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世界はこう変わる

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2022年1月27日

ロシア旬報第7号  21年6月から22年1月のあたり


(旧ソ連圏には計13年間勤務したが、今でもロシア語、英語のニュース、論評を毎日読んで、自分でデータバンクを作っている。それをベースに四半期ごとに若手の専門家の参加を得て勉強会を開いている。その際の報告を旬報として公開することにした。今回はさぼっていて半年ぶりになった。
旬報は、ロシアと旧ソ連諸国の二本立て。期間の記事データバンクは量が膨大なので、別途掲載してある。ご関心の向きはhttp://wakateeurasia.seesaa.net/article/481287437.htmlをご覧ください)

ソ連型政治・外交への復帰
 保守バネ

 プーチンは、ゴルバチョフ、エリツィンが起こしたソ連の崩壊、経済・社会の大混乱を鎮めることを使命に、地位についた(と言うか、エリート層のある程度の総意で)人物である。1789年のフランス大革命の後の混乱を鎮めるために担ぎ出されたナポレオンと、そのおかれた立場は似ている。ただナポレオンは失業者の大群を徴兵して大軍を作り、それで周辺を次々に征服してその大軍を養わせる、拡張政策を取ったが、プーチンは原油とガス輸出の収入を分配することで、国内を収めることに注力してきた。
プーチンの力のベースは、全国の状況を把握し、大統領に直結して全国を動かせる手足を持つ、今や唯一――共産党亡きあと――の機関、旧KGB、現在のFSBである。そして国民の多くは中央、地方の公務員、あるいは国営・公営企業従業員で、反政府勢力にはならない。予算から給与を得ていない者でも、ソ連時代の昔から、お上に「何かをしてもらう」体質が染み込んでいる。「自由」とか「民主主義」のためにエリツィンを支持した結果が6000%のハイパー・インフレだったことも、彼らの頭に刷り込まれている。
西側のマスコミ、学界は、「西側社会を知っているリベラルな」知識層がロシアを率いることを期待しているが、こうしたインテリは、プーチンが大統領になって以来、FSBによって遠ざけられており、最後に残ったリベラルの大物、ネムツォフ元第一副首相も2015年2月、モスクワの路上で何者かに射殺されている。
こういう体制が今ロシアを支配しており、それは上に座っているのがプーチンであろうと誰であろうと、自己保存を目的に動く自動機械のようなものとなっている。プーチンはこの機械の隅々までコントロールできるわけではない。この機械の手足は資金を横領するし、反政府分子の取り締まり方が過度に流れて西側から批判を招いたりするのである。

