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世界はこう変わる

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2021年1月 4日

ロシア旬報第5号 10月から12月のあたり

(旧ソ連圏には計13年間勤務したが、今でもロシア語、英語のニュース、論評を毎日読んで、自分でデータバンクを作っている。それをベースに四半期ごとに若手の専門家の参加を得て勉強会を開いている。その際の報告を旬報として公開することにした。あと何年できるかわからないが、お役に立てば幸い。
旬報は、ロシアと旧ソ連諸国の二本立てとし、期間の記事データバンクが必要な方は、河東に直接ご連絡ください)

前回第4号の目次は次の通り。
 1.概要
1)盛り返すコロナと強まる閉塞
2) ヴァーチャル・リアリティーとなったプーチン
3)地平線上に姿を現した「石油不要の世界」
4)次が見えない政治日程
5)座して閉塞するのみ
6)つのる内憂外患
7)火を噴く「不安定の弧」――旧ソ連諸国不安定化
8)予算削減と増税、長期投資計画の先延ばし
2.裸になりつつあるプーチン政権

上記第4号に今回付け加えることは、次の通り。
1.政治
 1)2021年9月下院総選挙、最重要政治日程に浮上

下院は今年9月総選挙なのだが、現在の与党「統一ロシア」が社会で不評の中(要するに昔の共産党の搾りかすのようなもので、要職にある者は多くが党員となる。多くの人材は賞味期限を過ぎて頑迷固陋さと利権体質で嫌われている)、大統領府からどのように「仕置き」されるかが焦点。既に「統一ロシア」が、コロナ等重要な事項についての政府会議にも呼ばれず、代わって社会の現場を心得る組織として「全ロシア人民戦線」の代表が招かれることも生じている(例えば11月18日コロナについてのプーチン主宰テレビ会議)。

つまりソ連崩壊後、「与党」は政府によって作られるものとなり、何回か名称とメンバーをすげ替えてきたのだ。1995年には「我が家ロシア」、そして1999年にはプーチンを支えるものとして統一ロシアの前身「統一」が作られている。当時、ずいぶんカネが動いた。豪商ベレゾフスキーは自分がすべてを仕組んだように言い立ててプーチンに恩を売り、最後には嫌われて実質的に国外追放の憂き目にあうのである。

上記「全ロシア人民戦線」というのは、2011年、ロシア統一党の下部大衆団体の位置づけで設立された。当時、既に空洞化の傾向を示していたロシア統一党を支えるものとして、ヴォロージン議員の肝いりで出現。ヴォロージンはその功績で2011年12月には大統領府第一副長官に任命されて内政を担当。反政府運動への締め付けを大いに強化した。しかし彼は心に秘めた野心を嫌われて、2016年10月下院議長に遠ざけられた。「全ロシア人民戦線」の活動も長期にわたって下火になっている。ヴォロージンの保守的・強権的体質は、現在内政をつかさどるキリエンコ大統領府第一副長官の嫌うところであり、ロシア人民戦線をこれからどのように使っていくのかはわからない。

他方プーチンは12月17日の恒例年次大記者会見(彼はスクリーン上に登場)で本年9月の下院総選挙のことにかなり詳しく触れた。例えば、「選挙に参加できる政党の要件が緩和された(これまでは20万の署名を集めないと、新規の政党登録は認められなかったが、来年9月の総選挙からはいずれかの地方選挙で5%以上の票を獲得していればOK,ということになった)。現在、16政党が登録されている。現在下院の議席を占める4の既存政党は、挑戦を受けることになる」との趣旨を述べている。共産党のジュガーノフ、自由民主党のジリノフスキーは、ソ連崩壊後間もなく政治舞台に登場して以来、既に30年弱野党党首の「役を務めており」(住宅、公用車等で政府の丸抱えなのである)、近年高齢化が著しい一方、後継者も育っていない。

9月の総選挙はこれから、政治日程のトップに上ってくるだろう。ロシアでは選挙を当局が操作できるが、西側で言われているほどできるわけでもない。しかも今回、ロシア人は、米国大統領選後の票の数え直し等をテレビで見て、米国の民主政治はロシアの官製マスコミが言い立ててきたような、まやかしものではないことを、十分学習している。ロシアの議会選で開票に操作があれば、それに対する反発は2011年12月のレベル(モスクワではクレムリン至近の距離で10万人を上回る集会が開かれた)をも上回るものになりかねない。クレムリンは今回、従来にも増して入念で、かつ「バレない」選挙操作テクニックを求められているのである。これから多くのことが、総選挙を念頭においたものとなってくるだろう。

