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世界はこう変わる

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2010年3月31日

中央アジア情勢メモ(09年12月周辺)

2009年12月の中央アジア情勢をまとめた。インターネットの露語、英語、日本語の記事から河東が事実関係を集め、コメントを付したもの。

1.ユーラシア全体の動向に関わるいくつかの動き
(1)ロシアも東アジアでの経済ゲームに乗り出す
世界のアルミ最大手である、ロシアのRusAL社が140億ドルにも及ぶ負債を払うため、香港に上場して10%相当の保有自社株を売却しようとしている。RusALは日本の自動車企業にもアルミを供給しており、アジアで資金を調達しようとするのは自然なことだ。
これまでアジアにおけるロシアの経済的プレゼンスは微々たるものだったが、アジアの資本市場でもプレーするなら、主役にはなれずとも、脇役の1人くらいにはなれるだろう。但し透明度の低いロシア企業のことだから、中国のパートナーとの間で虚々実々の荒っぽい取引を繰り広げていくだろう。
香港は英国植民地主義の拠点だったところで、東インド会社の資金を扱って大きくなった香港上海銀行(HSBC)の発祥の地。そのHSBCはこの数年ロンドンに本店を移していたが、これからはアジアの時代とばかりに09年、本社を再び香港に戻した。ロスチャイルド等の国際金融資本がHSBCの背後にあり、彼らは米国、英国、中国、ロシアなどとグランド・ゲームを展開していくだろう。
こうした動きが重なると、ロシアは「東アジア首脳会議」等に入る動きを益々強めることだろう。

2.旧ソ連(NIS)での動き
(1)2010年、NISの議長国はロシアになる。折しも5月には第2次大戦戦勝65周年が重なり、ロシアはNISも含めた諸国の首脳を呼びつけて、モスクワの赤の広場で大々的な「戦勝祝い」をやる構えだ。
 他方ラブロフ外相は、ロシアはNIS議長国として「科学と革新に重点を」置きたいと述べ、低姿勢で着実な姿勢を示している。

(2)2010年1月から「関税同盟」スタート(?)
(a)12月中旬、カザフスタンのアルマトイで「ユーラシア経済共同体」が非公式首脳会議を開き、2010年1月からの「関税同盟」発足を再確認した。この共同体は2000年10月設立されたものでロシア、ベラルーシ、カザフスタン、タジキスタン、キルギス、ウズベキスタンが加盟している。但し今回非公式会議にウズベキスタンのカリモフ大統領は欠席した。「意味のない会議には出ない」というのが以前からのウズベキスタンの立場で、08年から出席を停止している。
他方、加盟国ではないはずのベルディムハメドフ・トルクメニスタン大統領が、訪日の足からそのままアルマトイに駆け付けたのが注目される。トルクメニスタンのロシアに対するバーゲニング・ポジションが低下しているのだろう。
ユーラシア経済共同体は2007年から関税同盟の設立を準備してきたが、2010年にとりあえずロシア、ベラルーシ、カザフスタンの間だけでこれを発足させることとしたものである。いずれの国かに事務局が作られる。
報道によれば、「10年元旦からロシア、ベラルーシ、カザフスタンは第三国への関税率を統一、7月1日にはロシア・ベラルーシ間の税関を撤去し、11年にはロシア・カザフスタン間の税関も撤去する」というのが合意の要点であるようだ。これによって、4000億ドルの増産効果が生ずる由。

(b)だが、この関税同盟はおそらくうまくいかないだろう。旧ソ連諸国では、税関はKGB要員が差配しており、彼らの裏金の最大の源泉にもなっているだろう。例えばカザフスタン向けの外車がサンクト・ペテルブルクで陸揚げされたとすると、その関税は一度ロシアの税関の金庫に入る。これがきちんとカザフスタン政府に送金されるのだろうか?
それにロシアはこれまで外車に高関税をかけ、国内生産を奨励してきたが、カザフスタンは外車に低関税しかかけてこなかった。「関税同盟」では交渉の結果、外車も含めて実に92%の品目にロシアの関税率が採用されるそうなので、するとカザフスタン人はこれから高い金を払って外車を購入せざるを得なくなる。
外車のような贅沢品ばかりでなく、砂糖のような生活必需品にも同じ現象が生ずるので、カザフスタン人は「関税同盟」の結果、インフレが激化することを心配し始めた。何か組織があると必ず入りたがるキルギスは、既にこの関税同盟への加盟申請を出しているが、国内では同じ懸念を表明する者もいる。

