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世界はこう変わる

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2021年5月13日

アリババと6600万人の共産党員

アリババと40人の盗賊と言えば、中東の昔の説話。ところが現代のアリババは、一介の数学教師だった馬雲氏がゼロから築き上げた電子取り引きの巨城。近年はグループのアント社が金融に手を広げ、ネットで手軽に審査をしては資金を貸し付ける(自己資本の実に50倍を貸している)ミニバンクで急伸している。2019年の利用額は118兆元。現金の流通量の14倍に及んだ。

 「よくまあやるよ。中国の当局は、銀行部門を民営のアリババに席巻されてしまうぞ。金融への管理能力を失うぞ」と思っていたら、中国当局も同じことを考えていたみたいだ。ある日馬雲氏が図に乗って、「中国では金融機能がないに等しいですから」とあるシンポジウムで発言した直後、数カ月にわたってどこかに消えた。そして昨年11月、アント社は香港・上海に上場して4兆円分弱を得ようと思っていた矢先、当局から審査を受けて、上場は中止となった。やはり、専制主義の国では、民間企業は出過ぎたことをしてはならないのだ。

今中国経済史を勉強しているのだが(本を書いてます)、面白いことに気が付いた。それは、中国と言う広大な経済、市場では、単一通貨が長期にわたって、すべての経済活動の需要に応えていたことが歴史を通じほぼ皆無、ということだ。

これは本当に面白いことで、一つには中国ではローマ帝国(大型の支払いには、全帝国単一の金貨が用いられていた)程には金を保有していなかったということがある。中国・経済史では銅貨の使用が目立つが、これも経済の需要を満たすにはとても足りなかった。銅貨は、製造原価と「販売価格」の間の差が小さく、時には逆ザヤにもなるので、代々の政府はそれほど作りたがらなかったのである。さりとて紙幣を出すと、宋でも元でも明でもインフレを喚起して、滅亡の原因になったりする。

 それで話しを戻すと、明の初期には公定の通貨がほとんどなかったというのである(「中国経済史」 岡本隆司編 名古屋大学出版会)。元の時代に出回っていた紙幣がハイパー・インフレを起こして、紙きれになっていたこともある。

通貨がない、或いは足りない社会では、経済はデフレになる。中国では唐の時代、江南の湿地地帯が開発されて以降、民間の経済活力は非常に強かったが、以後、宋、元の紙幣によるインフレ時代、そして明代後期の銀の大量流入(中南米、そして戦国日本から)時代以外には、千年以上にわたってデフレ圧力が作用していたことになるのでないか?

そして今、中国共産党はその権力を維持するために、「開けゴマ!」の呪文(金融)を知ってしまった現代のアリババの芽を摘み、人民銀行発行のデジタル・マネーで通貨・金融を一本化しようとしている。しかし、これはデフレを引き起こすのではなかろうか? 

というのは、従来型の通貨も実際は帳簿上のやりとり、つまり「デジタル」になっているのだが、中国がこれからやろうとしているのは、すべての決済・送金を、国家が管理する大帳簿=ブロック・チェーンに登録し、ここで不正を摘発するし、課税も自動的にやってしまおう、ということなのだろうから、国民はすくみ上るからだ。上記アント社のような民間小口融資は抑制される。すべての経済活動は当局に把握され、課税されるから、人々は活動を縮小するか、ヤミ取引の手立てを考えることになる。ヤミ以外の、表ての経済はデフレ気味になって停滞、あるいは縮小していくだろう。

というわけで、現代の中国のアリババは、40人の盗賊をはるかに上回る6600万人もの中国共産党員の人身御供となって消滅。説話にもならないことだろう。「開けゴマ!」=デジタル・マネーの呪文はデフレ時代の扉を開けることとなるだろう。

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