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2018年1月10日

ロシア大統領選挙 3月18日 後はどうなる?

(これは、12月27日に「まぐまぐ」社から発売したメール・マガジン「文明の万華鏡」第68号の一部です。
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プーチンは柔道(やわら)の名手。と言っても、押してくる相手の力を逆用して投げ飛ばす型。小型なので、自ら仕掛ける力はない。これまでウクライナでは米国による「民主化」に対抗してクリミアを占領、シリアでは反アサド勢力への小規模爆撃で、情勢を引っ繰り返してしまった。米国が押してきたのを、下がる気配を見せて巴投げ、米国を道場の壁にたたきつけたのである。

ところがトランプはもう試合はやらないと言っている。ロシアはイラン、トルコ、サウジ、イスラエル、エジプト等の利害が相克する中でシリア情勢を収拾する任務を米国から丸投げされてしまった。ロシアは、これら諸国のいずれにも恨まれずに、停戦をはかれるのか? そしてシリアの戦後復興をはかるだけの資金はあるのか?

プーチンは、3月18日の大統領選に出馬を表明した。しかし「ロシアの政権を倒そうとする米国」を悪者として大衆の支持を掻き立てるやり方は、おそらく取れまい。トランプがそんなことはしないと言っているのに、米国をあえて敵視し、ロシアとの関係改善をめざしているトランプを敵に回すのは、プーチンとしてもやりたくない。何をセールス・ポイントとして選挙戦を戦うのか、経済状態もさして良くないので、プーチンとしては悩ましいところである。ここで、大統領選挙前の情勢を見てみよう。

大統領選挙戦

大統領選は3月18日。それは既に公示され、候補者の登録受付も始まっている。プーチンはなかなか出馬意図を表明せず種々の憶測を生んでいたが、12月6日地方の自動車工場の集会で「労働者」の呼びかけに応じて出馬を初めて表明した。
ここには、上からの目線でない、特定の政党に属するのでもない、「皆さんの大統領」(「国父」と呼ばれる)的イメージを打ち出す意図がよく見える。もともとロシアでは、「皇帝だけが自分達のことを考えていてくれる」という潜在意識が大衆の間に強く、プーチンもそれを利用して今でも80%以上という空前の支持率を維持しているのである。西側では、プーチンは自由を抑圧する独裁者ということで通っているが、大衆は抽象的な自由より生活の向上を求める。自由を叫んで国内の安定を乱し、経済改革で国民の生活を破壊した「リベラル」は、ロシア大衆に敵視されているので、当局によって容易に無力化されてしまう。

2012年の前回大統領選挙では、プーチンは選挙半年前の与党「統一」党大会で、檀上のメドベジェフ大統領を尻目に、唐突に出馬意図を表明。それまで「統一」党員の保守・利権体質に憤慨していたリベラル・若年層の反発をかきたてて、12月の議会選挙直後、全土での反プーチン運動を引き起こしてしまった。今回はこの上から目線、かつ密室談合的やり方を避け、社会に出馬を求める声が高まるのを待っていたのであろう。

今回のプーチンの選挙戦術は、前回のような強権による弾圧にも訴えず、種々の階層のニーズにマッチするような多種多様の顔と公約を見せる。そこには少々の反米(親ロ路線のトランプを怒らせないように)、少々のマッチョぶり、少々のインフラ建設によるばらまき、公務員給与の5%前後引き上げ(中止になったという報道がある)という大型のばらまき(勤労者の3分の1は政府から給与を得ている)などがちりばめられ、さらに「産業革命4.0、AI化に対処しよう」というスローガンで知識人・若年層を引きつけるのである。つまりソフト・イメージ、かつ全方位の戦術で票を稼ごうという魂胆なのだ。
 
プーチンの対抗馬の中で唯一危険性のあるのは、上層部の腐敗をブログで摘発して名を上げたナワルヌイである。しかし彼は、政府が仕組んだと思われる横領事件裁判で有罪判決を受けており、今回はその候補届を却下された。そうなると、彼の持つ票の少なくとも一部はクセニヤ・ソプチャクに向くことになる。

クセニヤ・ソプチャク・・・まだ30代の女性で、テレビ番組のあこぎな司会ぶりで名を売る。彼女の父は、エリツィン時代初期、リベラルな政治家として大きな人気を誇った政治家。プーチンはその故ソプチャク・サンクト・ペテルブルク市長の下で市の対外部長を務め、ソプチャクに私淑しており、クセニヤの出馬宣言に当たってもクレムリンに招致して、お墨付きを与える姿勢を見せている。

彼女はおそらく、リベラル候補として、ナワリヌイの票を奪う、あるいはナワリヌイ不出馬の際の不満のはけ口、票の受け口となることを期待されているのだろう。但し彼女はエリート臭が強く、テレビ番組の司会者としての癖のある言動もあって、リベラルを含めて人気は高くない。
従って、不測の事故がない限り、プーチンは大統領選で勝利するだろう。