21年9月総選挙始末記――魔の電子投票

そして2021年の後半のロシア内政は、9月19日の下院総選挙を中心に動いた。ソ連時代、本当の意味での選挙はなかった。与党、野党がいて、何人もの候補者の中から一人を選んで名前を書くという、本当の意味での選挙は、ソ連が崩壊して一般的になったものである。それは、自由と民主化を標榜したエリツィン政権にとっては自然なことだったが、1996年の大統領選挙でエリツィンは実際にはジュガーノフ共産党党首に負けていたと言われるほど、リスクをはらんだものであった。
そういう選挙を、プーチン政権が廃止しない理由はよくわからない。多分、国内、海外で抵抗・批判を受けるからやらないのだろうが、その代わり、あらゆる姑息な手段を駆使して与党の勝利をはかろうとする。今回9月の総選挙前には、反政府のナヴァーリヌイが主宰する反汚職財団が政党として登録するのを認めず、彼らが候補者を立てるのを妨害したし(同財団は結局、解散に追い込まれている)、「ロシアの共産主義者共産党」なる紛らわしい名の政党を立ち上げて、最も有力な野党である共産党の候補の得票を食おうとした。外国資金を受けている団体(マスコミも含めて)、個人は「外国エージェント」を大々的に名乗るよう、法律で強制して、その信用を貶めようとした。12月には、ゴルバチョフの時代から活動している社会団体「メモリアル」――スターリン粛清の犠牲者の名誉回復をはかる運動をしている――に、ロシア最高裁が解散を命じている。
そして今回総選挙では、究極の選挙結果操作装置(ではないかと思われるもの)が登場した。それは、モスクワ等一部地域で、インターネットによる電子投票が大々的に「実験導入」されたことである。これは人口1000万を超えるモスクワで、実に200万人もが使うものとなった。それは「紙」での投票を8万ほど上回ったのである。9月19日の投票締め切り後、開票が直ちに始められ、モスクワなどでは野党系候補者がリードする選挙区が多かったのが、次の日の朝になると「電子投票の結果を集計した結果、軒並みに与党「ロシアの統一」候補が最終勝利を収めた。
リベラル層は、インターネットに強い青年層が電子投票をすることで、野党系候補に有利になることを期待していたのだが、実際は逆になったのである。モスクワなどでは、連邦政府、モスクワ市政府関連の職を持つ者が多数で、彼らが電子投票をするよう奨励されたようだ。しかも「この電子投票は3回まで投票を修正することができるようになっているから、投票する相手を修正した者が多数出た。このため、開票に時間がかかった」とパンフィーロヴァ中央選管長などは釈明している。語るに落ちるで、当局にとって望ましい結果が出るまで、中央・地方政府職員とその家族が、自分の投票先を修正させられていたとしか思えない。
こうしてぺんぺん草も生えない程の管理社会が実現した。リベラル層は手も足も出ないし、口も開けにくいはずである。モスクワ近傍の刑務所で服役中の反政府運動家ナヴァーリヌイは8月26日、ニューヨーク・タイムズに長いインタビューを出しているが――どうやったのかは知らない――、「毎日8時間、国営テレビを見るよう強制されている。これは拷問だ」とこぼしている。国営テレビは、日本のヴァラエティー番組ばりに下らないのである。
この一連の保守化、弾圧の強化で腑に落ちないことが一つある。それは、「誰がこの一連の措置を仕切っているのか。それとも諸公安・保安組織がプーチンにお為ごかしで、思い思いに動いているのか」ということ。以前なら、内政を仕切るのは大統領府長官、あるいは大統領府第一副長官だった。しかし現在のヴァイノ大統領府長官、キリエンコ第一副長官とも、そのような剛腕政治家・官僚ではない。ヴォロージン下院議長が大統領府第一副長官を務めていた頃は、取り締まり強化が目立ったが、彼はその野心の強さから警戒されて下院議長に移されたので、政治を仕切ることができるとは思えない。かと言って、パトルシェフ国家安全保障会議書記が日常、そのような内政のかじ取りをするようにも見えない。この点は重要で、誰が仕切っているのかわからないと、今後の展開も読みにくくなるのである。
こう言っても、ロシアはスターリン時代に戻ったわけではない。カフェ、レストラン、スーパーの類は、西側なみにスマートでコンフォタブルだ。ソ連ではモノがろくになかったが、生活は保証されていて、「愚者の楽園」だと言われた。今のロシアはつかの間の原油価格高騰で、モノのある「愚者の楽園」が実現している。

2024年大統領選挙がこれからの政局の核心

2024年の大統領選挙まであと2年少しとなった。プーチン政権は、2018年に再発足した時から、この大統領選挙を最大の眼目にして動いている。官民で総額27兆ルーブル相当を支出する「ナショナル・プロジェクト(複数)」を実施。道路、鉄道などのインフラだけでなく、教育、福祉などに投資して2024年までに国民の生活水準を大幅に向上させることを狙ったのだ。
しかし「ナショナル・プロジェクト」は今に至るも、何をどうするのか目鼻立ちがわからない。諸省庁、地方が予算の分捕り合戦を演じて、おさまりがつかないのである。官僚を動かす力に欠けるメドベジェフ首相を20年1月、無理無体に代えてミシュースチンに代えてみたものの、その直後にコロナ禍に襲われて行政は麻痺したし、21年後半からは海外でのインフレが波及して国内インフレが激化、年率8.39%にも達して、「ナショナル・プロジェクト」実施の費用をうなぎのぼりにしている。かくて、「ナショナル・プロジェクト」の完遂期限は2024年から2030年に延ばされてしまい、2024年の大統領選挙では目玉として使えないこととなった。

「西側への勝利」が目玉?

