Japan and World Trends [日本語] 日本では自分だけの殻にこもっているのが、一番心地いい。これが個人主義だと、我々は思っています。でも、日本には皆で議論するべきことがまだ沢山あります。そして日本、アジアの将来を、世界中の人々と話し合っていかなければなりません。このブログは、日本語、英語、中国語、ロシア語でディベートができる、世界で唯一のサイトです。世界中のオピニオン・メーカー達との議論をお楽しみください。
ChineseEnglishRussian

世界はこう変わる

Automatic Translation to English
Automatic Translation to English
2015年12月 4日

習近平 微笑外交か?

(これは11月25日、まぐまぐ社から刊行したメルマガ「文明の万華鏡」第43号の一部です。全文はhttp://search.mag2.com/MagSearch.do?keyword=%E6%96%87%E6%98%8E%E3%81%AE%E4%B8%87%E8%8F%AF%E9%8F%A1
で御覧下さい)

米海軍艦艇が南シナ海に中国が構築中の人口島付近を航海したのは、立派な決断だった。1962年、ソ連がキューバにミサイルを持ち込もうとして、米海軍がキューバを海上封鎖した時(「キューバ危機」)程ではないにしても、今回の米中の力くらべを周辺国はかたずを飲んでみていただろう。しかし、米軍と事を構えたくない、そして人口島付近ではイージス艦を撃破する能力がない中国は、罵っただけであとは静かにしている。人口島は中国本土から遠いために、戦闘機を送ることもままならないのである。そして中国は、米軍との交流を断絶するどころか、11月16日には上海に米海軍駆逐艦の友好訪問を受け入れている。他方、南シナ海の島建設は続けるだろう。米海軍も、それを止めることはできまい。島が完成すれば、米海軍は南シナ海での潜水艦の行動を大きく制約される可能性がある。

そして習近平国家主席は10月下旬の英国訪問では、一月前の米国訪問の失敗(ボーイング機の大量購入約束で米国をなだめたとばかり思っていたのに、南シナ海で赤っ恥をかかされた)を巻き返そうとするかのように、「カネ」の大盤振る舞いですっかり歓心を買い、11月29日にはメルケル・ドイツ首相来訪を受け入れ、こちらにも「カネ」をはずんで丸め込み、ベトナム、北朝鮮には習近平自身、あるいは党幹部を派遣、台湾とは首脳会談まで行い、まるで中国と友好関係にない国は世界の主流から外れていると言わんばかりの印象を作り上げた。

そして習近平の側近とされる国防大学政治委員の劉亜州は10月下旬、尖閣攻防で中国軍が敗北すれば、その影響は中国内政に及ぶという趣旨の論文を人民網に発表、日本に対する好戦的態度を戒めている。習近平が9月3日の戦勝70周年記念式典の場で、人民解放軍を30万人削減する意図を宣言しているのと合わせて考えると、習近平は軍を抑える方向に政策をふっているように見える。これは、軍に匹敵する戦力を有する人民武装警察を握っていた周永康を政治的に葬ったことで、習近平の権力が絶対的となり、国益に見合った外交をしやすい環境になったことによるものと思われる。

経済小康状態

8月頃は危機を喧伝された中国経済も、今は盛り返している。昨年夏から5000億ドルも減少した外貨準備は10月114億ドル増加し、上海株式市場株価も上昇傾向にある。そして11月末に予定されるIMF理事会では、中国の人民幣がSDRのレート決定の基準通貨の一つとして認められるだろう。SDRは1969年、おそらくドルへの信認低下への対策として設けられたシステムで、その後抑え気味に運用されてきている。現在、世界に出回っているSDRは2800億ドル相当に過ぎない。米国がドルの国際通貨の地位が脅かされるのを嫌っているのであろう。

従って、人民幣がSDRの価値を決定する通貨バスケットの中に入ったからと言って大したことが起きるわけでもないのだが、中国人民幣の信用度は高まるだろう。人民幣は、貿易決済以上にはまだ交換可能ではないのだが、中国政府はその国債をロンドン市場等で売り出す構えを見せている。その際、人民幣に対する信用度が高ければ、債券発行の条件は中国に有利なものになるだろう。

習近平の経済「改革」は国営企業強化

習近平は「全面深化改革指導小組」の組長であり、経済改革の手綱を自ら握る。しかし文化大革命中、農村に下放されて苦労したはずの彼は、皮肉なことにむしろ革命正統派、つまり共産主義信奉、計画経済信奉派のようである。彼にとっての「改革」は、国営企業の民営化ではなく、その逆、つまり国営企業の一層の強化なのである。

彼の指揮下、大規模国営企業は更にM&Aを繰り返して超大規模化しつつある。例えば昨年末、電車車両製造の中国南車集団と中国北車集団は合併し、地下鉄車両生産では世界のシェアの50%を握ったとされる。国営企業は実業家ではなく役人が運営するので、その業務は共産党や政府の意向を強く受け、マーケティングや採算性計算を欠いたものになりがちである。

中国の国営超ド級企業は、製品や仕事の質では西側企業に劣っているだろう。しかしコンプライアンスを無視して相手国関係者を篭絡し、採算度外視の金融を約束して案件を獲得する力では大きなものを持っている。日本の企業も、海外での営業を強化し、公的金融の体制を強化しないといけない。

浮足立つこともない。政府や電力会社予算への依存度の大きい日本の重電企業が、SiemensやGEに太刀打ちできないでいるのと同様のことが、中国の企業にも起きるだろうからである。だからと言って油断していると、日本の企業は欧米の企業、中国の企業、双方から挟み撃ちにあって、居場所を失ってしまうだろう

トラックバック

このエントリーのトラックバックURL:
http://www.japan-world-trends.com/cgi-bin/mtja/mt-tb.cgi/3099