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世界はこう変わる

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2021年1月 5日

21世紀初頭の21年間の意味

(これはメルマガ「文明の万華鏡」第104号の一部です。年頭にふさわしいので、転載します)

今年で21世紀も21年経った。随分いろんなことが変わった。まだ頭の中の整理ができないし、そもそも複雑な現実は一つの流れに整理などできないものかもしれない。いくつか仮説を提示してみたい。

米国が多くの事象の源にある。この21年間はまず、2001年9月ニューヨークの世界貿易センター・ビル破壊で始まった。ソ連崩壊後、フランシス・フクヤマが唱えた「歴史の終わり」(ソ連崩壊で、自由・民主主義の価値観が世界を制覇したので、ここで歴史はその目的を成就した、とするもの)的な能天気が世界を支配していたのが、9月11日集団テロ事件で「甘い」ということになったのだ。

米国は国内の取り締まり体制を強化、アフガニスタンを掃討すると、2003年3月にはイラク戦争を始める。それは「イラクは大量破壊兵器を所有している」というガセネタを、ガセネタとわかりつつ大義名分に掲げた、無理無体の征服行為だった。自由と民主主義の本家たる米国が、軍事力でその自由と民主主義を中東に広めるのだと称し、実際には現場で拷問を容認、イラクの社会と経済を破壊する結果に終わったことは、米国の言う「自由」、「民主主義」の信ぴょう性、米国のソフト・パワーを台無しにした。それは15年後、トランプ大統領の登場で完全にとどめを刺される。

一方、イラク戦争で特徴的だったのは、それまで10年以上にわたって米軍が進めていた戦争の電子化(戦場と司令部を衛星で結び、戦場の状況を司令部でリアルに把握して、攻撃命令を下す等)がもたらした、米軍の圧倒的な優位である。1991年の湾岸戦争ではできた多国籍軍の組成が、イラク戦争では難しくなった。フランス、ドイツはイラク戦争に明示的に反対して多国籍軍に加わらなかったし(加わっても、米軍との電子リンクを欠いていたため、本当の意味での共同行動はとれなかったことだろう)、米軍との「リンク」を持たない国々の軍はイラクに行っても米軍とは別個の指揮系統に入っていたはずである。
1991年の湾岸戦争を指揮したブッシュ(パパ)大統領は、米国一極支配を避けようとした。米国にとって過度の負担になるからだろう。彼はイラク軍をクウェートから撃退すると、イラクを占領することなく、軍を引き上げたのである。それが、9,11後、21世紀のイラク戦争では、米国はテロ対策に名を借りてイラクを占領、フセイン政権を倒し、彼を絞首刑に処することで、力による米国一極支配を世界に赤裸々に見せつけて愧じないようになった。外国の企業は海外であっても、米国の法規に従うことを求められ、違反すれば米国内でのビジネスに対して罰金を課されたり、幹部を禁固刑に処されることが常態化した(米国法の域外適用)。

そして米国は、かつて米国とともに世界を二分していたと思っているロシアの気持ちに全く配慮しなかった。旧ソ連のバルト諸国にNATOを拡大されたロシアは、これに大変な圧力と屈辱を感じ、2000年代の原油価格高騰で経済力を急速に回復すると2007年2月、プーチンが有名なミュンヘン・スピーチで米国を批判。冷戦時代の偵察飛行を復活させ、2008年8月にはNATO加盟を策したグルジア(ジョージア)に武力侵入して、この国を実質的に分割した。

同じことは2014年ウクライナでも繰り返される。米国が「レジーム・チェンジ」をはかってヤヌコーヴィチ政権を暴力で倒したと見たプーチンは、新ウクライナ政権がクリミアのロシア海軍基地を制圧する挙に出ることを警戒。クリミア全体の奪取を軍に命じたのである。ウクライナ軍は当時、全体で1万名程度の力しかなかったし、クリミアの住民はたとえウクライナ系であろうが、ロシア領となれば所得が3倍程度に跳ね上がる(公務員、軍人)ことを知っていたので、ロシアによる併合を本気で支持したのである。とにかく、グルジア、クリミア、そしてそれに次ぐシリアでの軍事介入成功で、プーチンは世界で最も「聡明な」リーダーだとの、過大評価を確立した。実際には、ロシアの成功は米国の力が手薄な箇所に限られているし、長期にわたって大きな兵力を海外で維持することはできないのだが。