以上の次第で、2024年の大統領選挙をめがけては、ナショナル・プロジェクト以外の新しい「目玉」が必要となっている。経済は、インフレを抑えるために利上げを繰り返す状況で、景気が冷えることが避けられない。
その中で、プーチンとその側近たちは、外交に目を向け始めた可能性がある。保守の論客Duginや元リベラル系論客Karaganovたちは、米国の力が後退している今は、ロシアの世界的立場を固める好機だ、という論調を展開している。そして2010年以降、ロシアが軍の近代化に励んできたかいがあって、対欧州方面のロシア軍は数でも火力でも、NATO側を圧倒するようになっている。ソ連崩壊後、しばらくは情勢は全く逆だった。それが、西側が気が付かない間にまた逆になっている。
プーチンは既に15年前の2007年2月ミュンヘンでの安全保障問題セミナーでスピーチ。ソ連崩壊後、西側との和解をめざして努めてきたのに、西側はNATOを旧ソ連圏の東欧諸国、次いでソ連の一員だったバルト諸国にまで広げたことを強く非難した。そして彼は、冷戦時代のように国境周辺への偵察飛行を復活する等、強面の対立姿勢を打ち出し、翌2008年8月にはNATOに接近してロシアを挑発したグルジアに武力侵入して領土の一部を占領した。そして2014年3月には、米国がウクライナのレジーム・チェンジをはかったとして、ロシアの黒海艦隊の基地があるクリミア半島を占拠、併合して今日にいたる。

ウクライナをめぐる米・NATOとの対決

近年、NATOをめぐってはロシアとの間で兵力配置のエスカレーションが見られた。ロシアに近接する旧ソ連圏諸国が、ロシアの復活を恐れて米軍増強を求め、これに米軍は応じている。それに対してロシアは西部方面での兵力を増強し、米・NATO軍と対峙の姿勢を強めている。昨年夏からはその対立が嵩じて、10月にはNATOとロシアは外交関係を切った。
この「助走期間」を経て、今般ウクライナ国境へのロシア軍集結となっているわけだ。したがって、これは東ウクライナへのウクライナ政府軍増強を抑止するためのものなのか、それともプーチンが言っている「NATOの東への一層の拡大を許さない。そこを明確にした条約を米国に結ばせる」ためのものなのかはわからない。
とにかく、「これを認めるなら、ウクライナに侵入はしない」として、米国に条約案を投げつけた。ここでは、NATOの東方への拡大を停止すること、旧ソ連領域に基地、ミサイル・システムなどの施設を今後展開しないこと、ウクライナへの軍事援助を停止すること、欧州に中距離ミサイルを配備しないことなど、ロシアのこれまでの言い分が列挙されている。ロシアの識者ドミートリー・トレーニンは、「プーチンはウクライナに侵入したいのではなく、冷戦後の枠組みを変えたい。ロシアはこれまで、西側の作ったルールに従わされるだけだった。これを変えたいのだ」と言っている。そしてプーチンは12月、いくつかの場で、「これまでNATOには何度も煮え湯を飲まされてきた。ウクライナは最後の踏ん張りどころだ」という趣旨を言っている。
バイデンは老獪にも、この失礼な条約案を頭から拒絶することはせず、1月初めからロシアと話し合いを始めた。1月10日から米ロ、NATO・ロシア、OSCEの3つのフォーラムで話し合いが開始されている。米ロだけで世界を仕切ろうとするロシアの荒い鼻息をやんわり交わし、NATOの拡大についてはNATOと話し合ってくれ、米ロ間では米ロだけで決められる核ミサイル配備制限の問題を話し合おう」というやり方で、外交の場ではロシアが孤立している構図を浮き立たせたのである。
ロシアはどうするだろう? 思いがけずも1月5日には遠方のカザフスタンに火がついて、2000名の空挺団を送る羽目になっている。NATOとウクライナに対してロシアがキレて武力行使に出た場合、何が起きるか、それはこの旬報で論じても仕方ないので、「もし何かの譲歩を西側から獲得できれば、それは2024年大統領選挙での目玉になり得る」ということだけ言っておく。ただ、目玉になるだけの譲歩を西側から得ることはできないだろう。
それに種々の世論調査結果を見ると、ロシア国民は「海外のことはもういいから、自分たちの暮らしを何とかしてくれ」という気持になっているのだ。

