Japan and World Trends [日本語] 日本では自分だけの殻にこもっているのが、一番心地いい。これが個人主義だと、我々は思っています。でも、日本には皆で議論するべきことがまだ沢山あります。そして日本、アジアの将来を、世界中の人々と話し合っていかなければなりません。このブログは、日本語、英語、中国語、ロシア語でディベートができる、世界で唯一のサイトです。世界中のオピニオン・メーカー達との議論をお楽しみください。
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世界はこう変わる

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2020年4月25日

メルマガ 文明の万華鏡第96号発売

月刊メルマガ「文明の万華鏡」第96号を22日に発売しました。「まぐまぐ」社サイトでご覧いただけます。ここに冒頭部分のみアップしておきます。

 世界はコロナでエア・ポケットに落ちたまま。政治、経済ともこれからどうなるのか、コロナ後にはこれまでと全く違う世界が我々を待っているのか否か、世界の論壇を見ていても、皆考えあぐねているばかり。誰も、確かなことはまだ見えていません。

 ただ、2008年のリーマン危機の時と比べてましなのは、米国の債券市場がまだ落ち着いていて、金融危機が起こるほどになっていないことです。しかしこれも、米国連銀が国債を「必要なだけ」買い上げる姿勢を示して(当初、住宅ローン担保証券と合わせて7000億ドルの目安を示していたのが、枠を取り払って青天井としたわけです)、金利の上昇を防いでいるからで、現在共和党内で復活しつつある「茶会派」(大きな政府、財政赤字に反対)の動き次第では、悲劇が起きるかもしれません。例えば中小企業救済融資を止めるとか。

他には、諸国がどこまで経済的に「内にこもる」ことになるのかが、判断の分かれ目なのですが、これについて私はそれほどひどいことにはなるまいと思っています。世界諸国間の分業が進んでいて、これを覆して、自国で何でも作ろうとするところはないだろうからです。例えばマスクのような単純なものは、先進国で作っても利幅が小さく、投資効率が上がりません。それに例えば半導体回路の製造には数十もの工程がありますが、そのそれぞれに専用の機械が必要で、それら機械はAが米、Bが日本、Cがオランダという具合に独占的なサプライヤーが諸国に分散しているのです。これらについては、グローバルな取引が続くでしょう。そして機械Bを作る企業は、日本の輸入を賄うだけの外貨を獲得するのに大きく貢献し続けるでしょう。

 あとは、コロナ騒ぎにつけこんで、独裁的な権力を得ようとする国がないかどうか。米国のトランプ大統領が再選をはかるため、コロナを口実に超法規的措置を繰り返し(ウィスコンシン州で最近起きたように、民主党支持者に不利な形での選挙体制――車を持たない民主党支持者が行けないような遠い所に投票所を設けたり、郵便投票方式の全面導入を阻害したり)、米国の民主主義に深い傷を負わせることが懸念されます。違法性を裁判所に訴えても、トランプの任命した保守系判事が多数を占める最高裁まで行けば、多くのことは合憲と判断されてしまうでしょう。

もう一つは、トランプの同盟国軽視が続く中で、世界の同盟体制に入ったひびが大きくなり、破断に至ることがあるかどうかです。特に独仏と米国の首脳間の関係は、米ロ首脳間よりもひどいものになっています。トランプはプーチンに対して何か引け目を持っているようです。在欧米軍は東欧などでは増強さえされていますが、4月に予定された冷戦後最大規模の演習Defender Europe 2020は、コロナのためにいとも簡単に実質的に中止されてしまいました。米国は2万名もの兵員を戦車等とともに洋上輸送して参加させようとしていましたが、これは大西洋上で180度転回して本国に帰投したわけです。