一方、イラク戦争の戦費3兆ドル(スティグリッツ推定)はバブルを生み(日本は小泉政権時代、3兆円分もの米国債を購入して戦争遂行を助けるとともに、ちゃっかり円安を実現している)、2008年のリーマン恐慌につながった。米国GDPの回復は素早かったが、回復分の多くは金融で膨らましたもので、所得上位層のポケットに入って、所得格差を増大させたのである。その不満をトランプがすくい上げ、ポピュリズム支配を招いた。そのヒットラーのナチズムにも似た本質は、大統領選に敗北したトランプがMartial lawを敷くことで居残りを策したことに如実に表れている。トランプは、米国の価値観を完全に踏みにじった。米国で不利な立場に追い込まれた人たちは、右はトランプ、左は民主党左派の周りに結集し、米国の価値観よりまず自分たちの生活を何とかしてくれと言っている。その意味では、米国を破壊しようとしたビン・ラーディン達のもくろみはかなり成功しているのである。

米国は国内体制を大掃除する必要がある。既に大企業の方では、財政支出の極端な削減、法人税の大幅減税などを求めた自分達の言動(最高裁が政治資金の上限を実質的に撤廃したことで、一部企業は共和党を「買い取り」、「茶会」派を形成して、議会を支配するまでになった)が格差を拡張したことを反省し、社会への貢献を強化しようとする動きが出ている。

これは歓迎するべき動きだ。ただ、彼らは、自分たちの手を縛る時には、外国企業の手も同じように縛ろうとしてくるだろう。そうしないと、自分たちだけ競争で不利な立場に置かれると思っているからだ。ただ、日本は米国から何か言われた場合、ただ無暗に反発するのも能がない。日本の企業も近年は利益をためこむだけで、投資にも賃上げにも十分向けないでいることは、公益に反することだ。これを是正するには、米国からの圧力はむしろ歓迎されるべきかもしれない。

上がって下がるが中国のならい

21世紀初頭の21年間は、中国の台頭の時期でもあった。そしてこれは中国の自力によるものではない。米欧日、そして華僑の資本が中国になだれ込み(2000年代は貿易黒字と合わせて毎年30兆円相当以上)、安い労働力を利用したことが中国の奇跡的な成長を可能とした。そのことを当時の中国は自覚し、まだ謙虚であった。2006年頃だったか、北京である専門家は僕に言った。「経済建設中の中国にとっては、周りの環境が安定していることが大事。その意味で日米安保を肯定的に評価している」と。当時の世界では幸福な共生体制が成立していた。日米欧は資本・技術を中国に提供。中国は西側製品を安価に組み立て、日米欧に輸出した。そして稼いだ外貨は主に米国債に投資。これで米国は経済を膨らませると、さらに多くの商品を中国から輸入した。まるで相互ドーピングである。

この共生の図式が2008年リーマン危機で一時崩れると、中国は約60兆円の紙幣を刷って内需を拡大。一時の危機をしのいだ。そしてこの時、自分の力を過信した中国は、米国に楯突く機会を深める。そのためのロシアとの提携も深めた。オバマはこうした中国を宥めようとしたが、トランプは正面から立ち上がり、「米中冷戦」時代を作り上げた。

問題は、習近平が現代の世界を知る人間ではなく、毛沢東の社会主義革命の継承者気取りでいる点だ。彼は、経済は政治についてくると思っている。だから彼の下で、中国の経済は自壊の方向へと向かっている。財政赤字は年間約40兆円に達し、有力国営企業でもデフォルトが頻発し始めている。ソ連時代は、国営企業のデフォルトは常態で、国営銀行からの融資は予算と同じく「返さなくていいもの」だった気味があり、中国でも同じなのかとも思うが、それでは西側株式市場に上場することはできず、経済全体をも目詰まりさせて、いいことは起きないだろう。

こうして、21世紀初頭の20年は、中国が頂点まで行って再び下降へと向かい始めた期間であった可能性がある。そして経済が下降すれば、国際政治の面でも中国は覇を唱えることはできない。

老舗EU

EUは、1993年マーストリヒト条約でそれまでのEECを改組、欧州連合(EU)として政治面での連携も強化して再出発した当時は、得意の絶頂にあった。それまで隠していた白人優位主義まで表に出して、傲然としていたものだ。