(c)またロシアとベラルーシとの間では早速、すったもんだの争いが起きている。ベラルーシはこれまでロシアの原油を輸入しては、これを国内で精製して西欧に転売、さやを稼いできたのだが 、ロシアはこの分には「輸出関税」(原油の輸出を抑制し、国内で石油製品化を進めようというもの)をかけようとしていたからだ。
 但しこの争いは2010年1月末、双方が譲歩する形で決着した。詳細は明らかにされていない。

(d)そんなこんなで、関税同盟とは言ってもこれから「例外品目」のオンパレードになりかねない。細部をつめずに、政治的決定で大きなことを始めようとする、旧社会主義国の悪い癖だ。なんでも法律・規則通りに事が運ぶと思っている、先進国の企業にとってはとても仕事にならない。

(e)アルマトイの首脳会議では、「ロシア、カザフ、ベラルーシは(関税同盟を経て)2012年までに統一経済空間(EEP)を作る。WTOに速やかに加入する」との声明も出された。これはもともと03年、ウクライナをエンゲージするため合意されていたものらしく、GDP総計2兆ドルの大市場であるらしいが、このあたりでは看板と実質の差はよくみきわめなければならない。

(2)トルコ・アルメニア関係樹立の遅れ、アゼルバイジャン・イラン・ロシア・米国との複雑なゲーム
 (a)トルコと言えば元のオスマン帝国なのだが、この国は第1次大戦の頃、帝国内部にいたアルメニア人を多数殺害したことがあるようで、現在でもアルメニアとの国交はない。オバマ大統領はまだ選挙戦中、米国でかなりの勢力を有するアルメニア系国民に対して、「2010年4月頃、米議会で『トルコによるアルメニア人虐殺非難決議』が再上程されたら、自分は大統領としてこれに賛成する」との約束をしていたことがある。このような羽目になるのを防ぐため、米国はトルコに対してアルメニアとの関係を早急に改善するよう圧力をかけていたのだろう。09年10月にはトルコ・アルメニア両国は早急の関係樹立に合意した旨発表し、議会で同意を得る工作を行ってきた。

(b) だが12月に、この動きは挫折した。12月7日に訪米したエアドアン・トルコ首相がオバマ大統領との共同会見で、「10月のアルメニアとの合意の議会批准はナゴルノ・カラバフの解決とリンクしており、無理をすることはできない」と述べ、問題を振り出しに戻してしまった。
トルコとしては、民族的に非常に近いアゼルバイジャンとの関係を傷つけてまで、米国に迎合してアルメニアとの関係改善をはかるメリットを見出さなかったのだろう。12月9日にエアドアン首相はオバマ大統領に、イランの核開発問題での助力を申し出ており、米国に対して巧妙な外交を展開している。

3.中央アジア全体についての動き
(1)米国上院での中央アジア政策レビュー
12月下旬米上院で、オバマ政権の対中央アジア政策策定作業をやっと終えた政府への、公聴会が行われた。中央アジア担当のジョージ・クロル国務長官補佐官代理、デイヴィッド・シンディ国防長官補佐官代理、マーサ・オルコット・カーネギー財団研究員、CSISのステファン・ブランク研究員等が出席した。
中央アジアを通じて既に毎週350のコンテナがアフガニスタンに搬入されていることが明らかにされた。これは09年夏季の3倍以上の量 。
クロル補佐官代理は、「米国は中央アジアで『グレートゲーム』はやらない。その代わり、5つの原則を守る」と述べ、①2国間関係推進、②電力開発、③人権、自由化(但し強制しない)、④市場経済、⑤国家崩壊防止(腐敗、痲薬取引防止等)を対中央アジア外交の柱とする、と述べた。なおタジキスタンに対して、Peace Corpsの派遣を検討中の由。

