環として開発している「無数の無人機による集中攻撃」、あるいはロボット兵士などでは、中国との競争が激化するだろう。他方、米軍は前線と司令部をITで結ぶことで、戦況の把握、陸空海の連携等を瞬時に実現する点で、中ロの追随を未だ許さない。

2.北朝鮮ミサイルは朝鮮半島統一をもたらすか?

1)北朝鮮は誰も止められない
7月4日と28日、北朝鮮はICBM用と見られる新型ミサイルの発射実験を成功させた。これに搭載可能な小型核弾頭、長距離の誘導技術の開発、大気圏に再突入する際の高温への対処等ではまだ時間がかかる。しかし北朝鮮がICBMを開発していて、誰もこれを止められないという状況は、韓米関係における一つの分水嶺tipping pointになる可能性がある。米国にとっては、韓国を守ろうとすると、米本土の安全を直接脅かされる可能性が出てきたことで、韓国を守るのを思いとどまる(De-coupling)ことになりかねないからである。
そして誰も止められないというわけは、米軍は北朝鮮攻撃を韓国政府に止められているだろうし(報復攻撃が怖いので)、中国は秋の共産党大会を終えるまでこれ以上圧力をかける意志を持たないし、ロシアは石油供給を続けるだけでなく、これまで一貫して北朝鮮の核開発のノウ・ハウを提供してきたからである。

2)話し合いは平和条約、そして米軍撤退へ?
こうなると、事態は南北間、あるいは米北朝鮮間の話し合いに転がっていかざるを得ないだろう。米国は、北朝鮮が核開発を凍結するだけでなく、以前の段階にまで戻すことを求めるとしているが、韓国はその梯子を外すだろう。そして北朝鮮が求める平和条約が締結されると、在韓米軍の立場はあやふやになってくる。韓国内では反米機運が再燃するかもしれないし、米国の方はそこまでして韓国を防衛する気はないだろう。既にカーター大統領の時代には、撤退を考えたこともある。

3)黙ってつけこむロシア
なお、あまり報道されない、ロシアと北朝鮮の関係について書いておこう。一連の経緯で明らかになったのは、ロシアの北朝鮮との関係にも並々ならぬものがあり、これをロシアは米国等とのやり取りの中で、カードとして使えるということである。6月27日の共同によれば、米国に亡命した北朝鮮元幹部が、ロシアは年間20-30万トンの石油製品を輸出していたと述べた由だが、中国のこれまでの輸出量が年間50万トン程度だったことに鑑みると、少し大きすぎる数字だとしても、輸出していることは事実だろう。

またロシアは、ソ連時代から長年にわたって、北朝鮮の原子力、ロケット工学の専門家を自国の研究所、大学で養成してきたのである。金正恩を囲む、核ミサイル開発功労3人組というのが最近喧伝されているが、そのうちの中心人物と目されている李炳鉄(リ・ビョンチョル)元空軍司令官は、ソ連留学の経験を持っている。

更には北朝鮮からはロシア極東地方を中心に4万人以上の出稼ぎ労働者が派遣されており、その労賃の多くは北朝鮮政府に吸い上げられている。また2012年、ロシアはソ連時代からの対北朝鮮借款で焦げ付いていた100億ドル強を帳消しにしている。

4) 中国と北朝鮮のビミョーな関係
「北朝鮮に言うことを聞かせられるのは中国だけだ」ということになぜかなっているが、これは本当なのか? たとえば、朝鮮戦争で中国軍が米軍と戦ったことで、中国と北朝鮮の間には「血で結ばれた」固い同志関係があるということになっているが、最近「東亜」に掲載された論文(手元にないが、多分7月号の高橋博論文)によるとこれは神話であり、朝鮮戦争当時も中国と北朝鮮の間には、いずれの軍がいずれの指揮下に入るか、という点等をめぐって、殆ど対立が見られたそうである。中国は古来、朝鮮北部に生起する国家(高句麗、渤海等)と戦い、時には後者を完全に占領したこともあるので、北朝鮮にとってはソ連、ロシアの方が安心できる提携相手であることもある。

従って北朝鮮とロシアは時々、思い出したように相手を「使う」。2011年金正日が列車でモスクワを訪問したのは大きなニュースとなったし、2000年大統領に就任して間もないプーチンが沖縄でのG8首脳会議に招かれたのに、その直前に北朝鮮に立ち寄り、ロシアの外交に箔をつけてから沖縄に乗り込んだのも思い出される。
しかし今回は、ロシアは北朝鮮問題の表舞台にまだ登場して来ない。