しかしそれは、2008年のリーマン危機をきっかけに崩れる。2009年末からのギリシャ経済危機でのEUの対応が後ろ向きのものだったからだ。それはもともとドイツ・フランスの対立が再び戦争を生むことを避けるために作られた欧州経済共同体(EEC)を母体とするEUが、次第にドイツにとっての輸出市場に化していったこと、そして域外との貿易においても、ユーロがドイツにとっては安すぎ、他のEU諸国にとっては高すぎる水準で推移したことが、ドイツ一人勝ちの状況を生んだのに、ドイツは均衡財政に固執してEU諸国を助けようとしなかったことの帰結だった。

しかしEUは変わるかもしれない。EU議長国になったドイツは、均衡財政原理主義からの離脱を正式に表明。これを受けて、12月17日からのEU首脳会議で、「コロナ復興基金」の発足が決まったからだ。これは資本市場等から資金を調達して、総計7500億ユーロの基金を設立し、コロナを契機に経済的に苦しむEU加盟国に無償の補助金、低利融資を与えていこうという、かつてのマーシャル・プランにも似たものであるからだ。ドイツは、今や自分の力の基盤となったEUがみすみす崩壊するのを防ぐため、自腹を切ってつっかえ棒をする気構えを示したのだ。

ただ、事態は大きくは変わるまい。終戦後マーシャル・プランを得た西独、フランス国民等は熱心に働いて戦前の水準を回復した。しかし今回「コロナ復興基金」の資金を受ける東欧・南欧諸国の人々がこれをどこまで前向きに活用するか、疑問である。

そしてEUをこれから動かしていくドイツ、フランスは、これから内政の季節に入る。ドイツは9月に総選挙があり、メルケル首相は地位を去る。誰がなるかまだわかっていない。フランスは2022年前半にEU議長国なのだが、まさにその5月に大統領選挙がある。マクロンは大統領選挙で使えるような乾坤一擲のイニシャティブをEUで張るかもしれないが、見事に失敗して大統領選でも落選するような、ダブル・パンチを被る可能性もある。つまりEUの今後はまだ五里霧中なのだ。

「帝国解体」の勢いが止まらないロシア

ロシアの21世紀初頭21年間の変化は、実は非常に大きなものがある。2000年は1998年8月のデフォルトの余韻を引いて、企業間の支払いも現物決済が珍しくない状況だった。しかし2000年に就任したプーチン政権は、ほぼ同時に起きた原油価格高騰に大きく支えられた。2000年以降の7年間で原油価格は7倍に高騰。ロシアのGDPも約5倍になったのだ。これほどの高度成長は世界史でも珍しいだろう。

大都市ではきれいな住宅が増えた。商店の品ぞろえは西側とまったく変わらなくなった。スマホでのGPS、スマホでのタクシー呼び出し等々、その便利さは日本をしのぐ。モスクワのカフェに坐っていると、その落ち着いて知的な雰囲気は北欧にいるかと思わせる。
しかしロシアの政治は1990年代と基本的に変わらない、利権と暴力に彩られた原始的なものだ。国の単一性を維持しているのは経済機関ではなく、諜報・公安機関で、彼らは冷戦時代のメンタリティーのままに自由を抑圧して、国内の雰囲気を沈滞させている。

先進諸国が再生可能エネルギーに舵を切る中で、原油・天然ガス依存のロシアは長期低迷の方向にあるのだが、その自覚は未だ見られない。政府は最近、水素製造に力を入れつつあるし、世界での原油需要がなくなるとも思っていない。
さりとて、海外で何かをやるとしたらなけなしの軍事力の使用に頼らざるを得ないのが現状だ。ロシアはこの20年、ソ連崩壊後の新たな国家モデルを見つけることはできなかった。プーチンはロシア中興の祖になりそこね、彼の先も見えない。

インドについては、改革を妨げる既得権益層を抑える力が政府にない。従って、インドはこれからも高度成長はないだろう、とだけ言っておく。

文明の変質

以上は、主要な地域ごとの情勢で、このように分割すると全体の意味が取りにくい。あえてまとめて言えば「米国が国内の格差で政治・経済両面の活力を奪われる中、産業革命・工業化の波が遂に中国に達して、世界の政治・経済地図をかなり変えた時代。ただ、これからもこの米国右肩下がり、中国右肩上がりのトレンドが維持される見込みは薄い」とでもなるか。でもこれでは、あまりにもイマジネーションに乏しい。
だから、次の諸点がこれからの世界のほとんどの地域で既存のパラダイムを壊していくこと、しかしどのように壊していくか、まだわからないことだけを指摘して筆をおきたい。