2)プーチンは元気・しかし辞任後の準備は万全
 11月初旬、英国のThe Sunに対してソロヴェイ・元モスクワ国際関係大学教授はクレムリン内部の者から聞いた話として、「プーチンはパーキンソン病なので、近く(自分の後任となるべき)新たな首相を任命して退くだろう」との説をぶち上げた。ソロヴェイ教授は2016年、大統領府長官イワノフからヴァイノへの交代を予言したときは正しかったが、その後リベラル派の方に傾き、クレムリンににらまれて教授を辞任した人物。以後の彼の発言は当たったことがない。今回も、12月17日、4時間以上の記者会見を、プーチンは疲れも見せずにこなし、パーキンソン病特有の震えなどは見られなかった。

  他方、最近議会は、彼が辞任した後の準備に余念がない。10月末には下院に、「大統領は辞任後3か月以内に、終身上院議員の地位を要求できる。ほかに大統領は7名の者を終身上院議員に任命できる」とする法案が上程された。
  そして11月5日には下院に、大統領は辞任後も終生、刑事・行政訴追から免除されるとする法案が上程された。ただし国家反逆罪などの疑いが生じた場合、議会両院3分の2の賛成で、この免除特権をはく奪することができる。

  こういうわけで、プーチンが2024年の任期満了、あるいはそれ以前に辞任しても、彼自身は身分を保証されることになった。ただ、必ずそうするわけではあるまいし、上記の法案上程の背後にいるのが誰なのかもわからない。例えば、大統領への野心を持つヴォロージン下院議長あたりが、プーチンの為を思うふりを装ってこういう法案を上程させ、これを餌としてプーチンの早期退場を実現しようとしているのかもしれない。

3)内閣改造でミシュースチン首相の立場強化?

 ミシュースチンが1月に首相に就任して以来、初めての内閣改造が11月10日行われた。主な異動はノヴァク・エネルギー相が副首相に昇格し、そのあとをNikolay Shulginov・RosHydro(ロシア水力発電公社)社長が襲ったこと、Vladimir Yakushev建設大臣が同省第一次官のIrek Fayzulinに代わったこと、Evgeny Dietrich運輸相がアエロフロート社長のVitaly Savelyevに代わったこと、Alexander Kozlov極東開発相が天然資源相に転任し、極東開発基金総裁のAlexei Chekunkovが極東開発相に昇格したこと等である。

 憲法上、経済問題担当閣僚は首相が指名し、大統領の認可を得る。ここでは、首相、業界、大統領府三者の思惑が相克するものと思われる。特にエネルギー業界ではセチン・ロスネフチ会長の意向が大きな意味を持っている。彼の意向が今回のノヴァク・エネルギー相更迭(副首相への昇格ではあるが)にどのように働いたかは、わからない。新大臣Shulginovは水力発電担当として、エネルギー業界における勢力争いからは中立的な立場にいることが評価されたという見方もある。

 今回の内閣改造は三つの点で意味を持っている。
一つは、1月に首相に任命されたミシュースチンが、今回少しは自前の人事をできたという点だ。1月までは国税庁長官で、大臣たちより格下の立場にいたミシュースチンにとっては結構重要なことだろう。

因みに首相はロシアでは「大統領見習い」的なポストであり、プーチンも1999年首相時代にエリツィンから禅譲を受けている。そしてミシュースチンは真摯で清廉潔白な点が国民にも評価されているのだろう。10月4日のVTsIOM世論調査では、信頼度54%を得ていて、プーチンと大差がない(12月4日のVTsIOM調査ではプーチンへの信頼度が26%に下がったが、伏されている、との報道がある)。この点で他の要人よりダントツなのである。また彼が今回副首相に抜擢したDmitry Chenyshenkoはマスコミも担当するが、ミシュースチンの大学以来の友人である。彼はこれまでガスプロム・メディアで勤務してきたが、現在ガスプロム・メディアの幹部がどんどんズベルバンクに乗り込んでいる。ズベルバンクは銀行から脱皮して、インターネット上のプラットフォーム構築、そしてガスプロム・メディア等マスコミの統合をめざしていると言われる(10月14日付Jamestown)。このマスコミ界の地図の塗り替えは、ミシュースチンを大統領選にめがけてPRしていくための準備である、とする報道もある。