5)朝鮮統一のシミュレーション―GDPはロシア以上、そして核付きの大国が誕生
米軍が撤退せずとも、平和条約ができると、韓国、北朝鮮の内部では再統一への声が出てくるだろう。世上では、「力で絶対的に優る韓国」が主導権を持っていると言われるが、そこは考え直す必要がある。韓国は、米国の後ろ盾を失うと、勇猛さで優る北朝鮮に対して弱い立場に陥る可能性があるからだ。韓国のGDPはロシアを越える世界11位であっても、それは少数の財閥に依存した脆いもので、米国が輸入を制限したりすれば、崩れる可能性がある。そして軍事力でも北朝鮮を上回っていることになっているが、最近のサッカーでの韓国チーム低迷ぶりが象徴するように、ハングリーでなくなった韓国の青年は草食化している面がある。敗走すればその場で射殺されるだろう北朝鮮の兵に比べて頼りになるまい。最近のウクライナでは、「ロシア軍」の攻勢に直面した兵士が、NATOから供与された新品兵器を打ち捨てて逃散した例がある。

朝鮮半島が統一、あるいは国家連合的なものが成立した場合、それはGDPで世界10位程度、しかも核保有の大国の誕生を意味する。日本は如何なる影響を受けるだろうか。統一朝鮮が中国への警戒心を露わにすれば、日本との関係を良好なものに維持しようとするだろうが、統一朝鮮に反日的要素が前面に出ると、日本にとって厄介な相手となる。

しかし、核兵器を持つ大国は既に日本の隣に3つもある(中露米)のであり、これが一つ増えただけで日本は過剰反応するべきではないだろう。その場合、日本は米国との同盟で足場を確保するとともに、統一朝鮮をめぐって影響力競争を繰り広げるであろう中ロ、そしてその中ロ米とバランスを取ろうとする統一朝鮮との間で機敏な合従連衡外交を展開していくしかあるまい。民主主義国の日本には「機敏な」外交は中々できないが、何とか切り抜けるしかない。

6)日本も核武装?
隣に核大国の統一朝鮮が誕生すれば、日本でも核武装論議が起きることは避けられない。そうならないように、朝鮮戦争平和条約交渉が行われる場合には、統一朝鮮の非核化条項を入れることを強く求め、もし核兵器保有を許すのであれば、日本の核兵器保有も許す付帯合意を取り付けておくべきだろう。


3.中国軍の対外活動活発化?

 中国軍が対外活動を活発化させている。特に対印国境、及びブータンとの国境紛争地帯で駐留を既に1カ月以上にわたって続けている。またインド洋では、ジブチに「海軍基地」を開設、スリランカの港を99年間にわたって「租借」する契約を結んで、インド洋でのプレゼンスを強化している。日本との関係でも、津軽海峡等、中国の艦船が日本の領海部分をこれみよがしに通航する例が相次いでいる。

このうちブータンへの進入は、4月にダライラマ(インドに居住)がチベットに隣接するインド東端の州を訪問したことへの報復と思われ、インド軍との戦闘には至らないと思われる。インド洋については、インド及び米海軍が大きなプレゼンスを保持しており、マラッカ海峡からインド洋に出た地点のアンダマン諸島にはインド海軍が基地を設けている。インド洋を中国海軍が制圧することはないだろう。

中国軍艦の日本の領海進入は、中国が楊潔篪国務委員を5月末日本に送って関係改善の可能性を模索してきたことと若干矛盾するが、軍が勝手な行動をしているわけではあるまい。日本としては、津軽海峡等の沿岸に地対艦ミサイルを黙って配備する等、中国を静かに牽制する構えを取るべきだ。これは、津軽海峡、宗谷海峡を我が物顔に使って(公海部分がある)兵站路としている、ロシア太平洋艦隊に対する示威ともなる。中国艦船に対する牽制なのだと説明しておけば、ロシアも文句を言いにくい。

