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世界はこう変わる

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2016年8月21日

世界のメルトダウンその4 ソ連が崩壊してわかった 国家 の意味

(13年前、「意味が解体する世界へ」という本を草思社から出版した。
米国のイラク攻撃が、「自由」とか「民主主義」というスローガンへの幻滅をかきたてると同時に、米欧諸国の足元でも移民により多民族国家化が進行し、近代の「自由民主主義」が危殆に瀕している様を随筆風に書いたものだ。僕が自分の書いた中でいちばん好きな本。
そして今、13年前に書いたこのことが、世界のメルトダウンを起こしている。
それについて共著本の出版を策していたのが頓挫したので、ここに自分の書いた分を発表していくことにする。これはその第4回)


ソ連が崩壊してわかった「国家」の意味

一九九一年八月十九日早朝夢うつつ、筆者が住んでいたモスクワ南部のアパートの表ての通りを何かが多数、がらがらと通っていく音。やがて電話が鳴ると大使館からで、クーデターが起きたようだからすぐ出勤しろということだった。この頃、崩壊の瀬戸際にあったソ連は、よく世界を驚かせるニュースを連発していたものだが、クーデターとは本当の超ド級。車を運転して道路に出ると、そこはさっきがらがら通っていった戦車のキャタピラが刻み付けたぎざぎざが延々と続いていた。

このクーデター(の失敗)が半年後のソ連崩壊につながるのだが、既に述べたように、国家が崩壊すると包丁でブツ切りにしたようにその内部、断面がよく見えて、「ああ、国家というのはこういうものなのだ。だから国家というのは必要なのだ」と腑に落ちることが沢山あった

まず、政府の権力が真空状態(要するに、政府の力が極端に弱まって、何もコントロールできなくなる状態)になると、皆が勝手放題を始めるのである。既に述べたように、周辺の少数民族共和国は独立を次々に宣言するし、石油の利権は何人かの目ざとい者たちが政府から安く奪って巨万の富を築き始める。政府の許認可権限などあってなきが如し。すべてのものごとは、賄賂と暴力(ピストルとか空手)で動くようになる

徴税システムは破綻して脱税が普通となり、公務員の給料や年金は滞る。そして国営企業間の決済も滞って、経済は不良債権の山となる。電車やバスなどの公共交通、そして電気、水道、ガスなどは不思議なことに止まりはしないものの(従業員が通常通り勤務して給料をもらいたいからなのだが)、本数は少なく、停電、断水が常態になる。何よりも恐ろしいのは治安が崩壊したことで、賊に追われて警察署に逃げ込んでも、賊に買収されていた警官につかまえられて賊に「引き渡され」たり、街角で殴り倒されて金を奪われる市民が続出した。外交官の筆者でさえ、住宅警備の警官はもう信用できなくなり、自宅の扉を蹴破って賊が侵入してくる心配をする有様になった。

状況は、ソ連から独立した諸国ではもっとひどかった。彼らは、政府をゼロから構築しないといけなかったのである。ソ連の時代、少数民族の共和国にも外務省と称するものはあったが、要員は数人しかおらず、共和国にやってくる外国要人や外交官の世話兼監視をしていただけなのが、独立国の外務省になると、世界で百五十を上回る国々のせめて主なところだけでも大使館を開き、外交官を養成し・・・という気の遠くなるような作業をしないといけない。それは中央銀行や財務省についても同様である。

もっとも、ソ連時代はモスクワ中央⇒各共和国共産党第一書記⇒各共和国の地方共産党書記という上意下達の統治システムが存在していたし、軍や警察や秘密警察も同じラインで機能していたので、独立後はこの「モスクワ中央」というトカゲのシッポならぬ頭がなくなっても、共和国の共産党第一書記を大統領に改名しただけで、国家の結構は整った。

それでも、各共和国はソ連という帝国のいわば最後っ屁をかがされる。それは、通貨についてである。中央アジアをはじめ、多くの共和国は独立後もロシアの通貨ルーブルを国内で使っていたのだが、それはロシアにとって望ましいことではなくなった。大量のルーブルが国外で流通していると、それがいつロシアに大量に流入したり、あるいは逆に流出して、ロシア本体の金融政策を乱しかねない。そこでロシアは一九九三年七月、高額のソ連ルーブル紙幣を無効とし、ロシア以外の共和国では新札に交換ができないようにしたのである。ルーブルを唯一の通貨として使用していた中央アジア諸国は、「通貨がない」状況に置かれ、急きょ自国通貨を創出して印刷したのである。

十六世紀のフランスに、ジャン・ボーダンという法学者がいた。彼は、ローマ教会、そしてその権威を利用して神聖ローマ帝国を拡張しようとしているハプスブルク家に対抗し、フランスを帝国的な存在から独立した「主権国家」に仕立てようとしていたブルボン家に仕え、主権国家の理念を開発した。彼が、主権国家が備えるべき機能として挙げたのは立法権、課税権、官吏任免権、宣戦・講和の権、貨幣鋳造権、恩赦権、つまり立法、行政、司法の三権に加えて通貨、そしてもちろん国防である。

従って、「国家」が消えると、この五つの機能も消える。そして人間は生活がしにくくなるのである。ソ連の崩壊は、この五つの機能が消えると社会は混沌に陥ることを如実に示してくれた
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