4)シュヴァーロフの再浮上・チュヴァイスの祭り上げ
 元第一副首相で現在、対外経済銀行総裁であるシュヴァーロフの力の増大が著しい。11月末にミシュースチン首相は約40の特殊法人的な組織を統廃合。ロスナノ、そしてメドベジェフが大統領時代に立ち上げた先端技術・経営センターのSkolkovoは、対外経済銀行に吸収された。 これによってシュヴァーロフの力はレシェトニコフ経済開発相とほぼ並んだとされる。

 ロスナノ総裁を務めていたチュヴァイスはプーチンに、「国連の持続可能な発展計画担当の大統領代表」に任命された。これをもって、チュヴァイスが1998年8月デフォルト直後ロシアを代表してIMFと交渉し、救済資金を得ていたころと同様、表舞台に戻されたのだと評する向きもある。確かに米国ではケリー元国務長官が代表するこの場は、当面の経済外交の焦点であり、また国内での投資の方向決定にも大きな力を持ち得るものである。

 しかしすべては、チュヴァイスがどの程度の権限と資金を与えられるかによるだろう。当面は、彼がロスナノという資金源を失ったことで、リベラル関係の政党、政治家は金づるを失うことになるだろう。

5)西側で活動し始めたナワリヌイ

 8月下旬、シベリアのトムスクで「毒殺未遂」に会い、ベルリンの病院に担ぎ込まれていたナワリヌイであるが、それが10月1日雑誌シュピーゲルに長時間のインタビューを行った。毒薬ノヴィチョクを盛られたのであれば、このような急速な回復はありえない。彼はシュピーゲル社屋の5階まで自力で上がってきている。彼はこのインタビューで、「今回起きたことの背後にはプーチンがいる。そうでもなければ、こんなことは起こり得ない」と断言した。当面、帰国は難しいだろう。

その後も12月21日にはロシア国家公安庁の幹部に上司の秘書を装って電話をし、彼をだまして「当局によるナヴァーリヌイ毒殺準備」を実質的に認めさせた等を、Youtubeで喧伝している。ここら辺になると、西側居残りを目指して子供だましの演技をしているのではないかと思えてくる。因みに「毒殺未遂」後も、ロシア国内での彼の支持率は3%前後に貼り付いて動いていない。

彼は、20年9月初めのノヴォシビルスク地方選挙等で自分の政党「ロシアの将来」候補者を当選させたことで、21年9月総選挙へ向けての全国政党登録に向け大きく前進したところであるが、「毒殺未遂」は右地方選挙の直前、彼がノヴォシビルスク等を巡回した時に起きている。

しかし議会は、外国からの資金を得ている団体の権利を制限する法案を採択、「ロシアの将来」はおそらく21年9月総選挙に党として参加することは認められまい。ナワリヌイは行き詰まっている。

6)下院、国内取り締まり強化に狂奔
ロシア社会は随分リベラルな雰囲気であるのだが、当局はソ連時代のマインドそのままで、最近でも「外国人を見たらスパイと思え」的なソ連時代のマインドそのままの規制を復活させつつある。12月末には、いくつかの法案が相次いで議会を通過した。その多くは与党「統一ロシア」党員で法律家のDmitry Vyatkinが起草したものなので、公安当局、あるいはヴォロージン下院議長あたりの意向を受けたものだろう。

これら法案によると、外国から資金・物資上の支援を得ている者は誰でも、「外国のエージェント」とされ、公的機関の職員となることを禁止される。他人の名誉を棄損する情報をインターネットで流した者は、2年までの禁固刑に処される。いずれも、規定が漠然としており、当局による恣意的な運用を可能とするものとなっている。

こうした動きの背景はわからない。上記のように、ヴォロージン下院議長が大統領に取り入るために、やっているという見方も可能である。社会の雰囲気を悪くして、かえってプーチンの為にならないと思うが。もう一つの説明は、米国でバイデンが大統領に就任すればロシアに強く出てくるだろう、と見て、公安当局が国内の締め付けを強めている、というものである。