(2)米国下院に中央アジア議連(Caucus)
11月18日、米下院で中央アジアについての話し合い(Caucus)が行われた。議員は、中央アジアを経由してのアフガンへの物資輸送、中央アジアのエネルギー資源に関心を示している。
右会合には国務省から地域担当のロバート・ブレイク次官の他、中央アジア5カ国の大使全員が出席した。アジア太平洋・環境問題小委のFaleomavaeg下院議員がスピーチして、タジキスタンに近く視察に赴くことを明らかにした。他にタジキスタンのユダヤ人、ブハラ(ウズベキスタン領なるもタジク系人多数)のユダヤ人がかなり出席したもよう。ブハラ・ユダヤ人の中には、国際指名手配を受けているチョールヌイ(タジキスタンのアルミニウム精製工場にも関与していた)のような人物もいる。

(3)英国議会も「中央アジア・グループ」を形成
11月上旬には英国議会で、20名の上下院議員が「中央アジア・グループ」を形成している。中央アジアへの投資に関心がある由。

(4)上海協力機構(SCO)
(a)12月上旬に発表されたところによると、2010年9月、カザフスタンのジャムブイル州の演習場で中国、カザフ軍千名づつで反テロの演習をする予定。09年10月には同じ場所で、CSTOが演習をしている。カザフスタンは中国の軍事力に対してこれまでわりと警戒的姿勢を示してきただけに(08年夏チェリャビンスクでの中露両軍による共同演習に際し、カザフ議会は領内を中国軍が列車で移動することを認めなかった)、上記の決定は面白い。

(b) 12月、パキスタンのザルダリ大統領はイスラマバードを訪問したヌルガリエフSCO事務局長に、SCOへの正式加盟の希望表明をした。

(c) 2010年1月からは、SCO事務局長にキルギス元外相、Muratbek Imanalievが就任する。彼は1956年、フルンゼ生まれ。1978年、モスクワ国立大学を中国語専攻で卒業。「アメリカ大学」で教授も務め、英語もできる由。93~96年に在中国大使、96~97年に大統領府国際部長、91~92年と97~02年に外相。09年1月~10月、大統領補佐官を務めている。
なお1月には、SCOの反テロ機構(在タシケント)執行委長にキルギスのジュマンベコフ少将が3年の任期で就任した。事務局長とも、キルギス人になった。

(d)だが 2010年のSCO議長国は、ウズベキスタンだ。首都タシケントの中心の広場の一角には、ナイト・クラブを取り壊した後に、今年9月のSCO首脳会議用に白亜の大御殿が建てられた。ウズベキスタンは、SCOの経済貿易投資・運輸通信面での協力を前面に出す構え。

(5)中央アジアをめぐる天然ガス事情も様変わり
今、世界の天然ガス市況は大幅に変わっている。リーマン・ブラザース不況で西欧がガス消費を大幅に減退させた。他方、米国はシェール・ロックから天然ガスを「非在来型の」方法で採取することを大々的に始め(ガス価格の高騰で、これでも採算が取れるようになったのだ)、09年には遂にロシアを抜いて世界一の天然ガス生産国になってしまった。中東ではカタールが市況に構わずLNGを大量に生産し、世界市況を益々混乱させた。
この影響をもろに受けたのがトルクメニスタンで、08年4月にはロシアがトルクメニスタンからの輸入を停止(市況よりはるかに高値で購入契約を結んでいた)、数度の首脳会談を経てやっと2010年1月から輸入を再開した(但し小量、低値)。トルクメニスタンは09年12月中旬には念願の中国向けパイプラインを完成させたが、ロシアと中国を競り合わせて輸出価格を釣り上げようとした目論見は今や潰え、中国による値下げ攻勢にさらされやすい立場に置かれることとなった。
Stoletie.ruによれば、ロシアのガスプロムは2010年、中央アジアからの天然ガス輸入の半減を計画している。09~11年には330~340億立米、12年には379億立米を計画しているが、これは08年の661億立米からは激減である。トルクメンからは07~08年の4分の1の105億立米のみ。他方ウズベキスタンからは12年に145億立米を予定し、これはトルクメンからの輸入予定量を超す。ウズベクもロシアとの関係が円滑ではないが、おそらくガスプロムはPSかそれに近い条件でウズベクでのガス開発をやってきたのだろう。
価格は対トルクメンで2010年222ドル/千立米、対カザフ230ドル、対アゼルバイジャン244.5ドル、対ウズベク220ドルを予定する。これでも、ガスプロムにとっては赤字なのだが、西側企業に上流を取られたくないのだろう。