4.中国が台湾統合に乗り出す時

1)対立のマグマ
 台湾をめぐる紛争のマグマが赤くなりつつある。これまで中台関係(中国と台湾では両岸関係と称している)は一種の棚上げ状態にあった。つまり2000年初めて政権を取った民進党は、本来独立を唱えていたのが、それでは中国はもちろん米国の支持も得られないと悟ると、「独立でも統合でもない、現状の維持」を立場の基本として、現在に至っているからである。このやり方は台湾住民の大半の支持を得ていた。
台湾は行ってみるとしみじみ感じるが、自由で豊かな感じのするところで、タクシーの運転手と話してみると、「台湾の自由を守りたい。とにかく現状を維持したい」という答えが返ってきたものだ。

2)民進党政権下での変化
 そこに変化が見られるようになったのは、2016年の総統選挙で、民進党の蔡英文が当選し、これまで中国との関係増進に過度に傾いて世論の支持を失っていた前政権の馬英九時代よりは対中自立の色彩を強めると発言、「新向南外交」と称して経済的にも「脱中国」を目指して以来のことである。蔡政権の立場が、中国政府から非常に強硬な反発を受けたのである。

それ以降、中国はブルキナ・ファソ、コスタリカ、パナマ等に台湾との断交を迫り、自国との外交関係を樹立させた。この「国交奪取競争」は、資金もかかるし不毛なのでやめようということで、国民党政権時代の8年間は休戦が成立していたのだが、習近平はこれを大人げなく蒸し返したのである。種々の国際組織、国際会議の類においても、中国は台湾の参加に反対するようになっている。

3)「現状維持」ではもうもたない
 そしてこれに反発を感じた台湾住民は、「現状維持」では結局中国に押し切られるばかりだとして、「独立」を前面に出し始めた。6月25日付Taipei Timesによると、住民の9割が国際的な政治的地位の「正常化(独立)」を望んでいる。そして54%は憲法を書き換え、中華民国という枠を脱するやり方での「独立」を支持している。

 他方中国では、この秋に予定される共産党大会において、台湾統一が重点政策として打ち出される可能性が云々されている。もし武力を用いる場合には、台湾の太平洋岸の制圧が必要になるかもしれず、その場合、中国艦隊のうち台湾海峡以北に配備されたものは日本の南西諸島の間を通るしか、太平洋に出る道がない。
 
4)日本の踏み絵
台湾をめぐって武力紛争が起きた場合、日本は米軍との共同行動を取るかどうかを決める前にまず、中国艦船の南西諸島間の海峡通航を武力で阻止するかどうかで、踏み絵を踏まされる。阻止するだけで、自衛隊の基地は中国軍による攻撃対象となるし、米軍と共同作戦することを決めれば、日本本土の自衛隊基地、米軍基地も中国軍によるミサイル(通常弾頭)攻撃の標的となる。だからと言って、局外中立の立場を取り、南西諸島間の海峡通航は認めた上に、在日米軍基地からの米軍の進発に後ろ向きの態度でも見せようものなら、米国は日米安保条約を破棄するだろう。台湾は中国に統合され、米軍はグァム島まで撤退し、日本は米中ロ・統一朝鮮のパワー・ゲームのただ中に裸で放り出されることになるだろう。

5.米国における主要軍事動向(村野筆)

トランプ政権では、いくつかの国防政策文書の見直し作業が行われている。
(1) 国家防衛戦略(National Defense Strategy: NDS)
政権の国防戦略の基本方針となるNDSは、エルブリッジ・コルビー国防次官補代理(戦略担当)が中心となり、15人程度のチームで秋から冬にかけての完成を目指し、作業が進められていると言われる(注:日本も防衛大綱をほぼ同じタイミングで更新しようとしている)。なお、クリントン政権以来行われてきた「4年毎の国防見直し(Quadrennial Defense Review:QDR)」と呼ばれる文書枠組みは廃止された。トランプ政権では、実質的にNDSがQDRの代替文書と位置付けられる見通し。

(2) 国家安全保障戦略(National Security Strategy:NSS)
NSSは概念上NDSよりも上位に位置する文書であるが、例年NSSは総花的で具体性を欠く文書となってきた傾向があった。トランプ政権は、そのホワイトハウスを軸にその方向性を変えようとしているものの、ホワイトハウスをとりまく目下の情勢から見て、次期NSSが内容のある文書となるか不明。

(3) 核態勢見直し( Nuclear Posture Review:NPR)
 