1)近代民主主義政治の道具立ての大掃除
19世紀の西欧で、産業革命の結果、中産階級なる人々が大量に発生。彼らが投票権を得ることで、現在の代議制民主主義が成立したのだが、「投票日に投票に行って、あと数年間は何もできない」という今のやり方はもう賞味期限。そしてうまいことを言って有権者をその気にさせれば議員になれる、現在の仕組みは変えないといけない。例えば憲法、経済等の基礎知識をチェックする国家試験を設け、一定点数以下の人物の立候補を禁じる等しないと、トランプのような独裁者の登場を許してしまう。

2)AI、ブロックチェーン、ロボットの発達
AIは中国のような独裁体制に有利と言われる。権力と国民一人一人がスマホ等で直結されるからだ。つまり封建領主や企業のような「中間団体」を経由することなしに、中央権力と人間一人一人が直結されることになったのは、今が世界史上初めてのこと。

しかしこの膨大なネットワークは、中央権力にとって逆に巨大なリスクも生む。故障したり、ハッキングされたり、反乱への呼びかけに使われ得るからだ。

他方、ブロックチェーンはデジタル・マネーを初め、これまでの国家の枠を超えたシステムの構築を可能とするものだ。NPOなどが核になって、何かについてのグローバルなシステムを構築することができるだろう。既にインターネットやSWIFTは、そういう建付けになっている。

ロボットとか無人運転では、兵器の無人化に注目している。現在話題になっている日本国産戦闘機の開発にしても、これが就役する頃には有人戦闘機は過去のものになっているかもしれないからだ。

3)経済の計画性強化と活力維持のせめぎあい
今の日本は、国民の貯蓄を国債を発行して吸い上げ、それによって政府支出を増やすことで、不足している消費、投資を盛り上げている。GDPの200%分もの国債が累積していながら、経済が崩れないのは世界でも異例なことなのだが、リーマン危機やコロナ禍を機に、先進国はどこでも債務を増やして経済・社会を支えるようになった。

これがインフレを呼ばないのはなぜなのかを分析すれば、インフレを呼ばずに経済水準を維持していくために負える政府債務の規模を、数式化できるだろう。他方、このような上からの計画経済的アプローチは最小限のものにとどめないと、経済の活力が阻害されることになる。

4)再生可能エネルギーへの転換
今のところ政府は、二酸化炭素排出ゼロ目標を達成することばかり考えて、そのためには水素を海外から輸入までしようとしている。しかし日本の地下にはマグマという巨大な天然ボイラーがあるのだし、海水を太陽エネルギーで電気分解して水素を効率的に取り出せるようになれば、二酸化炭素排出ゼロ目標を表口から堂々と達成できるのだ。なぜ、チャレンジしないのだろう?
  
5)その他
他にも新しい芽はたくさんある。例えば、兵器のあり方が今急に変わりつつある感があって、それは自衛隊の将来にも重要な問題なのだが、議論が表に出てきていない。米ロ間では古典的な「大陸間弾道ミサイルICBM」が、その輝きを失っている。
 
と言うのは、お互いに使えないものになっているからだ。代わって今ホットなものは、長距離・中距離巡航ミサイルだろう。これを爆撃機や潜水艦、海上艦艇で敵の領土近くまで運搬、そこで発射して帰投するやり方を、米国もロシアもできるようになっているからだ。日本の場合、北朝鮮や中国の核ミサイルを自力で抑止したいと思っても、日本の陸上に核ミサイルを配備することは不可能なのだが、潜水艦や戦闘機に搭載しておくことは可能だろう。

6)宇宙大航海時代の始まり
 見回してみると、大変なことが今始まっている。1492年コロンブスの「西インド」発見で始まった西欧の「大航海時代」は、新大陸の金銀を欧州にもたらして後の産業革命までの流れを導き、世界の構図を一変させた。

 同じようなことが今、宇宙を相手に始まっている。大航海時代、千万人を超える中南米住民を殺したヨーロッパ人の過ちを繰り返してはならない。宇宙の生物に遭遇した時、これを殺さないように、殺されないように、そして宇宙からコロナ・ビールスの新手を持ち帰らないように、持ち込まないように。

 そういうことで声を張り上げるのに適しているのは、日本だ。外交官は、在月大使とか在火星日本国大使館二等書記官とか、ポストが急増するのだから頑張れ。

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