どちらにしても、独り相撲の要素が強い、自分自身に害になるような話である。

7)コロナと社会の閉塞
 コロナ蔓延の勢いは止まらない。12月24日、モスクワだけで新たに8203人の感染と74人の死亡が発表されている。ロシアは「世界で初のコロナ・ワクチン」であるSputnik Vの接種を、「世界で先頭を切って」開始している。

しかし、「世界初」も語るに落ちるところがある。プーチン自身、12月17日の記者会見で質問に答えて、このワクチンについては、製造設備が不足していること(他に同じく製造上の問題で質が一定しない問題がある)、自分自身は専門家の助言を受けてこのワクチンを打たないでいることを明らかにしている。12月、モスクワでこのワクチン接種を受けた者は1万2000人に上っているが、VTsIOMの世論調査によれば、このワクチンの接種を希望する者は全国民の38%にしかなっていない。

 欧米のワクチンは、最新の遺伝子工学を使用したものである。他のヴィールスに対しても、速やかに適応ができるとされる。これに対してロシアのワクチンは旧来の抗体に頼ったもので、いわば「アナログのワクチン」なのだ。それだけ安心して打てるのだが、品質が一定していないようでは安心できない。

11月18日にはプーチン主宰で、コロナ関係の主要者会議がズーム方式で開かれた。ここでのプーチンの呼びかけはほとんどヒステリックと言えるほどで、「コロナが増えている。重症率、死亡率も。知事に権限を委譲しているにもかかわらず、"大したことはありません"と言ってくる。ところがロシア人民戦線の調査では、病床が足りない、医師が足りない、医薬品が足りない。自宅療養者に無料治療を実施するために、地方に50億ルーブルを送ったが、使われていない。医薬品を輸入するのはいいが、必要とする者にわたっていない。」等々、滔々と問題点を並べ立てた。

   こうした中、世論調査機関LevadaのDenis Volkovは言う(11月12日Intellinews)。「21年9月の下院選挙は近づきつつあるが、政府も社会も、目標を見失っている。"どうしたらいいのか?"(19世紀央チェルヌイシェフスキーの有名な小説の題名)と自問するのみ。政府はnational projects以外には何も提示しておらず、社会は割れているし、それぞれのグループも何をどうしていいかわからない。」と。また11月9日付ヴェードモスチ紙はこう言う。「地方レベルの指導層は青年が少なく、70才以上の層がなおかなりの力を握っている。彼らは新しいことは試みず、しかも新参者を許さないので、社会の流動性がなくなっている。これは1980年代と同様の現象だ。」と。

 社会の停滞、分裂、流動性の欠如は米国、日本にもみられるものである。しかしロシアの場合、これらの問題が火を噴くと、その暴力性は著しいものとなりがちだ。

2.経済
 1)GDPはコロナによる落ち込みから少し回復した。と言っても、第2四半期が対前年同期比でマイナス8%であったのが、第3四半期ではマイナス3,6%に「回復した」程度の話しなのだし、第3四半期の鉱工業生産は対前年同期比でマイナス5%で、特にロシアにとって重要な鉱物資源(原油等)はマイナス11,5%に沈んだままである(価格ベース)。OPECの原油減産措置に同調したことが深い傷となっている。

 2)これもあり、2009年以来のロシアGDPは、年率平均0,57%の伸びに終わった。米国の年率平均1,29%に劣る。長期低迷であり、成長への原動力がない。現在のNational Programはインフラ建設を中心とした浮揚策だが、これは2008年リーマン危機後の中国経済に範をとったもので、ロシアでは中国ほどには効かないだろう。中国でも、インフラ建設による内需拡大は不良債権の山を築きつつある。

3)にもかかわらず、ロシア経済は大崩れになるわけではない。ルーブルのレートは1ドル70ルーブル代前半で落ち着いたし、ロシア国債の海外での人気は相変わらず高い。ロシアの政府債務はGDPの20%でしかないし、原油収入はあり、しかも他国の債券より利率が高めだからである。外貨準備は5600億ドル(20年6月)あり、原油輸出からの過剰収入をため込んだ「国民福祉基金」は原油価格の回復を受けて再び増加に転じ、12月で1774億ドルになっている。またドル資産は、20年4月のルーブル急落を境に、ルーブル表示では30%以上増加しており、国内でのルーブル・ベースでの支出を容易なものとしている。