米国の核抑止戦略における宣言政策の基軸となる文書。形式上の責任者は、シャナハン国防副長官、セルバ統合参謀本部副議長であるが、フランク・クローツ国家核安全保障局(NNSA)局長の志向も反映されるとみられる。また助言役としては、核の先制使用・限定戦争遂行論者として知られるキース・ペイン(ミズーリ州立大学教授)、フランク・ミラー(元NSC特別顧問)など、かつてのラムズフェルド委員会やブッシュ政権でのNPR策定に携わった人物が名を連ねていることからもわかるとおり、その内容はオバマ政権の核軍縮・軍備管理協調路線から逆行し、核兵器の近代化やミサイル防衛の強化を通じた米国の優越維持を重視する路線にシフトする可能性が高い。(NPR2002に類似)

(4) 弾道ミサイル防衛見直し(Ballistic Missile Defense Review:BMDR)
 国防授権法の規定上、「弾道ミサイル防衛」との名目だが、実際には巡航ミサイル脅威への対処なども含めた包括的なミサイル防衛見直しとなる見通し。注目点は以下のとおり。

①ロシアのINF条約「違反」への対抗措置
 ロシアが最近、長距離巡航ミサイルを陸上で使用する等、INF条約に実質的に違反する動きを示していることについては、様々な対抗措置が検討されているが、最も可能性が高いのは、現在弾道ミサイル防衛(SM-3)専用に改修されているイージス・アショアの巡航ミサイル防衛能力(SM-6)を解禁すること。これに追加して、JASSM-ERのような攻撃的対抗手段を追加配備する可能性もある。 他方で、米国がINF水準の地上配備型巡航ミサイルを配備する可能性は必ずしも高くない。
※なお、イージス・アショアのSM−6運用能力解禁は、同システムを日本に配備する場合、中国の戦略計算に影響を与える。

②弾道ミサイル防衛増強と戦略的安定性の軽視
 米本土防衛用の迎撃システム(GBI)は、2017年末までに計44基に増強される計画だが、この上限は2010年のNPRおよびBMDRにある「中露の戦略的安定性には影響を及ぼさないが、北朝鮮やイランによる少量のICBM脅威に対処する」という立て付けのもとで決められている。しかし、北朝鮮のICBM脅威が増大していることを受け、米本土のGBIは現行上限の44基以上に配備数が積み増しされる可能性が高い。これはトランプ政権の抑止政策が、 中国との戦略的バランス維持にナイーブであったオバマ政権の政策を覆すという象徴的意味合いもある。

その他にもミサイル防衛強化策として、GBIに搭載する新型の多目標迎撃体(MOKV)の開発、宇宙基盤センサーの追加配備のみならず、かつてレーガン政権で構想された宇宙基盤迎撃システムの開発を進めるべきとの声が大きくなっている。また、FY18のミサイル防衛局予算案では、中露が開発を進める極超音速兵器に対する防衛手段の開発計画の要求がなされている。


6.ロシアにおける主要軍事動向(小泉筆)

1) 軍改革逆行―師団の復活
2000年代末からセルジュコフ国防相の主導で始まったロシア軍改革は大きな転機を迎えている。同改革の主眼は、大規模戦争を念頭に置いた師団(約1万人)編成を解体し、小規模紛争により迅速に対応できるよう旅団(約3500人)を主とするものであった。
ところが2014年のウクライナ危機以降、西側との軍事的対立が再燃したことで、状況が変化した。特に2016年以降、欧州及びウクライナに面する西部軍管区と南部軍管区では新たな軍及び師団が設立されており、なかでも西部軍管区にはソ連崩壊後初めての戦車軍が編成されたことは注目に価しよう。
 
2) ベラルーシとの軍事演習「ザーパド」
このようななかで2017年秋には西部軍管区大演習「ザーパド(西方)2017」が実施される。同軍管区における定期大演習は「ザーパド2013」以来4年ぶりであり、今回はウクライナ危機後初めての大演習ということになる。それだけにウクライナ、ポーランド、バルト諸国は警戒感を強めており、演習を隠れ蓑にロシアが侵攻してくるのではないかといった言説も見られる。もっとも、このようなシナリオはロシア自身だけでなくNATOのストルテンベルグ事務総長でさえ否定しており、過剰反応の印象がある。ややうがった見方をするならば、ロシアの脅威を強調することで米国のコミットメントを取り付けたいという思惑がロシア周辺諸国に存在するとも考えられよう。
  極東でも1個ロケット旅団及び1個航空旅団の増強、沿岸防衛師団の新設など、従来に比べて地上兵力が増強される動きが見られる。
 