ロシア外交の地平線の黒雲

ロシア外交にとっては、昨年8月アフガニスタンの政府崩壊とタリバン政権の出現が大きな節目になった。ロシアは、米軍撤退を米国の弱さの表れだと喝采したが、アフガニスタンは実際には米国にとってさして重要な地域でもなく、余計な負担を振り払っただけである。米軍がいなくなったことでロシアは、タリバンが中央アジア諸国の脅威にならないよう、抑えておくことの責任を丸抱えすることになったのである。それをきちんとしないと、中央アジア諸国はロシアから離れていくだろう。
ロシアは、アフガニスタン情勢で発言権を確保するため、一時はタリバンとのコンタクトを開発するべく努めた。しかしこの1,2年はそれをあきらめたのか、ガニ政府とのコンタクト開発に専念している趣があったが、そこでガニ政府が崩壊したのである。その直前からロシアはタリバン幹部をモスクワに招待する等(中国も同様のことをした)、泥縄の対タリバン外交を展開した。その後10月20日、モスクワでの国際会議で中国も含めた10か国外相会議を立ち上げるなど、情勢の主導権を取ろうとする構えを見せたが、現在のタリバンが求めているものは経済援助である。その面での能力が限られているロシアに、今できることは少ない。アフガニスタンについてのロシアの動きは、最近まったくニュースに出てこない。
この1月現在のロシアにとってはウクライナ、そして対米、対NATO関係が目下最大の関心事項だが(ベラルーシ、コーカサス地域、そしてカザフスタンについては、「旧ソ連諸国旬報」の方で述べる)、その他にもネガティブな要因はいくつかある。
一つはトルコのエルドアン大統領が近年、オスマン・トルコ時代の版図の回復を狙っているかのような拡張主義的外交を展開していることだ。ウクライナ政府にドローンを供与しているような問題もあるが、ロシアにとって最大の問題は、トルコが同族のアゼルバイジャンとの関係を昨年6月、「第三者の攻撃に対しての相互支援」を誓う実質的な軍事同盟関係にまで高め(「シューシャ宣言」、2020年9月のナゴルノ・カラバフ紛争以来、コーカサス地域での発言権を大きく高めていることだろう。アルメニアにはロシアは一個師団を置いており、軍事同盟を結んでいるし、ナゴルノ・カラバフ停戦を保証する平和維持軍を出してもいる。これにアゼルバイジャン・トルコの連合が、実質的に対抗し始めているのである。
もう一つは、ドイツで新政権が誕生し、外相に「緑の党」党首のベーアボック女史が就任したことも、ロシアには懸念材料である。「緑の党」は環境問題だけでなく、人権問題に関心を払ってリベラルな外交を推進する。もっともショルツ首相は自分の属する社会民主党十八番の「東方外交」を展開すると言っているし、ベーアボック新外相は1月中旬ウクライナ訪問の後、訪露して、ラヴロフ外相とウクライナ問題等を話し合っている。正念場では、首相と外相の対ロ姿勢にさほどの差は出ないのだろう。