大統領選後のプーチン政権4.0

大統領の任期は6年。その時プーチンは72才になっている。ロシアでの男性平均年齢は66、5才。最後には演説してもロレツが回らなくなったブレジネフ書記長は、75才で現役死去している。憲法は、大統領が2期以上務めることを禁じており、いくら自負心の強いプーチン大統領でも今回が最後であることは自覚している。そして彼の責任感の強い性格に鑑みれば、プーチンは権力継承を円滑に実現することを念頭に任期を務めることになるだろう

ロシアでは、首相が次の大統領になることが一般である。首相は経済を担当することで、津々浦々の人脈、利権を知悉することができるからであろう。ウズベキスタンで昨年そうだったように、首相を秘密警察の長官が支えて大統領にするパターンが一番安心できる。プーチンも国家保安庁長官をしていてエリツィンの信任を得、1999年8月首相に取り立てられてチェチェン戦争を指揮、それで人気がうなぎのぼりになったところで、エリツィンが任期途中で(同年12月)大統領職を彼に禅譲したのである。当日までこれを知っていた者は3名と言われたほど、極秘裏の早業であった。

すると今回はどうなるか? 忠実だが不人気のメドベジェフ首相の処遇が目のつけどころである。彼がプーチンを取り巻く有力者たちに利権保全の保証を与え、代償として次期大統領含みの首相職に止まるのを支えてもらうか、それとも彼では国がもたないとしてプーチンが誰か別の者を首相につけるか。それはいつか? 

プーチンは任期の途中でエリツィンのように突然禅譲することで、権力継承をめがけての策謀が渦巻く猶予を与えまいとするかもしれない。それは、日本が北方領土問題を交渉しようとする上で、念頭に置いておかなければならないリスクだ。

問題は有能な後継者が見当たらないことなのだが、プーチン自身、1999年当時は無名の存在だったのである。多くの者に都合の良い適当な人材を発掘し、秘密警察が支えれば恰好はつくだろう。

政権の安定度は経済状態に大きく依存する。ロシア経済は2014年クリミア併合を受けての制裁とその後の原油価格急落で大きく沈み、本年やっとプラス成長の兆しを見せている。マクロ的には小康状態だが(原油価格が1バレル60ドル台で落ち着いていることが大きい。予算は40ドルを前提としているのである)、原油・ガス依存という経済の構造的問題は一向に解決されない。また現在は過去の原油・ガス収入の貯金(予備基金と国民福祉基金)を食いつぶして財政赤字を防いでいるが、大統領選でのバラマキでこの基金が底をついた時(シルアノフ財務相は3年後と言ったことがある)ロシアは深刻な財政赤字、資金不足問題に悩まされることになるだろう。

また1990年代の大混乱時代の余波で若年層の数が急減、オレシキン経済開発相によれば、これからの6年で労働年齢人口は480万人減少する見込みである(2010年―2016年で既に660万減少している)。これは軍にも影響を及ぼし、プーチンは海外での対テロ作戦では軍への外国人の採用を認めるなど、弥縫策に余念がない。

トランプに肩透かしを食うプーチン外交
 
プーチンは前記のとおり、自国の実力をわきまえているので、過度の負担になる冒険は避けるだろう。中東でもロシアは、米国に対する当て馬として珍重されていただけの話しで、今のように米国が身を引いて紛争解決をロシア等に丸投げすると、ロシアにとっては俄然荷が重くなるし、いずれかの当事国の恨みを買う場面も増えてくる。プーチンの力、ロシアの影響力は過大評価されている。

日ロ関係にどう影響するか?

現在の日本は、トランプ政権との関係が良好である上に、中国とも関係改善の兆しが見える。大国関係の中で、日本は良好な力のバランスを築いているのである。「一帯一路でも日中は協力」という姿勢を明らかにすれば、ロシア人は不安がるだろう。また前記のように、2,3年先にはロシアが「貯金」を使い果たして、資金不足に陥る可能性があることも、日本の立場を良くする。

しかしこれより日本の立場が良かった1990年代でも、ロシアは「歯舞、色丹は返還。国後、択捉は共同開発」の線が精いっぱいであったことを想起するべきである。沖縄は、日米安保関係がその返還を後押ししたが、北方領土の場合は逆であることを認識するべきである。

だからと言って、日本が過度の妥協をしてでも北方領土問題に「けりをつける」という発想は、日本の得にならない。日本が譲っても、ロシアは中国を捨てて日本に与するわけではない。日本が譲らなくとも、ロシアは日本に原油等の資源を輸出したい。日本が譲っても、ロシア軍は日本周辺での策動をやめないだろう。日本領空に近づくロシア機は、在日米軍の動向を探り、牽制しようとしているのである。従って、北方領土問題を無理に「解決」しても、自衛隊の「二正面作戦」を避けることはできないのである。

だから、ロシアとは敵対するのでなく協力を続ける。しかし北方領土返還の要求は続けるという二本立てでいけばいいのである。
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