3)国防支出のピーク・アウト
もっとも、カネの面から見ると、ロシアの軍事力増強はそろそろピークアウトする可能性が高い。2016年のロシアの国防費は約3兆9000億ルーブルでGDPの5%近くにも及んでおり、空前の高軍事負担傾向であった。2016年は軍需産業の負債を一掃するための特別支出が補正予算で盛り込まれたために例外的な高支出であったことはたしかであるが、グルジア戦争とウクライナ危機、そしてシリア介入を経て、軍事予算が一種の聖域化していたことは否めない。

こうした中でロシア政府は今年から国防費の大幅削減に踏み切っており、2017年度から2019年度にかけての国防費は2兆7000-8000億ルーブル台となる見込みである。対GDP比も3%内外と、ウクライナ危機前の水準に戻る。ただし、軍や軍需産業はこれに不満であるらしく、2018年度以降の国防費が実際にどの程度となるのかが注目される。

この点で重要なのが、2018年から開始される2025年までの国家装備プログラム(GPV-2025)である。これは現行の2020年までの国家装備プログラム(GPV-2020)を発展解消する形で策定される後継計画であるが、その予算規模を巡って軍と財務省の間に対立があった。軍が当初主張したのは30兆ルーブル(GPV-2020は19兆ルーブル)という巨額であり、これに対して財務省は12兆ルーブルを主張。最終的には17兆ルーブルという線で妥結したと伝えられる。

これでも1年あたりの予算額はGPV-2020とそう変わらないが、GPVはあくまでもプログラムであり、そのための実行予算をどれだけ獲得できるかは毎年の予算折衝に懸かっている。実際、GPV-2020も2016年までに消化できたのは3割ほどに過ぎないとも言われ、GPV-2025の枠内でどれだけの装備調達費が毎年計上されるかが国防負担の問題を大きく規定することになろう。ちなみに国営軍需産業連合「ロステフ」のチェメゾフ総裁は7月、プーチン大統領と会談し、国防発注を大きく増減させずに「テンポある発注」を行うよう求めた。また、ロシア政府が主導する軍需産業の民需転換についても、まずは元手がなければ不可能だと釘を刺している。
 
4) 北朝鮮ミサイルへの過小評価
北朝鮮の弾道ミサイル発射について、ロシアは奇妙な態度を見せている。7月に発射された北朝鮮初のICBM火星14号は2800km超のロフテッド軌道に投入されており、射程が最大化されるミニマム・エナジー軌道で発射された場合には7000-9000km程度の射程を達成可能であると見られている。ところがロシア国防省は、火星14号の到達高度を580km、飛行距離を500kmとしており、日米韓の観測結果や北朝鮮の公式発表と大きく食い違っている。

これについてはロシアが火星14号の第一段のみを観測し、第二段を失探した可能性も考えられるが、火星14号の第二段はそれほど小さなものではなく、探知が難しいとは思われない。また、ロシアは極東に新型のヴォロネジ-M弾道ミサイル警戒レーダーを配備しており、観測システムにも不足はない。さらにロシアは過去の北朝鮮による弾道ミサイル発射や核実験に関して周辺諸国と大きく異なる観測結果を発表するなど情報撹乱を図ってきた形跡があり、今回の火星14号にまつわる動きもその延長線上にある可能性は考慮しておく必要があろう。
                                   (了)

―――――――――――――――◇・・・・◇――――――――――――――――
ギルド発足に当たって:

 冷戦終結以降、日本が世界を自分の目で見て、自分で生き方を決める必要性が益々増大している。そして世界は政治・経済・社会等、複眼的に分析するべきものだが、日本ではそのうち軍事的視点が特に弱い気味があった。安全保障を日米安保に大きく依存し、安保政策と言えば基地対策であった時代が長かったからである。その弱点を補うべく、次の4名の同人が隔月にこの「軍事から見た世界主要動向」を発行することとした。MK3(エムケースリー)とは、以下の同人の頭文字を取ったもので、いずれからも補助金、助成金の類を受けていない任意団体である。

 (同人名:あいうえお順)
  河東哲夫 Japan World Trends代表(欧州及び総括)
   (個別のサイトはwww.japan-world-trends.com)
  小泉悠 未来工学研究所特別研究員(ロシア及び周辺)
  近藤大介 講談社週刊現代編集員(中国、朝鮮半島)
  村野将 岡崎研究所研究員(米国)

      

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