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世界はこう変わる

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2011年9月22日

モンゴルは相撲と資源だけじゃない

昨今はモンゴルがブームのようで、アメリカのCNNも最近特集を何日間も放送していた(
これは後出のようにゴールドマン・サックス等が幹事社となって、いくつかのモンゴル資源企業が米国での上場を予定していることも背景にあろう)。

だがグーグルでもアマゾンでも、「モンゴル」で検索しても一般的な旅行案内の域に関心は止まっているようだ。
他方日本の政府ベースでは、日本とも古いきずなを持つこのアジアの国がソ連と中国の間という地政学的には枢要な位置を占めていることにも注目し、ずっと以前から経済援助や留学生の招待を続けてきた。現在では政財界を中心にモンゴルの豊かな鉱産資源に注目しているようだが、ここではユーラシアにおいて忘れてならない、国際政治面から見たモンゴルについて一文をまとめてみた。日本の対外関係において、これからますます重要な地位を占めるべき国である。

1.概況
(1)地理
ウィキペディアの地図が示すようにhttp://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A2%E3%83%B3%E3%82%B4%E3%83%AB、モンゴル人種が集中的に住んでいる地域は広い。その中で現代のモンゴル国の面積だけでも日本の約5倍あるが、人口は250万人強に過ぎない。但し中国の内モンゴル自治区の400万人、ロシアのブリヤート共和国、トゥヴァ自治共和国に計50万人ほどのモンゴル系人種がいる。つまりモンゴル系民族は中ロの双方にも分布しているのである。これは中国、ロシアとも、かつてのモンゴル帝国を裏からひっくり返して別の帝国にしたようなものであることを如実に示している。

(2)歴史
(イ)モンゴルが中国に樹立した元王朝は1368年、明によって北部に追われ北元を名乗った。その後女真族、チベット族と連合して明を倒して清王朝を樹立したが、同王朝の主導権は女真にあった。中国は古来、漢民族と呼ばれる土着勢力と、北部の遊牧民族、そして西部のソグドなどの商業民族が入り乱れて歴史を織り成してきた地域であり、モンゴルは常にその一員である。中世のモンゴル、中国、新疆、チベット、中央アジア間の往来は、われわれの理解を超える密接なものがある。

(ロ)モンゴルは元王朝を倒された1368年以来、中国に対して劣位にあり、ロシア帝国、ソ連をバランサーとして重視する政策をとった。それ故に、1924年には「世界で第2番目の社会主義国」として「モンゴル人民共和国」を名乗るとともに、戦後はコメコンのメンバーになる等、ソ連圏の一員として行動するに至った。蒋介石は外モンゴルをも領土とすることを狙っていたようであり、スターリンはヤルタ会談を前に、蒋介石がこの野心を捨てることをソ連の対日参戦の条件としたようである。
筆者は1977年頃、北京からウランバートルへ鉄道で36時間かけて行ったことがあるが、国境におけるモンゴル官憲による荷物検査には厳しいものがあった。そして首都ウランバートルには、ソ連の地方都市を思わせる重々しい建築が並び、周囲の丘には伝統的なパオの集落が並んでいたものである。

(3)経済
(イ)GDPは2010年世銀の数字で約70億ドル、一人当たりで2200ドルである。
モンゴルは最近まで遊牧経済を色濃く残していたが、現在は鉱山開発を核として関連工業、サービス産業等で離陸しようとしている。
日本はソ連末期の時代からモンゴルにODAを供与し、カシミヤ製造工場を無償で建設するなど、一時はモンゴルに対する最大のODA供与国となった。もちろん、鉱業を中心に、ロシア、中国、そして西側諸国の商業利権はそれを上回る規模を有する。

