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世界はこう変わる

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2016年11月20日

世界のメルトダウン その23 理念の時代から情念の時代へ  噴き出す怨念

(13年前、「意味が解体する世界へ」という本を草思社から出版した。
米国のイラク攻撃が、「自由」とか「民主主義」というスローガンへの幻滅をかきたてると同時に、米欧諸国の足元でも移民により多民族国家化が進行し、近代の「自由民主主義」が危殆に瀕している様を随筆風に書いたものだ。僕が自分の書いた中でいちばん好きな本。
そして今、13年前に書いたこのことが、世界のメルトダウンを起こしている。
それについて共著本の出版を策していたのが頓挫したので、ここに自分の書いた分を発表していくことにする。これはその第22 回)

吹き出す怨念-謝罪外交

 一九七八年、筆者は外務省でベトナムやカンボジアを担当する課で働いていた。当時、カンボジアでは過激な共産主義者のポルポットが政権を取り、地元のエリートを皆殺しにして、貨幣まで廃止した原初共産主義の支配を敷いていた。しかしポルポット政権は隣国のベトナムを脅威ととらえ、国境での侵犯を繰り返すようになったため、その十二月二十五日、ベトナム軍は大挙してカンボジアに侵攻し、首都プノンペンまで攻めあがって占領、ポルポット一味を地方に追いやってしまったのである。

これは、国際法上は過剰防衛で、自衛の域を超えているのだが、国連安保理では米ソ中が対立しているから何もできない。そうこうするうちに中国軍がベトナムとの国境に集結を始め、一九七九年二月十七日には、カンボジアに侵入したベトナムを「制裁する」と称してベトナム領に侵入(但し、法的には「ソ連・ベトナム連合による中国侵攻を防止するための『自衛反撃戦』」と呼んだ)、その揚げ句、山間部での厳しい戦闘に敗北して引き上げるのだが、この中国一国だけで周囲の国を「制裁」できるという考え方が面白い。これは平等な主権国家の併存を前提とした近代国際法の考え方ではない。中国を中心とした「国際家父長制」の中で父であるところの中国王朝に周辺諸国が子として罰せられる、朝貢・冊封体制を前提とした考え方なのである。

このように、中東でもそうだが、アジアでも長い歴史を持つ伝統的な国際秩序思想が連綿としてあって、これは近代国際法とは違う。国連憲章は近代国際法をベースとしているが、アジアの政府、国民はこの「近代」国際法とは違う価値観で動くし、その多くは明文化も条約化もされていない。これら諸国との紛争を近代国際法に基づいて解決することは、まだ難しいのである。政治的・感情的な対応を、彼らは日本にも迫ってくる。

その一つに歴史的な怨念、あるいは歴史問題と呼ばれるものがある。東アジア諸国は、欧州や中東の諸国と同じく、攻めたり攻められたりを繰り返してきたのだが、そのうち一番新しい、まだ国民の間に記憶が生々しい事件は、「歴史問題」として国際政治を動かす要因となる。

例えば日本と中国、日本と韓国の間には、戦後外交関係を樹立した際の共同声明や条約で、相互に賠償請求を放棄する合意が行われている。相互にと言うのは、終戦で日本は中国、朝鮮半島に現在の価値で言えば数10兆円規模の資産を残置し、それは両国政府によって賠償の意味で接収されたままであるからである。つまり近代の国際法の考え方では、南京虐殺、朝鮮半島での慰安婦問題、朝鮮人の強制労働問題も、中国、韓国は国家、政府としては日本政府に賠償をもはや請求しないと、条約・声明で約束したのである。それでも中韓両国は、歴史問題を外交の場にあげ、日本から謝罪を求めるのを常としている。
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