(6)中央アジア文明はエジプトより古い?
12月27日のTrukmen informは、トルクメニスタンのカラクム砂漠の南、Tezhena附近に4~6千年前の遺跡が発掘されたと報じた。Altyn-depa(金の丘)と言って46ヘクタールに及び、上空から見るとストーンヘンジのような大規模な模様を描いている由。4千年前の陶器窯のあとが2ヘクタールに及ぶ。
そして紀元前5千~1万年に農耕・家畜(羊、山羊、豚、牛、らくだ)文明を築いていたのだそうだ。青銅器を持ち、車輪で物を運んでいたと言うから、エジプトとどちらが古いのだろう。
中央アジアにはアムダリア、シルダリアという二つの大河があるので、随分古い文明が砂漠の下に眠っているだろうと思っていたが、やはりその通りのようだ。
古いと言えば12月には、トルクメニスタンのLebap州で、三本前足がある恐竜の足跡が見つかったそうだ。トルクメノザウルスと命名された。付近には大規模な鍾乳洞があり、深さ59米の地下湖もある。地元の言い伝えでは10~20年に1度、渦ができ、水の3分の1が消えるそうだ。

5.ウズベキスタンをめぐる動き
(1)12月27日に下院の総選挙があった。投票率は90%だったそうだが、3分の1くらいの選挙区で第一位の得票率が50%に達しなかったため、決着が1月の再投票にずれこんだ。ウズベキスタンは以前から複数政党制なのだが、前回の総選挙がここまで「活況」を呈したかどうか、まだ調べきれていない。大統領側が「実業界」を基盤とした新しい自由民主党を押したてたことが、このような結果に至ったのかもしれない。
1月には5州以上で知事が更迭されたが、これも前回総選挙後の経緯を調べてみないとわからないが、選挙紛糾の責任を取らされたものかもしれない。

(2)バランス外交
ウズベキスタンは自分の国力と周囲の情勢と大国の目論見と限界を冷徹に見据えた、バランス外交を続けている。資本主義・民主主義国に接した経験が少なかったため、以前は米国や日本に過剰の期待を寄せては、裏切られるとロシアの方へまた傾くというような時代もあったが、現在ではもっと「覚めた」外交を展開している。集団安全保障条約機構では孤立してでも自国の立場を通すかと思えば、トルクメニスタンを抜いて中央アジアからロシアへの天然ガス輸出首位国になる勢いというように、大国から利益はしっかり搾り取るが国益は譲らないという姿勢である。
例えば、昨年11月上旬にはタシケントの客車修理工場が、ロシア鉄道公社と協力してエアコンつき客車の組立を開始した。この工場はかつて日本が円借款を出して設備を近代化させたものである。ウズベキスタンはロシアに乗用車を輸出してきたが(フェルガナのアンディジャンに、以前大宇が作った大規模な自動車工場がある)、2009年は金融危機のあおりで数量が3分の1の2万5千台に減ったものの、小型でしっかりしたウズベク製乗用車の人気はロシアでまだ高い。
ウズベキスタンは米国とも関係改善の動きを着実に進めている。ノロフ外相が訪米して、「2010年交流計画」に署名した。これに先立つ11月には、05年以来「反政府活動」のために有罪、収監されていた実業家、サンジャル・ウマーロフが釈放されている。これは、対米シグナルと評された。またこの半年で、ウズベクの鉄道を通じて5000ものコンテナがアフガニスタンの米軍・NATO軍に対して運び込まれた。さりとてウズベキスタンは、2000年代初期のような対米一辺倒の政策はもはや取らない。
なお12月、国連のウズベキスタン代表部は、白い粉が入った封筒を受け取った。数年前あった、「炭疽菌」配達テロ騒ぎを思い出させるが、無害な粉だった由。同じような封筒をロシア、オーストリア、仏、英、独の代表部も受け取ったそうで、この組み合わせは一体何なのか? 