(ロ)現在、モンゴルは鉱山開発ブームにある。中国との国境に近いタバントルゴイ炭田は埋蔵量が70億トン(うち原料炭が30~40%)はあると言われ、これは日本の年間輸入量の30年分に相当する由。入札をめがけて日本の主要商社(三井は米中企業と、伊藤忠など4社はロシア、韓国企業と組んでいる)、ロシア、中国、米国、韓国、カナダ、インドなどの大企業がいくつかのグループに分かれてしのぎを削っている。
北東部ドルノド県にあるウラン鉱床3カ所(日本での使用量7年分に相当する埋蔵量)についても丸紅が2012年の採掘開始を目指していたが、福島原発事故以降どうなっているだろうか。ここは、中国がカナダ企業の利権を買収することで、ロシアの利権を害したいわくつきのところである。
鉱山開発資金の流入、規制緩和による都市化建設の進展により、モンゴルは2010年でも7%の成長を達成する等、国際金融危機の期間をのぞいては高成長を続けてきた。

(4)国内政治体制
(イ)モンゴルは中央アジアやロシアに比べると、「民主的」な要素が強いようだ。中世モンゴルも信仰の自由、人種の平等を認め、首長は有力者間の互選によっていた。ソ連崩壊後のモンゴルではこれまでに5回総選挙が行われているが、そのたびに与党が入れ替わっている(その間も、ソ連時代に一党独裁を敷いていた人民革命党は力を維持しているが、これは共産主義を奉じたものというよりは、既得権益層を集めたものなのであろう)。
(ロ)大統領は議会とは別に直接選挙されるが、出身政党、そして国会に相当する「国家大会議」による承認を要する。おそらく諸クラン・利益団体のバランスの上に立つものであろう。遊牧民族社会で、クリルタイ(長老会議)が首長を選ぶ伝統を想起させるものがある。
(ハ)2008年6月の総選挙では開票結果を不服とする野党勢力が騒乱を起こし、非常事態宣言が行われたが、主要政党間の話し合いで連立が組まれ、事態は収拾されている。こうして一応「民主主義」の条件をクリアしているために、後出のように米国も肩入れをしやすいのであろう。
(ニ)他方、2006年には主要政党が大連立を組んだため、この中で政治理念はその重要性を失い、腐敗(公務員の給与水準が低い)、利権争奪の何でもありの社会になったとも言われる。エリート層の教育水準は高いが、国民の3分の1は貧困層であり、貧富の差は拡大しており、犯罪率も高いとの見方がある。

2.モンゴルの対外関係
現在のエルベグドルジ大統領はソ連の軍学校とハーバード・ケネディ・スクール、バトボルド首相はソ連の名門国際関係大学とロンドン・ビジネス大学大学院と、いずれも東西双方で教育を受けている。これがモンゴルの対外関係を象徴していると言える。なお両名とも中国で教育を受けていない。

(1)対ロシア
 (イ)モンゴルはソ連時代のロシア一辺倒から脱し、今ではその資源をめぐって諸国を競り合わせている感があるが、ロシアとも首脳レベルでの交流をはじめ親密な関係を維持している。しかし経済面でのロシアの地位は相対的なものとなったし、軍事面においても米国が毎年モンゴルと共同演習を行っている中、最近になってやっと軍事教育・訓練面を中心にモンゴルとの軍事協力を強化し始めている。なお2009年5月モンゴルを訪問したロシアのプーチン首相は、モンゴルでの原子力発電所建設を念頭に原子力協力の推進も申し入れている。
(ロ)ソ連時代からモンゴルの資源利権に深く入り込んでいるロシアは、モンゴルがこの分野に他国企業を引き込むことに対して神経質になっている。埋蔵量で世界の5指に入ると言われるオユトルゴイ金・銅鉱山の開発についてモンゴル政府は、ロシアの参入に同意せず、カナダ、豪州等を競り合わせているようだ。
そして特に最近では中国の進出が急であり、ロシアは圧力を受けているものと思われる。ロシアはタバントルゴイ炭田、ドルノド・ウラン鉱床の開発等において中国と競合している。特に後者においては、ロシアが買収を策していたカナダ社の利権を、途中で中国が倍額で奪い取ったようである。また、タバントルゴイ大炭田開発にロシアが参入を望んでいるのに対し、モンゴル側はこれを引き合いにロシアの過去の対モンゴル債権を取り消させようとしている。

