Japan and World Trends [日本語] 日本では自分だけの殻にこもっているのが、一番心地いい。これが個人主義だと、我々は思っています。でも、日本には皆で議論するべきことがまだ沢山あります。そして日本、アジアの将来を、世界中の人々と話し合っていかなければなりません。このブログは、日本語、英語、中国語、ロシア語でディベートができる、世界で唯一のサイトです。世界中のオピニオン・メーカー達との議論をお楽しみください。
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世界はこう変わる

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2019年1月25日

メルマガ 文明の万華鏡第81号発行

メルマガ「文明の万華鏡」第81号をまぐまぐ社から発刊しました。
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「災」の年が終わり、今年は「災」以上にひどい年になるのでしょう。「潰」の字を思い浮かべます。いくつか、extreme casesを書いてみました。

(トランプ弾劾?)
ワシントンでは民主党が多数を占める下院が発足したこともあり、「トランプ弾劾」という電光表示がちかちかし始めました。トランプは他にも、株式市場を何とか支えなければならないという至上課題を抱えています。彼が大統領に選出されるに当たって決定的な役割を果たした中西部「ラスト・ベルト」地域の困窮白人労働者階級でさえ、年金積み立ての多くを株式で運用しているからです。金成隆一の「記者、ラストベルトに住む」では、米国成人の54%が株を保有しており、トランプ支持者の多くが彼を支持する理由として株価上昇をあげる、としています。だから彼は、やれ北朝鮮の金正恩とまた会うとか、やれ中国との貿易協議で前向きの成果が出そうだとのニュースを作っては、下がり気味の株価を維持するのに必死なのです。

トランプは更に、「非常事態」を宣言する可能性にも言及しています。メキシコとの国境に壁を作るというのが、彼の選挙公約なのですが、それは移民防止に効果なしとして議会が予算をつけようとしないのに腹を立て、ならば非常事態を宣言して軍と国防費を壁の建設に使うぞと言っているわけです。

しかし「非常事態」の濫用は危険です。ヒットラーは選挙で33%の支持しか得ずに首相になりましたが、議会の火事を口実に非常事態を発令(大統領から)、野党を弾圧して独裁権を確立したのです。米軍が議会を「制圧」することになったら、目も当てられません。

非常事態にまで行かずとも、今のように「政府閉鎖」(トランプが、壁建設のカネが入っていない予算には署名しないため、公務員の給料が出ない状況になっています)が1ヶ月以上も続くと、混乱が次第に増してくるでしょう。病休を取って出勤しない公務員が増えており、政府は例えば中国との貿易交渉もろくに進められないようになっていると報道されています。

このトランプ、共和党、民主党、三つ巴の泥仕合には、早くけりをつけてもらいたいものです。民主党議会は予算を握っているのだから、大統領選でのキャスティング・ボートを握る中西部の「ラスト・ベルト」対策を充実するべきです。この沈滞した地域から、シェール・オイル生産で沸く地域などへの移住を可能とするローン提供が必要です。ラスト・ベルトでは不動産価格が低下し、買い手もないので、移転費用を支弁できないのです。元々は民主党支持者であった、中西部の白人労働者をトランプ支持から引き戻すことを考えるべきです。

(中国メルト・ダウン?)
中国については、「経済が本当におかしくなった」という認識が一般になりつつあります。昨年第4四半期は対前年同期比6.4%の成長にしかなりませんでしたが、これは中国にとってはゼロ成長に等しい、否実際はマイナス成長だったのだ、という声や、毎年830万人も出てくる大学新卒者(日本は約55万人)をどうしたらいいのだ、ぐずぐずしていると、1979年の天安門広場事件のような騒動が起きるぞ、という声です。

米国への輸出は中国の全輸出中約25%を占めており、いくつかの品目の輸出急減は多くの中小企業の倒産を誘っています。また「中国で製品を組み立てて米国に輸出する」というこれまでのビジネス・モデルは、「米国が何をするかわからない」という不確実性の前で、有効性を失っています。中国の対米貿易黒字は2017年で3755億ドル、外国からの直接投資は2017年で約1300億ドルですが、そのうちの50%が失われると仮定すると、それは約2500億ドルで、中国GDPの約2%に相当します。つまり中国GDPはこれだけでも、2%の下押し圧力を受けるのです。流入した外資が中国国内でぐるぐる回って経済を一層引き上げてきた波及効果を考えると、中国経済はマイナス成長に陥ると思って差し支えないでしょう。