(3)アフガニスタンとウズベキスタン
ウズベキスタンはアフガニスタンと国境を接し(国境にはアム河が流れているが、ソ連がかけた大きな鉄道・道路橋で物資・人員をアフガニスタンに運び込める)、同じ環境にあるタジキスタン、トルクメニスタンよりも行政機関がしっかりしている。だから、アフガニスタンの安定化を考える場合、ウズベキスタンは欠かせない要素なのだ。
そんな中で、米軍、NATO軍がアフガンを撤退したあと、装備をウズベクに残し、有事には人員を急派すればすぐ戦闘態勢に入れるようにしておく(Poncusと言う)可能性が、中央アジアでささやかれているそうだ。
またEUがウズベクへの通常兵器輸出禁止措置を撤廃したが、これは「ウズベクがアフガン北部を征圧できるようにするため」のものと勘繰る向きもある。アフガン北部はウズベク族が多数居住し、(ウズベクへの禁輸措置撤回を強く推進した)ドイツの軍も駐留しているからだ。
またウズベキスタンはアフガニスタン国内で橋の修復などの建設工事を手掛けているが、日本が約束した対アフガン50億ドルの支援の一部を、ウズベクの建設企業などに請け負ってもらうことも可能である。

6.カザフスタンをめぐる動き
(1)内政
 (a)12月初め、諜報機関KNBはアルマトイ市政府の財務次長Zhanteleevを痲薬取引の疑いで摘発した。これに対し検察は、捜査・逮捕手続きに不備があったとして、KNB要員を告発。Shabdarbaev・KNB長官辞任説が流れるが、KNBは否定した。まるで検察とKNBが痲薬利権をめぐって相争っているように見えると評する向きもあった。
 (b)カザフスタンでは2007年から西側での起債・負債が困難になって、銀行(もともと地場の銀行は弱かったが)は不良債権を抱え、政府から救済資金を受けた。その中でこれまで権勢を誇った銀行家達は利権をはく奪され、彼らが融資していた先のロシアなどでは、地元の官憲も関与して利権の再配分が行われている。
例えば12月ロシアでは、カザフ大手のBTA銀行の株主だったアブリャーゾフ(国外逃亡中)の持っているロシア株の差し押さえが始まった。彼の「ユーラシア・グローバル」社はモスクワでポクロンナヤ丘の欧州最大の水族館建設(8億ドル)、ドモジェードヴォ空港近辺の都市建設(150億ドル)、パヴェレツキー駅の地下モール、高層ビル団地「シティ」でのユーラシア・タワー建設などを手掛けていた。

(c)ロシア政府が組織犯罪対策を強化しているため、カザフスタンにロシアのマフィアの入国が増えている。カザフスタンでは、彼らの本拠がロシアから移ってくることを心配し始めた。

(2)経済
(a)("Export Kazakhstan" No.45掲載のS. Smirnev論文から)この10年でカザフのGDPは約6倍になった。98年は221億ドルだったのが、08年には1298億ドルになった。石油ガス部門はGDPの21%、輸出の64%、国家歳入の63%を稼ぎ出している(98年にはそれぞれ、10%、32%、40%だった)。
カズムナイガス、テンギス・シェブル・オイル、カラチャガナク・オイルの3社で、石油ガス部門の半分を牛耳っている。埋蔵量では北カスピ・オペレーション社(Agip)と、テンギス・シェブル・オイルが70%を押さえる。重要なのは、テンギス、Karachaganak、カシュガン油田。

(b)不況で歳入が不足したため、政府は11月に個人向け国債にMAOKAMという名称をつけて売り出した。だが150億テンゲ消化の予定が9億しか売れず、財務省は利率を引き上げ、2年もので6.5%だったのを7.3%とした。

(c)(原子力)
世界金融不況でウラン鉱石価格が下がり、ロシアのロスアトム原子力公社がカザフでの利権買収を強化するのに有利な情勢となった。5月にはジャキーシェフ・カザフ原子力産業公社総裁が突然逮捕されたことも、ロスアトムにとって有利にはたらいた。ロスアトムはウランの濃縮能力では世界の40%を保有しており、今回カザフのウランへの利権を強化したことで、世界への原発売り込みに益々有利な態勢となる。
YouTubeでは、ジャキーシェフが検察に「ロシアは、日本がカザフをウラン加工国にするのを防ぐため自分を追った」と供述している場面が流された由。彼の言葉は訴追を逃れるための方便かもしれないし、音声は吹き替えかもしれないが、一面の真理をついているだろう。