 世界の論壇では、「コロナの後は米国の没落、中ロの台頭が一層明確になる」式の論調が見られますが、これは浅薄な見方の論調を集めてこしらえた砂上の楼閣的議論だと思います。ドル、そして基礎的な経済・技術力を基盤とする米国の力が衰えない一方(ただ、米国の原油輸入が減少すると、ドルが世界で出回る量が減って、ユーロ建て、円建て、元建てで決済される貿易が増える可能性があります。それは、ドルの支配力を崩します)、中国は輸出が減少したことでGDPが第1四半期、年換算で約34%減少(17日付日経)と、殆ど崩壊の様を呈しています。人民代表大会の開催を念頭に、第2四半期では「劇的な生産回復」が演出されることでしょうが、それは国営企業を中心としたもので、その製品は滞貨・債務の山を築くだけでしょう。西側の多くの論者は、中国の経済を西側の経済と同じだと思って表面的な数字に感嘆することを繰り返してきましたが、それは止めてもらいたいところです。

ロシアは伸びるどころか、原油価格の暴落で「これからどうしていいかわからない」ところにあると思いますし(2000年大統領に就任したプーチンは、ゴルバチョフ、エリツィンと違って、原油高値時代を謳歌。ほとんどもっぱらそのおかげで、デフォルト直後のロシア経済GDPを6倍程度に引き上げる「奇跡」を演じたのですが、それが安手の「手品」に過ぎなかったことが暴露されたのです)、ロシアの論調では、政治・経済両面にわたってプーチン「王朝」の描いてきたシナリオが全部崩れたことを指摘するものが増えています。その点、ロシアのマスコミには中国と比べ物にならない程、自由の余地が残っています。その多くは弱小メディアではありますが。

まず、自分の任期の延長をはかろうとしたプーチンの企ては宙に浮きました。4月22日に予定した「国民投票」(法的には不要なものを、プーチン自身が強く主張してやろうとした、憲法改正の是非を問う投票)は無期延期され、2024年までにロシア人の生活を根本的に改善するべく打ち出された「ナショナル・プロジェクト」の実行は原油価格の暴落で宙に浮き、更にコロナへの対応の遅れ、体制の不備でプーチンへの支持率が低下する状況。

加えてプーチンは、コロナ対応の病院を視察して励ましたのはいいが、その時握手した院長がその後コロナ陽性であったことが判明し、2週間以上、執務室に「隔離」されている状況にあります。閣僚・知事等との会議は頻繁にやっていますが、これはプーチンだけテレビで「参加」。司会者である彼が、「皆さん、聞こえますか? 見えますか?」という質問から始める冴えないものとなっているのです。

そしてその会議で紹介される閣僚、専門家の発言では、マスクから始まって、検査機、呼吸器、あらゆるものの不足、輸入依存の状況が明らかにされています。呼吸器の中核部品を中国から輸入しようとしていますが、中国は他ならぬその中核部品をスイスのハミルトン社に依存しているのです。おそらく、これは対ロシア制裁の対象となっていて、ロシアはスイスから輸入できないのでしょうが。

 そしてプーチンが3月25 日、1週間の企業「有給休暇」を宣言し、4月2日にはそれを4月末日まで延長したことで、サービス業を中心とした中小民営企業ではパニックが広がっています。「有給」と言われても、政府が助けてくれるわけではないので、企業は仕方なくリストラ、給与削減に走り、1500万人以上の失業者が出ると言われています。

 つまりロシアは今、1998年のデフォルト直後のような危機の中にありますし、それは5月9日の戦勝記念75周年記念パレードという、大イベントを無期延期したことに端的に表れているのです。

このままでは、限りがないので、本文に移ります。今月の目次は次の通りです。
 
日本のガバナンスに潜む「未必の故意」
国民に10万円配るより、居酒屋・フリーランス・文化人達を助けて
コロナは世界の軍隊を麻痺させ、戦争をなくすのか?
ロシアが原油生産削減したくてもできなかった理由
金価格が無限上昇を始める時

常識を疑う・シリーズその5
 1)米国からロシアへの帰国希望者がいない理由
 2)夜間外出禁止で、政府に補償を求めたフランスの売春婦協会

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