  2021年は、社会目的以外の歳出を10%削減(国防費は5%削減)、高所得層及び法人への増税をはかろうとしている。ミシュースチン首相の腕の見せ所であり、9月の下院総選挙もうまく乗り切れば、彼は声価を次第に高めることとなろう。ただ、彼は税務マンであるので、産業政策、持続的な成長モデルの構築には知見を持っていない。彼が手腕を見せているのは、インターネットを活用して既存の経済から税を効率よく吸い上げ、これを分配すること、そしてそれを分野ごとに毎月の数値目標を作り、担当者に監視させる統制経済的やり方である。

3・軍事
1)軍事予算抑制へ

ロシア軍は2008年8月のグルジア戦争で如実になった兵器体系の老朽化を克服するため、そしてクリミア、シリア等での作戦成功の論功行賞もあり、2010年代前半から予算面で大いに優遇されてきた。それによって核戦力は一部近代化されたし、指揮系統の電子化・ドローンの開発も進んだことになっている。

それもあり、この1,2年は国防費抑制・削減の方向が顕著になっている。社会目的以外の歳出を一律10%削減する中で、国防費は5%の削減が求められている。また財務省は、軍定員の10%削減を求めている。小泉悠氏によれば、現在軍の実員は定員を10%程下回るので、定員削減で軍が回らなくなるわけではないが、定員削減は実員の一層の削減につながるため、軍は抵抗するだろう。

2)長距離核ミサイルより中距離精密誘導ミサイルの時代へ
ロシアが中長距離巡航ミサイルの開発・配備に成功したことは、これからのロシア軍の戦術・戦略を変えることになるだろう。つまり2015年、シリアで初めて実戦に用いられた中距離巡航ミサイル「カリーブル」は射程が1500-2500キロ。米国が1987年の中距離核兵器撤廃条約から脱退したことで、陸上配備も可能となった(シリアの場合、右が禁じていなかった艦上から発射している)。これによってロシアは、ユーラシア大陸の殆どを射程に収めることとなったし、日本も射程に収まったのである。これはロシアの持つ外交・軍事カードを増やす。

例えば小泉悠氏は11月10日、アゼルバイジャンの首都バクーの郊外で素性不明の爆発があったことを指摘。10日朝ナゴルノ・カラバフ停戦合意が実現したことを勘案すると、ロシアがアゼルバイジャンに停戦をのませるための威嚇として巡航ミサイルを発射したのだ、と見ることも可能だとしている。そして爆撃機、あるいは潜水艦に中距離巡航ミサイルを搭載して米国に接近すれば、これを米国に対して用いることも可能である。
 しかし同じことは米国も、ロシアに対してすることができる。北極海は米国原潜が以前から行動している海域であるので、ロシアは米国へ向かうICBMは途中で撃墜される一方、至近距離から巡航ミサイルを撃ち込まれ得る立場に置かれているのである。

3)スーダンに海軍基地
11月19日付Jamestownによれば、プーチンはスーダンにロシア海軍の「補給拠点」を設けることを認可した。これは以前からスーダン政府がロシアの援助を期待して、代償として持ち掛けていたもの。施設はロシア側が建設し、25年間使用する。当面軍人300名が訴追免除の特権つきで駐留する。つまり、実体は基地である。施設使用料は無料。

 ソ連時代、ソ連は諸方にこうした基地もどき、あるいは拠点を保有していた。キューバ、ベトナムのカムラン湾、そして紅海のアデン、エチオピア等である。ソ連崩壊前後、これらの基地は放棄されたが、プーチンになってシリアのTartu等、旧ソ連諸国以外にも基地を設けるようになり、スーダンはこれに続くものである。

 補給拠点自体は小規模なもので、小型艦艇(核装備もOK)が4隻停泊できる。しかしそれでも、前記の巡航ミサイル「カリーブル」を搭載したコルヴェット艦をここに常駐させるだけで、スエズ運河を利用するシーレーン、インド洋の真珠湾に相当するディエゴ・ガルシアの米海軍基地等に無言の脅威を与えることができる。ただ、この基地は補給面では非常に脆弱なもので、有事には容易に無害化され得る。