(3)外交
12月12日、胡錦涛・中国国家主席が来訪し、①新エネルギー源開発協力、②第2天然ガスパイプライン建設、③アティラウ精油所近代化融資等に署名した。

(4)中国の進出に神経質
(a)カザフスタン経済が不況に苦しむ中、中国の進出が目立っている。前記のようにロシアのプレゼンスも確固たるものがあるのだが、中国の進出に対してカザフ人はより神経質だ。
まず中国への債務が急増している。08年には40億ドル(フローで)だったのが、09年1~6月には、79億ドルとなった。
そして、中国はカザフスタンの石油ガス部門への進出を強めている。9月には、中国政府の外貨準備運用部門がカズムナイガスの探鉱部門の株11%を入手した。10月にはアティラウ精製所建設第2期工事を中国のSinopecが10.4億ドルで落札した。第1期を受注した丸紅は、第2期では敗北した。11月には中国企業が、有力石油ガス企業マンギスタウ石油ガス社の株100%をインドネシアの中央アジア石油会社から買収した。中国への2本目の原油パイプラインの建設も始まった。
12月、ナザルバエフ大統領は、中国が大豆、ヒマワリ栽培のために100万ヘクタールの貸与を依頼してきた旨明らかにし、国内で反発の声があがったが、中国大使館は「知らない」とのコメントを行った。
中国のプレゼンスは、4月に訪中したナザルバエフ大統領が、100億ドルの融資約束を受けて以来、急増している。カザフ石油ガス部門の25%(算定方法が不明であり、過大評価に見えるが)を中国が「抑えている」とする報道や、今や30万人の中国人がカザフに居住しているとする報道もある。武漢大学に留学したことのあるマシモフ首相がこれらの動きの背後にあるとする報道もあるが、カザフスタン、西側の不況が基本的な要因だろうと思う。
新疆地方からは黒イルトゥイシ川とイリ川がカザフスタンに流入しているが、新疆側での取水が増えており、殺虫剤による汚染も増大している。これがひどくなると、バルハシ湖が干上がる可能性もあり、更に下流のロシア、オビ河も被害を受ける。

(5)その他
カザフでは、30歳以上では男100人に対し女140人の比率なのだそうだ。女性が平均寿命で男性より10年長いことも関係しているだろう。

7.キルギスをめぐる動き
(1)内政
バキーエフ大統領が支配力を強める中、奇怪な事件が相次ぐようになった。
12月16日には隣国カザフスタンのアルマトイで、ビルからキルギスの有名記者ゲンナジー・パブリュクが手足を縛られて投げ落とされ死亡した。彼はバキーエフ大統領を批判するインターネットのサイトを主宰していた。これに対して米国のベンジャミン・Cardin上院議員等は、「キルギスで政治弾圧が強まっている」として警鐘を鳴らし始めた。
12月中旬には首都ビシュケクで、政治学者のアレクサンドル・クニャーゼフの自宅に4人組が押し入り、彼に暴行した上、PCを持ち去った。その30分後には、アカーエフ前大統領の大統領府長官だったジャヌザコフが暴行を受けている。右両名ともアカーエフ前大統領系で、12月12日にはタラス州で行われる大作家アイトマートフの法要にアカーエフが来るとの噂が流れていたことが背景にある。ジャヌザコフはこの直前に、モスクワでアカーエフに会っていた。

(2)経済
経済インフラの老朽化が進んでいる。12月上旬には、トクトグル・ダムの発電機2基が故障した。75年頃完成したものである。
キルギスは公的・私的債務繰り延べを数回行った国であるために、各国は本格的な融資を行わない。その中で、世銀の対キルギス信託基金1億1千万ドルの最大拠出国は日本であり、これを使ってキルギス各省庁への技術協力が行われている。
欧州復興開発銀行(EBRD)にも日本は出資しており、キルギスのEBRD所長は日本人だが、ここもキルギスで活発に活動している。中沢所長によれば09年、EBRDはEU、スイス政府などによる無償援助を補完するかたちでキルギス南部の基盤道路、首都ビシュケクの上水道事業に融資、板ガラス工場設備更新にも追加融資を行った。またノンバンクのマイクロ金融機関に対して、現地通貨建ての融資を導入。これら総計で09年には、通常年の約6倍にあたる100億円近い融資を行った由。