街の様子はまだ危機感、停滞感はなく、海外への中国人観光客も急減はしていませんが、中国共産党は昨年秋、毎年恒例の中央委総会も開かず(あるいは開くことができない程、内部の意見の乱れがひどく)、政府、中銀はこの半年で景気刺激・金融緩和策を相次いで取っています。あまり問題視されていませんが、中国はこの数年多額の財政赤字(2018年が約3.6兆元)を計上しており、これらの景気刺激措置はおそらく十分効果を発揮しない一方で、財政赤字問題を一層激化させるでしょう。

中国でもう一つ心配なのは、米中間のやり取りにあおられて、台湾をめぐる習近平の物言いがどんどんエスカレートしていることです。彼は経済音痴に加えて、対外政策ではイケイケどんどん的な人物なので、台湾について近い将来、「ひょうたんから駒」ならぬ「売り言葉に買い言葉」で戦争、ということになりかねません。一般には、そうなった場合、中国軍が簡単に台湾を征圧すると思われていますが、そうはいかないでしょう

米空母部隊は1995-96年の台湾海峡危機で中国海軍を威圧できたのとは異なり、現在では中国の対艦ミサイルを警戒して中国本土にこそは近寄りませんが、中国艦隊が台湾東方に進出してくるのを殲滅することはできるでしょう。中国は台湾東岸を征圧できないと、西岸からの侵攻にかけるしかなく、台湾軍の抵抗力は大きなものになるでしょう。昨年10月9日付日本版Newsweekで、タナー・グリーアという人がそのあたりを分析し、中国軍は敗北を喫し、それによって中国人が急速に自信と共産党への信頼を失う可能性を指摘しています。その時、中国軍と中国は分裂しかねません。台湾をめぐる情勢については、日本版Newsweekの29日発売号に小文が掲載されることになると思いますので、そちらもご覧ください。

(米中対立は日本にとって対岸の火事ではない)

米中対立については、日本、EUとも、「これは自分達の問題ではない。自分達は中国とはこれまで通り取引をしよう」と少し嵩をくくった見方が多いことが気になります。しかし対中経済関係では、2つの面で問題が起きるでしょう。一つは、中国で生産して対米輸出するモデルがもう有効でなくなったことを踏まえ、対米輸出基地をどこに設定するかという問題。「資本はグローバルでも、生産は地産地消」がこれからのビジネスの大きな流れになっていくのでないでしょうか? 米国で販売するものは米国で生産するのが一番安心できることであり、その場合は米国内での立地の選定、労働力の確保が一番の問題になるでしょう。中国に既に建設した工場は、中国国内消費、そして米国以外の諸国への輸出に用いることになるでしょう。更に、低賃金を求めてベトナムやバングラデシュに組み立てベースを移すことも考えられますが、賃金は急速に上がるもの。いつまでも「チープ・レーバー」を探す時代でもないので、思考を柔軟に維持して、最適の立地を選ぶべきでしょう。

もう一つの問題は、中国への先端技術の輸出はできなくなるということです。冷戦時代のココム(対共産圏輸出統制委員会)の例を取りますと、先端技術を使って生産した製品の輸出は大丈夫でも、それを作る製造設備の輸出は厳しく制限されていました。工作機械であれば、何軸以上のものはダメとか、何ミリ以上の金属研磨精度を持つものはダメとかです。ココムではこれを、17ケ国もの代表が集まって(17全部が出てくることはありませんでしたが)、主として米国代表に「このくらいならいいだろう」と詰め寄っていたわけですが、現在はココムのような面倒な国際取り決めは不要です。米国が勝手に規制を決めて、これに違反する外国企業は米国での事業を禁じる、あるいは決済でドルの使用を禁じる等の制裁を課すことで、簡単にグローバルな実施ができてしまうからです。「トランプは気がおかしい」とか、「米国がまたおかしなことをやっている」式の見方をしていると、ひどい目に会うでしょう。

(日本エリート層の対米離反)

 この頃、いろいろな国際セミナーでの日本側参加者の発言を聞いていると、トランプ政権に対する不信、苛立ちが次第に膨れ上がってきていることに気が付きます。日本はこれまで米国に押さえつけられてきただけに、鬱積した不満には大きなものがあり、きっかけがあると暴発しかねません。対米自立は必要だし、自衛力強化も着々と進んでいることではありますが、反米の暴発は日本にとって危険なことになるでしょう。