4・外交
1)旧ソ連諸国の「不安定の弧」化再び――ロシアの立場揺るがず

ロシアの外交は、コロナで要人の往来が難しくなっていること、そして米国で大統領選挙が行われていたことから、非常に不活発になっている。ただ、いくつかの旧ソ連諸国の情勢が不安定化したことが、ロシアの立場を強めたものなのか、弱めたものなのかについて、議論は一致していない。筆者としての結論は、それぞれのケースでロシアにとってのプラス・マイナスは様々だが、西側は旧ソ連諸国に進出する意欲を失っているので、旧ソ連諸国の不安定化はコップの中の嵐にとどまっている。中にはナゴルノ・カラバフ戦争のように、ロシアの立場をかなり高めた例もある、ということである。詳細は、旧ソ連諸国旬報の方でご覧いただきたい。

2)バイデンにとりロシアは優先事項にあらず
「バイデン新大統領の対ロ政策」については、米ロ双方で議論が多数出されているが、バイデン新政権の陣容が固まり、実際に議会やマスコミ、そして同盟諸国と関係を持ちつつ動き出してみないと、本当のところはわからない。
基本は、プーチンはトランプを信用しておらず(ロシアに対して甘いことを言っても、議会やマスコミに手を縛られて、結局はロシア制裁強化を見過ごしたという意味で)、彼を「やり過ごす」姿勢を見せていたが、今度は対米関係改善を真剣に試みるだろう、ということだ。それは、推測で言っているのではなく、彼の発言の節々からうかがえるところである。
 
 ただ、バイデンはロシアを「直ちに対処しなければならない問題」とは考えているまい。11月17日にはマーシャル群島沖で、イージス艦から発射したミサイルSM3-Block ⅡAで、上空を通過するICBMを撃墜する実験に成功している。おそらく、当面は「適当に放置しておく」姿勢であろう。ロシア制裁の中には、議会の承認を得ないと解除できないものも多く、バイデンの一存で対ロ関係を操れるものでもない。

 ただ、米軍は本年、ロシア周辺のバレンツ海、バルト海、黒海、オホーツク海、日本海でロシアを牽制する軍事行動を強化している。先号では、「9月14日には戦略爆撃機B-52が3機、英国の基地を飛び立ってウクライナ西部から上空を通過、ウクライナ空軍戦闘機護衛の下にクリミア方面に抜けると、そこでロシア南部に向けてミサイルを発射する訓練を行った(www.newcoldwar.org)。このようなことは初めてだとされる。B-52は核弾頭ミサイルも発射できるので、ロシアにしてみれば、ウクライナは先制攻撃の対象になる。そしてクリミア周辺では英国軍も活動を強化し、9月19日には黒海に近いニコラエフ近辺で200名以上の空挺部隊を降下させている(UK News)」ことを紹介したが、「選択」9月号によれば、オホーツク海にも米軍B1爆撃機が5月、B52爆撃機が6月に初めて進入している。11月25日にはウラジオストク沖のピョートル湾(ロシアの領海、ソ連は一時「内水」であることを主張していた)で、米海軍のイージス艦ジョン・マケインが航行(領海での外国軍艦の無害通航は、国際法上認められている)。ロシア海軍の対抗行動を誘発している。

)トルコも「帝国」指向へ
 最近ではトルコのエルドアン大統領が対外拡張的な政策を取って、EUとも摩擦を起こしている。それは、ロシアとの関係においても然りであり(両国首脳は12月下旬、公開の場で互いに誉め合うことで、関係悪化を防いでいるが)、それはトルコのアゼルバイジャンとの関係強化、そして欧州南部におけるロシアの天然ガス利権の奪取を契機としている。
 トルコはこれまで、黒海を縦断するパイプラインでロシアの天然ガスを輸入、これの欧州南部への領内通過も認めていたのだが、近年はアゼルバイジャンからの輸入を急増させたばかりか、自国領内に大規模ガス田を相次いで発見。自ら欧州への天然ガス供給のハブになろうとし始めた。2020年上半期にはロシアからの天然ガス輸入量は対前年同期比で40%減少している(10月29日Jamestown)。

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