(3)深まる中国との関係
キルギス・中国貿易額は08年77億ドルで、中国はロシアに次ぐ第2位の相手国。しかし07年より85%も増えており、ロシアを抜くのは時間の問題だろう。中国からの輸入品の80%は第3国へ再輸出されており、キルギス人はこれで年間2億5千万ドルを稼いでいる。520の中国企業がキルギスの流通・運輸・通信・飲食業等あらゆる分野で活動し、時にはキルギス人との間で抗争も起こしている。ウィグル人は中国からの輸入チャンネルを独占し、キルギス人を排除しようとする。中国人とキルギス人との偽装結婚も多く、偽造キルギス旅券を500~800ドルで手に入れることも可能である。
最近15年間で12万人以上の中国人(ウィグル人も)がキルギスに移住し、これから10年間で更に倍増することが予想されている。
09年秋にはビシュケクで、中国の中央テレビ局CCTVが、ロシア語放送を開始した由。

8.タジキスタンをめぐる動き
(1)内政
(a)2月28日に議会総選挙の予定
小選挙区・全国比例併用で、小選挙区には個人でも立候補できる。但し立候補拠託金が前回選挙の2倍の1500ドルに引き上げられており、これはタジキスタンでは大金である。しかも立候補するためには、500以上の署名を集めないといけない。
 
(b)2010年は教育に重点
12月、ラフモン大統領は2010年を「教育の年」とすると宣言した。彼は首都ドシャンベに1000名収容のエリート校(リセ)を作るよう指示を下した。
2009年だけでも210の小学校が新設されたが、教師が不足している 。大学レベルでは工科系をもっと充実させる必要がある。この5年で諸省庁は、3000名を海外留学に送り出した。毎年500名卒業しているはずなのに、毎年50人しか帰ってこない。それでさえ、全てが就職しているわけではない。

(2)経済
(a)電力不足とログン・ダム建設国民拠金運動
7月にはメドベジェフ・ロシア大統領もやってきて、サントゥーダ・ダム発電所の稼働を賑々しく祝ったものだが、12月に同発電所は、タジキスタン電力公社が料金を払ってくれないので発電を止めると言い出した。だが電力公社にしてみれば、灌漑部門等からの料金を回収できていないため払えない。社会主義国特有の借金の連鎖だ。倒産しないから、誰も借金を払おうとしない。11月上旬には寒波で電力需要が急増したため送電が自動停止、これを契機にウズベキスタンは中央アジア電力網から最終的に脱退した。
12月ラフモン大統領は記者懇談で、冬季の電力が30%足りないこと、そのため小中校の休暇を12月30日~1月12日までから29日までに延ばすことを明らかにするともに、解決策は長年の懸案のログン・ダム建設(ドシャンベ東方のアム河支流に、高さ300米のロックフィル・ダムを建設しようというもの。ロシアの官民が融資を約束しては後退していた。このダムの建設には下流のウズベキスタンが否定的)を国民の拠出で進めるしかないとして、1月6日発売する株を各人3千ソモニ(約700ドル)以上購入するよう呼びかけた。「こうすれば6億ドル集まる」という目論見。700ドルなど、普通のタジク人にとっては年収に等しい。
それもあってラフモン大統領は、「こうなったのも、(ウズベキスタンの)カリモフ(大統領)のせいだ(ウズベキスタンは代金未収を理由に、タジキスタンへのガス、電力供給等をよく停止する)。彼は、ウズベクに住むタジク人をひどい目にあわせている。このことで自分は彼と何回も口論し、2回は手も出した。その時はナザルバエフとクチマ(当時ウクライナ大統領)が止めてくれた。その時、自分はカリモフに『サマルカンドとブハラはどんなことがあっても取り返すからな」と言ってやった』」と述べた由。相当なものだ。ここでは、ログン問題でロシアを詰っていないのが面白い。
この直後、ウバイドラエフ・ドシャンベ市長が真っ先にログン株を購入した。購入額は不明だが多額。かねて麻薬利権への関与が噂される同市長は、真っ先に購入を表明せざるを得ない立場にあるのだろう。1月にはドシャンベの4カ所で「ログン株の販売会」が開かれ、ウバイドラエフ市長は「1日で4600万ドルははけるだろう。2010年末までにドシャンベだけで4億ドルにはいくだろう」と述べた由。
ログン建設は確かにタジキスタン経済にとって非常に重要なのだが、地震地帯に300米もの高さのロックフィル・ダムを作って大丈夫なのかどうか、下流のウズベク、トルクメニスタンに十分の農業用水を流せるかどうかなどをよく検討する必要がある。