だが、モンゴル・ロシアの合弁非鉄企業のエルデネトが(モンゴル政府が51%を所有。ロシア側は政府系持ち株会社のロステクノロジーである)、その生産物の銅、モリブデンのほとんどを中国に輸出して、モンゴル国家予算歳入の約50%を担うと言われているように、モンゴル、ロシア、中国の利益が一致する場合もある。
そしてロシアが今でも、モンゴル鉄道の株半分を所有していること、その鉄道のゲージがロシア並みに広く、中国からの車両はそのままではモンゴル鉄道で使えないこと等、ロシアが依然として優位を維持する面は残っている。

 (ハ)モンゴルはロシア政府に対する債務を完済していない。これが両国間の種々の案件において、バーゲニング・チップとして扱われている。2003年にソ連時代の債務(推定110億ドル)は既に取り消し、2010年12月の首相間交渉ではロシア時代の債権のうち97.8%を取り消した。残りの額の扱いについては、報道が一定していない。

(2)対中国
ソ連時代緊張気味に推移した(文化大革命時代、内モンゴルではかなりの弾圧が行われたようである)対中関係も、1980年代央には緩和に向かい、領事協定が結ばれ、1990年にはモンゴル首脳が28年ぶりに訪中した。これはソ連でのペレストロイカ、新思考外交に歩を合わせた動きだったのだろう。ソ連崩壊後の1994年には友好協力条約が結ばれた。胡錦涛の国家主席就任後初めての外遊は2003年、モンゴルに対してのものであり、それ以来モンゴルの大統領は2回訪中、首相級の往来も行われている。
だが中国は一貫してダライ・ラマのモンゴル訪問には抵抗し、2002年訪問の際にはモンゴルとの鉄道運行を暫時停止している。
建設労働では中国人の進出が大きいようであり、またモンゴルの輸出の7割は中国向けとなっており、ソ連時代とは様変わりである。

(3)対米国
(イ)米国がモンゴルを承認したのは実に1987年と、新しい。初代米国大使がモンゴルに着任したのは1990年7月のことである。ベーカー国務長官は90年8月、91年7月にモンゴルを訪問しているが、それはソ連圏の東欧部崩壊の兆しが濃厚だった当時、戦略的な偵察の意味を持っていたことだろう。

その後も要人交流のレベルは驚くほど高く、モンゴル大統領は数度にわたって訪米、2005年11月にはブッシュ大統領とライス国務長官が来訪している。その他、首相、国務長官・外相、国防長官・国防相レベルでの交流は日常茶飯である。2005年10月には、ラムスフェルド国防長官が来訪している。これはイラク戦争、アフガニスタン作戦へのモンゴルの積極的な協力に感謝を表明する意味合いを持っていただろう。

 (ロ)1991年から2011年までの間にUSAIDはモンゴルに計2.14憶ドルの無償援助を行った。農務省は1993年以来、モンゴルに食糧援助を行っている。2008年の食糧援助は500万ドル相当であった。
2007年には米国の「ミレニアム」経済援助資金2.85億ドルを得て、5年間で4案件を実施する合意が行われた。これは鉄道近代化、所有権概念の定着、職業教育、保健であったが、鉄道についてはモンゴル鉄道の株50%を有するロシアの介入で、米国は関与を断念せざるを得なかった。しかしこの「ミレニアム」資金提供で米国は日本を抜いて、モンゴルへのODA最大供与国となった。

 (ハ)2011年には、モンゴルの資源企業が海外の証券取引所への上場を計画し始めた。上場先としてはロンドン、香港等があがっており、幹事としてはドイツ銀行、ゴールドマン・サックス、クレディ・スイスなどの名が挙がっている。

