Japan and World Trends [日本語] 日本では自分だけの殻にこもっているのが、一番心地いい。これが個人主義だと、我々は思っています。でも、日本には皆で議論するべきことがまだ沢山あります。そして日本、アジアの将来を、世界中の人々と話し合っていかなければなりません。このブログは、日本語、英語、中国語、ロシア語でディベートができる、世界で唯一のサイトです。世界中のオピニオン・メーカー達との議論をお楽しみください。
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世界はこう変わる

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2020年6月25日

6月の情勢 メルマガ文明の万華鏡第98号発行

昨日、メルマガ「文明の万華鏡」第98号を、まぐまぐ社から発行しました。
「はじめに」の部分は次のようになっております。この先は、「まぐまぐ」社にアクセスしてご入手ください。

――コロナ蟄居ももう3か月。BBCやCNNとインターネット、そしてズームのおかげで、世界から後れているとは思いませんが、世間的にはもう存在していないも同然かも。
 
3,4日前まで、世界がもう後戻り不可能なほど壊れていく感じがしていました(今はトランプ再選の可能性が小さくなってきたことで、まだ望みはあるかという気になっています)。まず安倍政権が、末期症状を示しています。金融緩和、外交と、あれだけのエネルギー全開の感じの7年半ではありましたが、結局、「日本中興の祖」にはなれないようです。

「2%のインフレが起きる」という期待で企業の投資を呼び込み、それで成長の好循環を実現しようというアベノミクスは、最初から見立てが間違っていました。所得水準、消費水準が上がらなければ、企業は投資に踏み切りません。そして、アベノミクスの副産物の円安は、トランプ下のドル安トレンドを受けて、円高に転じつつあります。外交でも、(これは安倍総理のせいではなく、日本が置かれた地理的・歴史的立場が悪すぎるというだけの話ですが)対韓国、北朝鮮、中国、ロシアと、前向きの大きな進展はなく、米国との関係も米国自身が長期混迷傾向を強める中、トランプが代わっても変わらないでしょう。

前から言われていることですが、日本はアジアで独りぼっちで、米国との関係が悪化すれば、居場所がなくなる――ということがひしひしと感じられます。ドイツのメルケル首相は今、米国のトランプ大統領と対立と言ってもいいほどの関係にあります。彼女はトランプが6月末にワシントンでG7首脳会議をやろうと突然言い出した(もともとその予定だったのを、G7が嫌いなトランプがコロナを口実に、電話会議でいい、と言っていたものです)のを蹴って、トランプを激怒させ、在独米軍約3万5000人中、9500名程削減の発言を引き出しました。

しかしそれでドイツ国内は騒ぎにならず(在独米軍はこれまで何度も削減されてきましたし、ロシアはドイツにとってリアルな脅威ではありません)、メルケルは5月末、フランスのマクロン大統領と、コロナ禍で弱っている南欧諸国の経済を助けるために5000億ユーロの基金を作る、その原資は(ドイツの信用をかたに)「EU国債」を発行することで賄うと発表しました。これはEU内の同意をまだ得るに至っていませんが、財政赤字、インフレを嫌い、EU加盟国を財政的に助けることを極力忌避してきたメルケルとしては180度の転換で、第2次大戦直後、米国が「マーシャル・プラン」で無償の資金を欧州につぎ込み、ドル体制確立をはかったのに似ています。ドイツは欧州の盟主としての地位を名実ともに固めることになります。これはメルケル首相の意向だけではなく、むしろ連立与党の社会民主党ショルツ財務相の説得に応じたものですから、政治的にも非常に強い基盤を持った方向転換です。

で、このドイツに比べると、日本はアジアの地元に何も足場がないな、と思うわけです。韓国は手持ちのドル資金が底をつくと、日本にスワップで貸してくれと言ってきますが、じきにまた悪態をつき始めます。日本では以前から、東アジア共同体とかASEANを重視せよとか言われていますが、これらはEUほどの力は持っていないし、既に中国にかなり席巻されています。

もう一つ、世も末だと思わせるのは、米国の体たらくです。「米国は強い」という倨傲が右も左もエリートに浸透していて、多くの者が自分達だけの利益を追求し、非現実的な思い込みに基づく政策を世界で実行し、米国と世界をめちゃくちゃにしつつあります。Hubris, Greed, Bigotryの三悪がはびこっている様は、古代ローマが崩れていったときを強く思い起こさせます。キリストが生きていた頃のローマでは、貴族は土地所有をどんどん増やして脱税、かつ相争い、軍は地方毎の派閥に分かれて自分達のボスを皇帝に押し立てては毒殺、謀殺、何でもありの死闘を繰り広げていたわけです。その様を、ブリタニカ百科事典は、こう描写しています(筆者抄訳)。

――共和制初期からの、「エリートは社会に奉仕するもの」というnoblesse obligeの精神が廃れた。下層の者はカネで上にのし上がると、元を取ろうとした。このため、徴税は厳しく、文官の力は軍に奪われた。しかも軍人は後発のドナウ川流域から多く徴募され、後れた意識を発揮して、地方都市に至るまで、軍の専横が目立つようになる。貴族は大農園にこもって、納税を拒否するようになった。徴税力が低下した上、汚職のせいで兵士の給料は減少し、装備の質も低下した。
260年代には、貨幣の改鋳で高率のインフレが起きたらしい。疫病も。史料はないが、当時の農園等を発掘してみると、砦のようになっていた。多分商業は荒れ、実際に文明の終末的状況にあったのだろう――

ただ、この1週間でトランプ再選の可能性がしぼんできたことで、世界の時計の針は終末の12時から少しまた前に戻った感じがしています。2016年の選挙でトランプを大統領にのしあげた5州(ウィスコンシン等)、そしてフロリダなどの激戦州での失業率がコロナのためもあって、高止まりしています。トランプが、黒人デモ鎮圧に軍隊を投入することを示唆したことに、新旧国防長官、そして軍幹部OBたちが真っ向から反対を表明、保守派判事で固めたとトランプが思っていた最高裁では、ブッシュ・ジュニア時代に任命された長官が移民の強制送還の是非など、いくつかの重要な案件でリベラル側にまわって、トランプにダメージを与えています。トランプがDeep Stateと称する共和党のお偉方たちが、トランプを捨てる準備をしているように見えます。

そしてトランプはこれまで、ツィッターやFacebookなどを自前のマスコミであるかのように悪用してきた面がありますが、これも遂に両者から「虚言を広めるのもいい加減にしてくれ」という趣旨の応対を受けるに至っています。

極めつけは20日オクラホマ州でコロナもものかわ、しゃにむに開いた選挙集会で、広いホールの2階ががらがらであったことです。これはTik Tokアプリを使って出席希望者を募ったところ100万も希望者があったので気を許していたのが、実際は反トランプの若者達が面白がって参加を登録。実際には来なかったということでした。しかもTik Tokは今、米政権が激しく闘っている中国の企業が始めたサービスです。

こういうわけで、トランプの持つ武器はどれもぼろぼろになってきました。彼は性格的にパニックに陥りやすい人物なのではないかと思います。すでに、就労ビザの発給停止などを発表し、自分の再選のためには何でも犠牲にする構えを示しています。

というわけで、今月の目次は次のとおりです。

 安倍政権の積み残すもの
 イージス・アショアをなめるな
 ドルは「デジタル人民元」に地位を譲るのか?
 プーチンはコロナで焼き鳥になるか、不死鳥になるか
 今月の随筆:「宇宙のビッグ・バン」理論への無邪気な疑問
 今月の随筆:屋台と白酒の中国経済

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