9.トルクメニスタンをめぐる動き
(1)過去への回帰?
「ルフナメ」と言えば、ニヤゾフ前大統領が書いたことになっている、児童のための諸科学大全のようなものらしいが、他の近代科学を排撃するものとして西側では評判が悪かった。そのためか、09年春にはこれを学校教育から排除する動きがあったのだが、秋の大学入試科目には入ったままだった。また12月中旬ベルディムハメドフ大統領は、児童徳操教育にルフナメを使うことを提案した。
また12月にはトルクメニスタン唯一のインターネット・プロバイダー「トルクメンテレコム」が、YouTube、Livejournalへの接続を切断した。更に12月には、99年以来活動していた「国境なき医師団」が活動を停止したとの報道があった。耐薬性の強い新種の結核治療をトルクメン政府が許可しなかったためとされる。
これら一連の後ろ向きの動きのために、「ニヤゾフよりはリベラル」と見られていたベルディムハメドフ大統領に、西側は少し醒めた目を向けるようになってきた。

(2)天然ガスの輸出先:ロシア・中国・イランの狭間で
12月12日には、胡錦濤・中国国家主席がトルクメニスタンを公式訪問し、カリモフ大統領、ナザルバエフ大統領も加わって、中国向けガス・パイプラインの開通式を賑々しく行った。
他方、これまでトルクメニスタンの天然ガスをほぼ独占していたロシアへも、輸出再開の最終合意ができた。12月22日、メドベージェフ大統領はアシハバードでベルディムハメドフ大統領と会談、2010年1月上旬から最大で年300億立方メートルの輸入(実際には100億立米強と見られている)を再開することで合意した。この輸入量は昨年までの500億立方メートルより少ないが、価格はロシア・ガスの欧州向けと同水準とすることで合意(2010年1月は千立米で195ドルにしかならない。ガス市況が下がっているためである。2009年のトルクメン・ロシア間の契約価格よりはるかに低いものと思われる)した。ロシアと中国を両天秤に競り合わせて有利な輸出条件を獲得しようと策してきたトルクメニスタンだったが、ロシアがトルクメニスタンのガスをそれほど必要としていない現在の局面では、むしろ両者から買いたたかれやすい状況に陥ってしまったと言えよう。
2010年1月にはアフマディネジャド・イラン大統領が来訪し、イランへの2本目のガス・パイプライン開通を祝った。トルクメニスタンはこれまでも、西部のKorpeje―kurt kuy間パイプラインで年間80億立米をイランへ輸出していたが、新規に東部Dauletabadからイランへ年間60億立米を輸出するパイプライン(30キロ)が作られたもの。近く容量は倍増され、イランへは年間200億立米を輸出することが可能になる。だがイランもどれほど良い顧客となってくれるか、保証の限りではない。

コメント

投稿者: 関 淑子 | 2010年4月 4日 22:14

最近「地図で読む世界情勢 第1部 なぜ現在の世界はこうなったか」ジャン-クリストフ・ヴィクトル他 を読みました。

フランス人の視点から見ると、世界がかなり違って見えますね。スラブ圏や中近東も。

ロシア人の視点から見た世界歴史地図って、どんな風に見えるんでしょうか?

(河東より:ロシアの周りはだいたい平原ですから、ロシア人は包囲されているように感ずるでしょう。拡張するときは便利ですが、守りになると難しい)

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