(ニ)米国太平洋軍とモンゴル軍は2001年から(2003年とする報道もある)毎年、2国間で軍事演習を行ってきた。2006年以降は、これに韓国を含めインド、タイ、バングラ、トンガ、ブルネイ、スリランカ、インドネシア、カンボジア、フィジーなど20カ国以上からも約250人が参加し、国連PKO参加等のための訓練を行っている。日本、中国、ロシア、仏等はオブザーバーを送っている。

(4)対韓国・北朝鮮
 モンゴルと中国、そして韓国・北朝鮮の間の位置関係は興味深い。歴史的にもこれら地域の間の交流は密接なものであったろうし、現代の位置関係はまさに戦略的そのものである。それを意識してか、モンゴルは韓国、北朝鮮の双方と緊密な関係を維持しているばかりでなく、2008年7月には6カ国協議の作業部会を誘致している。つまりモンゴルは、北朝鮮との格好のパイプになり得る国でもある。
2004年末には、モンゴル大統領が北朝鮮を訪問している。2006年からは韓国が米・モンゴルの共同軍事演習Khan-questに参加しており、2008年8月には韓国国防相がモンゴルを初めて訪問している。

(5)トルコ
 トルコとの関係は薄いが、モンゴル・チュルク両民族はユーラシア東半分の主要な存在であるし、古来から往来していたであろう。トルコも、中央アジアを外交の重点地域としているから、モンゴルもその中に入っているかもしれない。
2005年7月にはエアドアン首相がモンゴルを訪問し、トルコ輸銀から2000万ドルの融資を約束した。しかし民間経済関係は微々たるものに止まり、トルコは共同軍事演習を欲するも、中国が関連人員・資材の国内通過を認めない由。

(6)中央アジア
モンゴルは中央アジア諸国と同質な文化を持っているように見えるが、歴史上は、チンギスハンの軍隊がサマルカンドを中心に咲き誇っていたホレズム王国などソグド人の国を蹂躙したのである。今日でも、モンゴルは中央アジア諸国のいずれとも国境を接していない(カザフスタンとの間は短距離ながらロシアになっている。ここは山岳地帯)こともあり、実際の関係は薄いように見える。2008年10月には上海協力機構首相級会合の場で、当時のバヤル・モンゴル首相がカザフスタンの原油を150万トン輸入する用意を表明したが、その後の状況はわからない。

なおモンゴルは上海協力機構のオブザーバーであるが、当面正規加盟国になる気はないとしている。実際はインド加盟問題(ロシアは中国の力を中和するためにインドの加盟を策するが、中国はまさにそれを嫌ってインドの加盟を阻害していると言われる)のあおりで、加盟問題が実質的に凍結されているためではないか。

(7)国際経済・軍事協力・交流
(イ)モンゴルはWTO加盟国であるが、FTAはいずれの国とも結んでいない。
現在、APECに加盟するべく運動中。

 (ロ)前出のとおりモンゴルは以前から、国連PKO等に積極的な協力を行っている。
2003年からイラク、アフガニスタン(米軍、ISAFの双方に)に派兵している。2008年にはイラクに100人、アフガニスタンのISAFに21人を派遣した(アフガニスタンでは政府軍を訓練)。米国務省資料によればこれまでチャド、コンゴ、エチオピア、エリトリア、グルジア、コソヴォ、シェラ・レオネ、スーダン、西サハラに3千名以上を派遣している。

 (ハ)なおインドとも最近数年、「北方の象」という名称の下、共同演習を行っている。
世界で中国と最長の国境線を有するのはモンゴル、次がインドの由であり、この両国の間の共同演習はさして奇異なことではない。
2011年9月行われた「共同演習」へのインドからの参加者は40名ほどであり、おそらく軽装備でモンゴルに来ているのであろう。重装備は中央アジア、ロシア経由の鉄道で運搬せざるを得ない。


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