トランプはかつて不動産ビジネスで日本の企業においしい案件をさらわれた、あるいは相手にしてもらえなかったという恨みを持っていると言われており、安倍総理にも「米国民は真珠湾攻撃のことを忘れていない」と言ったと報道されています。外国からの輸入品を嫌う中西部の労働者の票を目当てに日本に殊更厳しい要求をつきつけてくるでしょう。対中貿易問題は小康状態、北朝鮮とは第2回の首脳会談実現となると、日本がそろそろトランプのサンドバッグにされる順番が回ってきて、日本の世論がキレ、日米が過度に離間する危険が出てくるでしょう。

(北方領土問題)
 22日の日ロ首脳会談では、目新しいことは起きていないように見えます。ただ心配なのは、昨年11月シンガポールでの首脳会談以来、安倍総理が「1956年の日ソ共同宣言をベースに交渉」ということを言い続けていることです。ロシアが「歯舞・色丹のことを話す前に、この2島にはロシアが主権を持っていることを先に認めろ」と繰り返すようになっている意味を、もっと吟味してみないといけません。

 共同宣言の第9項「日本国及びソヴィエト社会主義共和国連邦は、両国間に正常な外交関係が回復された後、平和条約の締結に関する交渉を継続することに同意する。ソヴィエト社会主義共和国連邦は、日本国の要望にこたえかつ日本国の利益を考慮して、歯舞群島及び色丹島を日本国に引き渡すことに同意する。ただし、これらの諸島は、日本国とソヴィエト社会主義共和国連邦との間の平和条約が締結された後に現実に引き渡されるものとする。」を、吟味してみる必要があります。

これを交渉した時フルシチョフは、「歯舞・色丹はロシアのもの、つまりロシアに主権があるから返す義務はない。しかし平和条約を結べば、ソ連国民からの好意の証として日本に引き渡す用意がある」という趣旨を言っているのです。つまり、平和条約では国境・領土問題はいじらず(そんなものは平和条約とは呼びませんし、共同宣言がまさにその領土問題抜きの平和条約に相当します)、条約締結後、日本がいい子にしていれば2島を「引き渡す」(返還するのではない)こともあるよ、ということです。

 安倍総理が言った、「56年共同宣言をベースに交渉」というのはこういうことだよ、ということを、ロシアは今念を押したがっているのでしょう。総理がこれに「OK」と言って、外交官に交渉させるとどうなるか? 領土問題には言及しない(悪くすると4島はロシアの主権下にあることを認めた)「平和条約」なるものを結ばされ、夏の参院選に向けての安倍総理の一大業績として喧伝されることになるのでしょう。この問題で30数回総理官邸に入り浸って助言をしてきた鈴木宗男氏は、参院選で自民党から国会議員に返り咲きということになるでしょう。

 そしてその後は・・・これまでとよく似た光景が繰り返されることになるでしょう。ロシアは、「日本が平和条約を十分実施し、友好の実を見せてくれなければ、ロシア国民が島を引き渡す気にならない」とか言って、種々の要求を無限に繰り返してくることになるでしょう。日本は哀れなことに、国後・択捉に言及する根拠も失って、歯舞・色丹を引き渡してくれと懇願を続けることになります。

 もともとクリミア併合後米ロ関係が悪化している時に、北方領土問題を進めようとしたら、日本がベタ下りするしかないのです。そのような「成果」は日本での選挙にはマイナスだし、安倍家に末代の汚名を残すことになるでしょう。今、急いで解決、と言うかベタ下りしなくても、ロシアとの関係は是々非々で互恵関係を発展させることができます。ベタ下りしてロシアとの関係を推進しても、日本が得られるものは何もありません。

 領土問題の真剣な話し合いは、将来米軍が日本から撤退し、東アジアに小型国連のような国際的枠組みを作る必要が生じた時、中ロ関係が決定的に悪化した時、あるいはロシアが分裂した時等まで待っているのが、賢いやり方だと思います。

今月の目次は次の通りです。
 アベノミクス逆回しのシナリオ
 北方領土問題をめぐる議論の虚実
 今月の随筆:米国人の国外脱出願望

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