ロシアの経済

コロナ禍とそれに伴う世界原油価格の暴落でGDPを一時はGDPを7%ほど減らしたロシアだが、その後原油価格が回復したことで、2021年のGDP成長率は4%を超えた。株価は昨年11月までは右肩上がりであったが、ウクライナをめぐる緊張増加でこの年頭に向けて右肩下がりになっている。一方財政は、黒字基調で推移している。
但し問題は何度も言うように、インフレが進んでいることである。2021年は8.4%に達した。これは主として、海外のインフレにあおられたものである。このインフレは既に述べたように、「ナショナル・プロジェクト」などのインフラ建設案件を遅らせているし、インフレを抑えるために中銀が利上げを繰り返し(12月には8.5%に達した)、景気を冷やす現象を起こしている。国営企業の多いロシアでは、利上げは別に企業活動に作用するわけでもなかろうが、消費者ローン、住宅ローンには確実に響く。
またコロナも、一向に落ち着いていない。1月には、オミクロン株がそれに拍車をかけている。ロシア人が当局のお声がかりで短期間で認可されたロシア製ワクチンを信用せず、接種率が2人に1人程度と振るわないこと、マスク着用を嫌う等、わがままなことが原因である。このため、政府は11月初めにも1週間ほどの実質的なロック・ダウンを実施している。
ロシアは2020年OPECの減産方針に追随して、原油生産を減らしていた。ところがOPECが減産縮小に転じた後も、原油生産は低迷したままで、懸念する向きも現れた。と言うのは、シベリアで油井を止めれば凍結して再開が難しくなるからである。
しかし実際は、2020年ロシアは、欧州が天然ガスの輸入をそれまでの長期契約からスポット契約に切り替えたことで、ガスプロムは天然ガスの生産を9%強削減。これに伴って天然ガスと共に噴出する石油コンデンセート(ロシアでは原油として数えている)の生産量が減少しただけの話しであることがほぼ確かになった。2021年には2.2%の増産に転じている。しかし2020年には8.6%もの減産があったため、以前の水準にはまだ達していない。
ロシアは、世界で原油代替の動きが進んでいることは承知しており、天然ガスから水素を製造することも考え始めている。水素をアンモニアに結合させれば、既存のパイプラインで諸方に輸出できるのである。
他方、ロシアは地球温暖化に対処するため、2026年までに二酸化炭素排出を実質ゼロにするという約束を公にしているが、その実現性は疑問である。と言うのは、森林が二酸化炭素を吸収することに、過度に依存しているからである。ロシアにどのくらいの森林があるか、誰も正確なところは知らないのである。「広大なシベリアの針葉樹林」も実際は降雨量の少ない地域であり、アマゾンの熱帯雨林のような密度はない。しかも地球温暖化でこのところ森林火災が多発し、2021年はフロリダ州の面積に相当する森林が焼失、二酸化炭素を吸収するどころか、大量に排出しているのである。

天然ガスはロシアの政治的な武器か?

2021年後半、欧州では天然ガスが不足し、価格が暴騰した。欧州の一部では、これをロシアが生産を故意に絞ったためだと非難したが、実際は欧州諸国の自業自得であるようだ。と言うのは、欧州諸国はLNGのスポット価格が一時下落したのに幻惑されて、価格が高めのロシアとの長期契約をやめ、スポット取引に全面移行していたからである。長期契約を失ったガスプロムは、生産を削減したのである。
天然ガス価格高騰でガスプロムが手にした輸出収入は1~10月で400億ドルに上る。もし米国の圧力と、ベーアボック新外相の差し金で、ガスプロムがドイツ、欧州諸国向けに建設したバルト海海底パイプライン「ノルト・ストレーム2」の稼働がキャンセルされても、ガスプロムは建設費はもう回収したようなものなのだ。他方、欧州の方はロシアの天然ガスを簡単に拒否できる状況にはない。今年の冬も、天然ガスは不足気味に推移するだろうし、欧州委員会は現在、天然ガスを原子力と並んで「クリーン・エネルギー源」に指定替えするべく、域内調整を進めているからである。米国がシェール・ガスの液化を進め、今やLNG輸出で世界一の座に上り詰めたことは、新しい要素だが、EUのLNG陸揚げ能力はまだ限られている。

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